CREATOR クリエイティブなヒト
【箱庭4周年スペシャルインタビュー】プロダクトデザイナー 植木明日子さん
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箱庭4周年を記念して、「イラストレーター」「フォトグラファー」「デザイナー」「作家・アーティスト」の4つのジャンル×4人=16人のクリエイターの皆さんに、仕事についてお話を伺うスペシャルインタビュー。
自分たちの仕事と真剣に向き合い、何かを生み出し続けている16名のクリエイターのお話には、仕事に対する姿勢や意識など参考にしたいヒントがたくさんあります。同じクリエイターとして仕事をしている方やクリエイターを志している方はもちろん、クリエイター職ではない方々にも、じっくりとお読みいただけましたら箱庭一同嬉しく思います。私たちがインタビューを通じて感じた、「私も頑張ろう!」という励みをみなさんも感じてくれることを願っています。
今回のインタビューは、プロダクトデザイナー 植木明日子さんです。
植木さんは、暮らしの様々な場面で使われるモノの提案を中心に2004年よりデザイナーとして活動をスタート。2006年には、吉祥寺にある文具店サブロの店主村上さんと一緒にすこしビターな文房具ブランド「水縞」を誕生させました。水玉好きな植木さんと、縞々好きな村上さん、お二人の目線を通して製作された「水縞」の商品は、身近にあるものをちょっと違った角度や新しいエッセンスを加えて提案してくれる「ありそうでなかった」文房具。きっと箱庭読者のみなさんもファンですという方が多いのではないでしょうか。2014年にはお二人で新しい雑貨ブランド「西東」もスタート。「西東」では、ちょっとシュールでかつユニークなキャラクターをモチーフとしたアイテムを展開しています。植木さんご自身では、アトリエ・ショールーム「nombre(ノンブル)」をかまえ、パッケージデザインやDMなど企業やお店からのデザイン制作の他、結婚式のペーパーアイテム制作なども行うなど幅広くご活躍しています。
シンプルだけど質感や色味で新鮮さを感じさせてくれたり、懐かしくて親しみのあるアイテムを現代的にアレンジしている「水縞」のアイテムが大好きで、今回は完全にいちファンとして、インタビューをオファーさせていただきました。「水縞」を立ち上げて今年で10年の植木さん。オリジナリティの出し方や、お仕事で少し悩んだ(辛かった?)ときの話は、4周年を迎えた箱庭としても非常に参考になるものでした。
<植木さんのお仕事>
【ハンコ 万年カレンダー】
11個のパーツを並び替えることで、どんな月のカレンダーでもつくることができます。
【オーダーメイドのペーパーアイテム】
パーティのインビテーションカードや結婚式の招待状、席次表などのオリジナルペーパーアイテムを製作しています。お話をおうかがいし、ひとつひとつ手づくりで作っています。
【水縞ぽち袋】
様々な柄を散りばめたぽち袋。シーズン毎に新しい模様が加わります。
プロダクトデザイナー植木さんに聞く「プロダクトデザイナー」の仕事とは。
Q. 「プロダクトデザイナー」になろうと思った理由を教えてください。
父が建築家だったので、建築にまつわるものや道具が家に色々あったから、幼い頃から手を動かして何かをつくるっていうことはやっていたんです。その頃から、漠然となにかものづくりをしたいなぁ~というのはありましたね。だけど何がやりたいのかっていうのは特にまだなくて、進路を悩んでいた時に、両親が建築だったら、女性でも、たとえば子供を産んでも仕事が出来る職業だよっていう感じで薦めてくれたんです。それがきっかけとなり大学の建築学科に進みました。建築もまたものづくりなので、課題に取り組むのはすごく楽しかったのですけど、同級生たちが本気で建築家を目指して活動している中、私はそこまで建築に対する意識が強くないということに気づき、他にも何か別の道があるかのかもしれないと思い始めました。そんな時に、課題を見ていただいていた先生が家具や壁紙のデザインをしている方で、その先生の影響を受けて「デザインするものは建物じゃなくてもいいんだ。」というひとつの突破口が自分の中で開けて。そこから少しずつ自分でデザインをして、コンペに出してみたりすることを始めました。だけど、そのままデザイナーの道に進むと思いきや、まだ決めきれずに大学院の建築学科に進みました(笑)。大学院では椅子や照明器具などを楽しく色々つくっていたのですけど、卒業のときに建築学科なのに空間をつくっていないんじゃダメだと言われて。それはそうですよね。慌てて”パーツからつくる空間”という考え方に整理して、なんとか分かってもらえて卒業できました。その頃には、建築ではないなにか別のものをデザインしたいという気持ちは少し見えてきていたのですけど、そのまま大学の先輩の設計事務所に就職しました(笑)。ただ、その先輩がすごく理解のある方で、事務所は建築をやっていたのですけど、設計事務所の中でプロダクトを担当させてもらうようになって。事務所がつくっている住宅の中に置く照明や机、椅子のデザインを担当させてもらいました。そうやってはじめは漠然としていたものづくりをしたいという想いから、徐々にプロダクトをやりたいという気持ちが育っていきました。
