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あまのさくやの「彫る」×「掘る」インタビュー|チェコで活動するイラストレーター松本沙希さん《後編》

あまのさくやの「彫る」×「掘る」インタビュー|チェコで活動するイラストレーター松本沙希さん《後編》

こんにちは。絵はんこ作家・エッセイストのあまのさくやです。
イラストレーターとして仕事をしながら、累計五年弱ほどチェコ・プラハに暮らす松本沙希さんのインタビュー後編をお届けします。

松本沙希さんの仕事や活動は多岐にわたり、チェコや日本という国の枠を超えて幅広く活躍されています。
彼女はチェコで、イラストレーターとしてどのように働いているか。「海外で働くということ」の一つの形を、彼女のケースから教えてもらいましょう。

チェコでイラストレーターとして働くということ

―留学期間を終えたあとは、どのように過ごしていましたか?
プラハ工芸美術大学のイラストレーション科を卒業した後、もともとチェコアニメーションが好きでチェコに来たこともあり、アニメーションをやりたいと思い、アニメーション科に入学しました。1学期のみですが(笑)。その後は人づてで、お店にイラストが必要だという人がいる、という情報をもらったり。チェコ国内のブックフェアに出店したときに、良さそうな出版社に片っ端から自分のつくった本を見せて回るなどしました。そのときのつながりで、二年後に、聖書の絵本をつくりませんかという仕事がきました。全部、つながりとタイミングですよね。

松本さん挿画
松本さん挿画の聖書の絵本。チェコの児童書出版社Meanderから出版された

―チェコでの現地の仕事はどうですか?
チェコ人と仕事をするには、チェコ語をよほど話せなければならないのと、日本よりも対価が安いこともあり、結構難しいです。私もそうですが、チェコに住んでいる日本人のフリーランスの人は、日本のクライアントを持ってる人が多いという印象です。
私は現地でも版画や本を販売しています。日本からも、掲載されているイラストレーターの年鑑で作品を見て依頼してくださるかたがいたり。帰国してから「はじめまして」と挨拶した人もいました。

プラハから日本へ戻ってきて変わったこと

―ビザが切れて、昨年は1年間、日本へ一旦帰国されていますよね。そのとき日本での生活に変化はありましたか?
ものすごく変わりました!プラハにいるときに、「展覧会ってオープニングがあるんだ」「アーティストってこういう風につながるんだ!」というのを目の当たりにしてきて。東京でも、クリエイターやアーティストの行きそうなところをどんどん開拓していきました。それはプラハでの過ごし方と似ていたかもしれません。日本滞在中も、イラストやグラフィックデザインの仕事を多く受けました。
仕事を含め日本で活動するうちに、私がチェコでやっていることや、チェコに興味を持ってくれる人が増えました。チェコなんてどこにあるかも知らなかった人にも、私が動くことでチェコに興味を持ってもらえるのは面白いですね。「チェコの人ですよね?」と聞かれたこともあります。チェコの人ではないですけどね(笑)。

ー日本に帰国するときに、「もうチェコに戻らない」という選択肢はなかったのですか?
往復で航空券を買ってしまってたんですよね(苦笑)。はじめに戻ると言っていたタイミングになってもビザの関係で戻れず、荷物を現地に置いてきていたので、フラットメイトにすごく迷惑をかけてしまったんです。事情を話したら、別のチェコ人のお友達が、私のかわりに彼女の家の倉庫に私の荷物を一時的に引き取ってくれて本当に助かりました。その友達はアナといって、学生時代に彼女とは学生時代に『ロスト・スプリング』という本を共作した仲なんです。

ロスト・スプリング
Anna Bobreková(アナ)との共作『ロスト・スプリング』

―「ロスト・スプリング」はどんな経緯で共作を?
アナとはプラハの映像の学校と連携する課題があって知り合いました。私のプロットを元にシナリオを書いてくれて。私はイラストを描いて、意見を出し合って制作しました。卒業式の時点で製本が終わらず、式にきてくれたアナとそのまま学校に戻ってドレスのまま製本を続けたという思い出もあります。(苦笑)

―すっかり『盟友』になったんですね…!本は、どういう内容でしたか?
この本は、チェコで行われる「マソプスト」という謝肉祭のイベントが題材になっています。お祭りでは、豚を解体して丸焼きにして、スープやソーセージを作って食べたりするのですが。さらにモンスターのマスクをかぶってパレードするという伝統行事があるんです。

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チェコで制作するうちに、自分は『森・自然・八百万の神など、自然の中の見えないものへの興味がある』ということにたどり着きました。そしてチェコの「マソプスト」に見られる自然宗教的な妖怪みたいなものに対するチェコ人の感覚や、モンスターのマスクをするというクリエイティビティが面白い!と、インスピレーションをもらって。『ロスト・スプリング』は、日本の神道の感覚と、チェコのアニミズムを融合させたような物語になりました。

