映画『猫は抱くもの』犬童一心監督インタビュー

こんにちは。あいぽんです。

いきなりですが、猫は好きですか?あのツンデレな感じに癒やされたり、気ままな感じに憧れたり。猫ってかわいいですよね〜。

映画『猫は抱くもの』犬童一心監督インタビュー

もうすぐ猫が重要な存在として登場する映画が公開されます。その名も『猫は抱くもの』。『グーグーだって猫である』など、これまでも猫が登場する映画を作られてきており、ご自身も10年以上猫と暮らしているという犬童一心監督の最新作です。

元アイドルの沙織(沢尻エリカ)と猫の交流を描いた本作。なんと、沙織がかわいがるロシアンブルーを演じるのは、吉沢亮さん!

映画『猫は抱くもの』犬童一心監督インタビュー

猫を擬人化するという、今までに見たことのないような演出で猫を描いた映画『猫は抱くもの』の制作秘話について、犬童監督にお話を伺ってきました。

 

猫の擬人化というところからスタートした『猫は抱くもの』

−今回、大山純子さんの『猫は抱くもの』が原作ということですが、映画を撮ることになったきっかけを教えてください。

犬童監督:プロデューサーの菅野さんが、もともと僕の過去作である『グーグーだって猫である』のドラマと映画を観てくださっていて、原作を渡されたのが最初です。

大山さんの原作の小説は、ストーリーのあるものではないので、正直最初は「難しいかな?」と思ったんですけど、逆にアレンジする自由度が高いかもしれないとも思ったんです。

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−なるほど。『グーグーだって猫である』のイメージからか、犬童監督というと猫を撮っている監督というイメージがありました。監督も猫を飼ってらっしゃるんですよね?

犬童監督:『メゾン・ド・ヒミコ』の撮影中に見つけた猫を飼っています。撮影中に大きな台風が来て、そのときに撮影現場のホテルの外にずぶ濡れの子猫が1匹いたんです。それがあまりにもかわいそうだったので、妻が中に入れてあげて、そのまま飼うことにしました。

そのときにはもう、映画版の『グーグーだって猫である』を作ると決まっていたこともあり、1度猫を飼ってみてもいいかなと思っていたので、ちょうどいいと思い飼い始めました。それまでは僕も妻も猫を飼ったことがなかったので、それがはじめてです。

−飼ってみてどうでしたか?

犬童監督:もちろんかわいいというのはありますが、映画の『グーグーだって猫である』を撮っていたということもあり、「猫がいるということ」がどういうことなのかを考えるようになりましたね。最初に映画を撮っていたときは、物語の中に猫をどういう存在で置くのかというのが難しい部分でもあったんです。

僕は原作の大島弓子さんのファンでしたし、本も読んでいましたが、映画にするには難しい作品で…。

猫の置き方をどう設定するかという部分に悩みました。でも映画を撮り終わったあとに、自分の中で猫がいる意味というか、猫をどういう風に置くと人との関係を描きやすいかが見えてきて。そのあとのドラマ版のときには、猫をどのように置くかというのが、最初からすごく明確になっていましたね。今はその延長線上にいる感じです。

−そうなんですね。今回は、その猫を擬人化するという方法を取られていますよね。

犬童監督:猫の擬人化というのは、『グーグーだって猫である』の映画のときに大後寿々花さんで1度やっていて、ドラマ版のときには前田敦子さんの話でもやっているので、今回で3回目なんです。

猫捨て橋のシーンがあったので、この原作なら擬人化を推して作れるなと思ったんですよね。なので、今回は“猫の擬人化”に重心を置いて作ったらどうだろう?というところからシナリオを作っていきました。人間と猫の関係だけじゃなくて、猫を擬人化するというギミックがおもしろいんじゃないかというのが、この原作で映画を撮ろうと思ったきっかけですね。

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−では、かなり初期から猫の擬人化は頭の中にあったという…?

