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    箱庭4周年を記念して、「イラストレーター」「フォトグラファー」「デザイナー」「作家・アーティスト」の4つのジャンル×4人=16人のクリエイターの皆さんに、仕事についてお話を伺うスペシャルインタビュー。
    自分たちの仕事と真剣に向き合い、何かを生み出し続けている16名のクリエイターのお話には、仕事に対する姿勢や意識など参考にしたいヒントがたくさんあります。同じクリエイターとして仕事をしている方やクリエイターを志している方はもちろん、クリエイター職ではない方々にも、じっくりとお読みいただけましたら箱庭一同嬉しく思います。私たちがインタビューを通じて感じた、「私も頑張ろう!」という励みをみなさんも感じてくれることを願っています。

今回のインタビューは、cineca主宰の土谷みおさん。
「cineca(チネカ)」は、映画を題材にそこからあたらしい物語を発想してお菓子を作っています。「cineca」という名前だけ聞くとチームや組織のようにも感じられますが、実は土谷さん1人で活動しているんです。パティシエではない、かといってお菓子を量産する工場でもない。一つ一つ繊細なお菓子を手作りする土谷さんを言い表すなら、「お菓子のクリエイター」といったところでしょうか。土谷さんがつくるcinecaのお菓子は、どれもかわいくて、ユニークで、繊細で。大人女子の心をくすぐるキュートなものばかり。だから、実際にお会いしてお話を聞く前は、「こんなステキなお菓子を毎日作っていたら、きっと楽しくて仕方がないんじゃないか」という勝手な想像をしてしまっていました。でも、そんなのんきな予想とは裏腹に、土谷さんの口から語られたのは辛さと大変さに溢れているという「本音」でした。そのリアルなお話には、働くということ、何かを生み出すということの普遍的な真実のようなものを感じずにはいられません。辛いことがあるから楽しい瞬間が輝いて、いいものが生まれる。それを忘れずにいられれば、辛いことがあっても仕事を楽しめそうな気がしませんか?

<cinecaのお菓子>

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【herbarium/甘い標本】 
花やハーブを閉じ込めた標本のような砂糖菓子。

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【a piece of/時間を溶かす 静かのラムネ】
口にいれるとしゅっふわっと 春のように消えてなくなるラムネ。

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【palette/きょうをいろどるジンジャークッキー】
アイシングを絵の具に、ジンジャークッキーをパレットに見立てて食べられるパレット。

お菓子クリエイター土谷みおさんに聞く「クリエイター」の仕事とは。

Q. 「お菓子クリエイター」になろうと思った理由を教えてください。
まず「お菓子クリエイター」になろうと思ったわけではないんです。
「お菓子クリエイター」という言葉が、今の自分の職業に当てはまるかどうかもわからないです。いまのところ自分がやっていることをちょうどよく表現してくれる言葉に出会えていなくて…。
cinecaをはじめた経緯としては、もともとグラフィックデザイナーとしてデザイン事務所に勤めていたんですが、だんだん自分とグラフィックデザインでの表現の間に違和感を覚え始めたんです。もっと違和感なく表現していくには何ができるんだろうと考えていたときに、お菓子を作ることがすごく好きなことを思い出して。中学生の頃料理部に入ってて、いつもクッキーとかお菓子ばっかり作る変な部活だったんですけど、すっごく楽しかったんです。お菓子を食べることへの執着も強くて、子どもの頃はいつも机の引き出しにお菓子を隠して、親に隠れてこっそり食べるのが秘密の喜びでした。

忙しい日々の中、お菓子という存在への愛情がだんだん高まってデスクの回りはお菓子まみれになっていました。ある時ふと、自分の頭の中にあるイメージをお菓子と結びつけたらなにかできるかもしれない、と思ったことを覚えています。
そのとき感じていた違和感が強かった部分としては、パソコンを使ってデザインをすることで、脳が借りている部分(=イメージをアウトプットする場所)を、パソコンや絵を描くということではなく、お菓子を作るっていう場所に変えたら、もっと自分に近いところで表現作業ができるかもしれないと思ったんです。

