映画『坂道のアポロン』三木孝浩監督インタビュー
こんにちは。あいぽんです。

昔から、音楽を扱った映画はたくさんありますが、最近ますます盛り上がってきていますよね。さまざまな音楽が映画の題材として登場していますが、ここ数年特に注目を集めているものといえば、ジャズ。『セッション』(2014年)や『ラ・ラ・ランド』(2016年)を観てからというもの、個人的にもすごく気になっています。

そんなジャズが印象的に登場する青春映画『坂道のアポロン』が間もなく公開されます。小玉ユキさんの人気マンガを原作にした映画です。ジャズの名曲も続々と登場するセッションシーンは「圧巻!」のひとこと。

今回は、監督を務められた三木孝浩さんにお話を伺ってきました。 

監督の想像以上だった!圧巻のセッションシーン

映画『坂道のアポロン』三木孝浩監督インタビュー

−映画を拝見させていただきました。セッションシーンの迫力がすごかったです。撮影はどのような感じだったのでしょうか?

三木監督:演奏シーンに関しては、知念侑李くんと中川大志くんのふたりのがんばりがあって撮れたものですね。映画撮影では、通常、難しい演奏シーンは手元だけをプロの方のものに差し替えるということも珍しくないんです。

でも、それを妥協せずに、本人たちの手元を映せるくらいに演奏を完璧にマスターしてくれました。かなり難易度の高い速弾きだったんですけど、ふたりとも完璧にこなしてくれて。これまでの音楽映画の中でもあまりないことだと思います。それくらいすごいことをやってくれました。

−監督ご自身もびっくりされたんですね。

三木監督:クランクイン前にそれぞれ練習してくれていて、「じゃあ、セッションシーンやってみようか」というときには、ふたりとももうほぼほぼ完璧にできていたので、本当にびっくりして鳥肌がたちましたね。「これはもう手元の吹き替えなしで行ける!」と確信して。クランクイン前からセッションシーンを撮るのが楽しみで仕方がありませんでした。

『坂道のアポロン』は原作マンガがあり、アニメ化もされている作品です。アニメの文化祭でのセッションは、アニメ界の音楽演奏シーンの中で歴史に残るもののひとつと言われるくらい評価が高いんです。

僕自身もアニメのそのシーンを観ていたので、ここを超えなければ原作やアニメファンの期待には応えられないと思っていました。だから、できることであれば手元の吹き替えもしたくないと思っていたんです。一番心配していた部分でもあったので、ふたりがそこのハードルを超えてくれたことで、「この映画、行けるぞ」と自信を持つことができましたね。

−文化祭でのセッションシーンも、クライマックスの教会でのセッションシーンもその演奏の迫力をさらに盛り上げるような、光の美しさが印象的でした。三木監督の映画は、「光が美しい」と言われることが多いかと思いますが、どのように撮られているのでしょうか?

三木監督:そうですね。光については、ものすごく気を使っています。最初にカメラマン、照明さんと「一番感情が溢れる瞬間にふさわしい光の演出はどうしたらいいのか」をかなり相談しています。

映画『坂道のアポロン』三木孝浩監督インタビュー

−音楽と知念さん、中川さんの表情、それに光の美しさが相まって、本当にキラキラしているシーンになっていましたよね。

三木監督:映画というのは、セリフも音楽も映像も、すべてが揃って作品になりますが、その中でも僕は光をどう撮るかということに重きを置いているかもしれないです。キャラクターの感情を光でも表現したいという思いがあります。

−私はもともと『ソラニン』(2010年)も好きで何度も拝見しているんですが、『ソラニン』の演奏シーンでの感動と再会できたような感じがしました。

三木監督:それはうれしいですね。もともと僕は音楽が好きだし、映画の中で感情が爆発する場面を演奏シーンとともに表現するのは、撮っていてすごくテンションがあがる瞬間でもあります。

最近では『セッション』や『ラ・ラ・ランド』など、映画と音楽の関係がより一層注目されていますが、音楽が呼び起こす感動というのは、たぶん日本だけにとどまらず、世界共通なのかなと思います。それが音楽の素晴らしさですよね。

人からの期待が映画作りのモチベーション

映画『坂道のアポロン』三木孝浩監督インタビュー

−今回の『坂道のアポロン』のように、三木監督はこれまでもマンガ原作の映画を多く撮られていますよね。『ソラニン』『僕等がいた』『先生! 、、、好きになってもいいですか?』など、もともと個人的に好きな原作が三木監督の手によって映画化されていて、勝手に「マンガの好みが合うのかな?」と親近感を持っていました。

 三木監督:多くの場合、「この原作で映画を作る」というのはプロデューサーが決めます。僕はプロデューサーからオファーをもらう立場なので、僕が原作を選んでいるわけではないんです。

もともと僕はミュージックビデオの監督をしていたので、「このアーティストのミュージックビデオを撮ってほしい」というオーダーを受けて、アーティストと楽曲をより良く見せるために自分は何ができるかということを考えるのがすごく楽しいんですよね。オーダーされた企画を僕なりにどう料理するかというところに期待してもらっていると思うので、その期待が僕の映画作りのモチベーションになっています。

もしかしたらプロデューサーの方で、僕に合う作品を選んでくれている部分はあるかもしれませんが、僕自身が作品を選んでいるというよりは、どんなオーダーが来ても、その期待に応えられるようにがんばります!という感じですね。

−原作が人気だといろいろと議論になったりもしますが、原作があるものを映画化する際に気をつけていることってありますか?

