かくたみほ
前編に引き続き、かくたみほさんにお話をお聞きします。後編では、かくたさんが写真家になるまでの経緯や、お仕事に対する想いなどたっぷりと伺いました!

就職後3か月で退職し、フォトスタジオのアシスタントへ

箱庭:前編は「MOIMOI」について色々とお聞きしましたが、後編はかくたさんが今のお仕事に就いた経緯や、最近のお仕事についてお聞きしたいと思います。まずは、かくたさんが写真家を目指すきっかけについて教えてください。

かくたさん:CDジャケットがすごく好きだったんですよね。高校生の時、通学途中に中古レコード屋さんがあって、そこで色々なレコードをジャケ買いしていました。昔のレコードもたくさんあって、ジャケットの写真の質感がとても好きだったんです。CDジャケットは、ずっと残っていく制作物という視点で見ていて、そういうのをデザインするお仕事に就けたらいいなということを漠然と考えていました。
地元は三重なんですが、地元の高校を卒業して、名古屋のグラフィックデザインの学校に進学して、学校卒業後は、一度、名古屋でデザイナーとして就職もしたんですよ。パソコンの前でジッとしているのが性にあっていなかったのと、CDジャケットのデザインをするお仕事というのが、名古屋ではなくて東京に行くしかないと思っちゃったんですよね。

箱庭:そうだったんですね。では、その会社を辞めて写真の道に進むことになるんですね。

かくたさん:はい。3か月で辞めちゃいました(笑)。思い立ったら即行動で、すぐに辞めてバイトを4つして100万円貯まったら上京すると決め、東京に出てきました。しかし東京に来てもやはりアルバイトをしなくちゃで、情報誌で見つけた撮影スタジオのアシスタント募集の掲載があって、写真好きだからいいかも、という気軽な気持ちでとりあえずそこに入ることにしたんです。

箱庭:写真は以前から撮られていたんですか?

かくたさん:撮ると言っても趣味レベルです。高校生の時くらいから写真撮るのは好きだなと思ってましたが、カメラの使い方もわからなくてオートで撮影するレベルですね。

箱庭:そうなると、結構大胆な決断でしたね!

かくたさん:急に方向転換したみたいな感じです(笑)。東京に出てきたときに、とりあえず働かなきゃって思っていて、デザインのお仕事でも良かったんですけど、スタジオのアシスタント募集があったので。でも、そのアシスタントで初めてカメラの絞りとかシャッタースピードとか、ライティングのやり方とか教わって、どんどん楽しくなって、カメラマンを本格的にやりたいなと思いました。

箱庭:スタジオでは、どのくらい働いていたんですか?

かくたさん:スタジオは1年ですね。その後、個人の方のアシスタントについていました。スタジオに撮影に来てたカメラマンの人で、ある日からアシスタントを連れて来なくなったので、もしかしたら今ならアシスタントにつけるかもと思って、お願いしました。そのカメラマンの人が、フィルムを手焼きでプリントする人だったので、ストロボやライティングのことはスタジオアシスタント時代に習得して、暗室作業などはその師匠から学んでという感じです。

MOIMOI
(かくたみほさんの最新写真集「MOIMOI そばにいる」も、一枚一枚すべて手焼き)


箱庭:その方のアシスタントはどのくらい就いていたんでしょうか。

かくたさん:そのアシスタントも1年ぐらいしかいなかったです(笑)。

箱庭:では2年でフリーということでしょうか!?カメラマンの道のりとしては早いですよね?

かくたさん:一度就職していることもあって、出遅れてる感を強く感じていたんですよね。本当はスタジオのアシスタント2年、個人アシスタント2年くらいと言われているんですけど、スタジオアシスタント時代は、休みの日に作品撮りをしながら、自主勉強をして、なんとか1年で。個人アシスタントは、キツすぎて1年で(笑)。

箱庭:それほどハードだったんですね。

かくたさん:暗室ワークがすごく多くて、太陽を浴びないとやっぱり自律神経とかがおかしくなっちゃうんですよね。それで過呼吸みたいなのになったりしてて、ここでアシスタントをずっとしていると、カラダを壊してしまうなと思ったんです。 

箱庭:カラダが第一ですよね。

知り合いとの偶然の再会が、写真のお仕事のきっかけ

箱庭:フリーになられてからは、順風満帆だったんでしょうか。

かくたさん:最初の1年は、とにかくお金がなかったので、写真とは何も関係のないアルバイトをしていました。1年間お金を貯めて、機材を買って、そこから本格的にフリーランスカメラマンになりました。だけど、知り合いやツテもなかったので、仕事もほとんどなくて、音楽事務所の電話番のアルバイトを。そこは結局4~5年、カメラマンとしての仕事で食べていけるっていうギリギリまで、働いてました。 