Q. 「お菓子クリエイター」になるために、どのような行動や心がけをしましたか?
デザイン事務所を辞めたあと、スクールに通ってフランス菓子の基礎を学びました。
パティシエになりたいわけではなかったので基礎だけで十分でした。
心がけとしては、今までなかったものを作ろうっていう意識はありましたね。

「この瓶、○○さんに似てるな」みたいな感覚で、なにかを見た時にそれが誰かに似てると考えることがもともと好きだったんですけど、そういう自分の中の世界観を他者にもうまく伝えることができたらと潜在的に思っていたことも表出してきました。
お菓子でいうと、例えばプレッツェルって枝みたいとか、ラムネの硬さがちょっと石ころみたいとか…そういう自分の中にある“見立て”の感覚を共有したいっていう意識が、始めるときにあったかもしれないですね。
ただアウトプットとして、作家という見え方ではなくお菓子の一ブランドとしてひとりで歩いていってくれるようにしたかったことは強く思っていました。
あと、「ただのお菓子屋ではいけない、今までお菓子の世界になかったものをやりたい」っていう気持ちはすごくありました。
私の場合は映画を愛しすぎてとんでもない本数を見ていたので、その時間を無駄にせずに映画とお菓子を結びつけようって考えたんです。映画を見たときに感じる自分なりの解釈を言葉にし、イメージを作り、自分というフィルターを通して物語を紡いでいこうと。
そこから、「ストーリー性のあるお菓子を作る」というコンセプトが生まれました。

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(映画「メルシィ!人生」からヒントを得てつくられた『kalikali』)

Q. 現在はどのような仕事(案件)を中心に活動していますか?
通年のお取り引きとしては、東京都美術館のミュージアムショップや直島にあるベネッセハウスのミュージアムショップなどアート系のお店と、割とアパレル・雑貨系も多くて、恵比寿のRECTOHALLや神保町、県外は高知、北海道などの書店や雑貨屋さん、海外では香港やシンガポールなどに卸しています。あとは、不定期で企画やイベントに参加しています。
昨年は渋谷のUtrecht(ユトレヒト)で初めて企画展という形でお菓子の販売をしました。
いつもはお菓子を卸すだけなのですが、展示となるとただお菓子を置くだけでは面白くないなと思い、それに合わせて新作を作りました。
お菓子を生み出すときに、映画から着想を得て形にするまで自分の頭の中で紡いでいるストーリーを初めて他者にむけて言葉にしてみました。
正直私のお菓子は、映画の世界から結構飛んじゃっているので、その映画を見ても単純には結びつかないだろうなとは日々思っていて…。この機会にその過程を伝えてみようという試みでもありました。展示を見てくれた人が「この映画からこんな風にお菓子が生まれるんだ、おもしろいね」って言ってくれたことは嬉しかったですね。
もっと伝えることができたらとは思いますが、なかなかその機会がないんです。

私がお菓子のきっかけにする映画は単館系のマイナーなものが多いです。
すごくわかりやすいストーリーのものよりも、曖昧なものを形にしていく、ちょっとつかみどころのないストーリーからキャッチーなものを見つけてふくらませていく作業の方が楽しいので、自然とそういう映画が多くなっていますね。
でも最近、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIさんで映画DVDと一緒にお菓子を販売するというフェアをやらせていただいたとき、私が選んでいる作品が絶版でDVDがないものがいくつかあって(笑)。さすがにDVDはないとダメだなって、そのあとからは少し意識して映画を選ぶようになりました。

これまでの仕事で営業をしたことがなくて、紹介や問い合わせを受けてやらせていただいています。どちらにしても営業能力がないことは自分でもわかってるので、その代わりに一つ一つ与えられる機会を200%くらいのエネルギーで臨んでいます。

Q. 仕事で楽しいと感じる時、辛いと感じる時はそれぞれどんな時ですか?
試作がうまくいったときはうれしいです。
新しいお菓子を考える過程は苦しいことも多いのですが、完成したときの達成感は何物にも代えがたい喜びです。
その瞬間のためにがんばってるのかもしれないですね。
試作がうまくいってからパッケージのデザイン作業に移るのですがその過程もわりとわくわくしていますし、パッケージが最終段階に入って見本ができたときは達成感で心の中でひとり叫んでいることが多いです。(笑)
最初にどこかで販売するときまではどきどきしたりわくわくしている気持ちが強いです。
でも、そのあとは一気に気持ちが仕事へシフトしていくので、自分の中で作品ではなく商品という扱いになっていきます。