三木監督:小説、マンガ原作などいろいろありますが、特にマンガ原作の場合はキャラクター造型が重要ですよね。絵で描かれているので、ビジュアルはかなり意識します。でも、一番大切にするのは、原作者がこの物語で何を描きたかったのか、何を大事に作ったのかという部分だと思います。

単純にマンガのエピソードすべてを映画で撮れば、その原作を描けるかというとそうではないと思うんです。何を核として描いていくかというのが重要なのではないかと。原作者によってはテーマが重要だという人もいれば、キャラクターを描くことを大事にしている人もいますよね。そこをきっと原作ファンも大切にしていると思うので、その核となる部分をはずさないよう意識しています。

−今回の『坂道のアポロン』で核とした部分はどういうところでしょうか?

三木監督:薫(知念侑李)、千太郎(中川大志)、律子(小松菜奈)の3人の関係性ですね。普通のラブストーリーなら、三角関係があってそこから物語が発展していくかと思うのですが、今回は薫と千太郎の友情を超えた結びつきというか…お互いに自分の存在価値を理解してくれる人として想い合っているところに、友情を超えた愛情を感じました。その男同士の結びつきを羨ましくも優しく見つめる律子。この3人の関係性が、『坂道のアポロン』の見どころだと思います。

あとはキャラクターがみんな不器用で、そんなキャラクターたちの関係性が愛おしくてたまらないですよね。それが原作マンガを読んだときに、僕自身おもしろいと思った部分でもあるし、映画で描きたいと思いました。

−三木監督は、本作を「薫と千太郎のラブストーリー」と表現されていましたが、映画を見たら本当にそういう感じがしました。

三木監督:そうですよね。薫は千太郎に恋しちゃったんじゃないかというくらい強烈に惹かれていると思います。それは、別にボーイズラブということではなく、単純に人としての魅力を感じていて、人として好きになっていくというのは男女問わず共感できる部分なんじゃないでしょうか。そこを描けたらいいなと思っていました。

−キャスティングのイメージは最初からあったんですか?

三木監督:いやいや、かなり悩みましたね。本当にゼロからのスタートでした。知念くんが薫役というのは、「行けるな」と思ったんですけど、難しかったのは千太郎でしたね。マンガで千太郎のビジュアルを見たときに、「こんな俳優さんはいないよな…」と思いましたし(笑)。しかも、ドラムも演奏してもらわないといけなくて…。

中川くんには優しい、繊細というイメージを持っていたんですけど、別の作品で彼と一緒に仕事をしたことがあるプロデューサーが、「昭和な男感も合うよ」とアドバイスしてくれて。それも手伝って、カチッとパズルがハマった感じですね。

−小松菜奈さんはいかがでしたか?

映画『坂道のアポロン』三木孝浩監督インタビュー

三木監督:菜奈ちゃんは、以前『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)という作品でもご一緒していて、彼女のリアクションの芝居が好きだったんです。今回、菜奈ちゃんが演じた律子は、薫と千太郎のやりとりを見て感じたことを表情やリアクションで演じるという、セリフではない部分の負担が大きい役どころでした。律子が感じたことというのは、リアルに観客に伝わる部分でもあるので、難しい立場だったと思います。

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』はファンタジーなんですが、彼女は表情や相手と対峙したときの感情の芝居で、観客を説得させる力があるなと感じたんです。荒唐無稽な設定の物語を、表情ひとつで観客に納得させるというのはすごい女優さんだなと思いましたね。

今回も昭和という時代設定だったり、10年という時間経過だったり、そういうものも表情で伝えなくてはいけないのですが、それを期待以上の演技で見せてくれました。大人になって薫と再会するシーンでは、10年ぶりに会わないとできないような表情を見せてくれています。

彼女の表情やリアクションの演技に対する信頼感は大きかったし、彼女に律子を演じてもらってよかったなと思いました。

みんなでいいものを目指して作り上げる幸せ

映画『坂道のアポロン』三木孝浩監督インタビュー

−映画作りをしていて大変な部分はどういうところですか?

