yamaori taniori tent

アーティスト長谷川依与さんのアート作品はどうやって生まれるのか!?

今回お話を伺ったのは、インテリアデザイン、インスタレーションの分野で制作活動を行っているアーティスト 長谷川依与さんです。
長谷川さんは、毎年5月に表参道のスパイラルで開催されている、アート、デザイン、プロダクト、ファッション、映像、音楽など様々なジャンルの若手クリエイターを紹介する公募展形式のアートフェスティバル『SICF』で2014年に浅井隆賞を受賞され、その後、幅広く活躍されている今注目の若手アーティストです。

長谷川さんがつくりだすアート作品は、親しみやすくもありながら、ハッと気づかせてくれる斬新さもあり、そして、女性らしいかわいさや楽しさが詰まっています。
そんな長谷川さんのアート作品はどうやって生まれるのか!?
長谷川さんの作品づくりを紐解くべく、作品づくりのイロイロを聞いてきました。

本日から11/6(日)まで横浜市で開催中の『スマートイルミネーション横浜2016』にも出展されるということで、今回出展されるアートのことも詳しく聞いてきましたよ。ぜひ、最後までじっくりとお読みください。

そのモノ自体が本来持っている機能を変える、長谷川さんのアート作品

箱庭(以下、箱):まずは、長谷川さんのつくられている作品についてお伺いします。長谷川さんの代表作品に、『SICF』でも浅井隆賞を受賞され、『スマートイルミネーション横浜2016』にも出展される作品『bristle』があるかと思いますが、この作品はどういった想いでつくられたのでしょうか?
bristle(bristle)

長谷川(以下、長):『bristle』を制作したのは、もう10年近く前なんですけど、大学一年生の時です。学校の課題のひとつで、身の回りにあるツールを使って、ウェアラブルのものをつくるというものでした。その時に、爪楊枝、輪ゴム、綿棒など、大量生産でつくられているものを自分の中で集めていて、たまたま、なんとなく綿棒を繋げていった時に、「あ、可愛くなりそうだな」と思ったのが、はじまりですね。綿棒一本一本を繋げていく時に、接着剤でくっつけてしまうと、綿棒の先が汚れてしまうんですね。でも、綿棒って先が汚れたらゴミみたいになってしまって、それは嫌だなと思ったので、接着剤をつけなくていい方法を探して、たどり着いたのがアカスリの穴に刺すという方法です。それが形となって、最終的には、服なのか、毛なのか、着ぐるみみたいな形になったのが『bristle』です。
全部で3万本くらい刺さっているんですけど、私がそうやって刺したことで、そのモノ自体が本来持っている機能を変えるというのをやりたいと思っていたのと、あとは人間が進化の過程で失ったものを日常使っているもので取り戻すという、ちょっと皮肉っぽいところを考えてつくりました。

箱:接着剤をつけないで、綿棒が抜けることはないんですか?

長:意外に抜けないんです(笑)。麻のアカスリでつくっているんですけど、麻ってあまり伸び縮みしないので、抜けないんです。人が着た状態で激しく走ったりすると、トトロがドングリを落としていくように、歩いた軌跡みたいなのが残ります。

箱:それは、かわいいですね。

長:『スマートイルミネーション横浜2016』は、光をテーマにしているので、綿棒一本ずつに蛍光の蓄光塗料を塗っています。ですので、落ちたら光っているというのがあるかもしれません。

震災後、まずは考えることがアーティストにできる一歩だと思った

箱:『スマートイルミネーション横浜2016』に出展されるもうひとつの作品で『yamaori taniori tent』がありますが、こちらはどういった作品ですか?

yamaori taniori tent(yamaori taniori tent)
yamaori taniori tent(yamaori taniori tent)

