CREATOR クリエイティブなヒト
イラストレーター利光春華さん✕元ダ・ヴィンチ編集長横里隆さんインタビュー|クラウドファンディングを使った本作り
今回お話を伺ったのは、2017年TOYOTAオフィシャルカレンダー(300万部発行!)や『anan』の占い特集のイラスト、さまざまな広告を手がける人気イラストレーターの利光春華さんと『ダ・ヴィンチ』の元編集長横里隆さん。
イラストレーターの利光春華さん(写真左)と『ダ・ヴィンチ』の元編集長横里隆さん(写真右)
クラウドファンディングを活用して作られた、利光さんはじめてのビジュアルブック『Ribbon(リボン)』の制作の裏側や本に込めた思いを伺ってきました!
箱庭:もともと一緒にお仕事することになったきっかけはなんだったのでしょうか?
横里さん(以下、敬称略):クラウドファンディングのページにも書いたんですが『優しいのに無敵』という本を作ったときに、デザイナーの新藤岳史さんが挿絵のイラストレーターさんの候補を何人か提案してくださって、その中の一押しが利光さんだったんですよ。
箱庭:そのあと本を作ろうとなったのはどういった経緯があったのでしょう?
横里:『優しいのに無敵』の本の打ち上げのときに、「次は利光さんの本が作りたいな」って僕がポツリと言ったんですよね。もちろん心にもないことを言ったわけではないんですけど、なんとなく流れで言ったら、利光さんがすぐに「やります!」って言ってくれたんです。そのあと、デザイナーの新藤さんも、編集の波多野さんも「僕もやりたい、私もやりたい!」って手を挙げてくれたんですよね。そんな感じですぐにチームができあがって。
利光さん(以下、敬称略):お酒の場でのことだったので、横里さんが酔っ払って勢いで言っちゃったのかな?と思っていて…(笑)。それで次の日の朝に「あの件、本当だったらやりたいんです」ってメールしたんです。
横里:あのときは6〜7割やりたいなと思う気持ちがあったのは本当です。ただ、アルコールに背中を押してもらったというのはありますよね(笑)。打ち上げの高揚感もあったし。
でも、「本を作りましょうよ!」と集まるのではなくて、こういうふうになんとなく雑談に近い形で話をしているなかから、生まれてくるというのは良かったなと思うんですよね。
利光:たしかに。自然な流れでしたもんね。
横里:その場ですぐに利光さんが「私、本作るならやりたいことがあるんです!」っていうふうに言ってくれて、そのあと改めてミーティングをしたときに「絵の世界に入っていくような、どんどんページをめくるごとに奥に入っていくようなものが作りたい」という話になったんです。それが今年の5月でしたね。
箱庭:では、もう利光さんの頭のなかには『Ribbon』の構想があったんですか?
利光:この構想は、もともと何年か前にWEBサイト上でやりたかったことだったんですよ。
普段は、広告の仕事が主なんですけど、そうするとオーダー仕事しかできなくなっちゃうので偏ってしまうというか表現の幅が狭くなっちゃうので、個展をやろうと思っていたんです。
でも、ただ絵を飾るだけだとなんか違うなというのもあり、自分もワクワクするし、来てもらった人にもワクワクしてもらいたいなと考えたときに、展示という形にこだわらなくてもいいのでは?と思ったんです。
それで鳥が輪をくぐって、新しい季節を旅して、どんどん奥の世界に進んで行くみたいなものをWEBでやりたいなと思っていたんですけど、WEBだとエンジニアに頼まなくちゃいけなかったり、いろいろと難しいところもあって…。
そのままになっていた構想だったんですけど、それをビジュアルストーリーブックでやったらおもしろいんじゃないかなと思って、提案してみたんです。
利光さんの作成したイメージ模型
横里:1回目の打ち合わせのときに、もうラフを描いてきてくれたんですよ。それがすごくイメージしやすくて。毎回打ち合わせの度に利光さんが、今回の『Ribbon』を作るにあたっていろんなイメージを作ってきてくれるんです。この、本を立体的にデコレーションしたイメージ作品もそうですね。
箱庭:すごい! これ、ご自身で作ってるんですか。すごい!
