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「もじ鉄」著者・石川祐基さんインタビュー|「二度と本は作らない」と思ってしまったほど、詰め込まれたこだわりとは?
前編に引き続き、全国の駅名標のフォントやデザインに注目した一冊『もじ鉄』著者であり、グラフィックデザイナーの石川祐基さんにお話を伺います。
子供の頃から鉄道が好き、そしてふと見たCMがきっかけで、文字やデザインも好きだった石川さん。鉄道好きが高じて駅でアルバイトをしていたときに、駅名標のフォントの違いに気付くことに。そこから駅名標のフォント収集を始め、集めたフォントや写真を詰め込んだWEBサイト「もじ急行」を立ち上げます。それがきっかけで出版社からお声がかかり、はじまった本の制作。今日は、本に詰め込まれた様々なこだわりについて伺いました。
文字数や写真の比率まで!こだわり抜いた本の制作とは?
箱庭:「もじ鉄」は全部お一人で作られたんですか?
石川祐基さん(以下、石川さん):はい、撮影も文章もデザインも、すべて自分でやりました。一年間のうちの2/3か3/4ほどを撮影に充ててしまったので、デザインの時間が少なくなってしまい、大変でしたね。他の仕事もしながらの作業でしたし、出来上がったときは「もう二度と作らない」と思いました(笑)。
箱庭:お一人で全部やったというのは、何かこだわりあってのことなのでしょうか?
石川さん:実は、写真の下のテキストを見ていただくと、全部きれいに写真の幅に収まるような文字数に収めているんです。それを人にお願いするのは大変というのもありましたし、もともと集めていた書体の環境を考えると、自分でやるのが良いかなと思ったんです。写真の縦横比も数種類しかないように全部統一しています。次もしやるなら、あまりそういうことはしないようにしよう、と思います(笑)。
箱庭:ほんとだ!全部文字数がきっちりですね。これは、聞かないと気づけないですが、全体の印象に繋がっていると思います。すごいこだわりが詰め込まれて生まれた本なんですね。
もっと、みんなが参加できるような雰囲気にしたかったんです。
箱庭:もじ急行のサイトデザインもですが、キャラクターがいたり、色の使い方だったり、デザインがかわいいなと思いました。
石川さん:キャラクターは、もじ急行を作ったときに考えたもので、「えきめいヒョウ」と言います。鉄道趣味の門戸を広げたくて、もっとみんなが参加できるような雰囲気にならないかなと思ったんです。女性の方にもっと見ていただけるサイトになって欲しいなと。
箱庭:実際女性も見たくなると思いますよ。えきめいヒョウがつぶやいている言葉もちょっとシュールで好きです。ちなみに、私はコラムもいいなと思いました。なかなか本題が始まらない感じがいいですよね。
石川さん:文章も自分で書くにあたって、最初は本だからしっかり書こうと思っていたんですよ。でも、最終的に時間がなかったので、自分で書きやすいテイストで書いていったら、今の雰囲気になってしまいました。デザインがぎりぎりになってしまったので、編集の方も修正の時間が無かったんだと思います(笑)。
箱庭:でもそれが良い方向に出ていると思います。コラムの内容も、「水曜どうでしょう」や「やまだかつてないテレビ」などが登場していて、ぐっときます(笑)。
石川さん:それに関しては、結構読む人を選ぶ内容にしてしまったので、知っている人じゃないと面白くないかな?と思います。もじ急行は若い方も読んでくれるんですが、たまに「ウインク知らない」と言われてしまったり。自分がテレビっ子で、ずっとテレビを見ていたので、それが出てしまうんですね。
箱庭:もじ鉄を好きになりそうな人が共感出来そうなニッチなところをついているような気がします!
箱庭:写真も素敵ですよね。写真はすべてご自身で撮影されているんですよね?
石川さん:完全に趣味でやっているだけなので、基礎的なことはよく分かっていないまま撮っています。鉄道しかとれないんです。人を撮るのは苦手で…。
駅名標を本格的にきれいに撮影し始めたのは、「もじ急行」を作るためだったのですが、本の出版が決まってからは、エリアが全国に広がったので、一年間かけて改めて撮影しに行ったんです。ただ、これまで撮影していた分もミラーレスで撮っていたものは、どうしてもフルサイズで撮りたくてもう一回撮りにいきました。結局、今回の本のために2000枚以上の写真を撮りました。
一番大きい200ミリのレンズは駅名標を撮ると、背景がボケてすごくいいんです
箱庭:そこもやはり、すごいこだわってますね。カメラセットが気になります!!
