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今回お話を伺ったのは、アートイベント『YAMI-ICHI(闇市)』の代表であり、アートプロダクションを手がけている大澤左知子さんです。
『YAMI-ICHI』はアートオークションをコンセプトに、イギリス・ロンドンの他、東京の下北沢でも『下北沢アート自由市 』として開催されている注目のイベントですが、話題になっているのには理由があります。それはアートに値付けをしていくこれまでのオークションとは違い、お金以外の対価でアートを手にする“お金を介さない”アートオークションであるということ。

兼ねてから既存のアートマーケットに疑問を抱いていた大澤さんは、世の中の人たちが「アートともっと身近に触れ合えるチャンス」と、アーティストが「参加者との触れ合いの中で自分自身の作品の価値を主体的に決定する機会」という二つを叶えることが出来る場を作りたいと思い立ちます。そんなこれまでにないイベント『YAMI-ICHI』が生まれた背景や思い、そしてアートの現在とこれからについて、大澤さんが現在活動の拠点を置くロンドンにてお話しを伺いました。

お金以上に、「交換する価値がある」もので落札するオークションを

— まず『闇市』とはどのようなプロジェクトですか?

大澤さん:一言で言うと、「若手・新進気鋭のアーティストを中心に集めたアートイベント」です。このプロジェクトの特徴的なところは、イベントの最終日にアーティストの作品を落札できるアートオークションが開催されること、そしてお金では落札できないということですね。

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下北沢にてオークション開催時、アーティストプレゼンテーションの様子

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下北沢にてオークション開催時、落札の様子

— お金なくして、落札者はどのように作品を買い落とせるのですか?

大澤さん:単にアーティストに作品展示の場を提供するだけでなく、作品展示・作品そのものに対しての「対価」を得てもらうというのがYAMI-ICHIの目的の一つ。お金以外のもので、アーティストにとって「交換する価値がある」ものであれば基本的に何でもいいんです。
例えば過去のオークションでは、アーティストの作品の対価として、海外での個展の機会を始めディナーや旅行への招待、それから落札者の所有する山のオファーなんかもありました。
本オークションは、アーティスト自身が手掛けた作品をプレゼンテーションし、出てきたオファーの中から本人が気に入ったものを選ぶ、という流れなのですが、一見対価になるとは思えないディナーの機会なども、アーティスト同士もしくはアーティストと参加者・将来のコラボレーターとの輪が広がるチャンスなんです。
要するに落札者はお金ではないものと引き換えに気に入った作品を手に入れ、アーティストは作品の対価として想像もしていなかったような新たな機会・サービス・スキル・アイディアなどが手に入るという仕組みです。

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ロンドンにてオークション開催時、アーティストプレゼンテーションの様子

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下北沢にてオークション開催時、落札の様子

排他的イメージのあるアートを、誰にとっても身近なものにしたい

— アートをより身近にするというのも、このプロジェクトの狙いですよね。

大澤さん:はい。アートオークションって響きだけだと何となく敷居が高い感じがしますよね。このハードルを取り払うべく、美術館やギャラリーのような場所ではないところであえて仕掛けることにしています。例えば東京で開催した際は下北沢の商店街エリアをロケーションに選びました。地元の人からしたら生活に普段使っている空間にアーティスト・アートが現れる、という状況になるわけです。アスファルトをキャンバスに、長時間チョークで作品を描くアーティストを見て、近所に住む人たちが興味を引かれて集まってきたり、アーティストに話しかけに言ったり。創作のプロセスを見せる、もしくはアーティストとのコミュニケーションの場所を設けることで、特に何か特別な知識を持っていなくても、アートがぐっと身近なものになると思うんです。

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ロンドンでのイベントにて交流する落札者とアーティスト

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下北沢でのイベント「下北沢アート自由市」に参加するアーティスト

同じようにロンドンでも、低所得者向け公営の建物で開催した際に、同じ建物に住んでいた住人の方が「アートなんか嫌いだ」と言って入ってきたことがあります。数時間滞在した後彼は、「よくわかんないけどこの作品の色は好き」と言って帰って行き、最終日のオークションに顔を出してくれました。理屈っぽい理由なしに、色や形が好き、アートはわからないけどこのアーティストの人柄が好きとか、アートの「価値」って本来人それぞれ多種多様であっていいはずなんです。

— 『YAMI-ICHI』はどういう経緯で誕生したのでしょうか。

大澤さん:これまでの人生で感じてきた事、学んできた事全てが繋がって出来たプロジェクトです。個人的な話から始まりますが、幼少期から絵を書いたりものを作ったりすることが好きだった反面、ルールのたくさんある学校の美術の授業なんかは好きではなかったんですね。課外授業なんかで美術館に行っては、「これは何年代の何々派で~」なんて作品を論評している大人たちがいる。何となく理屈っぽくて難しそうな芸術というイメージに、「勉強してないと、アートを専攻してないと絵を描いてはダメなんだ」という劣等感に似たフラストレーションを覚えていました。何がそうさせているのか真剣に考え始めたのは大学生の時。同世代の、「美術では食べていけないからとりあえず就職する」美大生や若いアーティストたちを見て、日本をはじめ、世界各国のアート界について研究。「アート界」「アートマーケット」の一見華やかで明るい印象の裏側にある、西洋中心的な考え方や、階級・人種等複雑に絡みあった政治性を学びました。

本プロジェクトに「オークション」というアイディアを取り入れたのは、まさにそれが古くからある排他的なシステムだから。
お金持ちのためだけに、落札者本位で行われるアートオークションは、私が目指すところのいわば真逆のもの。逆にそこに挑戦したいなって。

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YAMI-ICHI プロジェクトに関して語る大澤さん

— どのようなアーティストの作品があるのでしょうか。アーティストを引き受ける際、何か基準のようなものはありますか?

