CREATOR クリエイティブなヒト
あまのさくやの「彫る」×「掘る」インタビュー|イラストレーター Andrew Joyceさん《前編》
こんにちは。あまのさくやです。
私は「はんこと言葉で物語をつづる」をコンセプトに、はんこを「彫る」ことと、インタビューをしてその人について「掘る」ことを仕事にしています。
今回、箱庭さんにて、『日本在住の外国人クリエイター』へのインタビュー記事を連載させていただくことになりました!
仕事や活動の場に、日本を選んだ外国人クリエイター。海外から日本にきて、仕事をする。ときにはフリーランスで働く人もいる。母国だってフリーランスで生計を立てることには苦労が多いのに、まして海外でなんて、誰にでもできるようなことではないし、その経緯には様々な物語が凝縮されているはず。とはいえ、必ずしも彼らが流暢に日本語を話せるとも限りません。そんな彼らの話、じっくり聞いてみたくありませんか?
私自身もクリエイターの端くれとして日本で活動しているはんこ作家であり、さらにカリフォルニア生まれのバイリンガルという一見ミスマッチな経歴を生かせる機会なのでは!ということで企てたこの連載。彼ら自身について知ることは、出身国や文化を知ることにもなり、さらには日本を知ることもできるはず。その人の背景について「掘り」下げ、またその人を表すはんこを「彫る」、そんな二刀流でいきたいと思います。
第一弾は、イラストレーターのAndrew Joyce(アンドリュー・ジョイス)さん。
アンドリューさんは、イギリス出身、日本在住8年目。ドローイングや、自主制作の冊子(ZINE)、GIFアニメなどを制作されています。近年の彼の作風は単純な形、明確な色合い、太めの線が特徴で、その仕事は日本のみならず、母国のイギリスや他ヨーロッパにもわたり、ユニクロや無印良品、アディダスやレクサスなどなど大きな仕事を抱え、活躍中。
※今回の記事の挿画は、すべてアンドリュー・ジョイスさんによるものです。
前編では、アンドリューさんがどういう経緯をたどって、今日本でイラストレーターの仕事をしているのか掘り下げます。
イギリス出身、日本在住8年目。日本人の奥さんと共に日本へ移住。
ーいつから日本に住んでいるんですか?
日本人の奥さんとともに日本で暮らし始めたのは、2011年頃から。大学を卒業したあとにイギリスで結婚したけれど、経済状況も悪い時だったから、ロンドンで暮らすのは東京の3、4倍くらいお金がかかるとわかっていました。日本へ行くこともリスクはあったけど、お金もキャリアも今後のためには必要だったし、その時は日本にくるのがいいという決断をしました。はじめは日本で英語教師の仕事をしながら、イギリスや日本のイラスト仕事も徐々に増やしていった感じかな。
ーはじめはイラスト専業じゃなかったんですね!
結婚していたのでビザは問題なかったけれど、生活に必要なお金を確実に稼ぐ必要があったので、英語教師の仕事をフルタイムでしていました。仕事の休憩時間や帰宅後、出社前の朝の時間に、イラストの仕事をしていたから、仕事が増えてきてからは本当に忙しくて。英語教師をやめて専業のイラストレーターになったのは、来日して2年経った頃でした。
ーご出身はイギリスですか?
僕はイギリスの中でもウェールズ地方に生まれて、父親がイギリス空軍(RAF)で働いていたから、2年ごとに転勤があるような家庭だったんです。だからアイルランドやスコットランドやウェールズなどいろいろな場所に住んだし、そのたびに新しい学校で友達をつくりました。
ー小さい時からいろいろな地を転々としていたのですね。
そう。だからあまり「故郷」というものを感じにくいのだけれど、僕自身は”English”(イギリス人)というよりは”Welsh”(ウェールズ人)だとは思っています。
イギリスの教育システムが可能にした「さすらいの旅」
ー日本に住み始める前の経緯は?
実はイギリスの教育システムは少し日本と違っているんです。僕の場合は5歳から6年間の初等教育、その後5年間の中等教育、そして2年間のカレッジ、と進学しました。中等教育までは、英語、フランス語、数学、ドイツ語…など幅広く教育を受けて、カレッジでは自分の興味を2、3分野ほどを選択できて、職業教育に近いんです。通常は18歳でカレッジを卒業したあとに、大学に入って専攻を決めて3年間学ぶという仕組みです。
ただイギリスでは、カレッジを修了したあとにすぐに大学ではなく、1年間どこか外に出ることが推奨されているんです。大学に入学を申請して受理されたら、そこから入学を1年待ってもらうことができます。その間外で働いてもいいし、旅をしてもいいし、留学してもいい。世界を知って違う文化を学んでから、大学に入って自分の専攻に集中するという仕組みだね。
ーすごくいいシステムですね…!
そう。ただ僕の場合は、カレッジを卒業してから大学に入るまで、5年間旅をしていました。
ーえっ、5年間!?自由ですね~(笑)。
1、2年ほどヨーロッパを転々として暮らしていて、キャンプ上でテントを組み立てるアルバイトをしたりとか。そのあとはオーストラリアのホステルで働いたり、日本でも英語を教えに行ったりしました。
日本にきたのは、代理店の人にすすめられたから
ーその頃にはじめて日本にきたんですね。決めたきっかけは?
