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    箱庭4周年を記念して、「イラストレーター」「フォトグラファー」「デザイナー」「作家・アーティスト」の4つのジャンル×4人=16人のクリエイターの皆さんに、仕事についてお話を伺うスペシャルインタビュー。
    自分たちの仕事と真剣に向き合い、何かを生み出し続けている16名のクリエイターのお話には、仕事に対する姿勢や意識など参考にしたいヒントがたくさんあります。同じクリエイターとして仕事をしている方やクリエイターを志している方はもちろん、クリエイター職ではない方々にも、じっくりとお読みいただけましたら箱庭一同嬉しく思います。私たちがインタビューを通じて感じた、「私も頑張ろう!」という励みをみなさんも感じてくれることを願っています。

今回のインタビューは、ブックデザイナー佐藤亜沙美さんです。
佐藤さんは、箱庭メンバーと同世代の1982年生まれ。日本を代表するブックデザイナー、祖父江慎さんの事務所「コズフィッシュ」で8年働いた後、2014年に独立。サトウサンカイを設立しました。現在は、様々なジャンルの書籍を手掛ける、人気ブックデザイナーです。
本屋さんに行くと、時々目に飛び込んでくる本ってありますよね。最近そうやって手に取った本が、佐藤さんのデザインされていた「圏外編集者」だったり、「ソクラテス われらが時代の人」だったことが今回のインタビューのきっかけです。箱庭はWebマガジンなので、あまり本の世界のことは詳しくないのですが、誰にでも身近な本の世界を知ったなら、もっと本が楽しくなるかもしれない。そう思いながら佐藤さんへお話を伺ってきました。あらためて本の凄さを知ると同時に、色々な方と携わりながら1冊の本をつくりあげていく佐藤さんの仕事には、私たちも学ぶところがたくさんありました。

<佐藤さんのお仕事>

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(左上から時計回りに)
・『圏外編集者』朝日出版社刊 デザイン担当
・『ソクラテス われらが時代の人』日経BP社刊 デザイン担当
・『徳田有希 THE WORLD』パルコ出版刊 デザイン担当
・『装苑』10月号/文化出版局刊 表紙と中ページ一部 デザイン担当

ブックデザイナー佐藤亜沙美さんに聞く「ブックデザイナー」の仕事とは。

Q. 「ブックデザイナー」になろうと思った理由を教えてください。
学生の頃から、規則とか型にはめられることが苦手で、会社員になれる気がしなかったっていうのはありますね(笑)。ただ、その頃からブックデザイナーを目指していたわけではないです。はじめは紙とか絵が好きで、街を歩いていると触れる機会が多かった広告に惹かれて、デザイン専門学校のグラフィックデザイン科に入学しました。いざ入学してみたら、学校で勉強していることが実際どう役に立つのか結びつかず、早く現場に出たほうがタメになる気がして1年で辞めてしまいました。学校での授業は、いま教えてもらったらすごく面白いと思うんですけど、当時はとにかく現場!現場!と思いこんでしまったんです。
学校を辞めた次の日から印刷所で働いて、その後、出版社に転職しますが、そこでは広告デザインを担当していました。そうやって広告にかかわっていく中で、少しずつ私の中で違和感が芽生えてきたんです。広告って夜中まで作業して、よく分からない修正がたくさん入って戻って来て、この修正を入れることで広告として良くなるのかな?なんて思いながら直して、もともと考えていた理想とかけ離れたものに仕上がることが多いと感じていました。私が担当していた案件が特にそういう案件だったのかもしれないですが、手元に自分の意見がなさすぎる感じというか、自分がつくっている実感がわかなくて、悶々としていました。そうやって色々考えていた時に、本っていう媒体は、すごく個人的なものに見えたんです。著者や編集者に関しても、デザイナーに関しても、一人一人の意見が詰まっているように見えて、本の世界に魅力を感じました。本の世界に入ったいまも、その時感じた想いは間違っていなかったと思います。