横里:すごいでしょ! 中に入っていく、世界の中に入っていくっていうのを表現しているんです。
利光:なんか、言葉じゃ伝えられなくて。
利光さんの作成したイメージ模型
横里:これもかっこいいんですよ!いろんな空間のイメージを伝えるために利光さんが毎回いろんなものを作ってきてくれるから、打ち合わせのたびに僕たちの気持ちが上がっていくんです。
これはアクリル板を使って、立体的な奥行きを表現してくれて。本は2次元なので、こういう立体表現とはもちろん違うんですけど、利光さんの意図がよく理解できたので、本を作るときもトレペを使ったり、いろいろ工夫して、絵の世界に入っていくっていうのを実現できるよう心がけたんです。
利光:私もすごく楽しくて。打ち合わせのたびに、横里さんにお会いすると気持ちが盛り上がっていくんです。土台というか、安心して制作に取り組める場所をちゃんと用意してくれていて、それにも応えたかったんです。
でも言葉じゃうまく伝えられなくて、形にだったらできると思って作りました。どれもすごく楽しかったですね。
箱庭:みなさんワクワクしながら作っていったんですね。
横里:そうなんですよ。最初はどんなところに着地するかわからなくて、手探りで始めましたけど、すごく楽しいプロセスでした。
箱庭:横里さんが「本を作ろう」と言ったときは、どういう本というイメージはあったんですか?
TOYOTAカレンダー 2017年版
横里:まったく! ただ、利光さんは器用でいろんな画風を持っているので、いろんなことができちゃうんですよね。中でもTOYOTAカレンダーに大きな感動をもらったので、利光さんの中のTOYOTAカレンダー的なものを本にできたらいいなというのはありました。それは僕も、編集を担当してくれた波多野さんも共通した思いでしたね。
利光:横里さんがそれをすごくキラキラした目でおっしゃっていたんですよ。多分このメンバーの中で横里さんが一番乙女なんです(笑)。
私は乙女なイラストも描けるけど、ダークか乙女かだとダークの方が好きなんですよね。でも横里さんが「本当にあのTOYOTAカレンダーの世界観が好きで!」って言ったときの目がすっごくキラキラしていて。それを見たらもう、「私、描けます!」みたいな気分になりました。
利光さんのイラスト
箱庭:ホームページも見させていただいて、本当にいろんなテイストを描いてらっしゃるんだなと思いました!
横里:どれも素敵なんですよね。利光さんの本来の画風は、TOYOTAカレンダーや今回の『Ribbon』に限定されたものじゃないですもんね。
埋まらないものがあるから絵を描く
箱庭:昔から絵を描くのが好きだったんですか?
利光:実は、小さいときは、周りの人の方が上手くて、私はそんなに描いてなかったんですよ。クラスに必ずひとりは飛び抜けて上手い人っているじゃないですか?そういう人が小学校のときに周りにすごく多くて。漫画研究クラブで模写を描く程度で、オリジナルなものを描くということもなく、バスケをずっとやっていましたね。
箱庭:体育会系だったんですね!
利光:バスケでプロになるんだ!と思い込んで、夢中になっていましたね。でも県大会に出場するようなレベルの高い高校を選んで進学したのにもかかわらず、練習がかなりキツくて…。あっさりと夏休み前に辞めてしまいました(笑)。
それでバイトを始めたんです。店先にある黒板に、季節のおすすめ商品を、文字や絵を使って描くというのが順番で回ってくるんですよね。それを私が描いたらすごくよろこんでもらえて、ちょっとだけ売上もアップしたんですよ。
それで、なんか絵を描くのって楽しいなって思うようになって。友達にあげるような絵を描いていたんですけど、勉強も苦手だったので、絵の道に行こうって思ったんです。
当時の私は、美大のことも知らなかったんですけど(笑)。デッサンで受験することも知らないから、ずっと家で友達にあげるための絵をひたすら描いているという感じでした。
結局、絵の専門学校に行ったんですけど、みんな絵がうまい人ばかりなんだろうなって、入学前からすごいビビっちゃって…。それを糧に、毎日絵を描いていたし、たくさん練習したから、思いのほか上達してて! なんか「金の卵入ってきたよ!」って、先生にも注目してもらって(笑)。
横里:僕、『ダ・ヴィンチ』の頃もいろんな作家さんや漫画家さんに取材してきたんですけど、自分よりも絵が上手い人が周りにいたっていう漫画家さんの話、よく聞きました。
利光・箱庭:へ〜!!