箱庭:なるほど。そこからCDジャケットの仕事などに携わるまでには、どんなきっかけがあったのでしょうか。

かくたさん:東京で電車に乗っていたら、私が名古屋にいた時によくCDを買っていたショップの店員さんにバッタリ会ったんですよ。その方が、当時REMIXという音楽雑誌があったんですが、その音楽雑誌の編集ライターをしていて、「写真をやっているなら、今度撮影があったらお願いするよ」って言ってくれて、初めてちゃんとした仕事の依頼がやってきました。

箱庭:ご縁って大事ですね。

かくたさん:はい。音楽に費やして遊びまくってたのが無駄にならなかったな、よかったなと思った瞬間ですね。

箱庭:どこにキッカケが落ちてるかわからないですね。

かくたさん:そうなんです。自分でポートフォリオを作って営業に行っても、作品で撮った写真だけじゃなくて仕事でどういうのやってるんですかって聞かれるんですよ。実績がなかった頃、そこは本当に苦労したので、お仕事をいただけてからは、それをもって営業に行けたので、随分と助かりました。

「依頼してくれた相手が、撮影した写真を見て喜んでもらえるように」

かくたみほ

箱庭:最近はどういうお仕事が多いのでしょうか。

かくたさん:最近は、雑誌が多いですね。スタジオの撮影よりは、現場に行ってみて、どういう風に撮るか考える撮影が多いですね。編集の方が細かい指示を出してくる撮影というよりも、「ここに人物写真で、ここは物撮り写真でお願いします」というように、ポイントだけ提示してくるので、どんな風に撮影するかはこちらから提案することが多いです。

箱庭:意図を汲み取って提案してくれるのは、ありがたいですね。

かくたさん:確かに、よく褒められます(笑)。どう写るかが分かっているカメラマンが、被写体が一番よく見える撮影構図や光を読んで、自分が良いと思って撮ったものを見せてあげて、編集の方がそれでいいと言えばOKだし、例えばもう少し左側を入れたいと言うのであれば、それを入れて撮ればいいと思っています。わりと先回りしてやってあげるのが、仕事かなと考えているので。相手が、私に頼んでくれているので、それに沿ったものを納品できるように。相手に喜んでもらえるように。という想いはいつも持っていて、常に大事にしています。


箱庭:その姿勢、どんな仕事にも共通していますよね。仕事をしている中で、楽しいこととか大変なこととかってありますか?

かくたさん:楽しいのはもう大体全部楽しいですね。 やっぱり撮るのが本当に好きなので、撮れるだけで割と満足しちゃいます。
大変なのは、体力的な面ですね。昔は、フィルムだったので荷物が多くて、だけど駆け出しの頃はタクシーを乗っていくお金もなかったので、機材を運ぶのが大変でした。でも今は、お仕事はデジタルなので、昔に比べたら体力的な大変さも随分と減りました。


箱庭:デジタルは何の機材をお使いですか?私たちも仕事で撮影する場面が多いので、参考までに教えてもらえたら嬉しいです!

かくたさん:ひとつは、Canonの5DのマークⅢ。ロケとか明るい場面で使っています。夜とか、照明があまりない暗い雰囲気のある室内とかは、SONYのα7 IIというカメラを使っています。感度をあげても画質があまり荒れない、極端な例だとオーロラの写真を撮るのにもってこいのカメラなんです。

箱庭:ありがとうございます!それでは、最後に今後挑戦したいことや、やってみたいことを教えてください。

かくたさん:挑戦したいのは、写真集「MOIMOI そばにいる」の続編をまずは出したいということですね。あたためてあるカットがたくさんあるので、挑戦というか、やらなきゃいけないことのような気もしますが…(笑)。
仕事としては、現状維持ですね。とにかく相手に喜んでもらえる写真が撮れたら良いと思っています。作品では、何年もずっと見ていられるようなもの、みんなが自宅の壁に飾っておきたくなるようなものを撮っていきたいですね。ふつうの日常でも素敵だなぁと思う瞬間があると思うんですけど、そういう瞬間を写真に残していきたいです。

箱庭:かくたさん、ありがとうございました!

かくたさんは、下記スケジュールで個展開催中です。ぜひ遊びに行ってみてください。

    ◆写真家 かくたみほ
    77年三重県鈴鹿市生まれ。
    スタジオLOFTスタジオマンを経て、写真家小林幹幸に師事後独立。
    雑誌やCDジャケット、ファッションブランドカタログなどの撮影と並行し、光とトーンを活かした作風で活動中。
    ライフワークでは、フィルムカメラを愛用して旅をベースに光・暮らし・自然・対なるものに重きを置いて制作。全国でグループ展・個展も多数行っている。
    http://mihokakuta.com/
    Instagram:@mihokakuta

◆MOIMOIそばにいる刊行記念写真展
・5/12〜5/31 神戸のiiba ギャラリー
・7/1〜7/16 徳島市のuta no tane
・10/5〜10/24 長野県松本の栞日
・11/2〜11/27 新潟市のBOOKS f3
かくたみほ

◆「ソール・ライターの足跡を辿って」 ニューヨークの写真展
・6/25まで渋谷bunkamura ナディッフモダン