アッシュ・ペー・フランスのディレクター戸塚さん

アッシュ・ペー・フランスのディレクター戸塚さんに行くアート入門

こんにちは!あいぽんです。

「現代アート」という言葉を聞いて、みなさんどんなことを思いますか?

興味はあるけど、ちょっと難しくてよくわからないんだよね…と、思ってしまうのは私だけではないはず。

今回はニューヨークを拠点に活動するギャラリスト戸塚憲太郎さんに、現代アートって何?というところから、アートで世界に出るためのこつ、そして現代アートの楽しみ方を教えてもらいました。

ニューヨークを拠点に活動

アッシュ・ペー・フランスのディレクター戸塚さん

戸塚さんご自身も彫刻家を目指しており、美大を卒業後、ニューヨークでアートを学んでいたことがあるのだそう。

その後、「アート感のある暮らし」をコンセプトにしたインテリアショップ『H.P.DECO』などを手がけるアッシュ・ペー・フランスに入社し、表参道に現代アートギャラリー「hpgrp GALLRTY TOKYO」のオープンや「青参道アートフェア」や 「NEW CITY ART FAIR」などを立ち上げました。現在はニューヨークを拠点に日本のアーティストを積極的に海外へ紹介しています。

そんな日々、現代アートやそのアーティストに関わっている戸塚さんに、現代アート初心者代表として、お話を伺ってきました。今回はこれから戸塚さんがニューヨークへ紹介するというアーティスト野村康生さんの展示の中でお話をお聞きしました。

現代アートには定義がない

—現代アートというとなんだか難しそうなイメージがあるのですが、まず現代アートの定義とはなんなのでしょうか?

戸塚憲太郎さん(以下、戸塚):実は現代アートって定義がないんですよ。現代生きているアーティストを指すのかというとそうでもなくて。現代アートのトップであるアンディー・ウォーホルはもう亡くなっていますしね。

ただ、アートワールド的には、便器をそのまま展覧会に出したマルセル・デュシャンというアーティストの登場以降が現代アートと認識していることが多いですね。それまではもっと工芸的な技術とか色のきれいさ、描写のうまさといったものが芸術の価値でしたが、既存の便器を「アートだ!」ということになってしまったので、途端にアートの価値が変わってしまったんです。そこにどんな意味があるのかというところにアートの価値がシフトした瞬間だったんです。一般的にはそれ以降が現代アートといわれています。

もちろん今でも色がきれい、技術がすごいというところに重きを置いているアーティストもたくさんいますが、全体的な潮流としてはコンセプト中心な傾向がありますね。そして、現代アートが難しいと言われるところはそこなんです。コンセプトを理解しないと楽しめないんですよ。ただ見て「きれいだ」ということにはならないし、言ってしまえばコンセプトを読んでもよくわからないことが多いのでね。

作品の向こうにある政治だったり、宗教だったり、社会背景だったりを理解しなくてはいけない。例えば日本で生活しているだけでは理解できないようなテーマもあったりするわけですから。

でも、裏を返せば、アートを通してそういったことを理解できるかもしれないということでもあるんです。そういう意味で、アートの価値は昔より広がっていると思いますし、ある側面では理解しやすくもなっていると思います。コンセプトの言葉さえわかれば、理解できてしまうので。

 

日本でなかなかアートが広まらないのはなぜ?

アッシュ・ペー・フランスのディレクター戸塚さん

—NYを拠点に活動されているとのことですが、日本とアメリカで人々の現代アートに対しての捉え方や関わり方に違いはありますか?

戸塚:まったく違いますね。そもそも、アートという言葉を聞いて多くの人がイメージするのは、欧米で生まれたアートだと思うんです。ヨーロッパを中心に脈々と続いてきた芸術があり、それをアメリカがすくい取って現代アートやポップアートになっていたのですが、そこにもすごく政治的な要素があります。

アメリカは歴史の若い国なので、歴史ではヨーロッパに勝てないんです。でも、経済や軍事力では勝ってしまった。世界トップの国になったのに、歴史や芸術では勝てないことにずっとコンプレックスを持っていたんです。そこで国ぐるみで作り出したのがポップアートなんです。

