ikiteru_00

こんにちは。あいぽんです。

先日、「こんな映画観たことない…!」とちょっと衝撃を受ける映画に出会いました。『生きてるだけで、愛。』という映画です。劇作家・小説家である本谷有希子さんの同名小説を原作にした映画で、趣里さんや菅田将暉さんといった若手演技派俳優の共演も見どころの本作。

ビビットな光と色使い、フィルムならではのザラッとした質感、エモーショナルを加速させるような音楽、そして俳優たちの壊れそうなほど繊細な演技…。見終わった瞬間腑抜けてしまうほど衝撃的な映画でした。調べてみると、監督の関根光才さんは、本作が初長編映画作品なのだとか!

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

もともと数多くのCMやMV(ミスチルや安室ちゃん、AKB48など!)を出掛けてきた関根さん。今回は、関根さんに初の長編映画作品である『生きてるだけで、愛。』についてお話を伺ってきました。映画を作る上で大切にしていること、CMやMVと映画作りの共通点や違いといった映画製作の裏側を教えてもらいました。

 

疾走感のある光と音楽の演出

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

−まず、映画を拝見して思ったのが「光と音楽がすごい」という感想でした。今回、フィルムで撮影をされていたとのことですが、光の演出でこだわったところを教えて下さい。 

関根監督:いきなりおもしろい質問から入りますね(笑)。光に関していうと、結構色を差し込んでいます。舞台は日本ですが、アジアの地方都市や無国籍な雰囲気を感じるように赤や青をあえて差し込んでいるんです。感覚的なことではあるのですが、『生きてるだけで、愛。』を読んだときに、鮮烈な色の印象が頭の中に浮かんできたんですよね。

カメラマンの重森さんと照明の中須さんと話して、「これはカラーライトでやりたい」となりました。本来はそこにない色を差し込むので、照明の人からすると少し反発もあったんです。そこは「大丈夫、大丈夫」という感じでお願いして(笑)。

なんで色を入れたかというと、この『生きてるだけで、愛。』って話としては、すごく地味だと思うんです。主人公の寧子の中ではガーッと盛り上がる瞬間はありますが、基本的には過眠症で鬱っぽい。相手の津奈木もおとなしいキャラクターですよね。下手をすると停滞しかねない話の中で、要所要所の隠れた部分でビビッドな色を差し込み、寧子の中にあるエモーショナルな部分を映像的に表現しようと思ったんです。

−フィルムで撮影されたのも同じ理由でしょうか?

関根監督:そうですね。ある種痛々しい話が続く中で、その痛々しい部分をフィルムならではの質感が補強できるかもしれないなと思ったんです。フィルムで撮ることによって、人間の感情が浮き彫りにできればと思っていました。

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

−たしかに、ストーリーとしては大きな事件があるわけではないですよね。でも、寧子の感情の中ではいろいろあって…。そこで映像と音楽の疾走感がすごくインパクトがありました。

関根監督:疾走感はすごく意識しましたね。「とにかく疾走感!」というくらい。停滞しかねないお話だからこそ、どこでドライブ感を出すかというのは大事な部分でした。外側から見た寧子はすごく沈んでいるように見えますが、中側では「うわーっ!」となっていて、そのギャップを映像で表現したいと思っていましたね。

−音楽もその疾走感を演出するのに重要な要素でしたよね。

関根監督:そうですね。音楽の世武裕子さんとは、結構長い間一緒にお仕事させてもらっているんです。疾走感とかエモーショナルなところを大胆に表現してもらいたいと思い、彼女に依頼しました。彼女はもともと繊細な音づくりがすごく上手なので、そのままでも繊細で上品な音楽を作ってくれるんですけど、どこかで普段彼女が作ってきていないようなものを作ってもらいたいなというのはすごくありましたね。シンプルに削ぎ落とした音楽の表現だけど、実験性のある音楽にしたくて…。最初は彼女も悩んだと思います。だけど最終的にすごくいいものができて、最近の日本の映画にはない音の作り方ができたんじゃないかと思っています。

 

直前に脚本を書き換えたラストのシーン

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

−原作がある作品、しかも本谷有希子さんの作品はコアなファンがいらっしゃると思うのですが、脚本はかなり難航したとのことですね。どういうところに難航し、また原作の中で大切にしようと思ったところがあったら教えて下さい。

関根監督:そうですね。脚本が一番大変だったと思います。原作が女性の一人称で書かれている特殊な小説なので、それだけでは映画にはならないな…と。いかに客観的にできるかというところで、女性視点だけでなく、男性視点も描こうとなりました。そこで津奈木というキャラクターを膨らませることによって、寧子の部分を削ぎ落としていって…それを考える脚本のプロセスが一番大変でした。

