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台湾視点で日本文化を紹介する雑誌『秋刀魚』編集長Evaさんインタビュー|“経験ゼロ”から始まった雑誌づくり。オリジナリティ溢れる切り口が生まれる秘密とは?
こんにちは、シオリです。
少し前から日本では台湾ブームと言われていますが、今はそれを通り越して台湾の情報が入ってくることが日常的になっているような気がします。そんな中、またさらに日本と台湾が近くなるかも!と感じさせるニュースが耳に入ってきました。
台湾のカルチャー誌『秋刀魚』を発行する黒潮文化がCINRAと資本業務提携
「新しい日本を発見しよう」というコンセプトを掲げ、台湾の視点から日本文化を紹介する台湾の雑誌『秋刀魚』を発行する黒潮文化と、アジアのシティガイド「HereNow」を運営するCINRAが、先日より資本業務提携を開始。台湾から日本を見ている『秋刀魚』と、日本から生まれたアジアの各都市を紹介するメディア「HereNow」が、互いのノウハウを活かしていくのは面白い動きですよね。
そんなこんなで、様々なところで台湾熱が高まっているな〜と感じることが多い日本。でも、逆に台湾では日本をどのように見ているんだろう?と気になった私。今回、CINRAさんのご協力を得て、「HereNow」の郭晴芳さんに通訳もしていただきながら、『秋刀魚』編集長のEva Chenさんにお話をお伺いする機会をいただきました。台湾から日本のカルチャーを切り取る雑誌がなぜ生まれたのか?から、今後注目していきたいことまで、いろいろと聞いてみました。
旅行ガイドではなく、日本のカルチャーを伝える雑誌を作りたい
箱庭:台湾で日本のカルチャーを紹介する『秋刀魚』が誕生した、きっかけや背景を教えてください。
Evaさん:もともと、雑誌が好きな仲間たちで雑誌を作ったことがきっかけでした。最初は「らんちん(クジラの意味)」という名前で、台湾を紹介する雑誌だったんです。台北や、他の台湾の様々な街に取材へ行くと、意外との日本とのつながりがあるところが多いことに気がつきました。それと同時に、台湾の人たちは日本が好きなのに、日本を特集で紹介する雑誌はあってもまるまる一冊で紹介する雑誌がないな、と。もっと深く日本文化を紹介する台湾の雑誌があればいいなと思って、『秋刀魚』が生まれました。
箱庭:ガイドブックのように旅行目線で日本を紹介するものはあったんですか?
Evaさん:秋刀魚が生まれる前から、台湾には年に一度東京特集を実施する雑誌があり、かなり売れ行きが良かったということは知っていましたが、旅行ではなくカルチャー目線で日本を紹介する雑誌がなかったんです。
でも、台湾には例えば日本の芸術祭や、鉄道、駅弁など、日本の“何か”にすごく詳しい人がいるんですよね。そうした背景があって、日本のカルチャーを深く追求する雑誌への需要があると思いました。
経験がなかったからこそ、これまでにないものが作れた
箱庭:私たちが海外を見る時、どうしても旅行・観光目線になってしまいがちなので、その切り口を見つけられたのがすごいです。Evaさんはもともと編集をされていたんですか?
Evaさん:大学の専攻は政治でした。その頃から取材や編集に興味を持っていて、インターンとして新聞社で働いていました。卒業してからもしばらく働いていたんですけれど、もともと雑誌が好きだったというのがあって、仲間と(先ほども登場した『らんちん』という)雑誌を作り始めたんです。ただ、雑誌作りの経験はゼロでした。普通はどこかで勉強して編集の仕事に就くと思うんですけど、自分にとっては日本や欧米の雑誌が先生でした。それらを見ながらどうやって作るんだろうと考えながら、企画構成をしていました。
箱庭:独学だったんですね!
Evaさん:台湾の雑誌業界には、「人を不幸にさせるためには、雑誌を作ること」という言葉があります。なぜなら、雑誌を作るのにはお金がすごくかかるのにあまり売れず、いいことがなくて。でも、私たちはその話を知らなくて、聞いた時にはすでに作っていた(笑)。
後々考えると良かったなと思うのは、ベテランと比べると経験がないけれど、枠にとらわれることなく取り組めたことです。例えば、普通の出版社だったら売れないからダメと言われるようなテーマもあるんですが、上に人がいないからやりたいことが全部できる。売れる売れないも、あまり考えていませんでした。
箱庭:自分たちが本当にいいな、知りたいなと思ったことを反映しているんですね。
Evaさん:はい、そうやって出来上がります。ですので、他の人からみると面白くてユニークなテーマが多いです。

実は、台湾で日本の情報を得られるタイミングは、ほぼ同時なんです。
箱庭:海外の情報を得るというのは大変そうですが、日本の情報は台湾で調べているんですか?