長:『yamaori taniori tent』をつくったのは、2011年の東日本大震災の後です。その時は、大学4年生だったんですが、地震が起きた後、震災をテーマにデザインしなさいっていう課題を与えられたんです。でも、まだ揺れては地震速報が来る度に、デザインよりも、ボランティアに行ったり、直接的な援助をしたほうが、世の中のためになるんじゃないかと思っていました。そうやって考えていた時に、テレビでは段ボールで仕切られた避難所が映っていて、そこで着替えたり、授乳したり、おむつを替えたりしている人を見て、プライバシーがあまり確保されていないなというのを感じて、まずは考えることがデザイナーとかアーティストのできる一歩かもしれないと思ったんです。そこから、段ボールを少し加工することで、ちょっとかわいらしい、おもしろいものができないかなというので、試行錯誤してできたのが『yamaori taniori tent』です。
色はついていますが、素材は片面段ボールで、その段ボールに山折り、谷折りの線を自分でカッターで入れて折っていって、それだけで自立するようにつくりました。折り紙を巨大化させて、その中に入るという感覚ですね。折り紙って、日本人が小さいころから培ってきたセンスだと思っていて、いろんなバランスが崩れている時に、これまで培ってきたもので、自分たちを励ますというような、いいサイクルが生まれるんじゃないかと思ったんです。

yamaori taniori tent(yamaori taniori tent)

長:『スマートイルミネーション横浜』は今年6回目ですが、このイベントがはじまったきっかけが東日本大震災というのを聞いたんです。イルミネーションって聞くと、華やかなイメージや綺麗に見せるという方が優先されている気がしていたんですが、このイベントは省エネルギー技術を活用しながら、新たな横浜夜景を提案するイベントなので、私がつくっているもののコンセプトだったりとか、震災きっかけの『yamaori taniori tent』ともマッチするなと思いました。

箱:『yamaori taniori tent』も今回のイベントに合わせて、光のアレンジをしたと聞きました。

長:そうなんです。テントって、キャンプとかもそうですが、人がその中に入って電気を付けたりするなって前から思っていました。これまでは、展示をした時に、中に入っても良い形にしたことはありましたが、人が中で数分間過ごすというのをやったことがなかったんですね。光は、人が入ってくるきっかけになると感じていて、光を介在させることで、人が自然と入ってくるシステムが出来ればいいなと思いました。
今回は、そういう考えがあったのと屋外のイベントということもあったので、養生とかで使われるような、ちょっと透けやすいプラスチックの段ボールを組み合わせてつくっています。それを5体くらい並べる予定で、横浜に小さなテントがいっぱい並んで光ったりしたら、かわいいかなと想像しました。

小さい子の動きや目線から、サイズの変容による体感の変化を探る

長谷川依与(長谷川依与さん)

箱:それは楽しみですね!こういった作品づくりで、長谷川さんが大切にしていることは何ですか?

長:私の場合は、小さい頃の感覚かな。小さい頃って、全部が不思議だったし、全部が新しいと感じたと思うんですね。その頃と同じように、仕組みも単純で簡単に理解できるけど、ワッと驚けるものに惹かれるし、そういうものに惹かれる人の数も多いんじゃないかと思っています。例えば、平面から立体になる面白さとかですね。『yamaori taniori tent』も仕組みは簡単だけど、まさかこうなるんだね、おもしろいねっていう感覚。そういうものを大切にしています。

箱:インプットやインスピレーションは、どういったところから得ているんでしょうか?

長:公園で遊んでいる小さい子の動きや目線を参考にしたりします。例えば、テーブルも、私達から見たらテーブルですけど、小さい子には隠れ家になったりすると思うんです。同じものでも人によって機能が変わっていると思うんですね。サイズの変容で、体感が変わるっていうのは、おもしろいなという気づきがあります。もちろん同じアーティストの作品を見て影響を受けることもたくさんあるし、それも大事ですけど、その辺にありそうな日常からひっぱってくる発想で、おもしろいなと思うことが多くて、そういう視点を持つようにするというのが、自分の中で大事なことになっています。

2年間の社会人生活を経て、アートの世界へ

箱:長谷川さんは、美大卒ということですが、その頃からアーティストになりたいと思っていたんでしょうか?

