CREATOR クリエイティブなヒト
フォトグラファー/ライター忠地七緒さんインタビュー|「どうやって作るの…?!」から始まった自身初の写真集制作に迫る!
今回お話を伺ったのは、フォトグラファーかつライターという二つの肩書を持つ忠地七緒さんです。
4年間の出版社勤務を経て、3年弱の公務員時代、そして2017年にフリーランスとして独立したという異色の経歴の持ち主でもあります。箱庭編集部はフリーランスになったばかりの2017年1月にお仕事でご一緒する機会がありました。それから約1年。この1年の間に、WEBに、雑誌に、フォトグラファーとして、ライターとして、そしてイベント主催などで、忠地さんの名前を見聞きする機会が増え、勢力的な活動にただただ凄い!と尊敬&陰ながら応援していた箱庭編集部です。
さらに、クラウドファンディングを活用し、2017年12月2日に初の写真集『Ambivalence』を出版。2月9日からは表参道ヒルズ同潤館3F・ギャラリー「表参道ROCKET」にて大規模個展「She is ambivalent.」も開催されます!たった1年で、この凄まじいほどのご活躍!クリエイターの方もクリエイターではない方も、働いている方も働いていない方も、なにか力をもらえるインタビューだと思います。お時間のある時に、じっくりとお読みください~。
「女の子が持つ裏の面も肯定したい。」二面性を引き出した写真集

箱庭編集部(以下、箱庭):まずは、初の写真集『Ambivalence』についてお伺いします。
フリーランスになって1年で写真集!かなり早い展開でエネルギッシュに活動されてます。写真集の構想は以前からあったんですか?
忠地七緒さん(以下、忠地):もともと写真集を作りたい気持ちは、写真を始めた頃からあったんです。雑誌の編集をやっていたので、紙媒体がすごく好きで、自分のSNSにアップして終わるだけじゃなくて、なにか紙として残したいなーという想いがありました。
あと、一昨年の夏に同じようなテーマで規模は小さくですが写真展を開催しました。その時は簡単な写真集を作りましたが、販売用ではなかったんです。そしたら「写真集が欲しいです」とか「なんで写真集を販売しないんですか」って言ってくれる人が多かったので、次に自分が写真展をやる時は写真集を作ろうと思っていました。
箱庭:フリーランスになる前からの構想だったんですね。
今回のテーマは、二面性ということですが、どういった意味があるのでしょうか?
忠地:今回、モデルの赤坂由梨さんと二人っきりで台湾旅をしてきたんですが、二泊三日の72時間ずっと一緒にいたんですよ。泊まる部屋ももちろん一緒で、トイレとお風呂ぐらいしか離れるところがなくて。普段、モデルの赤坂さんと会う時って、撮影の3〜4時間なんですけど、お互い良い部分だけを見せているんですよね。モデルとフォトグラファーという構造だと裏の面を出す場所があまりないというか。でも、今回はモデルとフォトグラファーとしてよりも、友達として行くみたいな感じだったので、どうしても素の部分が出てきてしまう。72時間一緒にいると、お互いの嫌な部分が出てきて、私も彼女にイライラしたりとか、彼女も私にイライラする瞬間があったんですよ。だけど、それでも私は彼女のことを嫌いにはならなかったんですね。
それはなんでかなぁと考えた時に、自分にも表の面と裏の面があって、赤坂さんにも表の面と裏の面がある。きっと箱庭読者のみなさんにも…。そう考えると、別に裏の面って悪くないよなぁっていう風に思ったんです。私はありのままの女性の魅力を撮るということを信条にしてきて、いままで表の面だけ見てありのままっていう風に思っていたけど、いや裏の部分も肯定していいんじゃないかと思ったんです。それで、二面性をテーマにして『Ambivalence』という言葉を使いました。
箱庭:なるほど。みんなが持っている二面性を引き出してくれて、それを肯定してくれるっていうのはすごくいいなぁと思いました。
忠地さんの裏の面はどんな風ですか?
