CREATOR クリエイティブなヒト
現代アートチーム「目」インタビュー|2020年、巨大な“誰かの顔”が東京の風景に浮かぶ「まさゆめ」とは?
こんにちは、シオリです。
みなさんは、現代アートチーム 目/[mé] をご存知でしょうか?大地の芸術祭や、「六本木クロッシング2019展:つないでみる」などで、見るものを不思議な感覚に引き込むパワーを持つ作品を多く発表しています。
こちらは、昨年の大地の芸術祭での作品。駅前広場に大きな岩が二つならんでおり、よく見ると二つとも寸分違わず同じ形をしているんです。私は実際に見に行ったのですが、「全く同じ形の石なんてありえないのに、なぜ?」という感覚になったのを覚えています。
さいたまトリエンナーレ2016では、ガラスのような素材で架空の池を制作。池に見えるけど、そこに水はなく、目の前のものは何なのか?と思わざるを得ない作品です。
最新作は、箱庭でもレポートした「六本木クロッシング2019展:つないでみる」で5月26日まで展示中。海の景色のように見えるけど、近づくとひとつの黒い塊のようにも感じられる、認識を両立させた不思議な作品です。
このように、果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする作品を展開している彼ら。そんな「目」が、先日2020年に向けて新しいプロジェクトを立ち上げたとのニュースが!しかも、東京の空に巨大な誰かの顔が浮かぶという、とっても面白そうな内容。
これは気になる!ということで、今回ご本人に直接お話を伺う機会をいただき、新プロジェクトがどのようなものなのか、また作品の発想の源についても教えていただきました。
「目」は、アーティスト 荒神(こうじん)明香さん、ディレクター 南川憲二さん、インストーラー増井宏文さんを中心とする現代アートチーム。今回は、荒神さん(左)と南川さん(右)にお話を伺いました。
「わからない」と思ったことを確かめようとする。それを作品に。
――「目」を初めて知る方のために、まずは一言でどんなチームかをお伺いできますでしょうか?
荒神さん:一言で言うと、「なぜ人は生きているんだ」とか「なぜ死ぬのか」とか、人間の死生観に触れるような作品を作ろうと活動するチームです。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、でも「なぜ生きているのか」って子供が聞いてきそうなシンプルな質問にも、はっきりと答えられる人は少ないと思うんです。
その「わからない」ということが、この世界をとらえる上で実は最も大事なんじゃないかって考えていて。空間的にも、概念的にも、結局「わかること」ってかなり限られた少ない範囲での話なんじゃないかと思うんです。そんな世界の「わからない」を確かめようとするようなことを作品や活動にしています。
――なるほど。確かに「目」の作品を拝見すると、「これはなんだろう」とか「なんでだろう」という感情が芽生えてきます…!そんなユニークな作品づくりは、3人のチームのなかでどのように行っているのでしょうか?
南川さん:荒神がさっき言ったみたいな、「なぜ」と思うことを感知して、僕はなんでそれが気になっているのかを掘り起こしていきます。そして、それをもう一人の仲間の増井に、こうした企画にしたいっていうのを話して、作品という形にしていくという流れで作っています。
作品の原点は、「気づきを伝える」こと。
――発表されるたびに、毎回違った思いもよらない作品ばかりで、どうやって生まれるんだろう?と不思議に思ってしまうんですけれども、その発想の源は何でしょうか?
南川さん:「目」の作品は、ほとんどが荒神の“気づき”が源になっています。例えば最近では、「幼少期に住んでいたおじいちゃんの家の引き出しを、想像ではなく記憶の中で開ける」というようなことを言っていて。そういう訳のわからないような、荒神の“気づき”が源になっていく感じです。
――荒神さん、それは、ふと気付くんでしょうか?
荒神さん:そうなんですが、子供の時から割と記憶を溜めていたり、人に話したりすることで忘れないようにしていましたね。でも、子供の頃に夢の話なんかを人にすると、大人になったらすぐ忘れるよって言われるじゃないですか。だから、大事にしとこうと子供の時に思って。そんな風に今まで取っておいた記憶なんです。そういう話を友人にすると理解されないことが多いんですが、南川に話すと「なんで?なんで?」って結構掘り下げて聞かれて、えぐられていくんですね(笑)。
――えぐられちゃうんですね!