Q. 「ブックデザイナー」になるために、どのような行動や心がけをしましたか?
古本屋に毎日通って、沢山の本を見ました。数多くの本を見ることで、これはカッコいいと思うとか、これはイマイチだなとかが自分の中ではっきりしてくるんです。そして、なんでいいと思ったのか、なんでイマイチと思ったのかを自分で分析しました。そうすることで、設定がしっかりとした、本に対して誠実なデザインというのを見分ける力がつきました。
あと、やっぱり私をブックデザイナーに育ててくれたのは、「コズフィッシュ」でのすべての経験なんですけど、「コズフィッシュ」に入るまでの私の猛攻撃は、すごい行動力だったと思います。出版社にいた頃、理想はあるんだけど、それが形にできないっていうジレンマがあり、毎日本屋に通って、なんで出来ないのかをすごく考えていました。本屋に行くと、生き生きしている本というか、自分と目が合う本があるんです。当時、自分と目が合う本は、祖父江さんデザインの本が多かったんですね。ちょうど同じ頃、同僚からも「デザインで時間を表現したり、構成とか紙の種類で明るさや闇を表現している人がいるんだよ。」って教えてもらったんですが、それが祖父江さんでした。こうなると、もう祖父江さんのところに行くしかないって思いましたね。そこからは、猛攻撃です!
今思うと恐れ多いんですけど、祖父江さんのあらゆる講演会に行って、その時つくった本を見せる、ということを繰り返していました。そんなことを繰り返していた時に、六本木の本屋さんでたまたま祖父江さんを見つけて、チャンスだと思って声をかけたら逃亡されるっていう…。後々聞いたら、祖父江さんが仕事を待たせていた編集者の顔に似ていたみたいなんですけど(笑)。逃亡されて、話せなかったな~なんて思っていたら、その日2度目の遭遇を喫煙所で果たしました。当時、喫煙していてよかったなって思います(笑)。その時に、「デザインをやっているものですが、何でもするのでなにか仕事をください!」と伝えました。当時「祖父江慎+コズフィッシュ」の本(今年発売された、約11年かかったといわれる祖父江デザインのすべてが詰まった作品集 ※発売元:パイ インターナショナル)を制作していて「人手が足りないから、土日だけ来ていいよ。」って言ってくれたんです。平日は今まで通り仕事して、土日は祖父江さんのもとに通うという生活を1年半くらい続けた後、「一緒に仕事しませんか?」と言われて、ようやく入れてもらいました。アピールポイントがあまりなかったので、行動力で勝負でしたね。

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(「梅ヶ谷ゴミ屋敷の憂鬱」第一回打合せ時のラフを見せていただきました。)

Q. 現在はどのような仕事(案件)を中心に活動していますか?
装丁をはじめ本文頁のデザイン、紙の選定に至るまで本の造形すべてをデザインしています。1冊にかける時間は、まちまちなんですが1か月で仕上げる本もありますし、半年や1年かけて出来上がる本もあります。
私の場合は、すべてゲラを読むところからはじめるんですが、ゲラを読んで浮き上がったイメージや自分の解釈などをラフに起こして、編集者へご提案します。ラフと同時に装丁でお願いしたいイラストレーターさんのご提案などもします。イラストレーターさんや写真家さんなどは、持ち込みや本やネットなど目にしたすべての記憶が頼りになっているんですけど、自分の中で直感的に浮かんだ人をあげて、どうしてこの人があがったのかという検証を重ね、揺るぎないものを感じてからラフに盛り込んでいきます。
つい最近デザインして発売された本は「梅ヶ谷ゴミ屋敷の憂鬱」(ポプラ社)ですね。 「梅ヶ谷ゴミ屋敷の憂鬱」は、タイトルに”ゴミ屋敷”と”憂鬱”っていう要素が入っていて、ネガティブなイメージを思い浮かべがちなんですけど、本を読んだらすごくポジティブなんですよね。”ゴミ屋敷”は、愛おしいガラクタという意味合いで使われているので、かろやかな線のイラストで”愛すべきゴミたち”を描ければいいなと思って、そういうイメージをラフに盛り込みました。装画は、Web連載をされているスケラッコさんという漫画家さんをご提案しています。まだ装画とかはされていない方だったんですが、ゲラを読んだ時にスケラッコさんのかろやかな線が思い浮かんだんですよね。そうやって提案した内容と、編集の方が感じているものと響き合えばそのまま進みます。ぼんやりと進めてしまうと、途中でイメージのずれが発生してしまったりするので、この1冊の本にかかわる方がみんな同じ世界に向かっていけるように、ラフはとても重要なんです。「梅ヶ谷ゴミ屋敷の憂鬱」では、実際に発売された本も、このラフイメージからほぼ変わらずに仕上がっています。