横里:自分は2番目、3番目くらいで、でも上手くなりたいという気持ちがあって、「力が足りてないからがんばる」みたいな。本当に絵が上手い人は、絵が上手く描けることに喜びを感じないらしいんです。
利光:そうなんですよ!「上手いね」って言うと、「嫌だ。言わないで」って言うんですよ。
横里:だから簡単に、絵も捨てられるという。
利光:そうなんですよね!私の周りにいた絵が上手かった子は、美容師になったり、みんな全然違うことをしているんですよ。
横里:クリエイターになる人たちに共通していると思うんですけど、最初から満たされちゃっていると、その世界には行かないことが多いですよね。「もっと上達したい」とか「あの人のレベルに行きたい、越えたい」みたいな気持ちを持っている人の方が結果的に長く続いていくんだと思う。その欠けている感じは、ずっと埋まらないから。
僕は漫画家の山岸凉子さんのエージェントをやっているんですが、山岸さんは未だに「自分は絵が下手なんです」っておっしゃいます。
利光・箱庭:え〜!!
横里:ベテラン漫画家だし、もちろんとても上手に絵を描かれるんだけど。ああ、いくつになってもそういう気持ちでやっている人が第一線でものを作っていくんだと思いましたね。
利光:ああ…! 埋まらないんですね、ずっと! でも、なんか腑に落ちました。
横里:それは、実はすごい財産で、埋まった瞬間にもうやめちゃうんだと思う。もういいやって。埋まらないからずっと描けるんじゃないかな?
箱庭:やっぱり今でも、もっともっと勉強しなきゃって思うんですか?
利光:思いますね! 周りの人の方が、100倍すごく見えるっていうか。本当にどんな人でも、自分と違う絵を描く人はみんな神様というか。
横里:それはすごく大事だと思う。そうするといろいろ吸収できるし、どんどん引き出しが増えていくんじゃないですかね?
今回、僕と波多野さんがTOYOTAカレンダーの世界を本にしてほしいとお願いしたときも、利光さんは「それは嫌です」って言わずに、「チャレンジします!」って受けてくれたんですよね。
利光:こういうきらびやかな世界を描くって、それを求めてくれる人がいるとすっと描けるんですけど、自分ひとりになってお題も課題もないと、描けないんです。描いていて苦しいわけではないんです。でも、「これでいいのかな…」みたいに考えちゃうんですよね。
だから、近くにそういうふうに言ってくださる人がいれば、やります!
横里:わかります。依頼してくれる人とか仲間がいるとやれるというのはありますよね。
利光:この方にプレゼントするために描けばいいんだって思ったら、すごく幅が広がって、いくらでも描ける気がします。
箱庭:なるほど〜。今回テキストも利光さんが書かれていますよね。テキストはどんな感じで書いたんですか?
利光:テキスト、すごく大変だったんですよね! 最初のテキストとは全然違いますもん。普段あんまり文章を書くわけではないので…。
横里:いや、でも結構ブログで書いているじゃないですか。あの文章もちょっと不思議な感じで、いい文章だなって思っていたので、僕は「書ける!」と思っていましたけど、でも苦労しましたよね(笑)。本業はイラストですもんね。
利光:苦労しましたね。絵を描くときは頭の中にイメージが浮かぶんですよ。言葉も絵では浮かぶんですけど、文字には出て来なくて…。言葉に変換できない。波多野さんと横里さんに、言いたいことを整理してもらって…。磨いて、磨いていただいたんです(笑)。
横里:でも、最初のきっかけは、利光さんがいつも作ってきてくれるんですよ。ベースも仕上げも利光さんです。利光さんが描いたラフを僕と波多野さんで解釈して、「利光さんが言いたいことってこういうこと? この絵のなかに込められているのはこういう意味?」みたいな感じで聞いて、「そうそう」とか「ちょっと違う」とか、そういうキャッチボールを毎週続けてちょっとずつ言葉を紡いでいく感じでしたよね。
利光:打ち合わせで話しているときは、すごくわかるんです。「その通り!」と思って帰って、自宅で考えだすと、「あれ?」ってまた振り出しに戻って…。結局、同じような文章になっちゃって。
箱庭:そこからどうやって抜け出したんですか?