忠地:二日目の夕方に宿泊した部屋で撮影した写真が、私のまさに裏の面が出ているなぁと思うんですけど、これは私が女性に抱えている羨ましさとか憧れとか出ているんですよ。例えば、私は可愛い女の子になりたかったんです。
箱庭:分かります。可愛いに越したことはないですよね!
私はずっと二重になりたかったですね(笑)
忠地:それすごくわかります(笑)私もなりたかったです!私は、自分の中にコンプレックスがやっぱりあったので、憧れのドロドロした気持ち、「可愛くていいなぁ」と言う気持ちがこの写真に表れていると思います。いつもの笑顔のかわいい赤坂さんではなくて、女としてのドキッとする一面みたいなものをあぶり出したくて。芸能界のスキャンダルをのぞき見たいというか、そんなちょっとドロドロとした気持ちをここに入れています。

写真集が、自分の写真のテーマを明確にしてくれた
箱庭:写真集の制作自体はどうでしたか?
忠地:制作は大変でしたね。もともと仕事として雑誌は作っていたんですけど、写真集をきちんと作ったことがなかったんですよね。なので、「写真集ってなんだろう」とか「どうやって作ったらいいんだろう」というところから始まって、例えば右開きなのか左開きなのか、大きさはA4にするのか、もうちょっと小さくするのか、文章を入れるのかっていうところから考え始めていたので、とにかく考えることが多いということが、大変でした。
箱庭:今回の写真集は少し小さいサイズですが、最終的にこのサイズに決めたのはどういう意図があったんでしょう。
忠地:写真集を気軽に手に取ってもらいたいと思ったからなんです。写真集って分厚くって、ドーンみたいなイメージがありますよね。そういうのだと私たち位の20代30代の方は、なかなか手に取り辛いと思ったんですよね。だからコンパクトでカバンにも入れられて、かつ、デザインの話で言うと、上から俯瞰で撮っても、棚の上に置いてあっても、かわいいみたいな形で大体正方形というふうにしています。デザインは、箱庭のすーさんに担当してもらって、大変お世話になったんですが!
箱庭:制作は全部でどれぐらいの時間がかかったんですか?
忠地:半年位ですね。写真は2,000枚位撮りました。最初、本当に選べなくってどうやって選べば良いんだろうみたいな。だけど、二面性っていうタイトルが出た瞬間に、二面性を表すような写真を配置していけばいいんだ!と思えて、全体の流れがなんとなく決まって、後はもう好きか嫌いかで選んでいった形ですね。
箱庭:途中でタイトルが決まったんですね!
忠地:そうなんです。写真集を撮る前までは、ありのままの女の子を撮りたいとしか言ってなかったんですけど、台湾に行ったら、ありのままの女の子、裏の顔もあるなーと思って。写真集をつくっている中で、自分の写真のテーマを見つけたという感じですね。
箱庭:より明確になったという感じですね。
忠地:まさにそうです。
Instagramから繋がったかけがえのない仲間たち
箱庭:衣装は、スタイリストさんにご依頼されてますよね。
忠地:はじめは、私とモデルの赤坂由梨さん二人だけのプロジェクトだったので、衣装も自前で持っていこうって話していたんですね。でも、そうすると行き詰まりを感じてしまって、私たちの服だけでは面白いことにならないんじゃないかなという直感があったんです。そこでお願いしたのがスタイリストの谷川夢佳さんです。実はInstagramで繋がっていただけで、面識はなかったんですけど、DMで写真集の趣旨を送って、もしよければご協力いただけませんかと連絡しました。そしたら、すぐに「ぜひお願いします。」と返信が来たんです。嬉しかったですね~。谷川さんがいてくれたおかげで、台湾の花柄っぽい衣装だとか、作家さんの1点物のブラウスとか、私たちだと調達できない衣装で撮影が出来たので、本当に依頼をして良かったなって思います。
箱庭:確か、赤坂さんともInstagramからですよね?!