Evaさん:実は、台湾で日本の情報を得られるタイミングは、ほぼ同時なんです。有名なデザイナーが台湾でセミナーをやったり、日本のインディーズバンドは台湾で頻繁にライブをやったりもしています。日本とほぼ変わらない。それをきっかけに情報を得て、取材に繋げることもできます。
箱庭:ほぼ同時に情報を得られるとは驚きです!では、そのテーマについてお伺いします。毎回面白いテーマですが、どのように決めているんでしょうか?
Evaさん:編集会議でメンバーがそれぞれ興味を持っていることを書いて、そこから絞っていきます。テーマを決めるには3つのポイントがあって、一つ目が「編集者たちが興味を持っていること」。二つ目が「台湾と日本の関係」。これは、タイトルに書かれていなくてもページを開いたら台湾と日本のつながりを感じられるようなものです。三つ目が「台湾人が今注目している日本の何か」です。
箱庭:なるほど。そうして決めてきたテーマで、印象に残っているものはありますか?
Evaさん:例えば、2016年に発行したこの特集は「美の進化論」と書いてあるんですが、日本のデザインの特集でした。これが一つ目のポイント「編集者たちが興味を持っていたこと」に当てはまるテーマで、日本のデザイナーのことを知りたかったので作りました。実際に、日本のグラフィックデザイナーや建築家、またオリンピックに関わるデザイナーや「東京防災」のデザイナーなど、いろんな方にインタビューをしました。みんな、取材へ行く前にはワクワクしていましたよ。
台湾人が日本を知るだけでなく、日本人に台湾を知ってもらえるテーマも大事。
Evaさん:また、2015年にあった梅酒特集は先ほどの二つ目のポイント「日本と台湾の関係」に当てはまるもので、自分の中で大事だと思っているテーマです。なぜなら、台湾人が日本のことを知れるだけでなく、日本人も台湾のことを知る機会になるという役割を達成したいから。年に一度はやろうと決めています。
箱庭:梅酒!どんな内容だったんですか?
Evaさん:梅酒特集では、「台湾料理と梅酒」「梅酒を使って台湾料理を作る」などを紹介しました。面白かったのが、日本人は梅酒じゃなくて料理やお店を見るんですね。台湾人はどちらかというと梅酒自体を見る。日本人にとって梅酒の存在はとても身近だけど、台湾では普段は行かない高級なお店へ行って飲むもの。だから、台湾料理と合わせて特集すれば、台湾人にも梅酒はビールと同じように日常の飲み物なんだということを教えることができると思いました。お互いの文化を知ることができて観点の違いが分かる、台湾と日本をつなげる面白いテーマでした。
箱庭:1つのテーマで違いが分かるのは面白いですね!違いがあるけど、共通して楽しめるのもいいですね。
台湾人に日本を知ってもらいたい。だから、旅はあまり意識していないんです。
Evaさん:三つ目の「台湾人が今注目している日本の何か」のテーマは、昨年9月に出した「夜9時以降の東京」です。このテーマに決定したのは、友達からよく「東京に行ったら、夜は何をすればいい?」と聞かれていて。日本の知り合いや繋がりもできていたので、みんなに「9時以降何してる?」と聞きました。みんなよく居酒屋に行くと言うんですが、飲む以外には何をしているのか?とおすすめの過ごし方を聞いて、旅行に来たら本屋さんや古着屋さん、音楽を聴けるところに行けば違う体験ができることを伝えました。
箱庭:確かに日常では夜をどう過ごそうって考えないですが、旅先ではどうしようか考えますね。
Evaさん:ただ、今まで秋刀魚で作った特集では旅をあまり意識していないんですね。それを見て、遊びに行きたいという風には繋がっているんですけど、ガイドブックのように観光情報のまとめということは意識して作っていない。それは、台湾ではみんなネットで最新の情報が得られるのであまり困っていないんです。自分たちはそういう情報を提供するのでなく、台湾の人に日本のことを知ってもらうために作っていて、そのための特集を組みたいと思っています。
箱庭:旅につながることはあっても、旅情報としては発信していない。そのスタンスが日本の魅力を的確に台湾の方に伝えてくれているんだなと思います!
––––オリジナリティ溢れる視点を大事にし、信念を持って取り組む姿からは、同じ編集をやっている私たちも刺激をもらいました。次回の後編では、これまでの特集から今気になっていること、そしてこれからやってみたいことへと繋がっていきます。乞うご期待!
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