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今回インタビューしたのは、全国の駅名標のフォントやデザインに注目した一冊『もじ鉄』著者であり、グラフィックデザイナーの石川祐基さんです。

“もじ鉄”って、とってもかわいい響きのある言葉だと思いませんか?鉄道に乗ることが好きな人は乗り鉄、鉄道の写真の撮影が好きな人は撮り鉄と言いますよね。もじ鉄は、鉄道と駅の看板・文字が好きな人。駅の看板って、意外と電鉄や駅ごとに個性があるんです!

そこに注目し、たくさんの駅に実際に赴き、駅名標に使われているフォントを収集することを始めたのが今回お話を伺った石川さんです。最初は単純に集めるだけだったというフォント情報は、2016年にご自身で立ち上げた「もじ急行」というWEBサイトに公開され、2017年12月に著書『もじ鉄 書体で読み解く日本全国全鉄道の駅名標』が発売となるまでに至ります。

鉄道ファンというと、ちょっと暗いイメージがあるという方も多いかもしれませんね。でも、もじ鉄はデザインで鉄道を切り取った、これまでにない鉄道の世界を広げてくれています。そんな“もじ鉄”が生まれた背景について、今回いろいろとお話を伺ってみました。

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『もじ鉄』 三才ブックスより昨年2017年12月に発売。
『もじ鉄』 三才ブックスより昨年2017年12月に発売。

鉄道好きの新たなジャンル“もじ鉄”が生まれた背景とは?

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箱庭:もともと鉄道がお好きだと思いますが、そのきっかけを教えてください。

石川祐基さん(以下、石川さん):気付いたら、です。母親曰く、小さい頃に踏切に連れていくと泣き止んだ子だったそうです(笑)。西武線の線路によく連れていかれたんですが、そんな風にしているうちに動くものに興味を持って、知らず知らずのうちに鉄道が好きなっていったのでは?と思います。

好きと自覚してからは、最初は見たり乗ったりすることがメインでした。電車に乗ってどこかへ行くのが楽しくて、いろんなところに行っていたのですが、ある時カメラを手に入れてからは写真を撮りにも行くようになって。カメラは、小学生くらいは“写ルンです”でパシャパシャ撮っていましたが、中学生で親のカメラを譲り受けて、高校生では自分のカメラを買って貰って、という感じです。

箱庭:石川さんも最初は乗り鉄、撮り鉄から始まったんですね!そこから、駅名標の文字に注目したきっかけとなったことはあったんでしょうか?

石川さん:高校生の時に、鉄道好きが高じて、駅でアルバイトをしていたんです。バイト中にホームにいると駅名標が目の前にあるんですけど、ふと目をやったら、隣にあるものと目の前にあるもので文字が違うことに気が付いて。それから気になりだして、いろんな駅名標を見るようになりました。

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石川さん:最初は写真に撮ってはいなくて、記憶の中だけで「この駅名標は、このフォントだ!」と認識しておくだけでした。そのうち、同じフォントを使って自分のパソコンで再現をしたくなり、同じフォントを買い始めたんです。ひたすら、見つけた駅名標と同じ書体を買い集めて、自分のパソコンで作ってニヤニヤしてるっていう(笑)。

箱庭:面白いですね!デザインも昔からお好きだったんですか?

石川さん:デザインは、もともとちょっと好きでしたね。思い返してみると、昔マイラインというものがあったと思うんですが、当時KDDIがやっていたCMが好きだったんです。ゴシックの文字がバーンと出てくるのが、すごくかっこよくて。今思うと、そこからデザインとか、文字が好きになったのかな?と思います。

箱庭:なるほど。もともとデザインと鉄道が好きで、それが繋がったんですね!

最初はこんなこと(書籍化)になるなんて、全く想像していませんでした。

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箱庭:では、書籍を作ることになったきっかけは何かありますか?

