『秋刀魚』編集長EvaさんとHerenow晴さん
こんにちは、シオリです。
台湾視点で日本文化を紹介する雑誌『秋刀魚』編集長Eva Chenさんインタビュー。前編に続き、今日お送りするのは今の『秋刀魚』ならではの強みと、これからやって行きたいことについて。『秋刀魚』を作っていくなかで新たな視点に気づき、可能性を広げていく姿勢は、聞いているだけでワクワク。最後に伺ったアジアのシティガイド「HereNow」を運営するCINRAさんと提携したことで広がる可能性にも注目です!

台湾でも香港でも、90年代の日本のドラマに“共感”できるんです。

『秋刀魚』編集長EvaさんとHerenow晴さん
箱庭:毎回の特集で新たな発見をしているのがすごいなと思ったのですが、他にも印象に残っているテーマはありますか?

Evaさん:他に面白いものでは、「香港特集」を作りました。いきなり「なぜ香港?」って思われるかもしれないんですが、テーマを考えるときに“日本と台湾の違い”という視点で、共通することと違いを探すのが面白いと持っていて。香港特集では、香港に住んでいる日本人に取材をしに行き、“香港から見た日本”を特集しました。

箱庭:台湾で日本を取り上げている雑誌が、香港特集とは!思いもよらないです!

Evaさん:この特集を作ったときに一つ感じたのが、香港も台湾も、日本のカルチャーに「共感」できるということ。台湾では、日本の90年代に流行った歌をみんな知っているし、男の子がキムタクのヘアスタイルにも憧れていました(笑)。香港ではどうか取材すると、同じように観ていた日本のドラマの話ですごく共感できたんです。日本カルチャーをただ紹介するだけでなく、場所を台湾や香港に移して探っていく切り口が面白くて。カルチャーは国境を超えて共感できるというのがすごいなと感じています。

日本人が思っている以上に、台湾も香港も日本のカルチャーに影響されて育ってきている

台湾で日本のカルチャーを紹介する雑誌『秋刀魚』
(平成の30年間を振り返る「平成30」特集にあった、平成8年のページ。)

箱庭:90年代の音楽やドラマで共感できるとは、嬉しいです!台湾や香港にリアルタイムに渡って楽しまれて、影響を与えていたんですね。

Evaさん:そうなんです。香港特集がきっかけで、台湾と日本の関係だけでなく、アジアの他の国と日本とのつながりも色々あると気づいたんです。もしかしたら日本人は、アジアの他の国とのつながりをあまり感じていないと思うんですけど、微妙なところも色々あるじゃないですか。

箱庭:歴史的なものとか。

Evaさん:そうそう、そう思い込んでいるんですけど、日本人が思っている以上に、台湾も香港も日本のカルチャーに影響されて育ってきているというか。秋刀魚の目的は、当初台湾の視点から日本の魅力を生み出すことだったんですけど、アジアの他の国から見た日本も興味深いし、さらにその国と台湾の関係も気になってきます。そういう視点を持つことで、どんどん視野が広がるなと。

箱庭:面白い!確かに第三者からの視点、大事ですよね。

Evaさん:自分から見た自分と、他人から見た自分は絶対に違うんですよね。距離をおくことで、違う視点からその国の文化を違う感じで紹介できるので。だから『秋刀魚』では、日本人だったら絶対に作らないようなテーマが多くて、それも秋刀魚の強みになっていると思います。
台湾の目線からみた日本、そこから広げて、「台湾から見た他のアジアの国から見た日本」まで広げて。それが、自分たちが雑誌を作る意味かなと思っています。

見えないもので日本から学んでいるものを発見したい!

『秋刀魚』編集長EvaさんとHerenow晴さん
箱庭:今、日本のこういうのが面白い!というものや、気になっているものはありますか?

