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施主と一緒になって空間をつくりあげる「medicala」のおふたりの働き方と、大切にしていること。

今回お話を伺ったのは、空間をつくることを生業としているmedicala(メヂカラ)のおふたり。デザイナーの東野唯史(アズノタダフミ)さんと、奥様の華南子(かなこ)さんです。リノベーションにより、元々の良さをいかしつつ新しい命を吹き込み、建物を生まれ変わらせてきたおふたりは、これまでに東京・蔵前の「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」や、鎌倉の「hotel aiaoi」など、全国にしゃんとした佇まいの居心地のいい空間をつくりあげてきました。160606miyu_12
(鎌倉のhotel aiaoi 写真:東野唯史)

今回のインタビューのきっかけは、長野県諏訪市にあるマスヤゲストハウスに宿泊した時のこと。たまたま隣に座っていた華南子さんとおしゃべりさせてもらったとき、華南子さんの軽やかさや纏う空気に、マスヤゲストハウスの居心地のよさの一端を見た気がして、「ぜひお話を伺いたい!」と思ったのが始まりでした。160606miyu_11
(築106年以上の古民家をリノベーションした、長野県諏訪市のマスヤゲストハウス 写真:東野唯史)

色々な経験や出会いを力に変え、全力を注いで動いて来たふたりだからこその言葉をたくさんお聞きしてきました。なかなか見る機会の少ない、工事途中の現場の写真もたっぷりご覧ください!

いい空間をつくるためにうまれた「medicala」式スタイル

箱庭(以下、箱):まずは、medicalaの活動について教えてください。

アズノさん(以下、ア):medicalaというのは僕ら夫婦ふたりのチーム名で、ゲストハウスや店舗などの空間づくりをしています。「デザインする人」と「実際につくる人」のギャップをなくし、デザインした空間をそのまま実現させたいという思いから、「自分たちも施工に入って、依頼主やその友人達と一緒につくること」と、「依頼を受けた土地に住み込んでつくること」を大切にしています。これまで東京をはじめ日本全国に住みながら、リノベーションをメインにゲストハウスやカフェ、ホテルなどをつくってきました。数ヶ月間現場にコミットするスタイルなので、年間に4軒ほどのゆっくりとしたペースです。

160606miyu_05(大工さん任せにせず、施主とともにふたりも現場で作業するスタイル。取材時、華南子さんは解体中の現場で床はがしの作業中。)

箱:具体的にはどんな空間づくりを目指しているんですか。

ア:デザインの話でいうと、出来上がった空間はかっこよくて当たり前だと思っています。その上で運営がよくて、ごはんがおいしくて、息がかかってる場所。華南子はよく”意図”っていう言葉を使うんだけど、意識とか意図が隅々にまで行き渡ってる場所が、ほんとにいいお店&いい空間だと思うから、そういう店をつくっています。

箱:ふたりの役割分担はどんな感じですか?

ア:僕はデザイナーなので、空間デザインや施工といった空間づくりのハードの部分を、華南子はこれまでカフェの店長やゲストハウスの女将をつとめてきた経験を生かして、店舗の運営や仕組みづくりといったソフト面を担当しています。

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箱:こうやって現場を見ていてもいろいろな人が挨拶にきたり、SNSなどでの情報発信を見るとお手伝いに来る人も多いんですね。とてもオープンな雰囲気を感じます。

ア:初めての店舗の設計デザインの仕事は、東京・蔵前にある「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」だったんですが、施主も大工も設計も同じ方向を向いて、横並びで上下関係なく進んで行く姿がすごく良くて。ボランティアの人たちをたくさん呼んで、毎日いろんな人が出入りする現場だったから、それが今の仕事のあり方に影響を与えてると思います。

160606miyu_10(東京・蔵前の「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」写真:東野唯史)

箱:現場を身近に、という言葉を使っていましたよね。どういう意図があるんですか?

完成までにお店のファンの人を増やしたいというのが一番の目的です。工事の状態を知ってる、っていうのがいいなあと思って、壁塗りや木のヤスリかけなどを施主やmedicalaのSNSを見てくれた人など、一般の方にお手伝いしてもらっています。もちろん、工事を楽にするために人手を増やしたいとか、工事の予算抑えられるというメリットもありますが、どちらかといえば、工事に参加してもらうことでその店のことを自分ごとにしてもらって、ファンになってほしいなと思ってるんです。新しいものごとが立ち上がったときに、最初の200人が肝心なんだと聞いたことがあるんですけど、できるだけお店に共感する人とか意識が高い人が最初にファンになってくれると、そこからそのファンが自然分裂していって、もっと多くの人に伝わりだすらしいんです。だったらお手伝いにきてくれたり、現場を見てくれて、自分ごとにしてくれる人を作れたらいいなって思って、オープンな現場にしています。

箱:私も床をはがすお手伝いをさせてもらいましたが、完成がより楽しみになりました。それに、「こうやってこの床が出来上がるんだ。」って、自分が手を動かすことで分かることってありますね。

華南子さん(以下、華)私は元々建築のこと何も知らなかったんですけど、 ひとつひとつ知っていったら、世 の中を因数分解して見れるようになってきたんです。ある空間がかっこいいと感じた時に、それまではなんとなくでしか感じていなかった居心地の良さの理由が、「机と椅子の高さの バランスがいい」とか、「左官がきちんとしてるから」とか、分かるようになりました。今まではなんとなく青だと思ってたものが、よく見るといろんな色が混ざってるってのが分かって来たっていう感じで す。分からなかったことが分かるようになる、見えなかったことが見えるようになるってすごく楽しいことですよね。

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みんなが幸せになるために、できることは何でもする!