犬童監督:はじめのときからですね。擬人化するという前提ですべてはじめているので。あとはどうやって見せるか?ということを考えていく感じでしたね。

−そうなんですね。キャスティングのときも猫を演じてもらうというところで決めていったということですよね?吉沢さんの動きや表情が本当に猫のように見えました。

犬童監督:そうですね。吉沢さんはロシアンブルーの役なので、見た目、表情、顔の輪郭など肉体も含めて、ロシアンブルーの感じが出る人ということでキャスティングをしていて。最初に吉沢さんがいいんじゃないか?といったのはプロデューサーの菅野さんです。それで、確かにそうだなと思って、お願いしたらすぐにOKいただけたので、ロシアンブルーはあまり悩みませんでした。

他の猫捨て橋の猫の役を演じてもらう人については、各事務所にオーディション参加の募集をかけたら、応募が600人くらい来たんです。そこから選んだんですけど、どうしてもうまくハマらない役があって…。なので、『水曜どうでしょう』のディレクター藤村さんと蜷川幸雄さんの劇団にいた内田さんに関しては、指名させてもらいました。前から知っていたので、2人ならこのキャラクターができるなって想像できましたから。

藤村さんに関しては、演技を知っていたわけではありませんが、『水曜どうでしょう』を見ていて、ご本人のことも知っていたので、彼ならできるなんじゃないか…と思ったんですよね。内田さんは蜷川さんのお芝居を観に行ったときにすごく変わった役を演られていて、その演技がすごく記憶に残っていました。知る人ぞ知る俳優さんではありますが、いつか出て欲しいと思っていた役者さんです。内田さんが演じたら絶対おもしろくなると思ったんですよね。

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−恐らく多くの方々が猫を演じるのははじめてですよね?

犬童監督:猫を演じたことのある人っていたのかな?いないんじゃないかな。

−そうですよね。猫を演じてもらう上で、気をつけてもらったことやアドバイスしたことはありますか?

犬童監督:最初に「“猫”っぽくしなくていい」というのは、伝えましたね。“猫”っぽくしなきゃと思うと、四つん這いで…となると思うんですよ。「“猫”だ」って思ってなってしまうのであればいいけれど、「“猫”にならなきゃ」と思って、そうなるのはやめたほうがいいと思ったんです。あくまでも、擬人化された猫の役なので、擬人化されたキャラクターがどういう人なのかというのをまず考えてもらって。だから、普通に歩いてセリフを言ったほうがいいのであれば、それでいいと思ったんです。

基本的にはそれで演じてもらいながら、何かのリアクションのときに猫的な動きだったり、反応が出ちゃうのであればそれでいいという風に進めました。「しなきゃ、しなきゃ」と思って演らないほうがいいので。

今回、リハーサルに2週間以上かけたんですけど、リハーサルを重ねて全部の演技ができた最後の段階で、いつも振り付けをお願いしている振り付け師の香瑠鼓さんにその演技を見てもらい、猫的な要素をプラスしてもらいました。

香瑠鼓さんには芝居やそこまでの過程を見ていない状態で、「彼らの演技を“猫”に見せるにはどうしたらいいか」だけを考えてもらったんです。演技をみながら、1日中猫の動きを加えるということをしましたね。

最後に香瑠鼓さんに“猫”を入れてもらうまでは、“猫”を演じるということは意識しないで演じてもらっていました。

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−あくまでも擬人化した猫だからということですね。おもしろいですね。

犬童監督:吉沢くんは少し違いましたけどね。吉沢くんが演じたロシアンブルーには僕の飼っている猫との関係性を反映していて、「こうしたら、こういう反応する。こんな動きをする」というのを吉沢くんに伝えていきましたね。吉沢くんは猫を飼ったことがないので。

僕はもう13年間猫と暮らしているので、その中で見た猫の動きや仕草、リアクションをずっと吉沢くんに話していましたね。彼はそれを取り込んで演じてくれました。

 

作品には何かしらの新鮮さを加える

−リハーサルに2週間かけたり、演出の中でも劇場が登場したり、役者さんが1人2役演じたり、映画ですが舞台っぽいのかな?と思ったんですけど…

犬童監督:そうですね。舞台のやり方を映画に使っていますね。劇場での演出を入れたのは、もともと擬人化した猫が出てくることが決まっていたので、猫捨て橋のシーンを普通に橋の下で演じてもらったら…と想像したら、単純につまらないと思ったんです。嘘とわかるけどリアルさもある巨大な橋のセットを作って…とも考えたんですけど、予算もかかるし、それはそれである意味普通じゃないですか。もっと何かおもしろいことができないかと考えて、「劇場で撮ったらどうか」ということを提案したんです。とにかくおもしろいほうがいいということですね。