ロスト・スプリング
「ロスト・スプリングより」

その後、神道を伝えることをテーマに、宮沢賢治の『茨海小学校』をチェコ語版で制作しました。それがきっかけでロシアの国際アートブック展に招待され、その時にアナと再び共作し、その本はロシアの国際コンぺティションで入賞しました。

silk road theatre book
ロシアの国際コンペティションで入賞した「silk road theatre book」

―課題をきっかけにコラボレーションが始まり、可能性が広がっていったんですね。他にもコラボレーション作品はありますか?
同じ大学のセラミック科の生徒がつくったウィスキーボトルに私が絵付けするというコラボレーションも生まれました。それも好評で、プラハのインテリアショップや、日本では伊勢丹、OPAギャラリーでも展示販売をしたり。現在も違うプロダクトですが、制作は続いています。

Monika Martikanová
セラミックアーティストMonika Martykanováとのコラボレーション。松本さんが絵付けを担当

―最近の仕事を教えてください。
先ほどの「ロスト・スプリング」がマソプストについての物語だったのですが、最近、プラハから1時間くらいのところにある町のマソプストのイベントのイラストを描かせていただきました!実際に仕事になったのは嬉しかったですね。ポスターなど、今後三年くらい使い続けてくれるそうです。

マソプスト
マソプストのイベントポスター(design: Michal Ocilka)

また、チェコスロバキアを主に、年間のグラフィックアート大賞を決めるコンペがあり、2019年総合部門の最終ノミネート8人の中に入りました。残念ながら優勝は逃しましたが、チェコの重要建築、市民会館内で展示されました。

グラフィックアート大賞

もうひとつ印象深いのは、プラハ7区の月刊タブロイド紙の仕事です。なんと、チェコスロバキア建国100周年記念を担当させてもらいました。instagram経由でデザイナーと知り合い、そのままいいタイミングで話が進みました。「過去で一番いい表紙」と言ってもらえて本当に嬉しかったですね。

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プラハ7区の月刊タブロイド紙
プラハ7区の月刊タブロイド紙の挿画を担当(design:20YY Designers)
ワークショップ
プラハの美術館でワークショップも行った。『チェコの子供妖怪百鬼夜行』としてみんなで妖怪を巻物に描いた

―今後は何をしたいですか?
何か大きい仕事をしたいですね。チェコにこだわらず他の国にもアプローチして仕事したいです。チェコにいるうちに人を動かすようなプロジェクトをやっている人とか、今まで会ったことのないような人にも会って一緒に何かやってみたいなと思います。
空間で絵が機能しているのが好きなので、広告やキャンペーンの仕事ももっとやりたいです。

それから、今まで、日本のアートブックフェアでチェコのアーティストの本を紹介したり、逆にチェコのブックフェアで日本の絵本を紹介することもしてきました。そのようにお互いの文化を伝える活動は引き続きやっていきたいです。チェコでの体験をまとめたイラスト本も作りたいです。

また、シュンペルクという地方のギャラリーの招待で、4月16日まで個展も開催中です。
今年は4月に日本に帰国予定だったのですが現在のコロナ騒動でキャンセルになってしまいました。開催中の個展についても少し長い話になるので、私のnoteにも書いて行こうと思いますのでぜひ読んでみてください。


ここ数年の成果が着実に実を結び、目覚ましい活躍を遂げている松本さん。
彼女が過ごしている今は、強い意志によって選んできたものが招いた、「偶然」の積み重ねなのだなぁとしみじみ感じました。

大変でもチェコにいるのはなぜか?と問うと、彼女は「ただ存在して仕事していた」とあっけらかんと答えます。その淡々とした捉え方も、一つ一つ目の前のことにベストを尽くしていく性格の現れのようにみえました。

「往復で航空券を買ってしまった」と笑う松本さんは、ビザ取得に苦労しつつも、執着とは違うようなニュアンスで、気がつけばまたチェコにいる。

数年後松本さんを探したら、チェコにいるのだろうか。世界のどこにいるのだろうか。どこにいてもきっと友達をたくさんつくって、イラストとともに羽ばたくように、活躍しているのだろうなぁと思います。

saki matsumoto

松本沙希
東京、プラハを拠点に活動するイラストレーター・グラフィックデザイナー。東京農業大学、桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン卒。MJイラストレーション修了。プラハ工芸美術大学(UMPRUM)イラストレーショングラフィック科修士課程を修了。
チェコを中心にヨーロッパ各地での展覧会やコマーシャルの仕事、出版、ブックフェア参加などの活動をして合計5年チェコに滞在。主な手法はデジタル、リソグラフ、水彩やモノクロペン画。
チェコでの生活についてはnoteで発信中。現在、チェコのシュンペルクという町で、4月16日まで個展を開催している。

instagram:https://www.instagram.com/sakikki.2/
note:https://note.com/saki220
WEB:https://tis-home.com/Matsumoto-Saki/

200406amano_08

聞き手:あまのさくや
「はんこと言葉で物語をつづる」をモットーに、「さくはんじょ」という屋号ではんこ・版画作品を制作し、インタビュー・エッセイをはじめとする執筆業も行う。チェコ親善アンバサダーとしても活動。現在、チェコ旅行記本を鋭意製作中。制作のようすはnoteで連載しています。
note:https://note.com/sukimajikan
WEB:http://amanosakuya.com/

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