箱:華南子さん担当の「ソフト面」というのは、具体的にどんなことをされるんですか?

お客さんがこういう風に過ごしてる景色が見たいって、施主の心の中にあるはずなんですけど、自分ひとりで考えてるとよくわからなくなっちゃうことが多いと思うんです。例えば客層もそうだし、ゆったり過ごしてほしいとか、テイクアウトでパパッと行ってほしいとか。それによって、フォークを使って食べるものがいいとか、手づかみで食べられるものがいいとか、メニュー構成から必要な什器まで変わるんですよね。だから私が色々な質問をしながら、メニュー構成からスタッフ数、席数、導線、さらには損益分岐点なんかも考えて、それをアズノさんがさらに設計デザインに反映していきます。お店が運営してる人間に愛されてるお店かどうかってのは行けば分かるから、私もちゃんと愛されるお店を作りたいなって思って、施主ともとことん話ぬくんです。いろんなメリットデメリットを分かりやすいように見せてあげて、全部加味した上で選んでもらえる状況を作る感じかな。

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箱:なるほど〜。そういうのも仕事の一部なんですね。

ア:華南子のディレクションは、依頼する時点では意識してないことだから、実際にプロジェクトがスタートして質問攻めにすると、施主にびっくりされることが多いんです。100時間くらい話してようやく形になる感じかな。店を作るってすごく大変なことなんだけど、これまで店の立ち上げをたくさん経験して得た知識をフルに使ってつくりあげたいんです。デザイナーだからデザインだけしますっていうのは無責任な話だから、出来る範囲のところをちゃんと面倒みようと思ってます。

箱:出来る範囲っていうと?

華:
お店をつくるときは、そのお店で働く人と、働く人の家族と、そこに来てくれるお客さんとか、みんなが幸 せな状況になれる空間を作りたいから、現場のことだけ考えるんじゃなくて、施主の奥さんの話聞いて施主の家族の負担を減らしたり、そのために必要なら現場での作業をいったん止めて、施主の自宅に棚作りにいったりなんてこともします。自分達ができることは、なんでもするよね。 だからいつも必死です。これは私の仕事だとかそうじゃないとかじゃなくて、その時自分が出来ることで、現場にとっていいことならやりたいし、その時々でいちばんいい選択をしていたいです。

160606miyu_07(施主のお子さんと遊ぶ華南子さん)

箱:そうやってまわりの全ての人が幸せになる仕事っていいですね。どうして華南子さんは、そういう思考になったんですか?

華:中学時代、3年間ロンドンに住んでたんだけど、現地校だから年頃の女の子の会話のスピードが速すぎて。会話が盛り上がってても、私がしゃべると「華南子今なんて言ったの?」って、会話の流れを止めて聞いてくれるのが申し訳なくなっちゃって、そしたらなんか学校行くのが嫌になっちゃって。それで、毎日学校行くふりをして、学校の隣にあったスタバに行ってたの。毎日行ってたらお店の人が顔を覚えてくれて、休憩時間になると「今日の英語のレッスンは僕だよ。」みたいな感じで、スタッフが代わる代わる話しかけてくれたんですよね。それで、やっぱりコミュニケーションってうれしいなって思って、もう一回ちゃんと学校に行けるようになって。人の人生を変えるきっかけってそんなに大きいものじゃなくて、私にとってスタバが背中を押してくれる存在だったんです。だから私が日本に帰ってきたとき、同じことをしたいって思いながらスタバで働いてたから、モチベーションもすごく高かったと思う。お客さんひとりひとりに対して、今、彼のために彼女のために自分ができることはないかって常に考えて働いてたから。

箱:すごいなあ!ちなみに、東野家の家訓は「嘘をつかない」なんですよね。

華:そう、「素直」とか「嘘をつかない」って大切だと思っていて。まず、アズノさんとの関わり方が一番嘘がないもんね。損得勘定もないし、思ったことは全部言うし、アズノさんも言ってくれてるかな。そういう関係で一緒に仕事ができるっていうことが、私にはすごく嬉しいことで。空間づくりにしても、本当ににいいものを作りたいと思ったら、毎日こうやって現場に来て、毎日施主と顔会わせてようやくいいものがつくれるんです。それで一番嘘のないものが作れるし、嘘のない仕事がしたいなって思ってます。

160606miyu_06(現場の窓にToDoリストを貼って、見えるようにして管理)

つづく

クリエイターインタビュー|空間づくりクリエイター 『medicala』東野さんご夫妻 後編

    『medicala』 東野唯史(あずのただふみ)さん、華南子(かなこ)さん

    日本全国で暮らしながら空間づくりをしている夫婦2人の小さなチーム。アズノさんは主に空間デザインと施工の「ハード」を担当し、華南子さんは主に現場めし!や店舗運営サポートなど「ソフト」の部分を担当。主な実績はNui. HOSTEL & BAR LOUNGE(東京都・蔵前)やcafe&bar totoru(東京都・茗荷谷)、萩ゲストハウスruco(山口県・萩市)など。現在は長野県諏訪市を拠点に活動中。

    2016年秋、長野県諏訪市に建築古材のリサイクルを目的とした「リビルディングセンター」をオープン予定。

    Web site:http://medicala-design.com
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