荻上直子監督

前回に引き続き、映画『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子監督にお話を伺います。今回は映画監督になった経緯や、映画づくりの大変なことやうれしい瞬間についてお話を聞いてきました。

脚本が書けるようになって、自分で撮りたいと思った

箱庭:荻上さんの映画監督になった経緯を教えていただきたいのですが、小さい頃から映画監督という夢をもっていたのでしょうか?

荻上監督:いえ、「映画が好きで好きでしょうがなくて、映画監督になりたかった」というわけではないです。もともとは写真に興味があって、写真から映像に興味がいくようになり、アメリカに映画のことを勉強しに行きました。そしたら、そのアメリカの学校が、映像がやりたいからといって、映像だけが学べる学校ではなく、全部学ばなければならない学校だったんです。脚本も書かなきゃいけないし、監督もやらなきゃいけない。はじめは脚本なんて書けないと思っていたのに、とても良い先生が担任で、学んでいくうちにどんどん書けるようになって、楽しくなってきて。脚本が書けるようになってきたら、それをやっぱり自分で撮りたいと思うようになりました。脚本を書くのが好きになったところから、映画監督になったという形です。

荻上直子監督
(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

箱庭:今もすべてご自身で脚本を書かれていますよね。

荻上監督:そうです。

箱庭:脚本をつくっているときは、悩まずに書かれるタイプですか?

荻上監督:いえ、ちゃんと悩みます(笑)。でも、悩んでいる感じが結構好きなんですよね。ずっとそれについて考えていたりとか、その時に見たものが脚本に入ってきたりとか、昔思い描いていたことが脚本で反映されたりとか。面白い作業だと思います。

一番大変なことは、違うと思ったときにそれを伝えること

荻上直子監督
箱庭:監督のお仕事をされていて、一番大変なことってどういうところですか?

荻上監督:何年も監督をやってきて、この優秀なスタッフさんにお願いすれば大丈夫というのが分かってきたので、大変なことはあまりないですね(笑)。美術にしても、スタイリストにしても、この人にお願いすれば、間違ったことには絶対ならない、むしろ、よりいい表現をしてくださる。そう思える人にお願いをしているので。あえて大変なことをあげるなら、今回の映画でもそうだったんですけど、天気に左右されることですかね。あとは、朝早く起きなきゃいけないとか…。

箱庭:大変なのは、物理的なことなんですね。心情的なことでは、大変だと思うことはないですか?

荻上監督:心情的なところで、一番大変なことは、役者さんと話すことですね。さっきも少しお話しましたが、私は脚本を書くことが好きで映画監督になっているので、人がどんどん増えてくると緊張しますし、たくさんの人と関わることが得意ではないんです。だけど、緊張するからといって、”あれ?違うかもな”と思ったときに、”違う”って言わなかったら、とんでもないことになるので。違うなと思ったら、それをちゃんと伝えること。当たり前なのかもしれないけど、自分にとってその行為は、一生懸命やらなきゃいけないことなんです。伝え方をいまだに把握しないまま監督をしているので、なんとなく違うんだけど、なんだか分からないということも、役者さんには正直にお話します。本作でもあったんですが、こちらが正直に伝えると、役者さんが思っていることを伝えてくれたりして、そういうやり取りをしながら一緒につくっていきます。そこが、一番大変なことですけど、一番大事なことなんだと思います。

いろんな人の才能が集まって、想像以上のものが出来るから映画は楽しい

荻上直子監督
(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

箱庭:逆に映画をつくって行く中で、一番うれしい事や楽しい瞬間などありますか。

荻上監督:自分で脚本書きながらイメージしているものがあるんですけど、役者さんがそのイメージ以上のものを表現してくれたりする時ですね。他にも、私がこういう画を撮ってほしいとカメラマンに伝えるんですけど、カメラマンがそれ以上の美しいものを出してくれる時や、美術さんが脚本を読んでつくり出した世界観が、私の想像していたものを超えていた時など。やっぱり映画って一人ではつくれなくて、いろんな人の才能が集まって、私の頭の中で考えていたこと以上のもので出てきた時が、すごくうれしいし、楽しいなと思います。

箱庭:第二章ということで、どんどん新しいことに挑戦していくのかなと思いますが、これからやりたいと思うことはありますか。

荻上監督:これからやっていきたいのとはちょっと違うんですけど、今回5年ぶりの作品だったんです。それまでに脚本を書いても成立しなかったり、流れちゃったりといった紆余曲折があって、この作品にたどり着いているんですね。このまま映画を撮れなかったらどうしようと思った時もあって…。今回は「勝負」だと思ってつくっていました。先日、生田さんに「常に前のめりだった。」と言われたんですけど、私自身もそう思うんですよね。だから、この作品で一度はき出したので、次はもうちょっと肩の力を抜いてもいいのかなと思っています。

箱庭:楽しみです。
荻上監督、ありがとうございました!

荻上監督の第二章となる映画『彼らが本気で編むときは、』。ぜひ、映画館に観に行ってみてください!

    映画『彼らが本気で編むときは、』

    優しさに満ちたトランスジェンダーの女性リンコと、
    彼女の心の美しさに惹かれ、すべてを受け入れる恋人のマキオ。
    そんなカップルの前に現れた、愛を知らない孤独な少女トモ。
    桜の季節に出会った3人が、それぞれの幸せを見つけるまでの心温まる60日。

    小学5年生のトモ(柿原りんか)は、荒れ放題の部屋で母ヒロミ(ミムラ)と二人暮らし。ある日、ヒロミが男を追って姿を消す。ひとりきりになったトモは、叔父で あるマキオ(桐谷健太)の家に向かう。母の家出は初めてではない。ただ以前と違うのは、マキオはリンコ(生田斗真)という美しい恋人と一緒に暮らしていた。 食卓を彩るリンコの美味しい手料理に、安らぎを感じる団らんのひととき。母は決して与えてくれなかった家庭の温もりや、母よりも自分に愛情を注いでくれるリンコに、戸惑いながらも信頼を寄せていくトモ。本当の家族ではないけれど、3人で過ごす特別な日々は、人生のかけがえのないもの、本当の幸せとは何かを教えてくれる至福の時間になっていく。それぞれの気持ちを編み物に託して3人が本気で編んだ先にあるものは…。

◆荻上直子監督
デビュー作『バーバー吉野』(03)でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。『かもめ食堂』(06)の大ヒットにより、日本映画の新しいジャンルを築く。『めがね』(07)は、海外の映画祭でも注目を集め、08年サンダンスフィルム映画祭、香港映画祭、サンフランシスコ映画祭などに出品され、ベルリン国際映画祭では、サルツゲーバー賞を受賞した。『トイレット』(10)では、第61回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞し前作『レンタネコ』(12)では第62回ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品された。本作『彼らが本気で編むときは、』は監督の脚本によるオリジナル企画である。

    『彼らが本気で編むときは、』
    脚本・監督:荻上直子
    生田斗真、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、込江海翔、りりィ、田中美佐子 / 桐谷健太
    製作:電通、ジェイ・ストーム、パルコ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、パラダイス・カフェ 
    制作プロダクション:パラダイス・カフェ 配給:スールキートス
    助成:文化庁文化芸術振興費補助金
    文部科学省選定作品(少年向き・青年向き・成人向き)
    ©2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
    2017年2月25日(土)、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー!
    公式ウェブサイト http://kareamu.com