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空間づくりをしてきたmedicalaの仕事論と、新しいチャレンジ「リビルディングセンター」

前回に引き続き、ご夫婦で空間づくりをしているmedicala(メヂカラ)の東野唯史(アズノタダフミ)さんと、奥様の華南子(かなこ)さんにお話を伺います。

生きることまるごとが、いい仕事をする糧になる。

箱庭(以下、箱):おふたりは、仕事をしていて大変だなって感じることありますか?

華南子さん(以下、華)定住せず全国で働きながら暮らしてきたから、お気に入りの作家さんの器を使って暮らすとか、そういう普通の暮らしは投げうってます。それでもmedicalaとしてのベースも作れたし、がむしゃらに働けたから、20代を過ごす時間としてはすごくよかったですね。全部自分たちの責任でやってることだから、自分ががんばったり、やり方を変えれば解決することばかりで、生産性は高いし効率もいいんです。それに、暮らすとこと・生きること・働くことの境界が曖昧な暮らしが理想だったんですけど、今やってる全てのことは仕事でもあり趣味でもあるので、望んでいた生き方ができていると思います。毎日働くのも休みの日も楽しくて!生きることまるごとが、いい仕事をする糧になる。さらに、いい仕事をすることが楽しく暮らすことにつながってくし、とってもいい無限ループだと感じています。

アズノさん(以下、ア)俺はノーギャラでもいいって思ってるくらい仕事好きだからね。体力的にしんどいことはたくさんあるけど、全部自分の糧になるから、無駄じゃないし辛くないんです。例えば、初めて行くカフェでも、内装を見て俺は勉強できちゃうし、華南子は料理の勉強できちゃうし。接客の姿をみたりとか、小物のセレクトとか席数とか、そういう空間とか空気をつくるっていうこと全体が仕事に直結してるから、どこに行っても勉強になります。

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箱:
仕事と暮らしのあり方って、自然に生み出されたものなんですか。

デザインの勉強する人は多分言われると思うんですけど、僕も大学の時に「常識を疑え」って言われたんですよね。コップがどうしてこの形をしてるのか、鉛筆がなんでこの形をしてるのか、常に考えろと。そうやって、当たり前のものを疑ってかかるってことを教わったから、その癖がついていて、どこに行っても何を見ても勉強になるようになりました。

私は、自由になることって自分ができることを増やして行くことだなって思っていて。現場でみんなでごはんを食べることも大切にしていて、私がつくった料理を「現場めし!」と呼んでいるんですが、そのごはんをつくる時によく思うんです。例えばタイ料理が食べたいと思っても、地方にはタイ料理屋さんがなかったりする。でも、自分でタイ料理を作ることができれば、場所の制約を受けないですよね。だから、仕事やプライベートという枠に縛られず、できることをどんどん増やして行きたいと思っています。
160606miyu_04160606miyu_03(華南子さんの作る「現場めし!」— 今回の現場では、現場の屋外に作られた簡易キッチンで調理し、外に停めてある軽トラックの荷台でごはん。) 

箱:できることが増えれば、それだけ自由になる。いい言葉ですね!

経験を積んだことで、問題が起きた時に思い浮かぶ解決策も増えて来たように思いますそれに、自分がレベルアップすると、その時の自分に合った人と出会えるから、どんどんおもしろい人に会えるようになってきていて。1年前の自分が理解できなかった話が、分かるようになるとおもしろいですよね。

やり続けることって、すごく大変だけど、楽しさも大きいんです。それに、年上の先輩たちを見ていると、私たちの進んでいる道は間違っていないって思えるし、その人たちに恥じない仕事をし続けたいから、「もう疲れたし、こんなもんでいいかな」って思っちゃう瞬間があっても、「私たちこれ作りました。」って胸張って言えるものをつくり続けたいって思ったら、また一生懸命がんばれます。

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建築資材のリサイクル。ポートランドの「リビルディングセンター」を、日本に。

箱:ふたりのこれからを教えてください。

華:この間ホテルをつくったんですけど、「終わったー!」と思った瞬間、涙がとまらなくなっちゃって。そしたらアズノさんは「終わったあと泣ける仕事ができるっていいよね。」って。でも、それくらい全力を注いで、嬉しかったり悔しかったり、たくさんの感情を共にした仕事だったんです。おかげでそのホテルはすごくいいものができて、今持ってる自分たちの実力を全部出せばこれぐらいのものができるっていうのが分かったこのタイミングで、私たちにとっての新しいチャレンジが舞い降りてきたんです。だから今の現場が終わったら、その新しいチャレンジにフォーカスするつもりです。

箱:そのチャレンジが、秋に長野県諏訪市にオープンされる予定のリビルディングセンターのことでしょうか?

