CREATOR クリエイティブなヒト
イラストレーター須山奈津希さんインタビュー│20代半ばから始まったイラストの道。クラウドファンディングで初の長編コミック発刊に挑戦!
今回お話を伺ったのは、イラストレーターの須山 奈津希(すやま なつき)さん。
須山さんは2006年にイラストレーターとしての活動をはじめてから、書籍や雑誌を中心としたイラストを手がけるほか、個人の制作としてZINEや漫画作品の制作にも取り組まれています。
最近では、スピッツ『ヘビーメロウ』のMVでアニメーションのイラストや、ロングセラー書籍「10年後の仕事図鑑」の中面イラストを担当されるなど活躍の幅は広く、箱庭読者のみなさんもきっと一度は須山さんのイラストを見たことがあるのではないでしょうか?
そんな須山さんが今回、初の長編コミック作品発刊をクラウドファンディングで目指すということで、そのプロジェクトや須山さんご自身についてなど、色々お話をうかがってみました!
ひょんなことから歩み始めた、イラストレーターへの道。
様々なお仕事やご自身の創作活動でご活躍中の須山さんですが、どのようにして今のお仕事に就くことになったのでしょうか?まずはイラストレーターになったきっかけを伺ってみました。
須山さん「実は就職活動がうまく行かず仕事をハローワークで探していた時に、アルバイトとしてデザイン事務所に常駐しているイラストレーターのお手伝いをすることになったことがきっかけなんです。入って三日目ぐらいで突然イラストレーターにならないか?と言われて。
絵を描くことが嫌いというわけではなかったんですけど、20代半ばまでまったく絵を描いたことがなくて、もちろん本格的な絵の勉強をしたこともなくて…。私もまさか自分がイラストレーターになるとは思っていませんでしたね(笑)。」
予想外なきっかけで、インタビューのはじめからびっくり!
半ば強制的にイラストを描くことになった須山さんですが、そこから一人前のイラストレーターになるために、どのようなことをされていたのでしょうか?
須山さん「お手伝いをしている合間に練習して、それを見てもらう、という期間を半年くらい続けていました。すると今後は自分の作品を持って1ヶ月に30件を目標に出版社へ営業に行きなさいと言われて。当時の営業先の方に後から話を聞くと、『本当に下手な絵でどうしようかと思った…。』と言われてしまうほどの作品をお見せしていたいみたいです(笑)。」
バイト代をもらいながら教えてもらうという特殊な環境でスパルタな指導を受け、イラストレーターの道を歩んでいった須山さん。
当時は言われたこと一つ一つをこなせなくて大変だったそうですが、デザイン事務所の代表と師匠であるイラストレーターが、最初から独立して活動できるようになるようにと見返りを求めずたくさんの時間と労力を割いて育ててくださったことを感謝しているそうです。
では、須山さんはゼロからイラストレーターの道を歩み始め、どうやって活動の場を広げていったのでしょうか?
須山さん「貴重なお時間を割いてくださった営業先の方へお礼のお手紙や年賀状をお送りしていたら、何年も経ってから思い出してくださってお仕事に繋がった、っていうご縁が多いですね。真面目にやろうという気持ちはあったので、まわりの方が気にかけて『小さなカットだけどやってみない?』と声をかけてくださり、今に至る感じです。」
大変ながらもその状況に真摯に向き合い取り組んでいた須山さんだからこそ、お仕事に繋げていけたんだなぁと感じました。
絵が描けないつらさを乗り越え辿り着いた、自分なりのスタイル。
(2016年11月、BLICKLANEでの展示に出展した作品「レモンの」。)
見る人の心にそっと触れるような線のタッチがとても魅力的な須山さんのイラスト。いろんな作品を見ても、どこか須山さんらしさを感じますが、今の作風に辿り着いたのはなんとここ2、3年くらいのことだそう。お仕事として絵を描くことを始めたこともあり、悩み苦しむ時期が長かったようです。
須山さん「イラストレーターとして活動したての頃は、教えてもらっていたイラストレーターの絵の真似をしていて、途中で『そっくりな絵を描いていてどうするんだ!』と思うこともあったんですけど、どういう風に描けばいいのか分からず、ずっと悩んでいました。」
そのつらさは「絵が描けない」とGoogle検索してしまったことがあるほどだったのだとか!それでも途中で投げ出すことなく、目の前の一つ一つのお仕事に取り組んでいった須山さん。徐々にご自身の作品のスタイルを見つけ、絵を描くことを楽しめるようになっていったそうです。
須山さんは線画だけでなく絵の具を使ったイラストや、漫画、アニメーションなど表現方法が幅広く、それらはどれもアナログで制作してます。普段須山さんはどんなアイテムを使って絵を描いているんだろう?と気になったので、実際に使っている文房具を見せていただきました!