大澤さん:参加アーティストはペインターからパフォーマンス・アーティストまで多種多様で、イベントの趣旨に沿うようあえてカテゴリーを無視した「アート」という大きなくくりで捉え流ようにしています。全体で見たときのバリエーションを気にしているのも理由ですが、「人々にとってのアートを身近にしたい」と言うのが私の中であるので、典型的な古典というよりかは、「これなんだ?」と興味を引く新しい作品なんかも中にはあります。アーティスト選考の際に気をつけているのは、お金を介さないYAMI-ICHIの内容やコンセプトを理解した上で、共感してくれるというのが第一条件ですね。

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参加アーティストとの思い出を振り返る

アート界で突き進めているのも、社会人生活の学びあってこそ

— 大澤さんのバックグラウンドを教えてください。

大澤さん:大学では教養学部でメディア・コミュニケーションを専攻しました。そこでは当たり前とされているものに疑問を呈す、クリティカル・シンキングの姿勢を学びました。学内には国をまたいで多様なバックグラウンドを持つ人が多くいて、一度海外に出て見たいと思い出したのもこの頃ですね。大好きなアートの分野で働きたいという気持ちは変わらずありましたが、一度自分の全く知らないビジネスの世界を知っておきたいと思い、卒業後はメーカーに就職し4年ほど勤務。ベタだけど、結局は「人」のつながりで成り立っていく世の中。相手が何を求めているかをセンシティブに感じ取り、それに沿う形で交渉を進めていくコミュニケーションスキルは、今でもすごく生かせていると感じます。

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ロンドンでの大澤さん

— その後、日本ではなくロンドンでアートを学ぼうとしたのはなぜですか?

大澤さん:実は少しオリンピックが関係しています。メーカーにて勤務した後、企業メセナ協議会という団体で1年ほど働きました。企業による芸術文化活動の支援や、そういった活動をアーカイブし可視化していく事が仕事内容でしたが、東京オリンピック開催決定後には、ロンドンオリンピックを成功例に置いた芸術振興が謳われていたので、このタイミングで五輪後のロンドンのアートシーンやその持続性を見て見たいと思いました。

初めは、当時日本でも流行っていたアートマネジメントが自分のバックグラウンドを最大限に生かせる職業では、と考えていた時期でもあったのですが、最終的にロンドン芸術大学の大学院で2年間アートに関する実践的な学びに挑戦することにしたんです。

「挑戦するための失敗を許す」という風潮が、クリエイティビティー育てるのだと思う

— 日本とイギリスにおいてのクリエイティブに関する環境の違いはありますか?

日本ではまだ「失敗が許されない」環境がたくさんあるなと感じます。あるところのスタンダードがあって、みんなが協調性を持って同じように同じ目標に向かって行くことが美徳ですよね。一方でイギリスでは、「失敗しないと何も生まれないのだから、実験的であれ」、という考えがベース。例えば奇抜すぎる、もしくはある人に迷惑がかかる可能性があるかもしれないからクリエイティビティーを止めるのが多くの日本の風潮であるのに対して、イギリスをはじめとする欧米には、ある程度のリスクがあるけど、それでも実行するためにこういう趣向を懲らそうという、アイディアに対する許容性があります。

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イギリスでのクリエイティブ環境について語る大澤さん

— プロジェクトに取り組むに当たって大切にしていることを教えてください。

大澤さん:私は常に「人」に興味があるのですが、誰かの代弁者というよりは、誰かと一緒に小さな違いを生むことを目指すように意識しています。尊敬し信頼できる人と一緒に何かできて、それがまた他の誰かの利益になることができれば、幸せだと思います。

— 最後に、今後の活動について教えて下さい。予定は?

大澤さん:直近の予定ではいうと、YAMI-ICHIプロジェクトとして9月にロンドン・デザイン・フェスティバル*に参加予定です。またアムステルダムとロンドンを拠点に若手アーティストを支援する団体とのコラボレーションも決定しています。非営利目的のプロジェクトとして今後もYAMI-ICHIは続けていきますが、私個人の目標としてはアートの分野でコンサルティングをしていけたらと考えているので、そちらも今後の課題です。

*ロンドン・デザイン・フェステイバル —ロンドン全域にて毎年開催されるデザイン・アートフェスティバル。アート作品展から家具販売やレクチャー型ワークショップなど、各種イベントが並ぶ。

大澤さん、ありがとうございました!

    アートプロジェクトチーム『YAMI-ICHI (闇市)』代表 大澤左知子

    ロンドンをベースに、様々な国・地域を対象にしたアートプロジェクトのプロデュースを手がける。
    国際基督教大学にて国際関係学科を卒業後、大手消費財メーカーP&G、公益社団法人企業メセナ協議会にて勤務。2017年に ロンドン芸術大学 CENTRALSAINT MARTINS にて、ナラティブ・エンバイロメント 修士課程卒業。 
    彼女のプロデュースした “お金を介さないアートオークション『YAMI-ICHI』” は、東京・ロンドンの2都市で開催され、ロンドン芸術6大学の中から厳選された優秀作品に贈られるNOVA Award にノミネートされるなど注目を集めている。
    ホームページ:https://www.yamiichi-art.com    
    インスタグラム:@team_yamiichi