ア:そうなんです。もともとリビルディングセンターという、ポートランドのNPOが運営する改装や解体でいらなくなった建材を販売しているリサイクルセンターがあるんです。アメリカはDIYがとても進んでいるので、棚を作ったり、床を貼ったりというDIYが広く一般的に行われているんですが、リビルディングセンターにも洗面器からガスオーブン、照明、スイッチ、便器まで本当に色々なものが売っています。解体現場から、今までは捨てられてたものをレスキューして、磨いたりきれいにしたりして、価値を与え直して、もう1回世に出すっていう仕組みですね。捨てられるはずだったものに新たな価値を見いだすということが、リビルディングセンターをやっていく上で大事な考え方のひとつなんですが、そこの理念に共感して、「リビルディングセンター」という名前を借りてお店をオープンさせることになったんです。

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箱:
へえ〜。確かに、味のある古材を使ってリノベーションするのっていいなあと思っても、どこで手に入れたらいいのか分からないですよね。それに今日本は、空き屋がすごく多いっていう話をよく聞きます。

ア:そうそう。人口が減って空き屋が増えていて、解体した家からでたものは産廃として焼却処分されることになります。その木材の中には、昔は使われていたけど今となっては貴重な木があったりもするんです。そういうものを焼却してしまうのって、すごくもったいないですよね。それに、日本の経済の仕組みとして、木材は海外から大量に輸入した方が安いから、どうしても輸入木材が一般的に使われがちなんですけど、古材を新品と同等かそれ以下の金額で買えれば古材を使いたい人もいますよね。単純に、ゴミが減るってだけでも気持ちいいし。

箱:すごく有意義だと思います!

ア:特に古民家は地方都市にたくさんあって、古材のニーズはリノベーションが盛んな東京とか都市部に多いから、地方の古材っていう資源を東京に持って行って、お金を地方に持ってくるって言う新しい仕組みも作れるし。

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箱:リビルディングセンターでおふたりはどんなことをされるんですか?

ア:新しく家を建てたい人とか改装したい人たち向けに設計とデザインして、リビルディングセンターの古材をちゃんと使える仕組みを作りたいと思ってます。華南子が同じ敷地内でカフェをやるつもりだから、ちょっとお茶しにいくついでに古材を見て、デザインの相談してもらえればって思ってます。地元のおばちゃんがきて、「私の家の蔵も壊すんだけど」っていう話がきたりして、とか想像してます(笑)。

箱:わあ、楽しみ!そんな場所が身近にあったらいいですね。

ア:将来的には、全国にリビルディングセンターを作りたいと思ってるんです。直営じゃなくていいんだけど、やりたいって人がいたら、それまでに培ったノウハウを全部渡してやってもらうようなイメージで。そこの土地ならではのリビルディングセンターができれば、そこから例えば半径100km内の古材を守れるようになりますよね。そういう場所が全国に増えていくと、日本の古材を面で守って行けるなあって思っています。

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自分のやりたいことではなく、求められることに全力で応えてきたら今のmedicalaになったというおふたり。働くことや暮らすことを追求し、自分にも回りにも嘘のない道を選び続けてきたからこその在り方なんですね。
心に刻みたい言葉がたくさん詰まったお話でした。
これからのおふたりの活動が益々楽しみですね!
アズノさん、華南子さん。ありがとうございました!

    『medicala』 東野唯史(あずのただふみ)さん、華南子(かなこ)さん

    日本全国で暮らしながら空間づくりをしている夫婦2人の小さなチーム。アズノさんは主に空間デザインと施工の「ハード」を担当し、華南子さんは主に現場めし!や店舗運営サポートなど「ソフト」の部分を担当。主な実績はNui. HOSTEL & BAR LOUNGE(東京都・蔵前)やcafe&bar totoru(東京都・茗荷谷)、萩ゲストハウスruco(山口県・萩市)など。現在は長野県諏訪市を拠点に活動中。

    2016年秋、長野県諏訪市に建築古材のリサイクルを目的とした「リビルディングセンター」をオープン予定。

    Web site:http://medicala-design.com
    Facebook : https://www.facebook.com/medicala
    Instagram:https://www.instagram.com/medicaladesign/
    Twitter:https://twitter.com/medicala_design

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