石川さん:撮影に使ったカメラとレンズがこちらです。良く持ち歩いていたのが、この4点セット。これを持って旅するので、もう肩が大変なことになりました(笑)。
この一番大きい200ミリのレンズは駅名標を撮ると、背景がボケてすごくいいんです。レンズのゆがみも出ないので。その他の2つは単焦点レンズです。先ほどのももと使い分けて撮っているんですが、狭いホームで望遠が使えなかったりすると、こちらのレンズで。近くでの撮影は、どうしてもズームより単焦点で撮りたくて。
箱庭:撮っていく中で、これは大変だった!ということはありますか?
石川さん:ローカル線の撮影が殆どだったんですが、山形鉄道に行ったときが、ちょうど猛暑の時期で。山形って、意外と夏がアツいんです。しかもこの夏一番の暑さで、撮影に行った日の最高気温が38度くらい。そんな中、一時間に一本しかないローカル線は、一度降りてしまうと駅舎も駅の周りも涼める場所が無くて。それが大変でしたね。一度降りると予定が上手くいかない駅なんかは、走行中の車内から連写で撮ったものもあります。
箱庭:残念ながら写真にはその暑さは出ていませんが…。ひとつひとつ重たいカメラを持って過酷な状況で撮られたと思うと、また見方が変わってきますね。
電車通勤している方が読んでくれたら、つらい通勤もちょっとだけ楽しいものになるのかな
箱庭:どんな方に手にとって欲しいですか?
石川さん:自己満足で作った本なので、出して満足しちゃった部分は正直あるんです。でも、駅っていつも使っているものじゃないですか。すごく見慣れた景色だけど、よく見てみると意外とレアなものが残っていたり、ここ交換したんだ!というような発見があったりするんです。電車通勤している方が読んでくれたら、つらい通勤もちょっとだけ楽しいものになるのかな、なんて思います。
箱庭:日常に楽しみを見つけるって、いいですね。これから何かしたいことはありますか?
石川さん:あんまり考えていないんですが…。撮り鉄なので、車両の写真もたくさん集めているんですが、それは他の人がやっているので、自分の趣味だけでいいかな。
ちょっといいかなと思っているのは、ご当地駅名標が全国にいろいろとあるので、それを集めたら楽しいかもしれないです。今どんどん増えているので。
とても恥ずかしそうにされながらも、いろいろとお話をお聞かせくださった石川さん。これからも、何かふとしたきっかけで、面白いことを見つけていかれるんだろうなと、これからの活動にも注目していきたいくなりました。そして、こだわり抜く情熱を注げるような好きなモノ・コトがあるって、すごく素敵なことだなぁと改めて感じたインタビューでした。
鉄道マニア界に、新しい風を吹かせてくれている、もじ鉄の世界。みなさんも、ぜひ書籍『もじ鉄』やWEBサイト「もじ急行」を覗いてみてくださいね。
『もじ鉄』著者/グラフィックデザイナー 石川祐基(いしかわ ゆうき)
1987年、国鉄民営化翌日、東京生まれ。
東京工芸大学芸術学部中退後、沖縄逃亡、アニメーション・デザイン制作会社を経て、2017年、デザイン急行株式会社設立。物心ついたときからの鉄道好きが高じて、大手私鉄2社で計9年間の駅員アルバイトを、学生時代はもちろん社会人になってからも本業の傍ら“二束のわらじ”で継続。2016年より、もじ鉄のための鉄道と文字のウェブマガジン「もじ急行」を制作・運営。
もじ急行 http://mojikyu.com/
もじ鉄 書体で読み解く日本全国全鉄道の駅名標
著者:石川祐基
定価:1,836円(本体1,700円 + 税)
版型:A5判 並製
ISBN:978-4-86673-022-6
発売日:2017/12/23
出版社:三才ブックス