荒神さん:たまに喧嘩になったりもするんですけど(笑)。すごい「わかりたい」という気持ちが伝わってきて、私も「伝えたい」っていう気持ちになって。それでどんどん伝えていくと、それがアイデアになって形になっていくんです。
南川と二人で話すことによってアイデアになって、さらに企画にしたものを増井に伝える時はドキドキします。彼が興味を持つかどうかは、作品にとって最も大事なことだから。彼には気合を入れてプレゼンして、面白がってくれると、想像していた以上の現実の形になるという感じです。その工程自体が、自分的には奇跡と言うか、凄いなって本当に思っています。
――チームだからこそ作品が生まれているんですね。
荒神さん:今回スタートした「まさゆめ」は事務局を組織して動いているんですが、ポスターやプレスリリースの文言とかスタッフの方々が自分たち以上にめっちゃこだわってくれていて。そういうことが最近はすごく大事だなと言うか、すごいことだなと実感しています。だから、今答えられるとしたら、発想の源っていうのはもしかしたら、「気づき」を、「伝えようとすること」なんじゃないかなって。最近そう思ったりします。
南川さん:そうですね。「気づきを伝える」ことが源というか、目の作品の原点かもしれません。

2020年、巨大な“誰かの顔”が東京の風景に浮かぶ?!
満を持して3月から始動した「まさゆめ」とは?
これまでにも様々な場所で展開されてきた、「目」のアート作品。今回、東京都とアーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)が、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年の東京を文化面から盛り上げるため、「Tokyo Tokyo FESTIVAL」と称して様々な文化プログラムを展開しているプロジェクトの企画公募で採択されました。
企画公募は、一般から幅広くアイデアを募集。国内外から集まった数は、なんと2,436件にものぼったそう!その中から選ばれたわずか13件の中のひとつが、「目」の「まさゆめ」です。その内容は、国籍や性別、年齢問わず広く世界中から募集し、選ばれた「実在する一人の顔」を、2020年の東京の空に浮かべるというもの…。
一体、どんな作品なのか?どうやって生まれたのか?詳しく伺ってみました。
――それでは、2020年に向けてスタートしたプロジェクト「まさゆめ」についてお伺いしたいと思います。まずは、きっかけとこれまでの経緯を教えてください。
南川さん:最初のきっかけは、荒神が中学生の時に見た「夢」ですね。
――「夢」ですか?!
荒神さん:中学生の時にみた夢の中の話なんですけれど、塾の帰り道の夕暮れ時に電車に乗っていたら、車窓から見える風景がパッと開けた瞬間、街の上空に人の顔がポンと浮いていたんですね。
一瞬しか見えなかったんですけれども、その夢を見た時に、こんなことができる街ってめっちゃすごいじゃん!これはやばい!と思って、ずっと覚えていたっていう。
南川さん:これを世界中の人に見せたいという思いが出てきて。ちょうど「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の企画公募があったんです。世界中から人々が集まるオリンピック・パラリンピックの時期にアート企画をということだったので、これだ!と。「この機会に出さなきゃ罪だ」くらい思って、公募に参加しました。
――ちょうど熱量のピークとタイミングが一致したんですね!
南川さん:そうですね。それで応募した結果、採択されて実現することになりました。
今は、まさゆめ事務局を組織して、このアイデアをどうやって外に伝えていくのか?とか、どういうプロセスを経てこの作品を作っていくのか?ということを事務局のスタッフを中心に考えて展開しています。

「まさゆめ」では、2020年東京の空に浮かぶ顔の候補を、WEBサイトで世界中から募集。「目」のメンバーと一緒に街へ繰り出し、浮かぶ顔候補となる“顔”を探索・収集するワークショップが行われたり、「どのような顔が浮かぶべきか」を議論する顔会議が行われたりするプロセスを経て、いよいよ2020年の夏に巨大な顔が東京の空に浮かびます。選ばれた顔は、ここで初めてわかるんです…!