(須山さんが普段イラストを描く時に使用している文房具。)
須山さん「タブレットとどうも相性が良くなかったようで、アナログでイラストを描くことが多く、色だけスキャンしてパソコンでつけています。
鉛筆は削らなきゃいけないんで(笑)、イラストはほとんど0.9~1.2とかの太めのシャープペンシルで描いています。シャープペンシルは3本ありますが、線を描き分けているわけではなく、感覚的に持ち替えたいなと思ったときに、別のものに変えるという使い方をしています。」
須山さんの手書きのあたたかさがありながらすっきりとした線は、シャープペンシルから生まれていたのですね!ちなみに紙は世界堂で売っているサラサラなものを使うというこだわりがあるそうですよ。
条件のなかで自由に楽しく描く!自分の作品づくりに正直であることを大切に。
須山さんは、お仕事のイラスト制作で活躍する一方で、個人でZINEや漫画作品の制作にも取り組んでいらっしゃいます。作品づくりは制限があった方が面白いそうで、自主制作においても自分であえて条件をつくって楽しむように心がけているんだとか。
かつてはお仕事と自主制作で描くイラストが大きく異なる時期があったものの、今ではあまり区別をせずに描けるようになったとおっしゃる須山さん。イラストを描くうえで大切にしていることはなんですか?と聞いてみました。
須山さん「なるべく自分に正直になろう!って思っていて、お仕事でも自主制作でも、あとでこれを描いたって言えないようなことはやらないようにしようという気持ちがあります。やりつくせなかったり、時間に負けてしまったりっていう過去があったから、後ろめたさみたいなものは無いようにしたいんです。」
須山さんの言葉には、一人のイラストレーターとして強い気持ちを持って活動しているんだと感じる熱量がありました。
自分の考えを整理するために始めた漫画制作
(左から「all that is beautiful」(2016年発表)、「monochrome」(2017年発表)。)
須山さんはこれまでに「all that is beautiful」と「monochrome」という2冊の短編漫画集をHIROI Publishingのメンバーでもある企画編集者の安永哲郎との共著で出版しています。どちらも今回のクラウドファンディングのサポートをしているHIROI Publishingが運営していたKnot Gallery(2018年2月閉業)で展示を開いた時、絵のテーマについての考えを整理するために描いた漫画をまとめたものなんだとか。
一作目の「all that is beautiful」は“ポートレート”をテーマに、須山さんのまわりの人たちとのエピソードが描かれています。そして二作目の「monochrome」は、一作目を読んだ方や展示を見た方に「須山さんが出てこないんだね。」と言われハッとし、次は自分のことも描いてみようと思い制作したそう。
須山さん「『monochrome』も一作目と同様にまわりの人のことを描いているんですけど、私が身体性について気になっていた時期だったこともあり、体がないと人に触れることはできないということや、まわりの人と自分が関わっている部分ってなんだろうとか、そういうことを絵で描いてみようと思って作りました。」
初の長編コミック作品発刊を目指し、クラウドファンディングに挑戦!
