CREATOR クリエイティブなヒト
【箱庭4周年記念スペシャルインタビュー】鹿写真家 石井陽子さん
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箱庭4周年を記念して、「イラストレーター」「フォトグラファー」「デザイナー」「作家・アーティスト」の4つのジャンル×4人=16人のクリエイターの皆さんに、仕事についてお話を伺うスペシャルインタビュー。
自分たちの仕事と真剣に向き合い、何かを生み出し続けている16名のクリエイターのお話には、仕事に対する姿勢や意識など参考にしたいヒントがたくさんあります。同じクリエイターとして仕事をしている方やクリエイターを志している方はもちろん、クリエイター職ではない方々にも、じっくりとお読みいただけましたら箱庭一同嬉しく思います。私たちがインタビューを通じて感じた、「私も頑張ろう!」という励みをみなさんも感じてくれることを願っています。
今回のインタビューは、フォトグラファーの石井陽子さんです。
鹿写真家である石井さんは、2011年3月より奈良や宮島など日本各地で鹿たちを撮り続けています。
本屋さんでふと1冊の写真集「しかしか」を見つけたときに浮かんだ、「なぜ、鹿なのだろう?」というひとつの疑問。そこには、フォトグラファーの方がどのようにしてオリジナリティを出していくかという作品づくりのヒントがあるのでは?と思い、今回お話を伺うことにしました。
ものづくりをする人にとって頭を悩ませることも多い「自分らしさ」や「オリジナリティ」。「鹿」を撮り続ける石井さんのお話の中には、「オリジナリティ」にたどり着くヒントがたっぷりと詰まっていました。
<石井さんのお仕事>
写真集「しかしか」
写真集『しかしか』より
写真集『しかしか』より
石井陽子さんに聞く「フォトグラファー」の仕事とは。
Q. 「フォトグラファー」になろうと思った理由を教えてください。
私はフォトグラファーになろうと思ったわけではないんです。今も本業は会社員なので、職業写真家ではありません。
もともと動物が好きで、旅行用に一眼レフカメラを買ったのがはじまりで写真を撮るようになったんです。最初に撮ったのはマダガスカルのキツネザルでした。それからずっと写真は趣味でやっていてんですけど、仕事でたまたま奈良へ出張に行くことがあったんです。せっかく出張で地方に来たから、写真を撮ろうと朝早く起きて散歩をしていたら、誰もいない街の中で鹿が頭を突き合わせて戦っている光景に出会ったんですよ。それを見て、誰もいない街を鹿が占拠しているようなイメージがふと浮かんできて。それをきっかけに鹿の写真を撮り続けよう、鹿を極めようと思うようになりました。
それがちょうど震災後の2011年の3月下旬で。自分の中で、当たり前のように続いていた日常が、震災でひっくり返ったのもちょっと影響があったのかもしれないです。
Q. 「フォトグラファー」になるために、どのような行動や心がけをしましたか?
ちょうど1年くらい前に写真評論家のタカザワケンジさんに私のポートフォリオを見てもらったところ「リトルモアに売り込みに行きましょう」って言ってくださったんです。そこからリトルモアの編集の方にお会いして、2回目にお会いしたときに写真集を出すことになりました。いつかは写真集を出したいとは思っていたんですが、いつまでにという目標があったわけでもないので、最初に売り込みに行ったリトルモアですぐに出版が決まったのはびっくりしましたね。
写真集出すことが決まったので、写真展もやらないといけないかなと思って、写真をやっている人にとっての最初の目標でもあるニコンサロンに応募してみたんです。そしたら、通ってしまって(笑)。
写真集は多くの人に手に取ってもらうために写真のセレクトもタイトルも親しみやすくかわいい雰囲気にしたのですが、シリアスフォトな発表の場所であるニコンサロンの展示でその雰囲気が合うかどうかは悩みましたね。結果的は編集の方にも了承をいただき、写真集と内容を変えて、写真展は「境界線を超えて」といタイトルにして、誰もいない街を鹿が占拠しているような構成にしました。
(展覧会「境界を越えて」より)
Q. 現在はどのような仕事(案件)を中心に活動していますか?
フォトグラファーというと写真を撮って収入を得るお仕事ですが、私の場合は兼業カメラマンなので、頼まれて写真を撮るという仕事は受けていません。鹿を撮っているのも本当に作品づくりとして撮っています。
鹿の撮影のために月に1回くらい日本各地どこかへ行っていますね。平日は会社員なので、だいたい1泊2泊で、長く滞在することは少ないです。結構飽きっぽい性格なので、長くいると集中力も切れちゃうので(笑)。
