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台湾の靴下ブランド「+10(テンモア)」インタビュー|靴下づくりから垣間見る、日常を楽しむ気持ちと探求心。
今、日本でもじわじわと人気が出てきている台湾の靴下ブランド「+10(テンモア)」。先日、日本でブランドブック『+10 テンモア 台湾うまれ、小さな靴下の大きな世界』が発売となり、箱庭でもご紹介させていただきました。
テンモアは、2012年に陳小爵さんと許芝瑞さんによって立ち上げられた靴下ブランド。一足ごとにテーマや詩がつけられていたり、シーズンごとに台湾のまだ知られていない素敵な場所でビジュアルを制作していたりと、創造性豊かなブランド作りは多くの人の心を掴んでいます。
また、テンモアの靴下はその個性あるデザインだけでなく、一度履いたら病みつきになる履き心地と、異素材を組み合わせたり変わった織り方を採用したりして作られる、プロダクトとしてのこだわりも見逃せないポイントなんです。
そんなテンモアの靴下は、台湾だけでなく日本でも人気を呼び始め、日本の様々なイベントにも出店しています。今回は、昨年蔵前にオープンしたTaiwan Tea & Gallery「台感」で開催中のイベント「+10 テンモア展」におじゃましてきました。そして、来日していたテンモアのお二人に、いろいろとお話を聞いてきました!
自分が今生きている世界を観察する“探究心”を大切にしたい

箱庭:まずは、改めて「+10(テンモア)」というブランド名の意味と、そこに込めた想いを教えてください。
テンモア:最初に、数学的で科学的な名前がいいなと思い、数字を入れようと決めました。「10」という数字は、10本の指を表しています。「+」は、MORE、前に進むという意味。面白いことを毎日考えて、日々発見して欲しいという想いを込めました。
箱庭:それは、お二人で話し合って決めたんですか?
テンモア:はい、二人で考えました。覚えやすさはどうかな?と考えてみたり、展示会などのブランド検索で前の方に来るように「+」の記号を前につけたり。でも一番は、ブランドのなかで、数学と科学を重視したいということが大きかったです。
箱庭:それはなぜでしょう?
テンモア:それは、数学と科学が、昔から自分の周りにある世界を観察していく探求心から生まれた学問だからですね。それと同じように、今自分が生きている場所はどこなのか?この世界は何なのか?という気持ちを大切にしたいと思っています。

箱庭:テンモアでは、新作発表会も趣向を凝らしたものを毎回実施したり、シーズンごとに台湾の様々な場所へ行ってビジュアルづくりをしたりしているんですよね。最初から決めていたことなんでしょうか?
テンモア:はい、ブランドを立ち上げたときから決めていました。でも、発表会は毎回試行錯誤しながらやっています。一度やると、もっと面白くしたい、もっと分かりやすくしたい、と思う部分が出てくるんです。
シーズンのビジュアルは、台湾人もあまり知らない場所を毎回探しています。観光で行く場所じゃなくて、生活の中にある市場とか、小さいけど自然のある場所です。その場所を見つける作業はいつも楽しいですね。
まずは、日々の生活を観察してどういう場所が良いかな?と考えます。その中で例えば、「市場がいい」と決まったらいろんな市場を調べていくし、「宜蘭がいい」と思ったら宜蘭を回って探します。最初はインターネットで探して目星を付けますが、実際の撮影は1日で行くか、2日かけて泊まりで行くこともありますよ。
何でもない日常でも、一つでも楽しめることを見つける。ユーモアの視点が大事。
箱庭:本を拝見すると、ビジュアル撮影はとても楽しそうですよね!実際にどうですか?
テンモア:ビジュアル撮影に限らずですが、いつでも楽しく仕事ができるように心がけています。一緒に仕事をする方とは、気持ちよくやり取りできるようにする。そして、何事も楽しむこと。好きなことを、楽しんで取り組むんです。
自分が好きだと思うことが、自分が好きな人に届いたら嬉しい。いつもそういう気持ちをもって、テンモアの仕事も好きな人にオファーして、一緒に仕事をしています。
箱庭:その姿勢、とても素敵ですね。そういう風に取り組む時の秘訣はありますか?
テンモア:何でもない日常でも、ちょっとした仕事でも、そのなかに一つでも楽しめることを見つけることが大事だと思っています。いつも、周りをユーモアの視点で見てみることですね。
箱庭:まさに、テンモアのコンセプトですね!

箱庭:そうはいっても、こうして日本でも人気を集めるほどになるまでには大変だったこともあったと思います。どんなことが大変でしたか?
テンモア:一つは、靴下を製品化するときの工場とのコミュニケーションです。「作りたい!」という強い思いを持って取り組まないと、自分がイメージしたものは作れない。工場がやってくれるのは、指示した通りに作るということなんです。だから、自分でちゃんと素材や織り方の知識を付けて、初めてこうして欲しいと要求が出来るようになります。
テンモアの靴下は、素材と織り方が特殊なものが多いので、工場にとっては難しい。やってくれる工場自体もそんなに多くなくて、最初は2~3件くらいしかありませんでした。そのなかでも、2代目の若い方がやっているところが引き受けてくれました。
二つ目は、自分たちのインスピレーションが、お客さんにちゃんと伝わっているのかな?ということです。靴下を見たら、「かわいい!」と思うだけになってしまって、その後に伝えたいものが本当に伝わってないことも多いんです。まだ日本は分からないけれど、台湾ではそうですね。
もちろん、最初は「かわいい」ということで注目してもらえるのは、うれしいです。でもその後、デザインに込められたストーリーも知って欲しい。だから、展示会やPOP UPショップをやるときは、いろいろ伝え方を考えています。本当に伝えたいことに、面白さと遊び心をバランスよく組み合わせるようにしています。