忠地:そうですね(笑)2年前に、どんな女の子を撮りたいかなぁ~、かわいい女の子いないかな~みたいな感じで、Instagramをチェックしていた時にたまたま見つけて、フォローしたらフォローし返してくれて、ドキドキしながら作品制作のモデルをご依頼したんです。それまでも、ちょこちょこ女の子の撮影をしていたんですけど、私が好きだなぁって思う一般の女の子を撮って、プロのモデルさんを撮影するのは初めてだったので、すごく緊張しました。それが2016年3月ですね。今振り返ると、撮影の進め方とかもすごいグダグダだったなーって思います。でも、そんなグダグダも全部受け止めてくれて、ものすごい大人なんです。言い方が恥ずかしいですけれども、大切な存在って感じですね。
クラウドファンディングは、自分が嫌われるんじゃないかってずっと不安だった
箱庭:そして、今回の写真集の制作にはクラウドファンディングを活用していますが、いかがでしたか?
忠地:結果的には挑戦して良かったと本当に思っています。お金が集まったのもすごい助かったんですけど、136人の仲間ができたのが大きいですね。ただそれは結果論で、クラウドファンディングは当初不安しかなくて、ほんとに辛かったんです。
箱庭:そうだったんですね。
忠地:なにが大変なのかを、以前トークイベントでも聞かれて言葉に詰まったんですけど、自分が嫌われるんじゃないかっていう気持ちがすごいあったんです。
箱庭:なんででしょう…。
忠地:うーん、クラウドファンディングをすること自体、なんかちょっと目立ちませんか!?言ってみれば、リターンはあるけど、私をサポートしてくださいみたいなことを言いますよね。私は、営業とかが得意なタイプではないので、そういうことを言うことに慣れていないんだと思うんです、きっと。だけど、それをやらなきゃいけないし、そういうところで嫌われるんじゃないかという怖さはありました。
あと、立ち上げた人と見ている人の温度差がやっぱりありますよね。自分は1番熱量があるわけですけど、見ている人はそこまで熱いわけではないので、自分の気持ちがちゃんと届いてるんだろうかとか、ただただお金集めのためにやっている人って思われるんじゃないかとか、気持ち面の葛藤がすごいありました。
箱庭:それでもやろうって思えたのは、背中を押された何かがあったんですか?
忠地:撮影の少し前までずっと悩んでいて、決め手は人を巻き込みたいと思ったんです。フリーランスって基本は1人で行動することが多くて、誰かと仲間を組んでとかはあまりないんですね。それはそれでいいと思うんですけど、大きなことを成し遂げる時、1人の力はすごい小さいと思っていて、「みんなを巻き込んで大きなことをしたい」「仲間を作りたい」って思った時に、1人でお金を貯めて写真集とか写真展をやるんじゃなくて、クラウドファンディングというツールを使って、人を巻き込んだほうが楽しいんじゃないかって。最終的にはそこで決めました。
箱庭:一歩踏み出したことで、2月9日からの個展は表参道で開催ですよね!
忠地:本当にみなさんのおかげです。
写真を見て、自分を肯定するきっかけにしてほしい
箱庭:写真展はどんな感じになりますか?
忠地:写真集とは、結構変わります。もちろん写真集に載っている写真も展示するんですけど、写真展で初めてお見せする写真もあります。写真集と写真展は別のモノというふうに捉えていて、写真集は「静」、写真展は「動」と思っているんです。布を使った空間などもあって、写真の世界観を実際に体感できる場所も設けることで、より写真の強さや生き生きとした雰囲気が伝わるよう意識しています。
箱庭:写真集や展示はどういった人に見てもらいたいですか?
忠地:男の人にももちろん見てもらえたら嬉しいですけど、やっぱり女性に見てもらいたいかもしれないです。写真集も、写真展もそうなんですけど、女性が私の写真を見て、女の子っていいなぁって思ってもらえるきっかけにしてもらいたいっていうのが根本にあるので、写真を見てもらって、私はこのままで大丈夫とか、自分を肯定するみたいなきっかけになればいいなって思っています。この年代の人っていうのは全然なくて、女性はみんな女の子の一面を秘めていると思っているので、0歳から100歳や何歳までも!