スタッフもおなじみのメンバーが多いので。こういう脚本でこの期間でこの映画を撮るとなったときに、どこかに新鮮さがないと僕もスタッフもテンションが上がらないんですよね。今までにやったことのないことで、おもしろいことを加えると、みんなが全力を出さないと作れないものになるんです。もちろん作品と合うものでなくてはいけませんが。

−なるほど!新しいことに挑戦するためと!

犬童監督:そう。僕の場合、音楽とか振り付けとかはものすごくたくさん取り入れるので、それが大変だということはいつも一緒にやっているスタッフはわかっているんですよ。でも、それだけじゃない新鮮さが、作り手には必要なんですよね。もっと言うと、演じる方にもそういう新鮮さがあったほうがいいんじゃないかなと思っています。

この内容のことを普通のやり方でやるとなると、今回参加してくれた実力のある俳優さんたちからしたら計算がつきすぎてしまう。それをやったことのない方法でやるとなると、どれくらいの感じで演じたらいいんだろう?というところからはじまりますからね。

このシーンは外でロケして、このシーンは舞台でやるというのが映画ではつながるじゃないですか。そこに猫もいて、ここではそれが人間になっていてという風に、やったことがないことを加えていくことの中で、ワクワクしたり、不安になったりして。そういうものがあったほうが演じる方にとってもおもしろいかなと。

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−観る側にとっても、想像できないシーンの連続で、新鮮な気持ちになりました。

犬童監督:ウェルメイドでおもしろく作る仕事ももちろんやりますよ。そのときも何かエッセンスは加えますが。

今回の場合は、原作がそういう風にできていないので。それをもっと違うところにシフトしていくときに、もっと新鮮な映画にするためにということでとった手段です。

−その新しい要素を取り入れるというのは、どういうところからインスピレーションを受けることが多いのでしょうか?

犬童監督:元を正すと結構事務的です。今回のストーリーでは、こういうことができるから、その中で新鮮なことを…と考えるので、どこかクールに考えているかもしれませんね。「どうしてもこうしたいんだ!」というのとは、少し違いますね。

もちろん映画自体が好きなので、おもしろい映画を作ることで自分のちからを試したいという気持ちもあって。そういうときでも破綻すると困るので、ある程度の算段はありつつ、探りながらやらないとできないような部分を残すようにはしています。

今回は、ウェルメイドではないおもしろさを追求すると決めていて、その場合はこうやって新鮮さを作っていくしかないという風に決めていくので、そこは結構事務的なんですよね。

−今回の劇場の上での演技を撮るという演出はどのように誕生したのでしょうか?

犬童監督:舞台を撮ってみたいという思いはずっとあったんです。もともと能や狂言が好きで、いつか能を撮影してみたいと思っていて。映画館などでの舞台の中継を観ていると、「僕なら舞台をこうは撮らない」といつも感じていたんですよね。もっと主観的に、もっと映画みたいに舞台を撮れたらどうだろう?というのを考えていたので。

舞台の映画を単なる舞台中継にしない方法で、だけどあくまでも舞台だということを担保されている撮り方をやってみたいと思っていたんです。要するにカメラと劇場との距離だと思うんですけど、ただの舞台中継ではないし、映画のモンタージュでもないという新しい距離感を試してみたい気持ちがありました。

今回はゴッホ(峯田和伸)が絵を描きはじめるまで、カメラは劇場に上がっておらず、外から望遠レンズで撮っています。絵を描き始めてから初めてカメラは劇場に上がり、自由に寄って撮っているんですよ。それは最初から決めていました。ゴッホが絵を描き始めたら映画のモンタージュになってもいいと。それまでは劇場のシーンはすべて舞台中継の撮り方で、あくまでも劇場には上がらずに撮る、と。