寧子が持つ女性の生々しい感情に僕自身がいかに近づけるか、本当の意味で女性の視点にどこまで近づけられるのかという難しさもありましたね。

−寧子と津奈木の最後のシーンは撮影前日に書きあげたとのことですね。

関根監督:ラストは書いてあったんですけど、正直やってみないとわからない部分も多かったので決めきらずに宙に浮かせた状態にしていたんです。最後のシーンはどうしても途中に撮らなくちゃいけなかったので、難しいところでもあったんですけど、寧子と津奈木がどう帰結していくかということを探るためにも1度リハーサルをしてみました。

趣里さんと菅田さんと3人で「前のシーンではこうなってる」と話しあうんですけど、まだ撮っていないので想像上のことですし、2人もその上で演じるしかないので、「こうなっているんじゃないか」と予想しながらテストを重ねていくと、脚本に書いてあるままだとちょっと違うな…もっとシンプルな方がいいよな…というように思えて、書き換えました。そこは脚本と撮影で大きく変わりましたし、編集でもさらに変わりましたね。

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

−最後のシーンは確かにすごく印象に残っています。途中に撮っていたんですね。

関根監督:最後の、寧子が津奈木に抱きしめられるときの表情をこの映画の中で一番ビビッドなショットにするというのはずっと考えていたことで、カメラマンの重森さんともそれはずっと話していました。それが撮れたなと思ったんです。

このシーンが撮れたことで、自分たちの中でのベンチマークができ、他のシーンを撮るときもこのシーンを頭に浮かべて、そこへ持っていくぞとイメージしながら撮ることができました。

 

演じるというよりはその人で生きている佇まい

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

−菅田さん、趣里さんはもちろん、仲 里依紗さん、田中哲司さん、西田尚美さんをはじめ、演技派と呼ばれる俳優さんたちが勢揃いし、さらにそれぞれが強烈な演技を見せてくれていますが、演技の演出で伝えたことはありますか?

関根監督:それぞれの方に違うアプローチがありましたが、趣里さんは脚本を読んでいただいた上で、「この役をやりたい」と言ってくださったという経緯があったんですよね。寧子が持っている挫折やトラウマ、鬱屈した感情と自分を重ね合わさせることができたから「これは自分がやりたい」というのがあったので、無理して寧子を演じなくても、自分の表現を出すことで寧子になれるんだろうなというのがありました。趣里さんご自身はすごくストイックで真面目な方なので、逆に「もっと抜いて」ということを言っていましたね。寧子はだら〜んとしていて、ほっといたら一日中家から出ないような人間なので、「セリフが頭に入らないくらい、力を抜いてきてください」と伝えていました。映画を観ている人が「この人大丈夫?」となるくらいでいいのでと(笑)。

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

菅田さんはこの映画について、すごく俯瞰した視点で理解して入ってきてくれたんですよね。菅田さんご自身は、この映画の中で趣里さんをどう引き立てるかということをすごく考えてきてくれたので、そういう彼の包容力や優しさには安心感がありました。あと菅田さんの中にも、どこか津奈木に近い部分があったと思います。

−では、主演のお2人に関してはそれぞれが持つ寧子性、津奈木性を活かす感じだったのですか?

関根監督:そうですね。最初に話をして、「大丈夫だな。わかってもらっているな」と思ってからは任せていました。難しい人物を演じるので、理解しよう、演じようとやりすぎると、逆に自分じゃない自分を演じるという感じになっちゃうと思うんです。それよりも、自分ではないキャラクターではあるけれど、その人を生きてもらわなきゃいけないから、「演じる」というよりはどこまで「その人が生きている」という佇まいでいられるかという方が大きかったですね。

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

−そうなんですね。

関根監督:最初は僕の中で、このキャラクターたちが理解されるかという不安があったんですよね。寧子なんかはかなり特殊なキャラクターと思われがちなので。だけど、菅田さんと初めてお会いした際、「僕らの世代からしたら、よく言ってくれた!と思える映画になると思います」と言ってくれて。そういうふうにこの映画を観てくれるんだと思って安心しましたね。

この映画では、普段はなかなか触れないようなトピックにも触れているし、菅田さんたちの世代が生きづらいと思っていることにも触れています。そこをどう救ってあげるかというのもこの映画のテーマでもあったので、彼がそこを理解してくれているとわかって、彼にお願いしてよかったなと思いました。

 

ずっと「いつか映画を撮るんだ」と思っていた

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

−そういった役者さんとのやりとりなどは長編映画ならではかと思うのですが、長編映画とこれまで制作されてきた映像作品では作り方の違いはあるのでしょうか?