ジャクソン・ボロックとかアンディー・ウォーホルとか、たくさんいますよね。それをきっかけに一気にアートシーンもアメリカが牽引できるようになったので、今ではアートもアメリカ中心になっているわけです。

世界のアートシーンにはそういう背景があるんですが、日本はそもそもそこに入っていない。マーケットにしても、アートヒストリーにしても日本は蚊帳の外になってしまっているんです。

もちろん日本人でその歴史に入れる人がいないわけじゃないけれど、それもアメリカのギャラリーで紹介されたとか欧米の評価があってなんですよ。

—やっぱり欧米が基準にはなっているってことですよね。

戸塚:そうです。だから、欧米に頼らず日本でやっていくとなると、世界のアートシーンで残っていくのは難しい現実があるんです。

アートっていうと勘違いされやすいんですが、いいものを作っていけば世に出ていけるという世界ではないんです。

—戸塚さんはニューヨークで日本のアーティストを紹介しているんですよね?アメリカの人たちは日本のアーティストに関心はあるのでしょうか?

戸塚:そうですね。メインは日本のアーティストを海外へ紹介することです。日本はやっぱりある一定のブランド力があるので、日本が好きという方も結構いるんですよ。そういう人たちには引っかかりますよね。

でも興味のない人もたくさんいるので、日本のよさや日本のアーティストならではの価値をうまく伝えられるよう翻訳しています。それが僕の役割なので。そして少しでも日本のファンを増やしていくのがミッションですね。

—なるほど。日本ではアートに対してまだちょっと敷居が高く感じてしまうかと思うのですが、アメリカの一般の方たちはどうなのでしょう?

戸塚:日本に比べたら、だいぶ敷居は低いと思いますよ。普通にアートを楽しんでいる人が多いです。

日本でアートが広まらない理由にもつながるのですが、日本人は自分で価値を決めることが不得手な人が多い。作品を見に来て、それに70万円の値段がついているとき、日本人の性格的にそれがいいか悪いかのを自分で判断をすることはなかなかできないですよね。

—それはアートに対する知識がないからということとは違うんですか?

戸塚:違うと思いますね。アメリカ人は多くの人が自分の意見に自信を持っているし、自分の意見を言うことに恐れがない。人と同じじゃなくても気にしないし、むしろ同じ方がバカにされてしまう。もうこれは本当に国民性ですよね。

アメリカはそういう文化なので、アートは広がりやすいし、根付きやすいんだと思います。

例えば浮世絵は日本を代表するアートですが、もともとただのチラシで、それに陶器を包んでフランスに送ったらフランス人が「アートだ!」って言ったから、アートとして扱われるようになったくらいですからね。

—なるほど!やっぱりここでも海外にアートの基準はあって、それで認められたからってことなんですね。

戸塚:そうです。どうしても、人がいいと言ったものを評価するという傾向にあるので、やっぱりアートは根付きにくいですよね。

—戸塚さんの場合は、日本のアートを戸塚さんの視点で選んでいるわけですよね。

戸塚:そうですね。基本的に僕の視点でセレクトしていますが、ニューヨークで発表するとなるとまたちょっと別なんですけどね。

今回、「hpgrp GALLRTY TOKYO」で展示をしている野村くんはこのあとニューヨークへ拠点を移す予定です。世界に出ることがすべてだとは思わないけれど、せっかくアートという言葉を超えた表現に人生を捧げているなら、やっぱり国内だけじゃなくて世界でも活動して欲しいと思っています。

そのために日本のアーティストが少しでも海外で進出しやすい仕組みやプラットフォームを構築していけたらという思いでニューヨークに行っています。

海外で活動するにはかなりの覚悟が必要なんですが、しっかりと覚悟を持っているアーティストであれば、どんどん海外に行ってほしいですね。

「hpgrp GALLERY TOKYO」で6月18日まで開催されている野村康生「Dimensionism」

「hpgrp GALLERY TOKYO」で6月18日まで開催されている野村康生「Dimensionism」

 

海外で活動するために必要なこと

—ニューヨークには日本のアーティストがたくさんいるんですか?