実は以前にも、「目」は顔を浮かべる作品を手がけています。宇都宮の街に、 “おじさん”の顔が浮かぶというものでした。

「宇都宮でつくった圧倒的な“謎”を、今度は世界にぶつけてみたいと思った。」
――以前、宇都宮の街におじさんの顔が浮かぶ作品があったかと思うのですが、それも先ほどの夢から発想された作品だったんでしょうか?
荒神さん:そうです、同じきっかけですね。でも、あの時は自分たちも手探りで、最初の出だしからいろいろと紆余曲折ありました。実際に顔を浮かべると、空に浮かぶ顔を遠くで見つけた人が追いかけて会場に来たりとか、道路が渋滞になったりとか、老人ホームからカメラを持ったおじいちゃんおばあちゃんがいっぱい出てきたりとか、いろんなことが街で起こったんです。でも結局あの日、皆で何を追い求めていたのかなと思うと、よくわからないんですね。圧倒的に謎の塊が空に浮いているわけで、それに対して「なぜ?」とか「誰?」とか。笑ったり泣いたりとか。
当時は「宇都宮」という地域で、また「おじさんの顔」という限定の中で、手探りに活動していましたが、今度はそんな“圧倒的な謎”を、オリンピック・パラリンピック開催という、国際的にいろんな人たちが集まる機会に思いっきりぶつけてみたいと思ったんです。
――宇都宮の作品を経て得たものが、今回の「まさゆめ」につながっているんですね。
荒神さん:国も地域も、年齢も性別も問わず、いろんな人が本当にそんなことを考えられるチャンスだなとすごく思って。だったら、もうこれやるしかない!という感じでした。
宇都宮では、この作品の本質に気づかされたんですけれども、そこから大きくジャンルや地域も問わずチャレンジしてみたいなと思ったんです。
――もっとたくさんの人が謎について考えるって、凄い状態になりそうですね。
南川さん:そうですね。宇都宮の時は、最初は実現できるかできないかというところから始まっていて。更に自分たちが作品の本質みたいなものに気づいていくというプロジェクトだったように思います。
いつかもっと作品にとって然るべき機会にやりたいというのがあって、そこで「Tokyo Tokyo FESTIVAL」にピンときたという感じですね。
――それは、すごくいい流れですね。
南川さん:そうですね。やってるというよりも、やらされているというのに近いですね。やれって誰かに言われてるような。
――なにか、世界が実現を待っているようなプロジェクトですね…!今から、とてもワクワクします。
――「顔を空に浮かべる」ということは宇都宮での作品と共通していますが、今回の「まさゆめ」も同様の流れになるのでしょうか?
南川さん:顔を集めてその中から浮かべる顔を決めて、実際に浮かべるというざっくりとした流れは同じですが、今回は宇都宮の時とは違うものにしたいと思っていて。
まず大きく違うのは規模感ですが、今回はまさゆめ事務局ができて、彼らのクリエイティビティを軸に展開しているところでしょうか。私たちアーティスト側だけでやると、極端なプロセスになってしまいがちで、参加者が全員親友みたいな、ある種“濃い”参加者しかいないという状況になりがちです。そうすると、アーティスト本人と密接であるかどうかということが、プロジェクトと参加者の関係になる。もうちょっとグラデーションと言うか、濃い参加者もいればもっと間接的な参加者もいて、それぞれに価値のある参加者であるような状態を作ることができないか、といったことを事務局スタッフたちは話しています。
アーティスト側がやりたいようにやるよりも、このプロジェクトの意味みたいなものを想像したり、共有の方法を模索して、結果、作品がより良くなるようなプロジェクトの進め方を考える。そこが今回の違うところだと思います。
――なるほど。対象が世界になっていることや、参加者の気持ちのグラデーションがあることによって生まれる反応など。全く新しいプロジェクトになるんですね。
「見た人が、“抜け落ちていったもの”を考えるきっかけに」
――今回のプロジェクトがどのようになることを望んでいらっしゃるのでしょうか?そのあたりをお聞かせいただけたら。
南川さん:5〜6階建てのビルぐらいのでっかい塊が東京の空に浮かんでいて、それをいろんなところから見ることができる。そういう状況が東京に生まれます。ネットを介せば、世界中からも見ることができる。しかもそれが「誰?」って言う、そこが重要で。
――世界中が「誰?」となるわけですね。
