CREATOR クリエイティブなヒト
根底にあるのは平和。「佐原張子」の作り手・鎌田さんが作品に込める想い
こんにちは、シオリです。
前回は、佐原張子の作り手・鎌田芳朗さんが初となる東京での個展を開催されたときの様子をお届けしました。今日は、その後編です。
最初はお祖父さんの作っていたダルマや亀車から作り始めた鎌田さんでしたが、デパートの催事へ参加したことがきっかけで縁起物を始めとする多岐に渡る作品を作り始め、その後ご自身の作風から想起した新たなテーマにも取り組み、作品の幅を広げてきました。
個展会場で、作品についてのお話をお伺いしていると、自然と作品に込める“想い”にも触れることに。ぜひ、これはみなさんにもお伝えしたい!と思い、今日はその内容をお届けしていくことにしました。
自身の作風から発想。童謡の世界をかたちに
鎌田さんは、長年の創作の中で童謡をモチーフにした作品も手掛けられています。個展会場にも、たくさんの作品が並んでいました。こうした作品は、佐原張子を始めたお祖父さんは作っていなかったものです。鎌田さんが作り始めた理由は、ご自身の不器用さにあったんだとか。
鎌田さん「福島県の三春というところにデコ屋敷といって、人形を作っている里があるんですけど、そこの人形を見るたびに私落ち込んじゃうんですよ。あまりにも綺麗に出来ていて。でもそのうち、これはこれ、私は私って開き直っちゃったのよ。そしたら気が楽になって。不器用さっていうのが郷土玩具には良かったのかもね。ちょっと直してやりたいなっていう気持ちが出るみたい。あまりきっちりしないのが私にはあってたみたいね。
それでね、私の張子は童謡、わらべうた、唱歌、の中の模様を作らせるのにぴったりじゃないかと思って。なんとかしてこの童謡の張子を作りたいと、始めたんですよ。人形の背景の部分はデザイナーの林さんにやってもらって。私は何にも言わないで主題を伝えると、背景をああいうふうに作ってくれるの。」
確かに、鎌田さんの作品はなんとも言えない愛らしさを持っています。整ってはいないけれど、それぞれに表情があり「この子は甘えんぼかな」「こっちは恥ずかしがり屋?」なんて、想像してしまうのです。その味を上手く生かした作品は、童謡の持つあたたかさを見事に表現していました。
人間の原点を思い出してもらいたい
また、童謡をテーマにした作品に込められた想いも聞かせてくださいました。
鎌田さん「肩たたき、ないしょばなし、やさしいおかあさまの3つが、お母さん三部作なんですよ。こういう歌が流行っている頃は、親の手によって子供が命を落としたり、その逆の事件があったりする今のような風潮はほとんどなかったんだよ。これをみんなに見てもらって、もう少し平和にね。そういう世の中になって欲しいと思ってね、今度、童謡をみんなで歌ってもらうの。」
ちょうど私が展示におじゃました翌日に、100人が集まって童謡を歌うイベントが予定されていました。鎌田さんは佐原で絵付け体験などのイベントをするときにも、決まって最後にみんなで童謡を歌うそう。今の子供たちは歌えないのでは?と思ってしまいますが「私がリードすれば必ず歌うんです」と笑顔でおっしゃっていました。
今後、田植えや稲刈りなどの日本の原風景を作品にしていきたいとおっしゃる鎌田さん。機械やITに頼りがちな今、人間の原点を忘れないで欲しいという想いがあるそう。それは、最近のご自身の体験にもあったそうです。
鎌田さん「今年の初めに携帯を持ったの。そしたらね、急に病気になっちゃって。親戚にかけようとしたけど通じなくて、結局偶然来た近所の人に助けてもらって。だから、あんまり機械化ばっかり進んじゃうと、やっぱりどっかで元に戻そうとするんじゃないかな。
子供のいじめも、同じこと。とにかく勉強勉強だし、自分さえよければっていう自由競争の時代だからね。その競争そのものはひとつも否定しないんだけど、やっぱり人を押しのけたり踏みつけるようにしたりして、自分だけ行くっていうことはちょっとあんまりっていうことでね。」
“平和”という言葉を聞くとき、世界の問題に関わるような、どこか自分とかけ離れた次元のことだよなと感じてしまうこともあります。でも、鎌田さんの言葉から聞こえる平和は、もっともっと日常の平和。毎日の身の回りにある平和なのです。こんな、心温まるエピソードも。
鎌田さん「子供らが時々うちへ見学に来るんですよ。そのあと感想文を書いてきてくれるんだけど、その感想文を初めてみたときは本当に泣けちゃった。小学校5年生の子が、『最初は張子なんか見たって何の役に立つかなと思っていたけど、鎌田さんの作る張子の優しさを見て、先生方はこの優しさを私たちに見せたかったのかなと思いました。』と書いてくれたんですよ。」
これを聞いて、私もちょっとうるっとしてしまいました。確実に鎌田さんの想いは伝わっているんですね。こうした小さなひとつひとつの優しい気持ちが、大きな平和に繋がって欲しいなと心から思います。
戦争を体験したからこそ、平和を願う気持ちが根底に流れている
今年83歳となる鎌田さん。今でも深く心に刻まれているのは、小学生の頃に体験した戦争のこと。最後に、張子づくりに込める一番の想いを改めて聞かせてくださいました。
鎌田さん「人形に対する想いは“平和”。一番は平和なんですよ。小さい頃に戦争を体験しているわけね。結核を患って寝ていた父親が召集されて、親戚や近所の人が軍歌を歌いながら佐原の駅に送りにいくわけですよ。病人で国に貢献できないと分かりながら、汽車から手を振っていた父親の情けない顔っていうのはね、今でも覚えているんですよ。
戦争があるからこんな風になっちゃったということも見てきた。人間の気持ちっていうのは戦争でこんなに変わってしまう。だからもう絶対に戦争はダメだと。今が平和でなきゃいけないっていうことが、この人形に自然に込められている。だからそれを感じ取ってもらえれば嬉しいんです。」
これまでよりも、力強い言葉でお話してくださった様子が印象的でした。
こちらは、私が最後に購入したネズミの兄弟(と勝手に思っています)。ちょっと怒っているともとれる表情に目を離せなくなってしまい、連れて帰ることに決めました。玄関に飾って毎日癒されています。
緻密にマーケティングされてデザインされる今の製品はどれもかっこいいし大好きだけど、佐原張子を見ると、どこかホッとする気持ちがじんわりと広がってくるような気がします。強く平和を願う気持ちが込められた、鎌田さんの佐原張子。ぜひこれからも、多くの方にその魅力を感じていただきたいです。
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◆お話を伺った方
鎌田芳朗
佐原張子の作り手。「三浦屋」三代目。
佐原張り子 三浦屋
住所:千葉県香取市佐原イ1978
電話:0478-54-2039 鎌田芳朗方
営業時間:9時~18時 不定休
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