また今回の『生きてるだけで、愛。』がはじめて劇場長編映画となりますが、もともと映画を撮りたいという思いがあったのでしょうか?

関根監督:そうですね。もともとずっと長編映画を撮りたいと思っていました。

長編映画とCMやMVの作り方は全然違いますね。でも、映像の撮り方については、まったく迷いはなかったです。カメラマンの重森さんとはずっと一緒にお仕事をしてきていましたし、自分が映像を撮るときも「いつか映画を撮るんだ」という意識がありました。映像作品を作りながら、どこかで映画作りのヒントを発見しようとしながらやっていましたし、ストーリーテリングがある映像を積極的にやってきていました。だから、こういう話だったら、こういう風に撮ろうというシミュレーションもある程度はあったんです。

どちらかというと、映画のお仕事を主にしているスタッフの人たちや役者さんとのコミュニケーションや場の空気作りの方に神経を使っていたかもしれないですね。

−実際、長編映画を撮ってみてどうでしたか?

関根監督:映画って2ヶ月、3ヶ月じっくり時間をかけて積み重ねるものなので、記憶に残ってる瞬間はこれ!というのは特にはないんですが…。

やっぱり特殊な登場人物たちで、決して明るい映画でもないし、ラブストーリーのようだけど、どちらかというとヒューマンドラマだし…そういう一言では表現できない映画なので、どう理解されるかというのはすごく気になっていました。女性である寧子を男である僕が表現するので、女性が見たときに腑に落ちるのだろうか…というのも気になっていた部分でした。最初は寧子のことを嫌いになると思うんですよね。でも、最後は共感もあったりして。完成した映画を観ていただいた人たちからそういった感想を聞けたので、安心しましたね。

−今後も長編映画を撮っていく予定なのでしょうか?

関根監督:そうですね。撮り終わった瞬間から、次の作品も撮りたいなという感覚もあって。でも、今はこの『生きてるだけで、愛。』と公開中のドキュメンタリー映画『太陽の塔』があるので、さすがに…ですが(笑)。エネルギーをためて、準備して、次の作品も作りたいですね。

関根監督インタビュー|映画『生きてるだけで、愛。』の鮮烈な映像美

−『生きてるだけで、愛。』と『太陽の塔』は、ほぼ同時期に公開されることになりますが、全然違う作品ですよね。これまで作られてきた映像作品もそれぞれ趣向が違って、正直それぞれ同じ方が作られているんだという驚きがありました。

 関根監督:そうですね。『生きてるだけで、愛。』と『太陽の塔』でいうと、ドラマとドキュメンタリーというのはもちろん、内容が180度違いますからね。でも、まったく違うから頭を切り替えられた部分はあります。

すべての作品で言えることですが、僕はストーリーが持っているコアの部分、企画の根幹を軸に、映像を考えることが多く、そのコアの部分から導き出される一番効果的な演出をとにかく考えるんです。そうやってベストな表現を探していくと、それぞれ違う種なので、違う花に成長していくというのは当然なことなんですよね。だから結構、「これも作られたんですか?」と言われることは結構あります(笑)。

 

  • 映画『生きてるだけで、愛。

  • 11月9日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
  • 出演       :趣里 菅田将暉 田中哲司 西田尚美/松重豊/石橋静河 織田梨沙/仲 里依紗
  • 原作    :本谷有希子『生きてるだけで、愛。』(新潮文庫刊)
  • 監督・脚本:関根光才
  • 製作幹事 :ハピネット、スタイルジャム
  • 企画・制作プロダクション:スタイルジャム
  • 配給:クロックワークス
  • コピーライト:©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会
  • 公式サイト:http://ikiai.jp
  • 関根光才(せきね こうさい)

  • 1976年生まれ。東京都出身。2005年に短編映画『RIGHT PLACE』を初監督し、翌年カンヌ国際広告祭のヤング・ディレクターズ・アワードにてグランプリを受賞。以降、数多くのCM、ミュージックビデオなどを演出し、2012年短編オムニバス映画『BUNGO〜ささやかな欲望〜』では岡本かの子原作『鮨』を監督。
  • 2014年の広告作品SOUND OF HONDA『Ayrton Senna 1989』ではカンヌ国際広告祭で日本人初となるチタニウム部門グランプリなど、多数の賞を受賞。国際的にも認知される日本人監督となる。
  • 本作が初の長編劇場映画監督作品となり、2018年秋には長編ドキュメンタリー映画『太陽の塔』も公開となる。現在は国内外で活動する傍ら、社会的アート制作集団「NOddIN」でも創作を続けている。
  • ホームページ:http://www.kosai.info/