利光:「これは“きみとぼく”の物語なんだ」と気づいたんです。ふたりの人間のやりとりを考えたら、想像しやすくなって、書けるようになりましたね。
横里:これ、もう言っちゃってもいいと思うんですけど、この本には隠れコンセプトがあって、実は『銀河鉄道の夜』なんですよね。“きみとぼく”っていうのは、ジョバンニとカンパネルラなんですよ。そこはもちろん解釈は自由で、“彼女とぼく”でもいいし、恋人同士でも、友人同士でもいいんですけど。それが利光さんと我々の間で「これでいこう」とつかめたときにうまくいく気がしましたね。利光さんも『銀河鉄道の夜』が好きで、昔から何度も読み返していたいう話を聞いて、「よしそれだ!」って。
利光:それが出てきてからぱぁ〜っと展開していきましたよね。
箱庭:それはテキストを作っている段階で、途中で出てきたんですか?
横里:そうですね、大まかなコンセプトを作って組み立てていく途中段階で出てきた感じですよね。ジョバンニとカンパネルラじゃないかって。みんな『銀河鉄道の夜』は好きなので。あのとき岩井俊二さんの話もしましたね。
利光:しましたね。
横里:このオフィスの近くに岩井俊二さんの事務所があるんです。この夏、岩井さんの『打ち上げ花火、下から見るか?上から見るか?』がアニメーション映画になりましたけど、あれも岩井俊二さんなりの『銀河鉄道の夜』ですよね。我々もみんな岩井作品が好きで。僕が『ダ・ヴィンチ』にいたとき、岩井さんの本を手伝ったことがあったので、すごく盛り上がりましたよね。
利光:そう、大好きなんです。映画『花とアリス』だったら、紙コップを使って即興で踊るバレエのシーンがすごく印象的で素敵ですよね、とみんなで盛り上がりました。そのあと、横里さんが、シーンで考えていくと良いんじゃないかというようなことをおっしゃっていて、それを聞いてすごくイメージが浮かびやすくなったんですよ。「そっか、春夏秋冬に関するシーンだ!」って。
“きみとぼく”の物語の中でそれを描けばいいんだって。帰りの電車で、『銀河鉄道の夜』を読みながら、そう思ったんです。
制作中の『Ribbon』より
横里:もともと鳥が色とりどりの世界の中に入っていって四季をめぐる、という構成で進んでいたんですよね。でも、最後に天空に上がって星空に行くというのは『銀河鉄道の夜』の影響ですね。
思いを届けられるクラウドファンディング
箱庭:今回クラウドファンディングでやろうっていうのも、初期から決まっていたことなんですか?
横里:全然。僕の会社『上ノ空』は小さな版元で、流通は委託してやってもらっているんですね。流通代行会社に今回の本を相談に行ったときに、「こういうアート系の本を売るのは、正直難しい」と言われたんです。それは、厳しさが増している出版状況の中で、当然のコメントだったんですが、何か策を考えないとと思い知らされました。
そのタイミングで、既にクラウドファンディングを活用して、いい本を何冊も出している出版社(サウザンブックス社)の知人に話を聞くことができたんです。その彼が「クラウドファンディングを使うべきだ」って教えてくれたんですよね。最終的にはクラウドファンディングに関するアドバイザーとして入ってくれて、クラウドファンディング会社も紹介してくれました。またその会社の担当の方もすごくいい人で、とても親身になってくれました。本が好きな方だったんですよね。
箱庭:クラウドファンディングのメリットとは何なのでしょうか?