伝える方法はいつも探している
箱庭:今回の展示でもゲームがあって、かわいいですね。いつもこういうものを用意しているんですか?
テンモア:ゲームのようなものは、いつも考えています。ブランドブックにも載っていますが、以前は台湾で“おみくじ”を作ったことがありました。その時は、私たちの色のアイデアについて伝えたかったので、靴下を5つの色に分けて意味をつけたんです。それをおみくじにすることで、楽しみながらお客さんに色の意味を知ってもらえたらいいなと。でも、まだ上手く伝えられてないなぁと思っています。常に、新しい方法を考えていますね。
もっともっと好きな人と一緒に仕事をしていきたい
箱庭:これからやってみたいことはありますか?
テンモア:今すぐ実現できないけれど、1シーズン全部黒だけで作ったら面白そうですね。もっとコンセプショナルな、お客さんがかわいいと思えないようなデザインもやってみたいです。
私たちが思っているのは、靴下の素材のバリエーションは、もっと出来ることがあるということ。まだ知られていない、みんなが見たことない靴下を考えて、これから作っていきたいです。
あとは、もっともっと好きな人と一緒に仕事したいです。今までも、好きな人と仕事をしてきましたが、ブランドが成長してくるにつれて、より叶うようになってきました。
箱庭:コラボレーションは例えば、どんなものですか?
テンモア:ダンサーと一緒に仕事したり、振付師とコラボしたりしてみたいですね。
前に一度やったことがあるのですが、ダンスの動きに合わせて靴下の色決めて服装合わせました。私たちは大学で舞台美術を勉強していたので、そういう仕事がしてみたいですね。
一番やりやすいのは、もともとある靴下を舞台やダンスに組み合わせる方法ですが、新しくデザインを起こすということもやってみたいですね。デザインを考える方向が全く違うと思うので。
箱庭:いろんなコラボ、楽しみにしています!これからテンモアの靴下に出会う日本のみなさんへ、何か伝えたいことはありますか?
テンモア:日々のささやかなことでも観察することを忘れずに、いつも世界のなかに新しいものを発見する気持ちをもって欲しい。そして、新しいものを発見した時のワクワクした気持ちをもって世界に向き合うことを、靴下から伝えたいです。
自分の生活の中にワクワクを見つければ、もっと生活を楽しめる。そんな些細なことが、実は一番大切なんです。
テンモアの許芝瑞さん、陳小爵さん、ありがとうございました!
―――強い思いを持って目標に向かって取り組む姿勢と、いつもユーモアの視点で周りを見ることを忘れないお二人。その姿勢と心がけから、素敵な靴下が生まれているんですね。
最後に、お二人にお気に入りの一足を選んでいただきました。
陳小爵さんが選んだのはこちら。「森の鉄道」という靴下で、生地が透明になっているところがあり、その部分が鉄道をイメージしているんだとか。
色は3種類あり、青が太平山の近くの「マナウイアン」、緑は静岡にある「大井川鉄道」、ピンクは「阿里山」の「眠月」という鉄道がモチーフになってるそう。その場所に行ってみたくなりませんか?
許芝瑞さんが選んでくれたのは、「世界サウンドトラック」という昨年の秋冬に登場した靴下です。みんなが知らない世界の音楽を紹介したいという想いから、韓国のサムルノリという伝統的な音楽をモチーフにしたそう。農村に古くから伝わる音楽で、四つの楽器がそれぞれ雨・風・雷・雲を表現しています。それがこの靴下には、模様と織り方で表現されているんだとか。
こうしてストーリーを伺うと、それを身に着けてお出かけしたくなりますよね!取材で訪れた箱庭編集部メンバーも、テンモアの靴下の魅力にすっかり魅了されて、お気に入りの靴下を購入し、ほくほくした気持ちで帰路についたのでした。
「台感」にて開催中の展示は、2018年3月14日まで開催中。みなさんも、テンモアの素敵な世界を感じに、ぜひ遊びに行ってみてはいかがでしょうか。ブランドブックも、ぜひ手に取ってみてくださいね。
+10 テンモア展
日時:2018年2月17日(土)~3月14日(水)
営業時間:11:00〜21:00
場所:Taiwan Tea & Gallery「台感」
住所:台東区台東区蔵前3-22-7
http://taiwan-quality.com/taikan/monthly3/
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◆+10 テンモア プロフィール
陳小爵(ちん しゃおじぇ)
1985年基隆生まれ。国立台北芸術大学劇場デザイン学部舞台美術専攻を卒業。
博物館のデザイナー、アニメーションの仕事を経て、テンモアのアートディレクター。
ブランドのロゴ、グラフィックなどは彼女の手によるもの。
許芝瑞(しゅう ずるぇい)
1986年台北生まれ。国立台北芸術大学劇場デザイン学部舞台美術専攻を卒業。
テンモアの主任デザイナー。
展示会のときにはセットや販売の空間デザインを手がけるほか、イラストレーションと写真の仕事もこなす。
+10 テンモア 台湾うまれ、小さな靴下の大きな世界
発売日:2017/11/22
監修:+10 テンモア
企画:FUJIN TREE
本体価格:1,800円
仕様:B5変形/ ソフトカバー/ オールカラー
ISBN:978-4-908406-11-9