二冊の短編漫画集を作っていくうちに、時間を長くかけてお話を描いてみたいという想いがわいてきた須山さんは、現在三作目であり初の長編作品の「memorandum(メモランダム)」を制作中です。
この作品のテーマは、“人は誰しも、過去の記憶や体験のかけらをつなぎ合わせ、結び付けながら、今を生きている” 。
「自分の身近じゃないことが分からないし、語れない。大きなテーマまで辿り着けないので、まわりのことを覚えておきたい気持ちが強いです。」と話す須山さん。今作でインスピレーションをうけたのは、やはり須山さんにとって身近であるおばあちゃんの存在でした。
須山さん「祖母の話を聞いていると、話がどんどん変わっていくことがあって、記憶って断片的なもので解釈によって事実もそれぞれ違うんだなぁ、記憶はずっとつかめないものなんだろうなぁって思って。そういうことを描いてみたいって思いました。」
(「memorandum」のラフ画像)
そして今作を制作するにあたり、発刊を目指すクラウドファンディングのプロジェクトがHIROI Publishing のサポートのもと8月6日にスタート。初めての試みに戸惑うことも多かったそうですが、初めてだからこその発見もあったのだとか。
須山さん「パトロンになってくださった方の実名はサイト上では表示されないんですけど、いつも応援してくださっている方だとアカウント名でこの方かなって思い浮かぶんです。その方に個人的にお礼を伝えると、『応援できることが嬉しい。』って言ってくださって、はじめはクラウドファンディングでお金を出していただくことに抵抗があったんですけど、本当にありがたいなぁと思いました。」
自分の作品の完成を待ってくれている人がいる喜び
(今回クラウドファンディングのために新たに描き下ろした作品「サマータイム」)
実はこちらのプロジェクト、インタビューをさせていただいた時点ですでに目標の64%に到達しており、8月23日には見事目標達成!須山さんは初の長編作品「memorandum」を発刊することが決定しました。おめでとうございます!
HIROI PublishingやCAMPFIREの方々が須山さんを全力でサポートし、プロジェクトページの作成やリターンの内容についてのエピソードを色々聞いていたので、目標達成を知った時は私もとても嬉しく思いました!目標達成後も引き続き支援は募集中ですが、今回の目標達成をうけて応援した方へのメッセージをいただきました。
須山さん「たくさんの方が応援してくださっているおかげで本づくりのスタートが切れることになりました。ありがとうございます。
これまでの制作では作品を完成させるまでのことだけ考えていたのですが、作品づくりの途中を応援していただけるのはドキドキするけど本当に嬉しいなぁと思います。読んでくださる人がいることが分かっているって、そんな嬉しいゴールはないですよね。まだ描いている途中でプレッシャーもありますが、完成まで待っていていただければと思います!」
インタビューの最後、今後の目標について伺ってみると、「自分なりのペースでずっと描き続けていきたい。そしてそこでたくさん出会いがあったらなぁと思います。」とおっしゃっていました。
今回お話を伺って、イラストレーターとしてゼロから活動をスタートして活躍の場を広げてこられたのは、須山さんの一つ一つの物事に丁寧に向き合う姿勢や、素敵な人柄があったからこそなんだろうなぁと思い、もっと応援したい!という気持ちになりました。
クラウドファンディングプロジェクトは2018年9月20日まで。お礼のリターンはここでしか買えないオリジナルのTシャツや一点ものの原画など、どれも魅力的なものばかり!今後も新たなプランが追加されていくそうですよ。
また昨日8月29日より、新たに2019年の「メモランダム」展開催に向けたストレッチゴールへのチャレンジもはじまったんだとか!プロジェクトの終了日まで残り約1か月。まだまだ目が離せません!引きつづきみんなで須山さんを応援しましょう!
須山奈津希 初の長編コミック「メモランダム」発刊プロジェクト
2018年9月20日23:59まで募集中
URL:https://camp-fire.jp/projects/view/89107
須山奈津希「あたらしくはじまる」展 開催中
開催期間:2018年9月2日(日)まで
場所:Amleteron(東京都杉並区 高円寺北2丁目18-10)
URL:http://amleteron.blogspot.com
須山奈津希
2006年よりイラストレーターとしての活動を始める。書籍、雑誌を中心としたイラスト提供の他、近年はスピッツ「ヘビーメロウ」のMVのイラストを担当。「charlie&patrick」「とても良いメガネ」等、しかけのあるzineの制作、展示と連動した漫画作品「all that is beautiful」、「monochrome」など、個人の制作にも力を入れている。)
URL:http://suyamanatsuki.polka3.com/
Instagram:https://www.instagram.com/suyama_natsuki/