横里:もともと一般の書店にそのまま流通させても難しいということだったので、武器を作りたかったんです。クラウドファンディングで話題になっているとか、こんなに応援が集まっているとか、そういう話題を作ることで、書店も注目してくれるんじゃないかと。もちろん、クラウドファンディングで支援金が集まれば、制作費の一部補填もできますし。
また支援してくれた人たちの口コミで、本が出る前のプロモーション活動もできますから。
今回のクラウドファンディングのページは波多野さんががんばって作ってくれたんですけど、きちんと作ると本のプロモーションページができるんですよね。クラウドが終わってもいつでも見られるので、書店に本を案内するときにチラシ1枚でも、「このサイトにいろんなエピソードが載っているので見てください」って言うことができますし。
箱庭:実際やってみてどうでした?
横里:すごくいいと思いました。とはいえ、クラウドファンディングを使って原価補填をするというのは、やっぱり大変だなとも。今回も、正直言うとプラスにはなっていないんですよね。それでもやる価値はとてもあると思いました。やってよかったよね?
波多野さん(以下、敬称略):よかったですね。クラウドファンディングがあったからこういったメディアの取材にもつながっていると思うので。有形無形の広がり方をしていく場所になりうると思いました。
横里:そうなんですよね。もちろんSNSで知り合いに告知することはできると思うんですけど、その本が生まれるプロセスや本に込めた思いをここまでのボリュームで見てもらうことはできないんですよね。それが、クラウドファンディングだったら可能になる。思いを伝えられる場を作れるっていうのはすごくいいですよね。
もちろんサイトを作るパワーもかかるんだけど、何かを広めていく場としての武器になると思いましたね。何より楽しいし。
箱庭:やってみて楽しかったんですか?
横里:楽しいですね。クラウドファンディングだと、直に手応えがある感じがします。
利光さんの周りのお友達や応援してくれる人たちなど、顔が見える人たちが応援してくれるっていうのは大きいですね。普段そういう人たちからここまで直接応援してもらえる機会ってめったにないんで。
なんか、結婚式に似ているなとも思ったんです。あれだけ友達や親類が一気に集まって「おめでとう! 幸せを願っているよ」って祝福してくれるのはあまりない経験じゃないですか。クラウドファンディングってそれとよく似た機会だと思ったんです。みんなが「利光さんがんばって! 楽しみにしているよ!」っていうのが結婚式みたいだって。
結婚式の引き出物が、クラウドの場合は本とかリターンの商品で、そこはただご祝儀をいただくだけじゃないという意味でも。
利光:本当に、小学校のときの同級生とか、長い間会ってない人が「春ちゃん、いつも応援しているよ」とかコメントをくれて。「え! 見ていてくれたの!?」みたいなうれしさがありました。
横里:コメントを書いてくれた方の文章が全部読めるんですよね。それを見ると気持ちが上がっていきますよね。直接お金をもらうっていうのもあまりないですしね。
波多野:横里さんや私はこれまで何十冊も本を作ってきていて、その中にはおかげさまでたくさん売れている本もあるのですが、買ってくださっている方の顔ってそんなに見えないんです。クラウドファンディングは支援していただくとすぐこちらにメールが届く仕組みなので、リアルタイムで応援してくださっている方がいることが伝わってきて、すごい喜びでしたね。
今回のように、版元やデザイナーさんや編集者など、本づくりの裏側にいる人が何かを発信することは、普通の本の流通のさせ方だとなかなかできないんです。なので、クラウドファンディングは作り手の思いを感じていただける場所にもなっているのかなと思います。
箱庭:あのページも、作り手の思いが、みなさんそれぞれの思いがすごく伝わるページになっていますよね。
波多野:最初、いかに拡散してもらうかが認知拡大のカギになるから、SNSで拡散力がある方たちの応援コメントをもらったほうがいいというアドバイスもいただいていたんです。だけど、最終的にそれはやらずに、本当に利光さんと『Ribbon』を応援してくれている方だけにコメントをいただきました。クラウドファンディングの担当の方もそれを理解してくださって、ある意味クラウドファンディングの理想的な形というか、すごくいいですねって言ってくださいました。
横里:波多野さんが言うように、これまでたくさんの本を作ってきましたが、こういうふうにじっくり手間をかけて本を作れることってなかなかないので、本当に贅沢な時間でした。それに利光さんも全力で答えてくれるので。
利光:一緒に作りあげていくことがとても楽しかったんです。最近はイラストのお仕事も、電話とメールのやりとりで顔を合わせることもなかったりするので、一日誰とも話さないなんてことも多いんです。孤独なんですよ。OKと言われても、本当に大丈夫だったのかな、どこを気に入ってもらえたのかな、と思ったり。ひとりで作っていると視野が狭くなってしまうことがあるので…。
今回、チーム一体となって取り組むってすごく楽しいことなんだと『Ribbon』を通して感じました。
箱庭:他にお仕事をしながら作っていたということですよね?