Q. 「プロダクトデザイナー」になるために、どのような行動や心がけをしましたか?
プロダクトデザイナーになろうという意思をもって心がけてきたわけではないのですが、考え方は建築学科時代に鍛えられたと思います。自分が考えたことを表現するという練習は、建築の課題で培われた気がしますね。
あとは、売り先を見つけるよりも先にプロダクトを作ってしまったことかな。昔は、アイディアをノートに書きためて、そうやって考えたものをプロダクトメーカーさんに持ち込みをしたこともありました。「面白いね」とは言ってくださるんですけど、それをうちでつくろうかという展開は当然一度もなく…。でも、プロダクトをひとつ手づくりでつくって、いろんな人に見せたことから少しずつ変わりましたね。当時は布の作品を作っていたのですけど、タイに旅行で行ったときに、駐在している日本人の方に「こんなのつくっているんです」ってお見せしたら、同じくタイに住む知り合いの方に言えばつくってくれるんじゃない?って(笑)。そんなに簡単に!?って驚いたのですけど、いきなり100個もつくってくださって、突然在庫をかかえちゃったので、これは売るしかないってことになりました。事務所の代表の知り合いの方が美術館のミュージアムショップの方を紹介してくださって、プロダクトを見せたら「面白いね」って言ってくれて。でも、「面白い」っていうのは今までもあったんですよ。だけど、100個もあるって言ったら、うちで置いてみるって言ってくださったんですよね。そこで販売することになって、追加で発注がきて、そしたら在庫がなくなっちゃうから、また工場につくってもらってというのが最初です。
文房具をはじめたのも、つくっているものを見せたことがきっかけではあります。当時、事務所が吉祥寺にあって、サブロが好きだったのでよく通っていたのですけど、店主の村上と仲良くなって、それで「こんなブックカバーとか作っているんだよ」って話したら、サブロでも取り扱いをしてもらえることになったんです。村上とは個人的にもすごく気が合ったので、私はデザインを担当して、村上はモノを見たり選んだりすることがすごく長けている人だったので、そういう視点で立ってもらって、違う視点で一緒にやったら面白いんじゃないかね~ってそんな話をするようになったんです。それで、なにをつくろうかという話になりまして、彼女の知識がすごく豊富な、文房具のオリジナルアイテムを作ってみたらいいんじゃない?ということになり、文房具のデザイナーになりました。だからきっかけは、まず自分でモノを作ってみたというところと、すごくいいタイミングでの”人”との出会いだった気がします。
Q. 現在はどのような仕事(案件)を中心に活動していますか?
一番大きいのは、自社ブランドの「水縞」と「西東」です。オリジナルブランドを長く続けている中で、だんだん増えてきたのは別注のお仕事ですね。ミュージアムショップのオリジナル商品などを中心に、ショップ限定のオリジナルデザインもやっています。自分たちのプロダクトを販売してくれていた取引店からのデザイン依頼が多いのですけど、そういう依頼はお付き合いも長くなって楽しいです。あとは、オーダーメイドのペーパーアイテムをつくるということもやっていて、これは結婚式の招待状や席次表の依頼が多いです。普段やっている仕事は、自分たちの作りたいものを作っているので、オーダーメイドのお客さんからの要望をどれだけデザインに落とし込んでいくかというのは、すごく修行になります。お客さんがいて、どんどん要望が出て、それに答えていくというのは、建築に近いのかな。