石川さん:自分が集めた駅名標の写真とフォントを載せているWEBサイト「もじ急行」を見た出版社の方にお声掛けいただいたことがきっかけでした。もともと、集めた駅名標につかれているフォントのコレクションを載せるWEBを作りたいと、大学時代から思っていたんですが、重い腰を上げてやっと2016年に作ったのがこのサイトです。

もじ急行TOPページ(http://mojikyu.com/)
もじ急行TOPページ(http://mojikyu.com/

箱庭:もじ急行が書籍のきっかけだったんですね。

石川さん:もともと個人ブログのような感じで始めたものなので、特に使命感を持ってやっているわけではないんですが…。ひたすら好きな駅名標を写真でわーっと並べて、日記感覚で始めたようなものです。

箱庭:デザインが出来るからこそ、日記も素敵なサイトとして立ち上げることができちゃうんですね。それが、本出版につながったというのは素敵ですね。

石川さん:ほんと、大したことないです…!最初もじ急行を始めた頃は、これが本になることは全く想像していなくて。ここ一年の時間を本に割いてしまったことで、忙しくてもじ急行のサイトは一年間くらい更新していなくて…。今年は、なんかしようかなと思っているんですが。

でも、もじ鉄という言葉がこうして本になったり、NHKで取り上げられたりもされて、徐々に広まりつつあるのは嬉しいですね。

これまでにないジャンルの本だからこそ、最初は反応がこわかった

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箱庭:もじ鉄の本が出たことで、反響はありましたか?

石川さん:実は、凄く正直にいうと、発売後にSNS断ちをしたんです。

箱庭:え!普通は一番SNSを活発にするタイミングですよね?!

石川さん:発売までの告知はしていたんですが、発売日からはしばらくTwitterなどのSNSを一切見ないようにしました。反響がこわくて…(笑)。

しばらくしてから恐る恐る見てみたら、好意的な反応が多くて安心しました。こういうジャンルの本がこれまであまりなかったので、こんなに駅名標でフォントが様々あるということを知らなかった、面白い、というお声が多かったです。

鉄道関連では、確かに今までにはあまり無かったジャンルの本だと思います。デザインに関してだと、車両デザインなどのムック本はあると思うのですが、駅名標のフォントを集めたものは初めてだと思います。

箱庭:確かに、これまでの鉄道ファンのイメージとは全く違う本だと思いました。私も一般の方よりもちょっとだけ鉄道好きなんですけど、鉄道の世界って気軽に踏み込めない雰囲気もあって。そんな私でも手にとって鉄道を楽しめる本だ!って思いました。

石川さん:そうなっていれば、嬉しいです!

鉄道好きは、どこまでも。駅でのバイトから仕事へ行く“二足のわらじ”生活をしていたときも。

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箱庭:鉄道好きをWEBサイト、本にまでつなげた石川さんですが、お仕事はデザインのお仕事をされていますよね。鉄道好きとお仕事と“二足のわらじ”の生活もされていたとのことですが?

石川さん:社会人になって、最初はデザインの会社に入りましたが、すぐに辞めてしまったんです。その後、沖縄に2年間くらい移り住んでボーっとしていた時期があって。その後、また東京に戻って別の会社に入って、テレビ番組のロゴやテロップ、ポスターなどのデザインをやっていました。その仕事をしているうちに、だんだんと忙しくなって自分の趣味ができなくなってしまって。何かしたいなと思ったんです。

運よく、その会社が比較的自由な勤務体系だったので、思い切って、朝、駅でアルバイトしてから出勤することにしたんです。

箱庭:それは、まさに二足のわらじ!いくら好きと言っても、大変じゃなかったですか?

石川さん:むしろ、ずっと駅にいたい、と思っていましたね(笑)。そんなことを経て、もじ急行を始めたり、昨年からはフリーになったりしてデザインの仕事をしています。

箱庭:ずっと鉄道が好きで、それが力になっているんですね!

好きを継続し、力に変えながら目の前のことに取り組むことで、様々なことにチャレンジしてきている石川さん。恐縮しながらお話されていましたが、人が好きなことを語る姿って素敵だなと改めて感じさせてくれました。

続きは、後編で。書籍『もじ鉄』の撮影、執筆、デザインをすべてお一人で手掛けられた石川さんご本人に聞かなければ分からない、様々なこだわりポイントや、制作で大変だったことなどを伺います。これを聞けば、『もじ鉄』がもっと楽しくなる!

    『もじ鉄』著者/グラフィックデザイナー 石川祐基(いしかわ ゆうき)

    1987年、国鉄民営化翌日、東京生まれ。
    東京工芸大学芸術学部中退後、沖縄逃亡、アニメーション・デザイン制作会社を経て、2017年、デザイン急行株式会社設立。物心ついたときからの鉄道好きが高じて、大手私鉄2社で計9年間の駅員アルバイトを、学生時代はもちろん社会人になってからも本業の傍ら“二束のわらじ”で継続。2016年より、もじ鉄のための鉄道と文字のウェブマガジン「もじ急行」を制作・運営。

    ◆もじ急行 http://mojikyu.com/