Q. 仕事で楽しいと感じる時、辛いと感じる時はそれぞれどんな時ですか?
そうですね〜。なんだろう。撮っているときは楽しいというよりは一生懸命になっているので、楽しいなっていう感覚ではないかもしれませんね。撮った写真をいろいろな人に見せると、「ここにも鹿がいたよ!」とか鹿情報をくれるんですよ。写真仲間やキュレーターの方から「五島列島にも鹿がいる島があるよ」とか、「沖縄の慶良間諸島にも鹿がいるよ」とか、いろいろ教えてくれて。自分でもリサーチしているんですけど、ほとんど人に教えてもらった鹿情報を元に行っています。そういう話をするときは楽しいですね
辛いと感じることか〜。最初はみんな物珍しさからおもしろがってくれるんですけど、「ずっと鹿ばっかりだったら飽きる」といった評価も少なくはありませんでした。なので、ここからどう発展させるのかっていうのは、2年目、3年目くらいにすごく悩みましたね。
それについては「境界線を越えて」という設定で撮ったり、剥製風に撮ったりして、設定を決めて撮影するようにしました。そうすると「鹿が人間の街にいる」というおもしろさにバリエーションがつけられるとわかってきて、そういった悩みもなくなってきましたね。なので、かなり設定を決めて画作りしています。もちろん鹿が思うように動いてくれなかったり、いいところで出会わなかったりといった悩みは常にありますが(笑)。
(写真集『しかしか』より)
今はそんな風にいろんな設定で撮っているんですけど、常に新しいチャレンジをしなきゃいけないという思いもあります。
私は真正面の水平を生かしたアングルに鹿が横に歩いている構図が好きでよく撮っているんですけど、それだとワンパターンって言われるかも…と自分の中で何がしたいのかわからなくなってしまった時期もあって…。そのときは、自分が今まで撮ってきた写真の構図からなにから全部変えてみたんですよ。それまで一定の距離感で撮っていたのをもっと寄ってみたり、まっすぐ撮っていたのを斜めにしてみたり、カラーで撮っていたのをモノクロにしたり。モノクロにするとカラーの色の情報がなくなり、形に目がいくじゃないですか。それまでは、犬とか猫に比べると鹿ってあんまり表情がない動物だなって思っていたんですけど、モノクロにしてみたら意外と表情があるなって鹿の表情に目が行くようになったんです。そこからまたカラーの写真を見直すと、また違った発見があったりして。一度全部ひっくり返すことでの発見は多くありましたね。
(光を選ばずに撮影できるように、石井さんの撮影時のカメラセッティングにはブラケットとストロボが欠かせないそう。)
Q. オリジナリティを確立するために、心がけてきたことなど教えてください。
本屋さんには有名な動物写真家さんの作品が多くあるので、その中で自分が何を作品として発表していくかって考えると、「自分はこれ!」っていう被写体が必要だと思うんです。
「自分はこれ!」っていうテーマやオリジナリティをどうやったら見つけられるのかって初心者の時に、ある人に聞いてみたことがあるんですけど、そしたら、「まず1万枚撮りなさい」って言われて。私の場合、1万枚撮っても何もわからなくて、5万枚でも何も見えなくて、10万枚撮ってやっと鹿に出会えました。今はデジタルだから、数を稼ごうと思えば撮れちゃうんですよ。それでも、初めて一眼レフ買ってから鹿に出会うまで7年かかっているので、やっぱりかなり時間はかかりましたよね。
鹿を撮ると決めてからは「野生動物が人の街にいる」違和感を表現するために、人を入れずに撮ろうということは強く意識しています。人が映らない写真を撮るためになるべく朝に撮影したりはもちろんですが、ファインダーを覗いていても人がどこから来るかなど周囲の状況を確認しながら撮影しています。あとは鹿に寄って撮ると、後ろの人が隠れるので鹿で人を隠してみたりとか、人が柱の陰に隠れるのを待っていたりもしますね。鹿はもちろん見ていますけど、背景や周辺の状況もすごく見ています。
Q. 今後、挑戦してみたい事ややってみたい事を教えてください。
今後も写真以外の表現方法を使うつもりもないので、やっぱり鹿を撮っていくんだと思います。人の目や動画だと見落としてしまう鹿の一瞬の表情も、写真だとその一瞬を永遠に止めることができるので、そこが写真のおもしろさだなと思っていて。あと、偶然写り込んでいるものに、その時代性を記録していることもあったり。普段は意識してない一瞬の表情や街の変化も鹿の写真を撮っていると意識するようになるんですよね。そういう意味では写真っていろんな意味でおもしろいなあって思います。
たぶんもう鹿しか撮らないと思うんですけど、日本に生まれていなかったら、オーストラリアだったらカンガルーとかも撮ってみたかったですね。それも街の中にカンガルーがいるのっておもしろいじゃないですか。
(写真集『しかしか』と鹿の角。この写真に写っている子の角だそうです。)
Q. 最後に、これから「フォトグラファー」を目指す方にメッセージをいただけますか。
日本人は割と普通とか当たり前といった風に人に合わせる文化があると思うんです。だけど、ものをつくったり表現するときは、他の人といかに違うかというところを出していかないといけないと思っています。普段、うまく生活するために振舞っている部分と、作品づくりのオリジナリティで勝負しないといけない部分は完全に切り離して考えた方がいいんじゃないかって。私自身も、人生において人と一緒じゃないことを自分らしさとしておもしろがっているので、経歴も、会社員だっていうことも、年齢もどんどん話しちゃっています。もし世に出たいと思っているなら、人がやってない事をやっちゃった方が自分の個性になるからいいと思うんですよ。「これが当たり前」とか、「普通はこう」じゃなくて、人と自分が違うところをアピールしちゃった方がクリエイターにはいいんじゃないでしょうか。
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石井陽子|鹿写真家
山口県生まれ。神奈川県在住。
レンズ越しに見える世界に魅せられて、国内外を旅して動物を撮影している。2011年3月より、奈良、宮島などで人の街に棲み、人間たちの決めた境界線を軽やかに越えて街を闊歩している鹿たちを捉えたシリーズを開始。
Webサイト:http://www.yokoishii.com/index.html