お菓子の種類が増えていくと、それだけ大変な作業が多くて。
例えばチョコレートだけとか、1種類のものに特化して作っていたら色々と効率がいいんですけど、ラムネとかアメとか焼き菓子とか、いろいろやっているとロスも多く、「なんでこんなお菓子作っちゃったんだろ…」とか思うこともあります(笑)。
自分が一緒に仕事をしてみたいと思っていたところから依頼があったりと注文を受けること自体はありがたいし嬉しいのですが、
その喜びと作る辛さみたいなものの振れ幅が大きい。
しょっぱいものを食べたら甘いのが食べたくなって、の繰り返しに似ています。
辛いときも楽しいときもあって…両方あるからやっていけてる。
きっと、楽しいだけの人も、辛いだけの人もいない。何かを作っている人たちって、みんなそうだと思います。

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Q. オリジナリティを確立するために、心がけてきたことなど教えてください。
私のお菓子は、駄菓子の延長というイメージでやっているんです。
駄菓子って、全力のエネルギーを感じるお菓子だなと思うのですが、そんなところが大好きなんです。
本当にユニークでおもしろいのに、大人になるとだんだん「駄菓子を食べてたらちょっと恥ずかしい」みたいな感じになってしまう。
こどものころ夢中になったあの気持ちを今も持っていられたらいいのにっていう思いが、ずっとあって、「大人の駄菓子」みたいなものができたらなって。
牛乳瓶を模したプラスチックの入れ物の中に入ってる謎のクリームを持ちにくい小さな木のスプーンで食べるお菓子とか、ラムネの瓶の形のコーンの中に粉のラムネが入っててストローで吸うお菓子とか…知ってますか?
駄菓子って実はそういう“見立て”的なもので溢れていて、普通のお菓子とはちょっと違う自由な発想がすごくいいなって思います。
あれは日本人が元来和菓子に落とし込んでいた見立てのセンスで、洋菓子でも和菓子でもない、日本独特の「変なお菓子」(=駄菓子)を創り出したんだと思うんですよ。
これってたぶん海外にはないものだし、そういう世界観にたまに触れることができることで、生活や気持ちがすこしだけ豊かにユニークになるかもしれないという意識はずっとありました。
駄菓子についての見解は私の個人的解釈ですが、わたし自身「見立て」の部分を大事にしてお菓子を作っています。
また、私の中でのお菓子はパッケージも含めてお菓子なので、佇まいも大切にしたいという思いがあり、お菓子からパッケージまですべてオリジナルで制作しています。

Q. 今後、挑戦してみたい事ややってみたい事を教えてください。
やっぱり映画が好きなので、映画絡みの仕事をもっとしてみたいです。
お菓子をすこし離れて、コラムなど書く機会がいただけたら最高ですね。

Q. 最後に、これから「お菓子クリエイター」を目指す方にメッセージをいただけますか。
90%の人ができないと思うことをやることが自分を伸ばす道と考えることもひとつの方法だと思います。みんなができることをやってもしょうがない、そういう気持ちでやっていますね。
人それぞれどこか変なところがあると思うんですが、そういう「自分だけの何か」は大切にした方がいいと思います。

土谷みおさんの読者プレゼントは、こちら!

花やハーブを閉じ込めた標本のような砂糖菓子「herbarium/甘い標本」を1名様にプレゼントします。
※配送する季節のお花になります。写真のお花とは異なる場合がございます。
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詳細は、プレゼント応募ページをご覧ください。(下記画像をクリックしてください。)
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    cineca主宰 土谷みお|クリエイター
    2012年「cineca(チネカ)」を立ち上げ、映画を題材にそこからあたらしい物語を発想してお菓子を作ります。
    物語性のあるお菓子と、“お菓子”をいう枠を超えた表現から、あたらしいお菓子の在り方を提案。お菓子はひとつひとつすべて手作りで、手作りとしての表現作業を大切にしています。
    Webサイト:http://cineca.si/

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