イギリスでは、若者向けの旅行代理店があって。そこでは10カ国の中から行きたい国が選べるんだけど、中でも1年間の世界周遊プログラムに力をいれていて。お店の人に「どこがいい?」と聞かれて、本当にどこでもよくて。それで「日本はどう?」と言われたから、「いいね!」…みたいな具合で。
ー自分で決めたんじゃなく決めてもらったんですか!
そう!だから本当に偶然だったんだ。そのときに初めて日本にきて、すっかり虜になってしまいました。快適で、旅もしやすくて。食べ物もなにもかもが新しくて、お好み焼きも焼き鳥も焼肉や、刺身には特にはまったなぁ…。一時期は食べるのがやめられなかった(笑)。そのあとはすっかり日本に夢中になってしまって、折を見つけては、お金をためて、たびたび日本に来ていたんだよね。
ーなんでそんなに日本にはまったんですか?
僕は東京でのライフスタイルが好き。自動販売機もそこら中にあるし、夏場は夜中にも短パンで歩き回れるし。イギリスは気候もあまりよくないからそうもいかない。はじめて日本にきたときにポカリスウェットを飲んだ時のことはよく覚えていて、今でも飲むとそのときのことを懐かしく思い出すよ。歩き回るとすぐに冒険のように、お寿司やさんや居酒屋があったりして、毎日新しいものに出会える。日本で出会うものは欧米諸国のものとは全く違って新しいし。なのにどこか受け入れやすいんです。多くの外国人がそういう「東京」に惹かれて訪れたり、移住しているんだと思います。
イギリスやアイルランドの人々は、日本の人たちと似ている部分があると感じます。わりとシャイで新しい人に出会うことが苦手なところとか、心で思ったことを全部出すのではなくて腹の中にとめておくこととか。どちらも島国だし、漁村がたくさんあったり、食習慣も近かったり、文化としても共通する部分もあったから馴染みやすかったんです。
イラストレーターという職業を知らないままに、イラストを描いていた
ーカレッジ卒業後の5年後、大学に入ったんですか?
そう。24歳でイギリスに戻って大学に入りました。旅をしていた頃は、自分でも将来何をしたいのかも、イラストレーターという職業があることもよくわかっていなくて。でも以前から無意識のうちにデザインや看板やタイポグラフィを観察したり勝手に考えたり、すでにイラストの仕事でやるようなことをしていたんです。イギリスの大学に戻って、はじめの1年間でデザインや写真やアニメーションや映画など幅広く勉強しました。2年のときに日本の大学に留学をして、またイギリスに戻って卒業してからは、アルバイトをしながらイラストの仕事を得るために奔走して。その後間もなく幸運にも、今のイギリスの代理店と出会って契約できたんです。
ーそのあとにご結婚、日本へ移住。そこから日本でもイラストの仕事を開拓していったのは本当にすごいですね!
「とにかく続ける」ことが大事だと思う。大学を卒業して、顧客もいないし、自分が何をできるかわからないし、ときには気の進まない仕事をしなきゃいけないかもしれない。だけど時が経つにつれて顧客が1人増え、そして2人になり。そうやって顧客が増えて忙しくなって、自分の仕事集もいつの間にか立派になってくるというか。とにかくイラストをやめずに、描き続けたというだけなんです。他の仕事に就くことを選ばずに、とにかく続けた。イラストレーターになる以外の選択肢がなかったから、とにかく、難しくても大変でもやり続けた。そういう人たちが大きくなって、イラストレーターになった。きっとそういう流れなんだと思います。
ーどうやって日本で仕事を増やしていったんですか?
日本では自分で1から繋がりを作り始める必要があったから、色々なコミュニティに顔を出して名刺を渡したり、クライアントに会って仕事集を渡したりしました。今は日本でも2年ほど前から代理店に所属はしているけれど、その他にも個別の問い合わせがきて直接している仕事も多いんです。今でも大事にしているのは、いつも「オンライン」でいること。常に活動を更新してみせることで、クライアントも僕の仕事を見返すことができるし、作品を覚えていてもらえるので。
―子供の頃から様々な地を漂流して、言葉の通り日本へも、たまたま「漂着」したような印象を受けるアンドリューさん。日本、中でも東京にのめり込んでからは、強い意志を持ってイラストを続けて行くことで、日本でも仕事を開拓していきます。何か突飛な行動をとるでもなく、一つ一つを着実に続けて来た結果なのでしょう。
後編では、日本でイラストレーターとして働き続けるなかで、自身に起きた変化や今の仕事についての話を伺っていきます。

Andrew Joyce(アンドリュー ジョイス)
1983年ウェールズ生まれ、日本在住のイラストレーター。日本やイギリスを始め各国にわたるイラストレーションの仕事をする傍ら、”The Tokyoiter”、”TOKYO ILLUSTRATORS MEETUP”などを主宰する。
http://www.doodlesandstuff.com/

聞き手:あまのさくや
「はんこと言葉で物語をつづる」をモットーに、「さくはんじょ」という屋号ではんこ・版画作品を制作し、インタビューをはじめとする執筆業も行う。チェコ親善アンバサダーとしても活動中。
6月17日から23日まで、恵比寿・Gallery&Shop山小屋にて、書店をコンセプトとした個展「小書店」を行う。
http://amanosakuya.com/
※プロフィールはんこ制作:あまのさくや