戸塚:いますね。この1年ニューヨークにいて、「こんなに来るんだ!」というくらいたくさんのアーティストが来ましたね。ニューヨークの貸しギャラリーで展示をしているから見に来てという人だったり、どこかで展示をしたくて相談しに来る人だったり。数は多いですね。

ただ本当にニューヨークで勝負をしたくて、リサーチをして来ているかといったら、そんな人はほとんどいない。英語の資料もなければ、向こうのルールも調べずに来ている人が本当に多い。憧れを持っている人はたくさんいると思うけど、覚悟を持って、事前に準備とリサーチをして、という人は意外と少ないんです。

でもその中でも何人か注目しているニューヨーク在住の日本人アーティストはいますし、ニューヨークで活動していて、これから日本で発表していくアーティストもいます。「hpgrp GALLRTY TOKYO」でも紹介していますね。

—そうなんですね。アーティストの方々はニューヨークで活動することで、日本に対しての意識が変わったりもするのでしょうか?

戸塚:それはありますね。今、ニューヨークで活躍しているアーティストというのは、もともと日本で活動していて、ニューヨークへ移り住み、いついてしまったということが多いと思うので、日本のことを客観的に見ています。ニューヨークにいればいるほど、日本のことを客観視するし、日本人ということを意識するだろうし。

でも、日本人ということを意識しても日本人であることが武器にはならないと知っていくので、そうしてようやく世界のフィールドに立って、そこで何ができるのかと考えられるようになるんだと思います。

—事前準備などのお話がさっきありましたが、海外で活動するために必要なものというのは?

戸塚:言葉は最低条件ですよね。世界中の人と同等にコミュニケーションが取れないと何もはじまらないのでね。

 

新しいアーティストは縁でつながって発掘

—今回の野村さんのような新しいアーティストをどのように探しているんですか?

戸塚:基本は縁ですね。たまたま出会ってということが多いです。でもよく考えればアーティストの紹介が多いかもしれない。自分がいいと思っているアーティストが、「この人いいですよ」というようなアーティストは、ほとんどがいい。売り込みで来た人から発掘というパターンはほとんどないですね。

もちろん自分でも気になった個展などは見に行くし、instagramでちらっと見ただけでもいいなと思ったらコンタクトして企画にすることもあります。特に海外のアーティストの場合はSNSから見つけることも少なくないです。

アッシュ・ペー・フランスのディレクター戸塚さん

—そうなんですね。アーティストやクリエイターが戸塚さんのようなギャラリストに見つけてもらうためにできることってあるのでしょうか?

戸塚:まずは目立たないとね。僕みたいにアーティストを見つけようとしている人はたくさんいるし、見つけられたい人もたくさんいるから。

僕の時代の美大では「いいもの作っていれば見つけてもらえる」と教えられていたので、どうやって自分の作品を売り込んで、ギャラリーとうまくつきあって、食べていけるようになるのかということを僕は教わらなかった。今は時代が変わったかもしれないけど、やっぱりいい作品を作るだけでは見つけてもらえないんです。どう出るか、PRするか、見せるか、そこまでオールマイティーに広げて動けるかが、アーティストの仕事ですから。全部できなきゃいけないんですよ。

—確かにアーティストは作品作りに没頭してれば、誰かが見つけてくれて…というイメージはありますよね。

戸塚:それも国民性が関係していると思いますけどね。日本人の場合は、自分がいかにすごいかということを言わない。むしろ、言わないことが美しいとされているから、目立つのは難しいですよね。

ただ見るだけじゃない!アートの魅力

アッシュ・ペー・フランスのディレクター戸塚さん

—アッシュ・ペー・フランスでも、暮らしの中に取り入れやすいアート作品を多く扱っていますが、日常にアートを取り入れていく方法やアイデアがあったら教えてください。

戸塚:美術館へ行ったり、いろいろと方法はあるとは思いますが、一番シンプルなのはアートを買うことですね。意外とアート作品って、1万円とか3万円とかから手に入るんですよ。

—アート作品を買うってやっぱりどうしてもハードルを感じてしまいますよね。あったら生活が彩るということは想像できるんですが…。

戸塚:高い服を買う、高いレストランで食事をするとかというのも、段階を踏んできたと思うんですよ。最初は少し無理をしていたと思うし。

最初は思い切って買うしかないですね。一回買うと慣れますよ。ハードルが高いと言っていた人が小さいアート作品を購入したら、そこから少しずつ集めるようになっていったというのはよくありますよ。