Evaさん:実は今も次の特集のために日本に来ているんですが、その前に一つお話すると、台湾人はもともと日本の最新のデザインやファッション、建築にずっと注目してきていて、いろいろな情報を得るのが好きなんですね。それはこれからも続くと思いますが、一つ変わってきているのが、日本に関心を持っている人たちが自ら日本に来て、情報を掴んでいるということです。情報を得る側だった人が、行動するようになったんです。
例えば建築に興味を持っている人が建築巡りをしたり、古道具に興味を持っている人が田舎で古道具屋巡りをしたり。また、台湾の行政が日本の有名な建築家に依頼して大きな建築を作ることも多いんですね。

箱庭:なるほど。


(インタビューの後に発売となった最新号。特集「大人の学校」)

Evaさん:そうした背景から、ある現象に興味を持ち始めました。台湾ではこの2〜3年間、フリーランスの職業やコーディネーターの職業が増えています。それは多少日本の影響があると思っていて、その全般的な現象が面白いなと思ったんです。それで次の特集のテーマは「大人の学校」で、全然違う領域の5人(ミュージシャン、企画、編集など)に仕事内容や仕事に就いたきっかけを深く聞いています。

箱庭:日本でもフリーランスが増えたなと感じますが、台湾でもそうなんですね!

Evaさん:はい。今まで台湾は日本から5〜10年くらい遅れていると言われていたんですが、今はネットの影響もありほぼ一緒です。日本では今何が起きているのか、ミュージシャンや企画、編集の仕事が日本社会にどのような影響を与えているのか、ということをより上の視点から探りたい。そして、それが台湾へ与える影響も探りたいなと。
今までの台湾は、分かりやすく日本の美しい器や建築を見て、自分も作りたい、この建築家にお願いしたいという形で影響されていましたが、先ほどのフリーランスが増えている状況のように、見えないもので日本から学んでいるものを発見したいと思っているんです。

箱庭:それ、私たちも気になります!日本語版が欲しいです(笑)。 

秋刀魚とHereNowが連携して出来る、これからのこと。

『秋刀魚』編集長EvaさんとHerenow晴さん
箱庭:最後に、今回CINRAさんと提携したことも踏まえて、これから秋刀魚としてやって行きたいことを教えてください。

Evaさん:先ほどの話とも被りますが、今後は「台湾からみた日本の魅力」という視点から、もっと広げていけたらと思っています。香港の特集もそうですが、一つの国を知るには単純に旅や短期滞在だけじゃなくさまざまな方法があるんですね。もっと深く知るには、色々な切り口から考えないといけない。食べ物だけじゃなくてその土地に住んでいる人の考え方、どういう感じで仕事に取り組んでいる、とか。
昨年からCINRAさんと仲良くさせてもらっていて、シティガイド「HereNow」では日本だけじゃなく、アジアのさまざまな都市を紹介しているんですね。その辺りは一致しているかと。自分の国の良い・悪いところや、隣の国で起きていることだけじゃなく、アジア全体を見たほうがいい。知らない文化を知るのはすごく面白いし、違う文化から共通点、違いを知った上で色々積み重ねて色々吸収できるになるので、今後はそういう方向で行きたいと思っています。

箱庭:そういう意識で探っていくこれからのテーマ、とっても楽しみです。Evaさん、晴さん、ありがとうございました!

日本でも、東京に憧れる地方の人がhanakoを読んで流行している街やお店の様子からカルチャーを読み取ったり、逆に東京にいる人がローカル誌で地元の素敵なお店の情報を手に入れたりもしますよね。台湾の方も、それと同じような感覚で日本のカルチャーを欲しているんだ、と感じました。

もともと台湾が好きな私ですが、日本人の私たちも、もっともっと台湾の魅力あるカルチャーを欲してもいいんだ!という意識が芽生えてきましたし、台湾人と90年代の音楽やドラマのトークができたら楽しいな〜と思い始めています。

みなさんも、改めて台湾をもっと身近に感じたり、興味を持ち始めたりしていただけたら嬉しいです。連携を始めた『秋刀魚』と「HereNow」も、これから注目していきましょう!

◆関連記事
台湾視点で日本文化を紹介する雑誌『秋刀魚』編集長Evaさんインタビュー|“経験ゼロ”から始まった雑誌づくり。オリジナリティ溢れる切り口が生まれる秘密とは?