Q. 仕事で楽しいと感じる時、辛いと感じる時はそれぞれどんな時ですか?
9割くらいは苦しいですね(苦笑)。著者ではないので、一般の方からの声とかもないですけど、編集の方から「あの本のデザイン良かったですよ。」って言われたり、こういう風に取材とかしてもらえると、歯を食いしばってやっている時間が、あ~届いているんだなって感じて嬉しいですね。
一番辛いのは、他の人には気づかれないような、本当に細かい部分に何時間もかけている時です。自分が見たら確実に完成度は高まっているんだけど、届いているか分からないところの何時間はちょっと辛い。自己満足なのかなって時々思ったりもしますけど、相対的に何かいいものになっていると信じてやってます。

Q. オリジナリティを確立するために、心がけてきたことなど教えてください。
個人的には、匿名の気持ちでデザインをしています。心がけていることは、自分の色を出すというよりも、作品に対して嘘をつかないということですね。この作品独自の色が出ればいいなとか、この作品でしかできない遊びをやり切りたいなという風に感じていて、毎回その作品の強みを出し切っている本がつくれればいいなと思っています。
みなさん普段はほとんど気に留めていないと思うんですけど、本って技術の集結なんですよ。製本に関しても、印刷に関しても。印刷所や製本所にいる現場の方たちの美意識がとても高いんですよね。現場の方たちは、本に名前が載らなくても、美しい印刷にあがるように、美しい本に仕上がるようにというのを常に考えながらやっているんです。だから、私も本をつくるということに対して本当に誠実でいたいというのは、常に思っています。

Q. 今後、挑戦してみたい事ややってみたい事を教えてください。
なぜ、私のところに依頼が来たんだろう!?っていう、意外すぎるお仕事はやってみたいですね。これまでの制作物を見ていただいて、これは佐藤が好きそうだとか、似合いそうだって思っていただいて、それでやってくる依頼も、届いているなって感じて嬉しいんですけど、全く想像がつかないジャンルにも興味があります。

Q. 最後に、これから「ブックデザイナー」を目指す方にメッセージをいただけますか。
先輩に「資料が師匠」っていうことを教えてもらって、私自身、お金がない時も資料を自分の先生のように思って、買い集めていました。古本屋は宝の山で、古書は遊びがきいているんですよね。言葉で説明がしきれない、たくさんの遊びがつまった本が多いので、そういうものをたくさん見るのは、すごく勉強になると思います。
ブックデザインは、1冊の制作に発生する作業は膨大だし、数ミリの世界で本の良し悪しが変わってしまうので、忍耐力に自信がないと難しいかもしれないです。だけどその分、本って楽しいし、ワクワクです!!

佐藤亜沙美さんの読者プレゼントは、こちら!

佐藤さんが普段愛用している紙厚測定器を1名様にプレゼントします。
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詳細は、プレゼント応募ページをご覧ください。(下記画像をクリックしてください。)
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    佐藤亜沙美|ブックデザイナー
    1982年生まれ。2006年から2014年コズフィッシュ在籍。2014年サトウサンカイ設立。
    Webサイト:http://www.satosankai.jp/

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