あとは、写真にあまり興味がなかったり、馴染みのない人にも来てもらいたいです。例えばInstagramは見ているけれど、写真集は見ないし、写真展は行かない。そういう人が世の中には多いと思うんですね。でもそれってすごくもったいないなーと思っていて、確かに1枚の写真を見ただけだと「女の子が食べてる写真ね」とかで終わっちゃうけど、これが大きな写真になったら五感というか迫力を感じますし、私は基本的に在廊するので、私がお話しすることで写真の見え方も変わってくると思うので、まだあまり写真展に行ったことない人にこそ来てもらえたら嬉しいです。
続きは後編で。インタビュー後編では、忠地さんがフリーのフォトグラファー/ライターになるまでの経緯や、お仕事に対する姿勢や想いなど、たっぷりと伺いました!
-
フォトグラファー/ライター|忠地七緒
1987年神戸市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、雑誌編集者を経て2017年1月に独立。ありのままの魅力を切り取る写真と読者にそっと寄りそう文章が評判を呼び、独立当初から雑誌・WEBで女性のポートレート撮影、インタビュー執筆を中心に活躍。一方、作品は容姿コンプレックスをもとに象徴的なかわいい女の子を撮影。その数、数百人以上。なかでも自然体の素顔を撮ることで、ありのままの女性を肯定しながら女性の中にひそむ二面性をすくいあげている。東京・清澄白河在住。
Web:http://naotadachi.com/
Instagram:http://instagram.com/naotadachi
-
写真集『Ambivalence』

「撮ることで、目の前の女の子を肯定したいと思った」(あとがきより)
異国の地・台湾で、公私共に親交の深いモデル・赤坂由梨の素顔を撮り下ろしました。2泊3日、離れることなく側にいた写真家とモデル。普段ひた隠しにしているお互いのドロっとした感情や素がぶつかりあい、その結果お互いの本心をすくい上げるような写真集となりました。
◆仕様
2017年12月2日発行|64ページ|A5変型|オールカラー
◆制作
撮影・編集:忠地七緒
モデル:赤坂由梨(スペースクラフト)
スタイリング:谷川夢佳
デザイン:鈴木由美
印刷・製本:藤原印刷株式会社
Web store:https://naotadachi.thebase.in/items/8700905
個展「She is ambivalent.」
舞台は台湾の台北。2017年5月に、親交の深いモデルの赤坂由梨と台湾で過ごした2泊3日で撮りおろした約50枚の作品を展示します。かき氷を食べたり、公園で太極拳をしたり、夜市ではしゃいだり…。一見かわいい女の子の楽しい旅日記のように見える写真ですが、そのかわいさの隙間にひそむ女性の二面性がキーワード。2泊3日ずっと離れずそばにいたことで、普段は隠していたお互いのどろどろとした感情や素がぶつかりあい、写真家とモデル双方の本心=女性が持っている二面性をすくいあげるような写真となっています。女性を魅力的に見せることに定評のあるスタイリスト・谷川夢佳によるスタイリングも見逃せません。
会場では、写真集『Ambivalence(500部限定)』とポストカード3枚セット、展示写真の受注販売も行います。
タイトルの「She」とは、モデルのことなのか、写真家のことなのか、もしかすると世の中すべての女性にあてはまるのかもしれません。写真の中の女性の姿を、自分自身や身近な女性に重ねながらご覧ください。
会期:2018年2月9日(金)〜2月14日(水)<会期中無休・入場無料>
時間:11:00〜21:00 <2/12(月)〜20:00、2/14(水)〜18:00>
場所:表参道ROCKET 東京都渋谷区神宮前4−12−10
表参道ヒルズ同潤館3F
電話: 03-6434-9059
URL:http://www.rocket-jp.com
※オープニングパーティー 2月9日(金)18:00〜21:00
マイクロロースター+COFFEEさんが出店し、コーヒーなどをふるまいます。
※「Taiwan Tea & Gallery 台感」でも、同時展示開催中
もうひとつの『Ambivalence』
期間:2018年2月1日(木)~2月16日(金)
時間:11:00〜21:00
場所:Taiwan Tea & Gallery 台感
住所:東京都台東区蔵前3-22-7
◆関連記事
・フォトグラファー/ライター忠地七緒さんインタビュー|公務員からフリーランスに異色の転身。大切にしている仕事への姿勢と想い