Q. 仕事で楽しいと感じる時、辛いと感じる時はそれぞれどんな時ですか?
オリジナル商品でいうと、最近は私も村上も出産が重なって新作の開発が出来ていなかったのですけど、その前までは二人で喫茶店に行って話すということを週1で開催していました。二人で話していると楽しくて話がそれすぎちゃうことがよくあるのですけど(笑)。でも、そうやって話をしている中で、二人がピンときて「これはいけるね~。」っていうウキウキしたときが一番楽しい。あとは、最初のサンプルが出来てきた時に、初めてそのプロダクトと対面するときも楽しいです。
辛い時は、うーん。多分すごく少ないほうだと思うんですよね。でも、あるとすれば、たまにあるドジかな(笑)。それで多大な迷惑をかけたときですね。
あとは、最近はあまりないのですけど、はじめた頃は私たちの一番大事にしているコンセプトだったりデザインが全く通用しない案件をやった時に辛かった想いはありました。たとえば、ちょっと内容に無理があるかな?と思いつつも、その仕事をすることでいろんな人が見てくれるかもしれない、などという下心で、ちょっと違和感を感じつつも取り組んでみたことがあります。そういうのは最初ウキウキしちゃうじゃないですか。でも、話を進めていくうちに、なんかちょっと違うかもとか、私たちがやる意味が見えなくなるみたいな時がちょっと辛かった。お互いに求めているものがぴたっと合ってお仕事が出来れば、本当に幸せな感じになると思うので、スタッフとも事前にそういう相談はするようになりました。
Q. オリジナリティを確立するために、心がけてきたことなど教えてください。
まず雰囲気に関しては、私と村上の感覚が近いところにあるので、水縞らしさというものについて、あんまりこう言葉にしなくても判断出来てきたんです。
ただ、アイディアに関しては、あれこれ考えていて、よく言っているのは「ありそうでない」ものをつくろうってことです。すでに世の中にあるかどうかとか、アイディアはまだ出ないけど、こんなかんじのものがあれば面白いね、などということを村上の豊富な知識から共有させてもらって、そういうものをつくっていきたいという意識は持っています。こんなのあればいいのにっていう「ありそう」で、でもまだないものというのは、製造上の超えられない何かがあるとか、コスト面か、なにかしらのハードルがあって、まだこの世で実現されていないのだと思うのですけど、それをどう越えていけるのかが、オリジナリティをつくれるところになるのかなと思います。
Q. 今後、挑戦してみたい事ややってみたい事を教えてください。
二つあるんですけど、一つはグラフィカルなデザイン。模様をどんどん作っていきたいという想いがあって、いまぽち袋を色々作っているのですが、シンプルなかたちにどういう模様を載せてデザインしていくかということを考えるのが楽しいです。
もう一つは、プロダクトとしてのアイディアがあるもの。使い方そのものが新しいプロダクトを考えつきたいと思っています。最近だと、カレンダーのハンコをつくりました。数字を入れ替えることでずっと使える万年ハンコなんです。あとは、回転印。よくあるのは数字や日付のものだったりすると思うのですけど、回転印のかたちの仕組み自体を利用しつつ、そこに図案をいれるということで、水縞らしさを表現できるものをつくりました。これからも、そういうプロダクトを増やしていければと思っています。
Q. 最後に、これから「プロダクトデザイナー」を目指す方にメッセージをいただけますか。
私がやってきたことでもあるのですけど、「実物をつくりこんでみる!」ということは大事だと思います。デザイナーを目指している方は、最初からメーカーを目指している方は少ないかもしれませんが、良くも悪くも自分でつくるというのは、在庫を抱え続けなければいけないという点もありますけど、自分がつくりたいものをつくることができるし、最後まで責任も持てる。アイディアだけではなくて、プロダクトに至るまで最初につくってしまったということが私が動き出したきっかけでしたから。そういう方法もあるよって伝えたいです。
もちろん私みたいにはじめから100個も在庫を抱える必要はないけれど、紙に書いているアイディアだけではコトを起こすことは難しいかもしれないから、一つだけでも自分の手で自分のイメージが再現されているモックアップをつくることは、人に見せたときに伝えやすいし説明もしやすいから良いと思います。
植木さんの読者プレゼントは、こちら!
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植木明日子|プロダクトデザイナー
学生時代、建築を学ぶ。
文具雑貨ブランド「水縞」、「西東」をディレクション。
東中野にてアトリエ「nombre」を運営。
著書に「水縞とつくる文房具」がある。
Webサイト:http://nombre.jp/