映画『猫は抱くもの』犬童一心監督インタビュー

−そうだったんですね。でも、だからかあの絵を描き始めるシーンから何かが切り替わったような感じはしました。

犬童監督:この距離感を最初に発見したのは、『てなもんや三度笠』という、昭和に関西で絶大な人気を誇っていた舞台中継の番組なんです。藤田まことさんが出演していて、当時視聴率は40%くらいありました。『てなもんや三度笠』の映像を見直したときに、すごく不思議な感覚があって。お客さんの声が入っているし、間違いなく舞台の中継なのに、カメラが舞台のそばにあるんですよね。普通、中継は遠くで撮るので、どうなっているのか不思議でしょうがなくて…。

ご縁があってディレクターの澤田隆治さんにお話を伺うことができたので、聞いてみたら、舞台の上にカメラをのせていたというんですよね。要はお客さんと舞台の間にカメラがあるので、お客さんから舞台は、全部は見えておらず隙間から見る感じです。この距離感なので、カメラには一切お客さんは映っていません。

これが僕の中ですごく不思議な映像として残っていて、『てなもんや三度笠』のような映像が撮れたらいいなという想いはありましたね。そういう過去に観たものや衝撃を受けたものが集約されています。

−犬童監督が映画を作っていて、一番楽しいのはどういう瞬間ですか?

犬童監督:いっぱいあるけど、演じている人の演技が予想以上に膨らんでおもしろくなるときですかね。脚本をおもしろくするということを考えながらも、実際に現場で演じてもらうときにその人を活かすことをとくにかく考えて演出を付けていきます。基本的にキャスティングから演出ではあるんですが。

すごく感動的なシーンがあると、みんな「いいシーンだったね!」って褒めてくれるんですけど、それだけが僕のうれしい瞬間ではないんですよね。なんでもないようなシーンでも、それがものすごくうまくいっていることもある。そういうときのほうがうれしかったりします。いろんなことを積み上げてきて、現場でカメラの前で思った以上のことが起こるときはうれしい瞬間ですよね。

犬童監督ありがとうございました!

猫の擬人化や舞台装置の撮影方法など、新しい演出方法にも注目の『猫は抱くもの』。ぜひ、劇場でご覧ください〜!

  • 映画『猫は抱くもの

  • こじらせた1人と1匹の妄想が、自分らしい幸せに気付かせてくれる―
  • 思った通りの自分になれなくて、いつしか投げやりな生き方に慣れてしまった沙織(沢尻エリカ)。元アイドルのアラサーで、今はスーパーで働く彼女が心を開くのは、こっそり飼っている、ロシアンブルーの猫・良男(吉沢亮)だけ。今日いちにちの出来事を、妄想を交えつつ良男に話して聞かせる沙織。沙織の心に寄り添ううち、良男は自分が沙織の人間の恋人で、彼女を守れるのは自分だけだと思い込んでしまう。そんなある日、沙織の前に“ゴッホ”と呼ばれる売れない画家・後藤保(峯田和伸)が現れ、良男は沙織の変化を目の当たりにする。ある晩、良男は月に誘われるように外の世界に飛び出し、迷子になってしまい…。ゴッホや、ゴッホを慕う猫・キイロ(コムアイ)、個性豊かな猫たちとの出逢いを通じて、1人と1匹は、自分らしく生きるすべを見つけていく。
  • うまくいかないことの輝き。置いてけぼりをくらっている時間の豊かさ・・・。灰色の日常がカラフルに輝きはじめる、心温まる物語。
  • 監督:犬童一心 原作:大山淳子『猫は抱くもの』(キノブックス刊)脚本:高田亮 音楽:水曜日のカンパネラ
  • 沢尻エリカ / 吉沢亮 峯田和伸 コムアイ(水曜日のカンパネラ) / 岩松了
  • 藤村忠寿 内田健司 久場雄太 今井久美子 小林涼子 林田岬優 木下愛華 蒔田彩珠
  • 伊藤ゆみ 佐藤乃莉 末永百合恵 / 柿澤勇人
  • 企画製作・配給:キノフィルムズ 制作プロダクション:ADKアーツ
  • 2018年/日本/カラー/ビスタ/DCP5.1ch/109分 ©2018「猫は抱くもの」製作委員会 nekodaku.jp
  • 6月23日(土) 新宿ピカデリー他、全国ロードショー!