三木監督:肉体的に大変なことはたくさんありますが、それでもやっぱり楽しいですね。楽しさが映画作りの原動力になっている部分はあります。

映画というのはひとりで完成させるものではなくて、ときには人とぶつかりながら熱を生み出していく作業の積み重ねだと思うんです。そういうコミュニケーションを重ね、みんなでいいものを目指して作り上げていく過程というのは、本当に幸せな時間ですね。

特に今回の『坂道のアポロン』は、そういう現場の思いがラストに集約したなと。現場スタッフがここまでみんな同じ気持ちになれたというのは、僕が映画作りをしてきたなかでも、そうそうないことだと思います。一度そういう経験をしてしまうと、また同じ気持ちになりたいと思いますし、それが映画作りのモチベーションにもなって、やっぱり映画作りはやめられないですね。

−なるほど!では、「映画を撮っていてよかった!」と思うのも、そういう現場の思いがひとつになる瞬間なのでしょうか?

三木監督:もちろん、それもあります。あとは、完成した映画をお客さんに観て楽しんでもらえたときですね。もちろん観てもらう前はドキドキしますが、楽しんでもらった表情を見ると「映画を作ってきてよかった!」と思います。

−観てもらう前はやっぱり緊張されるんですか?

三木監督:それはもう!特に一般の方々に観てもらう最初の場である、完成披露試写会は緊張しますね*。今は、SNSなどでお客さんの素の感想を知ることができるので。

*取材は完成披露試写会の直前に実施

−SNSなどで感想をチェックされるんですね。

三木監督:チェックしますね。もちろんいいところだけではなく、ダメだったという感想も見て、次に活かすようにしています。

−そうなんですね!映画作りをしている中でのこだわりや譲れないものというのはありますか?

三木監督:毎回、「人の成長を描きたい」という思いはあります。登場人物の成長する様を描くことで、自分も成長できる気がします。人の成長や変化を見ることで、お客さんの気持ちに変化が生まれたらうれしいですね。

−これから『坂道のアポロン』を観る方にひとことお願いします。

映画『坂道のアポロン』三木孝浩監督インタビュー

三木監督:僕が、薫と千太郎のセッションをリハーサルで見たときの感動が伝わるとうれしいですね。ふたりのセッションを観てもらうだけでも、世代、性別問わずグッと来るものがあると思います。そこから広がって、薫と千太郎と律ちゃん、3人の人間模様も楽しんでもらえるとうれしいです。

 

映画を観終わり、劇場を出ると、つい劇中で演奏されている『Moanin』などジャズのメロディーを口ずさんでしまうはず。迫力のセッションシーンと登場人物のキラキラした表情、そして三木監督ならではの美しい光は、ぜひ劇場で!

  • 映画『坂道のアポロン

  • 2018年3月10日(土) 全国ロードショー
  • あらすじ:
  • 医師として病院に勤める西見 薫。忙しい毎日を送る薫のデスクには1枚の写真が飾られていた。笑顔で写る三人の高校生。10年前の夏、二度と戻らない、“特別なあの頃”の写真……あの夏、転校先の高校で、薫は誰もが恐れる不良、川渕 千太郎と、運命的な出会いを果たす。二人は音楽で繋がれ、荒っぽい千太郎に、不思議と薫は惹かれていく。ピアノとドラムでセッションし、千太郎の幼なじみの迎 律子と三人で過ごす日々。やがて薫は律子に恋心を抱くが、律子の想い人は千太郎だと知ってしまう。切ない三角関係ながら、二人で奏でる音楽はいつも最高だった。しかしそんな幸せな青春は長くは続かず――
  • 出演:知念侑李/中川大志/小松菜奈
  • 真野恵里菜/山下容莉枝/松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.)/野間口徹/中村梅雀/ディーン・フジオカ
  • 監督:三木孝浩
  • 脚本:髙橋泉
  • 原作:小玉ユキ「坂道のアポロン」(小学館「月刊flowers」FCα刊)
  • 製作幹事:アスミック・エース、東宝
  • 配給:東宝=アスミック・エース
  • 制作プロダクション:アスミック・エース、C&Iエンタテインメント
  • 公式サイト: http://www.apollon-movie.com/
  • 公式twitter : @apollonmovie
  • 公式FB : https://www.facebook.com/apollonmovie
  • ©2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 ©2008 小玉ユキ/小学館
  • 三木孝浩

  • 1974年生まれ。徳島県出身。これまでに、いきものがかり、FUNKY MONKEY BABYS、YUI、ORANGE RANGE等、数多くのPVやライブ映像、TVCM、ショートムービーなどを手がけ、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005 最優秀ビデオ賞、カンヌ国際広告祭2009 メディア部門金賞など受賞。2010年に『ソラニン』で長編映画監督デビュー。以降、『僕等がいた』(前篇・後篇/12)、『陽だまりの彼女』(13)、『ホットロード』(14)、『アオハライド』(14)、『くちびるに歌を』(15)、『青空エール』(16)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(16)、『先生!、、、好きになってもいいですか?』などがある。