CREATOR クリエイティブなヒト
イラストレーター・一乗ひかるさんインタビュー│「伝えたいことは何かを考える」デザインの知識と経験を活かした、グラフィカルな作品づくり
箱庭編集部のみさきです。
今回お話を伺ったのは、いま最も勢いのある若手イラストレーターの一人、一乗ひかるさんです。
一乗さんは、個人で作品を制作しながら書籍の表紙や広告のビジュアルなど幅広く活躍しており、最近では『MdN』最終号の表紙やPOLAのバナー動画、yahoo!の防災ダイバーシティ企画のイラストなどを手がけています。
(『MdN』 2019年4月号 表紙イラスト)
(POLA リンクルショット バナー動画)
(yahoo! 「防災ダイバーシティ」イラスト)
ぱっと目を引くポップな色使いや迫力のある構図、デジタルなのにアナログっぽい質感など、魅力がたくさんつまった一乗さんのイラスト。
活躍が目覚ましい一乗さんですが、イラストレーターとして本格的に活動を始めてまだ1年なんだそうです。インタビューでは、イラストレーターになったきっかけや制作の裏側のほか、活躍の場を広げるため心がけていたことなど、お話いただきました。自分の作品を今後もっと広めていきたい方は、ぜひ参考にしていただけると嬉しいです。
デザイン事務所を入社一年で退職し、フリーランスのイラストレーターの道へ
――まずはイラストレーターになったきっかけについて教えてください。
(一乗ひかるさん)
一乗ひかるさん(以下、一乗さん):学生時代にグラフィックデザイナーやアートディレクターになりたいと思っていたので、大学院卒業後はデザイン事務所にデザイナーとして入社しました。ただ実際に働きはじめると、自分に向いているのはデザインよりもグラフィカルな一枚絵のようなビジュアルを作ることだと思い、イラストレーターになりたいかも、と思い始めたんです。
結局一年間働いたデザイン事務所を退職し、昨年4月に本格的にイラストレーターとして活動をはじめました。
――学生時代からイラストを描くことに興味があったんですか?
一乗さん:そうですね。グラフィックや広告に携わりたい人が入る研究室があって、研究室の先生に「一乗さんはイラストを作るのがうまいよね」と在学中から言われてて。そのことが、自分はデザインではなくイラストに向いているんじゃないかと思ったきっかけになっているかもしれません。
――とはいえ、入社一年で辞めていきなりフリーランスのイラストレーターとして活動をはじめるって、かなり大胆なチャレンジですよね!
一乗さん:多分そういう性格なんだと思うんです。私は藝大志望で二年間浪人をしましたが、結局一度別の美大に入学しました。でもやっぱり諦めきれなくて、大学を半年で退学して浪人生に戻ったんです。自分がこれって思った方を選ばないと嫌なんだと思います。
デジタル×アナログを表現するための、制作における工夫。
―― 一乗さんのイラストは、一目見て一乗さんが描いたとわかる独創的な作風だと思います。この作風はいつから確立されたのでしょうか?
一乗さん:今の作風は、大学院のプロジェクトのために作ったビジュアルの技法を変化させていったものです。以前はミロコマチコさんなどが好きで影響を受けていたこともあり、絵の具で描いていたんです。ただ、絵の具の作品では上手な人がたくさんいて、自分は勝てないと思ったので、違う道でいこうと。

――女子高生を描き始めたのには何か理由があるんですか?
一乗さん:絵って、描き続けないと描けなくなるんですけど、デザイン事務所で働いていた頃、夜家に帰って絵を描かなきゃいけないけど描く時間がない…という葛藤がありました。そんな時、早く描けて、しかも描いてて楽しいモチーフなら描き続けられるかなと思い、女子高生を描き始めたんです。
――女子高生を描くことの魅力とは何でしょうか?
一乗さん:足を描くのが好きで…(笑)。女子高生って足が出てるし、それに服も特に考えなくていいから、書き始めるまでの時間が節約できるんです。
ラフとかアイデア出しには時間がかかりますが、お仕事ではなく制約無しに描いたものだと2~3時間で描けちゃいます。
――アナログっぽい質感も素敵だなぁと思います。作品はどんな風にして作っているんですか?
一乗さん:最初に手書きでポージングだけ描いてillustratorのパスで制作します。その後Photoshopで色や影をつけたり処理したりしています。アナログのような質感は、リソグラフやシルクスクリーンで刷ったテクスチャー素材をもともとたくさん持っていたので、それをスキャンして使っています。
――リソグラフやシルクスクリーンのテクスチャーでアナログ感がでているんですね!
一乗さん:大学院時代に先生に「どうやって作ったのか分かんないようなイラストを作って」と言われ、その時にテクスチャーをいっぱい作ったんです。これならパッと見た感じアナログっぽいだろうなぁ〜と思って。
今は作品を作る時の作業自体はほぼデジタルですが、個展に出す作品は生で見た時の良さがほしくてシルクやリソグラフで作っています。最初の頃はデジタルで良く見える色と実物でよく見える色の違いについて色々考えていましたが、今はその違いも含め楽しんでもらえたらなって思います。
何を伝えたいイラストなのか?常に「何が大事か」を考えて描く
――イラストを描くうえで大切にしていることはありますか?