南川さん:社会や都市や人の生活も、どんどん合理的になっていますよね。都心には新しい建物が次々建って。でもそもそも「都心に人が集まるのはなぜ?」とか、子供が聞きそうな質問ですが、身の回りに起きていることのほんの一歩先を「なぜ?」と思うと、途端に本当の理由がわからなくなる。「わからない」状態というのは、実は合理的なことのすぐ先にあって、それをオリンピック・パラリンピックの状況に添えてみると言うか。極端に言えば、オリンピックもたった数百メートルの距離を他人が走っている光景をものすごい数の人が見るっていう、謎の儀式とも言えるわけです。そんな、いつもと少し違った見方につながるようなことを作品を通して発信できたら面白いと思います。
荒神さん:夢で見た時のように、「こんなこと街がやるんだ」「こんなこと起こってもいいんだ!」と思えるような状態になってほしいです。知らない人の顔が空に浮かぶことなんて、普段だったら抜け落ちていったり、やらない可能性が高い選択だったりすると思うんです。それが、リアルな都市の景色の中で本当にボンって上がって、一斉にみんなが空を眺めることを、自分もすごく楽しみにしてますし、見た人がそんな“抜け落ちていったもの”を考えるきっかけになってくれればいいなと思います。
――「こんなこと起こってもいいんだ!」って、いいですね。そう思える瞬間は、私も常にどこかで欲しているような気がします。
南川さん:時々「なぜ?」という目線で見ると面白いんですよ。オリンピック・パラリンピックも、何で人類はこうやって4年に一回集うのか、とか考えると不思議に思えますよね。
――確かにそうやってみたら面白いかも。オリンピックイヤーだからこそ生まれる状態を、噛み締められそうですね。
「2020年、顔が上がる当日まで世界にワクワクが充満して欲しい」
――プロジェクトは始まったばかりですが、今伝えたいことは?
南川さん:顔募集を今まさにやっていて、応募してもらえたら2020年に浮かぶ顔は「自分かもしれない」と思いながら2020年までを過ごすことができます。実際に浮かんだときに、誰かの顔に対面するのもミラクルなことです。誰でもない誰かの顔ですが、それがあなたの顔だったかもしれない。もしかしたら、そんな当日までのワクワクの方が大事かもしれなくて、それが世界中に充満して欲しいと思っています。きっと、もう地球上で2度とないチャンスだと思います。期間中に応募するだけで、そのワクワク感は保証されると思うので、ぜひ応募して欲しいです。

顔応募フォーム:https://masayume.mouthplustwo.me/recruitment/entry.html)
南川さん:おそらく、2020年の顔が上がるときまでには、このプロジェクトがあるということは広がっていくとは思うんですが、でもそれが「自分の顔だったかもしれない」と思うには、締め切りまでに応募する必要があります。多くの人にその感じを味わってもらいたいですね。
――荒神さん、南川さん、ありがとうございました!
ただ2020年に顔を浮かべるのではなく、そこに到達するまでのワクワク感を充満させることや、浮かべた時の世界の状態までもがトータルで含まれる壮大なプロジェクト「まさゆめ」。この記事を読んだみなさんは何かの運命だと思って、ぜひご自身の顔を応募して一緒に顔が浮かぶ日を待ちわびましょう。
まさゆめ
公式HP: https://masayume.mouthplustwo.me/
目 /[mé]
アーティスト 荒神明香、ディレクター 南川憲二、インストーラー 増井宏文を中心とする現代アートチーム。
個々の技術や適性を活かすチーム・クリエイションのもと、特定の手法やジャンルにこだわらず展示空間や観客を含めた状況/導線を重視し、果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする作品を展開している。代表作に「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー、2014年)、《repetitive object》(大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018)、《Elemental Detection》(さいたまトリエンナーレ 2016)などがある。第28回(2017年度)タカシマヤ文化基金受賞。2019年は「六本木クロッシング 2019」(森美術館、2月9日[土]〜5月26日[日])、個展「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館、11月2日[土]〜12月28日[日])にて新作を発表予定。
http://mouthplustwo.me/index.html