長:大学にいる時は、アーティストとしてやっていこうとは全く考えていなくて、大学を出てから2年間、普通に社会人としてアパレルで働いていました。その2年間は、制作もしていなかったんです。外に出てみて、やっぱりそういう場所に戻りたいなっていう気持ちがだんだん湧いてきたんです。

箱:そこに戻る何か大きなきっかけがあったんですか?

長:大きなきっかけはなかったんですけど、アパレルで働いていた職場が、ギャラリー運営などをやっていたり、アーティストからの仕事も多かったので、私も向こう側に行ってみたいなという想いが芽生えてきたんです。学生の頃は、アーティストって隔離されているものだと勝手に思っていました。でも、働いていた場所で、一般の人がアーティストの作品を買っていくのをたくさん目にするようになって、意外と違うんだなと思ったんですね。それで、もう少しそういう世界に戻ってみようかなっていう気持ちになって、結局、会社を辞めてこっちの世界にきました。

箱:スパッと会社を辞められたんですか?すごい決断力ですね。

長:時間的に両立は難しいだろうなというのと、あと、大学の研究室で働く話もちょっと出ていたので、ちょうどいい機会だなと思いました。いまは大学の研究室で働きながら、アーティスト活動をしています。大学の研究室は、働いていて勉強になるんですよね。学生が、それこそ自分と同じ課題をまだやっていたりもするので、自分と違う感覚を見られたりして、制作の刺激になっています。

箱:そういう刺激を日々受けているわけですね。今後の活動で挑戦したいことってどんなことでしょうか?

長:あまり素材を決めずに、その辺にある素材を手探りで探っていく感じというのが、私らしいかなと最近思うようになってきたので、今後もそれにつきますね。素材をひたすら探る!素材を知って、みんなが使ったことのないような使い方をして、新しい機能が生み出せればいいかなと思っています。

アートの光と、環境の光のコンビネーションを楽しめるイベント

スマートイルミネーション(スマートイルミネーション横浜2015の様子)

箱:長谷川さんの作品は、今日から開催中の『スマートイルミネーション横浜2016』で見ることが出来るということですが、みなさんにどのように楽しんでもらいたいですか?

長:実は、夜のイベントも野外のイベントも出展がはじめてなんです。野外のイベントは、建物の中に入るという敷居がまずないので、あれだけ広いところで開放的に展示がされているというのがまずすごく魅力的だと思っています。

箱:これだけ開放的なイベントなので、ふだんアートに触れる機会がない人も触れることが出来るいい機会ですよね。

長:そうなんです。あとは、夜のイベントということで、自分の作品も光っているんですが、観覧車やビルの光、車のライト、海の反射といった環境の光との良いコンビネーションが見られればいいかなと思っています。作品と作品でないものの差を楽しんだり、逆に境界がなくてもいいなと思っていて、来た人は「あ、これ作品だったんだ!」くらいに思ってもらえれば楽しいかなと思います。
開催時間は17時からで、全ての作品ではないと思うのですが、昼も展示されている作品があると思うので、時間の変化みたいなものも楽しめるかなと思っています。

長谷川さん、ありがとうございました!

    ◆アーティスト 長谷川依与(はせがわ いよ)
    1988年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。
    インテリアデザイン、インスタレーションの分野で制作活動を行う。
    Webサイト:http://iyohasegawa.com/

    ◆スマートイルミネーション横浜2016
    会期:11月2日(水)〜11月6日(日)5日間/17:00~22:00
    ※横浜市開港記念会館のみ 21:30 終了
    会場:象の鼻テラス(神奈川県横浜市中区海岸通1丁目)、横浜市開港記念会館(神奈川県横浜市中区本町1−6) ほか
    Webサイト:http://www.smart-illumination.jp/