一乗さん:グラフィカルになるようには心がけています。そのイラストで何が伝えたいのかを考え、それを一番伝えられる構図ってなんだろうって結構考えたりします。
スポーツだったらその特徴になる部分がクローズされている方がいいので足をメインで描いてみたり。
このイラストもテーマが「グラフィックデザイナーが選ぶ装丁」なので、本をメインで見せる構図にしてみました。
イラストを描くうえで、分かりやすさって大事だなぁと思っていて、私はテーマをもとにぐるぐる考えて、頭の中を整理してイラストを描いています。
――イラストのアイデアやネタは何から得ているんですか?
一乗さん:もともとデザインを学んできたので、それを今もやっている感じなんです。デザインって、“何が大事か”とかそういうの考えなきゃいけないじゃないですか。予備校の時も「これは何が言いたいの?」と先生に問われることが多くて、その経験が今も生かされているなと思います。
――なるほど。一乗さんのイラストは人物を描かれていることも多いですが、表情はなくてもイラスト全体から伝えたいことが伝わってくるので、しっかり考えて描かれているからなんだと知って腑に落ちました。
一乗さん:目を描くと特徴をだしやすいんですけど、流行りとかもあるので、それがどうかなって思ったんです。誰のイラストに影響をうけたのかも分かりやすくなるので、それを出したくなくて、いっそ目は無くしてしまおうと思ったんです。
SNSから仕事につなげる。意識的に取り組んだこと。
――イラストレーターとして本格活動をはじめて1年で、目覚ましい活躍をされています。活躍の場が広がったきっかけはありましたか?
一乗さん:昨年原宿のギャラリー・ルモンドで個展をやらせてもらってから、作品を見てもらう機会が増えていった気がします。個展に玄光社の方が来てくださって、『ファッションイラストレーション・ファイル』に掲載していただけることになり、それを見た人たちが声をかけてくださり…とどんどん繋がっていきました。TISというコンペで入選させていただいて、その展示に参加させてもらったのも大きかったですね。
――イラストを広めたりお仕事に繋げたりするために、意識的に取り組んでいたことはありますか?
一乗さん:やっぱりSNSは使わなきゃなって思っていて、お仕事で使っていただきやすいイラストを投稿するよう心がけていたことと、ファッション系のお仕事をやっていきたかったので、それを意識してスニーカーを描いたりしてましたね。
――最近ですと、バレンタインの時期にネットプリントで販売していたチョコレートの包み紙も話題になっていましたよね。
一乗さん:そうなんです!この作品は特にTwitterで反響が大きかったんですけど、チョコレートを買っていない人向けに、あえてバレンタイン直前にアップしたんです。自分を知ってもらうために、拡散してもらえるタイミングも含めて考えてました。
東京、大阪、台湾。2019年は展示を全5回開催
――今年はどんな活動が予定されているんでしょうか?
一乗さん:グループ展を含め、今年は5つの展示を開催する予定があります。5月は台北のレトロ印刷JAMさんで、約10名のイラストレーターさんと一緒に展示を開催します。リソグラフで一人3点ほどの作品を作るほか、最初の土日にはワークショップをするんです。ワークショップは初挑戦なんですけど、シルクスクリーンの版を用意するので、それで実際に体験してもらいます。
あとは夏に大阪のNew pure plusで個展を開催するのですが、そこでは何か実験的なことができればいいなぁと思っています。おそらくシルクスクリーンで作った作品が並ぶんですけど、せっかくだから同じ版を使って色んな色で作ってみたいなって思っています。
まだ詳細は決まっていませんが、他にも色々展示を開催する予定なので、SNSで情報をチェックしていただけると嬉しいです。
――最後に、今後やってみたいことや目標があれば教えてください!
一乗さん:あんまり大きな目標はなく、最近は好きなものを好きな人たちと作っていくのがいいかなって思っています。ものづくりをしている友達が多いので、そういう子たちと良いものを作ったり、例えば靴とか家具とか、音楽とか、専門的な人や企業と一緒にやりたい!っていう気持ちで良いものを作ったりしていけたら良いなぁって思います。
一乗さん、ありがとうございました!
今回お話を伺って、一乗さんの描くイラストの楽しみ方が一つ、二つと増えました。
今後もどんな作品を手がけていくのか、注目したいと思います!
一乗ひかる
2010年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科入学、同年中退
2015年東京芸術大学デザイン科卒業
2017年東京芸術大学大学院視覚伝達研究科修了
1年間のデザイン事務所勤務後、2018年よりイラストレーターとして活動。エモーショナルでグラフィカルなイラストを心がけている。
2015年第13回1_WALLファイナリスト、2018年TIS公募入選
WEBサイト:http://hikaruichijo.com/
Instagram:https://www.instagram.com/ichijo_hikaru_/