CREATOR クリエイティブなヒト
【箱庭4周年スペシャルインタビュー】フォトグラファー 野川かさねさん
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箱庭4周年を記念して、「イラストレーター」「フォトグラファー」「デザイナー」「作家・アーティスト」の4つのジャンル×4人=16人のクリエイターの皆さんに、仕事についてお話を伺うスペシャルインタビュー。
自分たちの仕事と真剣に向き合い、何かを生み出し続けている16名のクリエイターのお話には、仕事に対する姿勢や意識など参考にしたいヒントがたくさんあります。同じクリエイターとして仕事をしている方やクリエイターを志している方はもちろん、クリエイター職ではない方々にも、じっくりとお読みいただけましたら箱庭一同嬉しく思います。私たちがインタビューを通じて感じた、「私も頑張ろう!」という励みをみなさんも感じてくれることを願っています。
今回のインタビューは、フォトグラファー・野川かさねさんです。
野川かさねさんは、山をテーマにした写真を中心に作品を発表し続けている写真家。多くの方が「山の写真と言えば!」と思い浮かべる方ではないでしょうか。 山や自然の美しさが独自の視点で切り取られた野川さんの作品を見ていると、山へ行きたい!という気持ちを掻き立てられるよう。そんな山の作品を発表される他、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット「noyama」やクリエイティブユニット「kvina」としても活動されています。
野川さんを知ったのは、2013年に参宮橋・LIFE sonで開催された野川さんの写真展『MOUNTAINS』でした。“mountain dish”をテーマに料理を作るシェフのお店の壁に、野川さんの素敵な山の写真が飾られ、料理・写真・ストーリーがコラボしたZINEが置かれるという、一つの空間に山の空気感が閉じ込められたような展示だったのを覚えています。
ライフワークとして山の作品を撮り、すっかり山のイメージを持たれる存在になっているだけでなく、写真家以外のクリエイターとのコラボという魅力溢れる活動もされる野川さん。今回、そんな野川さんにお伺いしてきた、ご自身の“仕事”について。そのお話からは、クリエイターとしての存在感が生まれる秘密や、魅力的な活動をしていくためのヒントを見つけて頂けるのではないでしょうか。
<野川さんの作品>
フォトグラファー野川かさねさんに聞く「フォトグラファー」の仕事とは。
Q. 「フォトグラファー」になろうと思った理由を教えてください。
写真を始めたのは大学生の時ですね。大学は芸術系に通っていたわけではなかったので、最初は趣味で始めました。ちょうど大学生の時代に、時代はガーリーフォト全盛期。BiGminiなどのコンパクトカメラも普及したことでみんなが写真を気軽に撮れるようになって、“写真”の敷居が低くなったときだったんです。そこで、私も興味を持ったという感じですね。
写真が趣味だった祖父が使っていた中判カメラの使い方を、父に教えてもらいながら撮ったのが、意識して写真を撮ったきっかけだったかもしれません。
そんな趣味だった写真を、“仕事にしたい”と考えるようになったのは、大学3年生の就職活動のとき。そもそも英語を勉強してそれを活かした仕事をしようと入った大学だったんですが、入ってすぐに周りの英語力の高さを実感して…。その時点で自分が英語でいくのはダメだと思っていたので、自分は何をやりたいんだろう?と考えてみたんです。
周りのみんなは、履歴書出したり面接に行ったりという、いわゆる“就活”をしていました。あの時って空気がすごいですよね。でも私はなぜか焦ることもなく、写真でやっていこうかな、と決めたくらいで就活することもなく過ごしていました。普通免許は必要だと思ってとりましたけど、やったことと言ったらそのくらい。周りは給料のことや企業研究など、現実をちゃんと見て活動していたんですが、それに比べ私は、“写真でやっていこう”と決めたときは、やりたいことが見つかった!という気持ちでしかなかった。 今思うと人一倍のんびりしていたんだと思います。
希望しかないという言葉が合うかわかりませんが、自分が決めたことに進んでいくということしか考えてなかったので、不思議と不安はありませんでしたね。それも、やっぱりのんびりしていたんですね。今当時の自分にあったら、「もっとしっかりしなさい!」と言いたくなってしまうかも(笑)。
Q. 「フォトグラファー」になるためにどのような行動や心がけをしましたか?
大学を卒業した後にアルバイトをしながら、「コルプス」という写真のワークショップに通いました。
スタジオに入って、誰かのアシスタントになって…という順序があると思うんですが、芸大や専門学校を出ていないので何をすればいいか分かっていなかったんです。
それまで自分の写真を人に見てもらったり批評してもらったりしたことが無かったので、まずはそういう場に行ってみようと思って。
そこでは、面白い!と言ってもらえることもありましたが、それよりもたくさん厳しいことを言われたし、スルーされたりもしました。でも、それが新鮮で面白かったですね。
参加者の中には、すでにある程度上手に写真を撮っている方もいたんですが、そういう方は自信を持って来ている分、いろいろ言われて挫けてしまった方もいたかもしれないです。私は、ほんとに真っ新な状態だったので。吸収するしかないし、上に行くしかない、成長するしかない、と思って、ちょっと褒められるだけでも嬉しかったです。そう思えていたことは良かったと思います。
必ずしも考えて撮る写真が良いという訳ではないけど、写真ってこんなに真剣に向き合ったり考えたりするんだ、ということを勉強出来ましたね。ただ「撮って楽しい」「良いのが撮れた」という先にある写真が分かりました。そのワークショップの講師の中にホンマタカシさんがいらっしゃって。そのご縁でアシスタントになって、今に繋がっています。