利光:そうです。でも、なんか覚醒していました。一週間に1回会うというのもよかったのかもしれないです。直接反応を聞くことができるし、それがまたつぎの絵を描くエネルギーに代わっていくんです。
あと、デザイナーの新藤さんともやりとりしながら、色味とか構図を細かく見てもらったんですけど、それもなかなかない貴重な経験でした。やっぱり私の視点からだけではなく、新藤さんの視点から見てもらって、その通りにするとすごくよくなるし、やるたびに明確な判断につながっていきました。
横里:今回、僕たち3人とデザイナーの新藤さんの4人のチームで取り組んだわけですけど、利光さんを中心にそれぞれがそれぞれの役割を発揮できたんですよね。
利光:感動しっぱなしでした。こんなに気持ちのいいチームはなかなかないですよね。すべてがスムーズでした。
横里:きっと本来の出版ってそういうものだと思うんです。本が売れないとか、数を出さなきゃいけないとか、そういうのに追い立てられると時間も熱量もかけられない。でもやろうと思えばできるんだって、今回わかりましたね。
利光さん、横里さん、波多野さんありがとうございました!
クラウドファンディングは10月末まで! お見逃しなく!
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クラウドファンディング情報
- 元ダ・ヴィンチ編集長が挑戦! みんなで作る新しい出版のカタチ『Ribbon』
- 発起人:横里隆(株式会社上ノ空 代表)
- 目標金額:100万円(第1目標金額100万円を達成! みなさまのご支援によって、『Ribbon』の制作が決定いたしました! あたたかいエール、ご支援、ほんとうにありがとうございます!! しかし、『Ribbon』は豪華本仕様ですので、制作には、まだとても費用がかかります。妥協しない美しい本を作り、たくさんのみなさまに届けるために、第2目標金額200万円に向けて、ご支援&応援どうぞよろしくお願いいたします!)
- 期間:2017年8月9日(水)~10月31日(火)
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利光春華
- イラストレーター
- 1983年、東京生まれ。2004年、東洋美術学校グラフィックデザイン科を卒業。アパレル会社に勤務後、2008年に独立。広告ポスター、雑誌挿絵、書籍装丁ほか、アパレル、ファッション、美容系の仕事を多く手掛ける。2012年からはアーティストYOSHIKAと共にクリエイターユニット「ARMATEL(アマテル)http://www.armatel.net/」に参画、音楽活動のビジュアル・アートディレクションを担当。上ノ空発行のビジュアルストーリーブック「Ribbon」が初の書籍となる。
- Instagram:@ harukatoshimitsu
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横里隆
- 株式会社上ノ空(うわのそら)代表取締役 1965年愛知県まれ。信州大学卒業後88年(株)リクルートに入社。93年より書籍情報誌準備室(現ダ・ヴィンチ編集部)を経て、ダ・ヴィンチ編集長。その後『ダ・ヴィンチ』の(株)メディアファクトリーへの移管にともない転籍。2012年に起業し現在は、株式会社上ノ空 代表取締役。社名の由来は、平安時代に“空のもっと上”を意味していた「うわのそら」から。空の彼方まで人々の気持ちをさらって「うわのそら」にする浮遊力のあるコンテンツの開発を目指している。