そういう機会を多く作ろうと思って、ギャラリーの企画を考えたり、青参道アートフェアというイベントをやったりしています。なるべく構えずにアート作品を取り入れる機会になればいいなと思ってやっています。

別に失敗してもいいと思うんです。2〜3万の作品を買って、飾ってみたけどちょっと違う…となってしまったり、人に譲ったりしてもいいと思います。洋服だってそうじゃないですか。変に構える必要はないんです。

—今まで買うためにアートを見るという考えがなかったので、買いたい作品を探すというのはやってみようと思いました

戸塚:それはぜひやってもらいたいですね。なぜかアートって、売られているのに買うっていう視線で見られないんですよ。

—現代アートの楽しみ方があったら教えてもらおうと思ったんですけど、購入するというのは今まであまり考えたことのない楽しみ方でした。自分がいいと思った作品を自分で購入して、自分の生活に取り入れるというのはいいですね。

戸塚:そうそう。その自分がいいと思ったっていうのが大切で、みんなが着ているから、みんなが食べているからとか、「みんながしている」という価値基準じゃないところで選ぶ。自分で選んだなら、それが誰も知らない作品やアーティストでもいいんです。それがおもしろさでもあると思うんですよ。近いところで言うと、誰も知らないバンドを応援していたら、有名になっていったみたいな。最初は私だけが知ってるというような特別な気持ちもあるし。

ギャラリーのオープニングとかに行けば作家と話をすることもできるし、もしかしたら友だちになれるかもしれないし、SNSをフォローするだけでも彼の生活のリアルや彼の関心を知ることができる。なかなかそういう楽しみってないと思うんです。

—その作家さんから別の作家に興味も広がっていきそうですね。

戸塚:彼が誰の作品を見てこうなったのかとか、彼の師匠を辿っていたりも楽しみですよね。アートってよく世代で分けられがちなんですが、どちらかというと縦の話なんです。この人はこの人に影響されて…というのが脈々とつながっている縦のつながりの世界なんです。世代より縦の関係に注目したほうがアートは楽しめるかもしれないですね。

「hpgrp GALLERY TOKYO」で6月18日まで開催されている野村康生「Dimensionism」

—戸塚さんの考えるアートの魅力

戸塚:現代アートに限らないけれど、アートの魅力というのは答えがないことなんですよ。さっきのコンセプトの話と少し矛盾するようですが、コンセプトを読んでもそれが答えかというと全然そんなことはないわけで。

作品はいつでも何かを問いかけてきていて。その問いかけに気づける作品はいい作品なんだと思います。そこがおもしろいところかなと。ただ見て、「きれいだな」だけではなく、見ている側が何か考えるきっかけになったり、考えが広がったりというような。そういうきっかけになれるのがアートの魅力なんじゃないかと思います。

—なるほど。今までそういう見方でアートを見ていませんでしたが、ちょっと見てみたいなと思いました

戸塚:見方が変わると楽しみ方も変わるので。もちろん金額というのもひとつの見方ですよね。例えばこれくらいなら買えるという予算を決めてギャラリーへ行けば、その予算内でサイズが大きい方がいいのか、部屋に合う色はなんなのかとか、なにがいいかを考えますよね。それも楽しみの1つだと思います。

自分の理想の生活を叶えるためのアートを探すでもいいと思いますし、そういう何かきっかけがあった方がただ漠然と見るより格段にアートは楽しくなりますよ。

 

現代アートというと難しく捉えて、ちょっと距離のあるものと感じてしまいがちですが、自分がいいと思ったものを見つけて、購入して楽しむことで、現代アートと少し近づけるような気がします。

さっそく「自分の好きなアート作品」を見つけにギャラリー巡りに行きたくなってきました。

戸塚さん、アートの楽しみについてのお話、どうもありがとうございました!

  • 個展情報

  • Dimensionism
  • 2017.04.21 ( fri ) -2017.06.18 ( sun )
  • アーティスト:野村康生
  • 会場:hpgrp GALLERY TOKYO
  • 東京都港区南青山5-7-17 小原流会館 B1