Q. 現在はどのような仕事(案件)を中心に活動していますか?
最近は、やっぱり山などの自然に近い写真のお仕事が中心になっています。それ以外も料理の撮影や旅なんかもやっていますが、山の作品を見て下さって、また山のお仕事でお声をかけて頂いて、という感じが最近は多いと思います。
もちろん元からそうだった訳ではなくて、フリーになったばかりの頃はいろんな出版社に電話をかけてアポ取って、実際に会って作品を見て頂いて…ということを、していましたよ。
自分の作品のブックを3冊、それぞれ違う内容で作っておくんです。それを訪問先によってどれを持って行くかを変えていました。
この会社はこの1冊だけ、こっちの会社はこの2冊を見せよう、というような感じです。それで、自分が何を撮れるのかという旗印を見せて、自分を覚えてもらうことをしていました。
そうやって、やっと仕事を頂いても、必ずまた呼んでもらえるとは限らないので、一回一回が勝負ですね。特に最初が肝心だと思います。なかなか最初から大きな仕事は来なくて、小さな仕事で試しに使ってみようという感じからなんですよね。それで良ければ、次はもうちょっと大きい仕事、それでまたさらに…って、徐々にページ数が増えたり大きい仕事になったりしていくんです。
Q. 仕事で楽しいと感じる時、辛いと感じる時はそれぞれどんな時ですか?
楽しいことは、仕上がりが良かったとき。以上!って感じ(笑)。
なんといっても達成感を得る瞬間だし、やってて良かったな、と思います。
辛いというか、始めた頃に大変だなと感じたことは、場面によって要求されることが違ってくるので、それに対応することが要求されますし、現場が毎回違って会う人も違うから、その都度コミュニケーションを取ることが大変でした。今は楽しんで出来るようになってますが。
そんな毎回違う現場で、カメラマンは指揮を執る役割であることが多いんです。アシスタントさんへの指示から始まり、撮影終了という判断まで。毎日、小さく、細かく、責任を取るということの積み重ねですね。もちろん大きな判断だってあります。フイルムとデジタルでも変わってきますが、大失敗しちゃったことだってありますよ。カメラが壊れていて思ったような写真が撮れていなかったときなんか、息が止まりそうでした(笑)。
そういった大変なこともあるんですが、とにかく動くことはやめないです。写真を撮ったり、山へ行ったり、動いていますね。
悩むよりも、とりあえず動いてみる、ということじゃないでしょうか。考えることももちろん大事なんですが、悩み込んでしまったらどんどんはまっていってしまう職業だと思います。
一昨年出産したんですが、仕事が止まったのはその時の3か月くらいです。それだけ物理的に難しい状況以外は、何かしら出来ることがあると思うんです。そうして作品をつくり続けて来たことは、作品集を出すことが出来たり、年一回は展示が出来ていたりと、いろんなことに繋がって来ている気がします。
Q. オリジナリティを確立するために、心がけてきたことなど教えてください。
テーマ性でしょうか。山を撮っている方はたくさんいたけど、自分が山を撮り始めたとき、自分の撮り方はまだ他に無いかも?という感触がありました。
まったく撮られていないものを見つけてみるというのも手ですし、それは難しいことではあるんですが、たとえすでに撮られているものだとしても、自分だけの角度やアプローチを探してみることが大切かもしれません。
色や質感で出すオリジナリティもありますが、そこだけ考えている方が多いとしたら、別の方向性としてオリジナルの視点で物事を捉えてみると、世界が広がっていくと思います。
Q. 今後、挑戦してみたい事ややってみたい事を教えてください。
う~ん、まだまだ“山”ですかね。
今子育てをしながらの活動ですが、家族に手伝ってもらって月に1~2回は山へ行って撮影をしてます。
ここで撮ろうと決めた場所があるので、そこに絞って重点的に撮影することが多いですね。
同じ山という対象でも、これまで撮ってきた作品とは違う表現があるので。それを徐々に出していくという感じですね。
完成したらわかるんだけど、言葉でお伝えするのが難しい…(笑)。完成を楽しみにして頂けたら!
Q. 最後に、これから「フォトグラファー」を目指す方にメッセージをいただけますか。
写真は瞬間のイメージですが、意外と時間のかかるものです。被写体にも依りますけど、瞬間を積み重ねて、作品が出来てきます。一枚撮ったら、それで一枚出して終わりということではなく、たった一枚の作品だけど、それが何百枚撮った中の“決定的瞬間ではない”一枚だったりする。その一枚を撮るための粘りが必要なのかな、って思います。
イラストレーターさんや作家さんのお仕事も普段見ることがあるんですが、やはり“何かを作る”ということは時間がかかることなんだな、と思います。一度完成しても、何度も修正して試行錯誤して、ようやく出来上がって。そういった面では写真に限らず言えることかもしれませんね。
撮って出し出来るほど天才もいるし、そういう人は目立つけれど、粘るタイプの人もいるので、一瞬で結果が出なくても時間がたったら変わるかもしれない。そう思って、時間をかけてやっていくのも手ですね。粘って作れば、物は出来る、ですかね!
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野川かさね|写真家
1977年生まれ。山や自然の写真を中心に発表を続ける。
写真集に「山と鹿」(ユトレヒト)、「Above Below」、
著書に「山と写真」(実業之日本社)、
共書に「山と山小屋」(平凡社)、「あたらしい登山案内」(ピエブックス)など多数。
自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット「noyama」やクリエイティブユニット「kvina」としても活動中。
Webサイト:http://kasanenogawa.net/