CREATOR クリエイティブなヒト
大伴亮介の「日常ワンシーン画」 Vol. 6 路上(動揺編)

こんにちは。イラストレーター・デザイナーの大伴亮介です。
日常にはさまざまなワンシーンが存在します。
しかし、そのほとんどは心にひっかかることもなくただ流れ去って消えてしまいがちです。
そんなはかない記憶の雑魚をすくいあげ魚拓のようにイラスト化し、そこになにかしらの考察を記していこうというのがこのコラム『日常ワンシーン画』です。
個人の経験が舞台とはなりますが、皆様にもなにかを感じとっていただけたら幸いです。
第6回 「路上」のワンシーン(動揺編)
日常には路上が登場します。
偶然にも「じょう」で韻を踏んでしまいましたが、今回は道の上で発生する、少しだけ心が動揺してしまうワンシーンをすくいあげていきます。
【1】かかとを踏まれてクツが一瞬だけ脱げそうになるシーン
すぐ後ろを歩いている人にクツのかかとを踏まれることがあります。クツが脱げてしまった場合は「もうっ」と舌打ちのひとつでもすればいいのですが、脱げて瞬時に元に戻る(ふたたび足がクツに入る)こともあり、今のはなんだったんだという幻の一瞬を味わいます。
【2】スマホに顔を照らされた人が歩いてくるシーン
夜道を歩いていると遠くのほうから白く照らされた顔が近づいてくることがあります。怪談のような書き出しになってしまいましたが、スマホを眺めている本人は画面に集中しているので自分がホラーな状態になっていることに気付きにくいものです。「人のふり見て我がふり直せ」で自主的に意識しなければなりません。
【3】他人の家のぬいぐるみに見おろされていたシーン
誰もいないはずの道で感じる視線。ゆっくりと頭上を見ると、そこには。また怪談のようになってしまいましたが、出窓って人間の心の余裕を可視化したようなスペースで素敵ですよね。窓の外にむけてぬいぐるみを飾る家のような人間になりたいものです。
【4】逃げようとしないハトに負けてブレーキをかけるシーン
自転車をこいでいるとハトの群れに行く手を阻まれることがあります。「はいはい通りますよー」と圧力をかければ大体のハトは逃げていきますが、たまに鎮座したままいっこうに逃げようとしない頑固なハトがいます。そうなったらもうプライドのぶつかり合い。ひかれる恐怖に負けて飛ぶか、ひいてしまう恐怖に負けてブレーキをかけるか、ハトとヒトとの最終決戦です。
【5】ダッシュしても間に合わなそうなバスに「いっそ早く発車してくれ」と思うシーン
乗りたいバスが停まっているのが見えても、距離を考えれば明らかにもう間に合わないと判断できる瞬間があります。次のバスを待つかぁとトボトボ近づいていくと、おや?意外とまだ発車しない。どうする。今からでもダッシュすれば間に合うのかもしれないけど、ダッシュして乗れなかったら最悪だし。でも乗れるなら乗りたいのはやまやま。可能性はゼロではない。というか、もしかしてあのバス、自分のこと待ってくれているのでは? と、運転手さんへの感謝の気持ちが湧きあがり早足になりかけた瞬間、バスはふつうに発車します。
【6】なにかをカウントされたシーン
いきなり「カチリ」とボタンを押されることがあります。自分という人間のどこのなにをカウントされたのか、それを教えてもらえないというのはなかなか後味が悪く、スッキリしない感情がのこります。
【7】外廊下にセミらしきものが落ちているシーン
建物の外廊下を歩いていると、セミらしきものが落ちているのを目にすることがあります。セミかもしれないし、セミじゃないかもしれない。すでに動かないかもしれないし、急に暴れだすかもしれない。でも、そんなことはどうでもいい炎天。ただそれだけの、真夏のワンシーンです。
【8】歩行者信号のボタンをじつは誰も押してないシーン
ボタンを押してはじめて信号が青になるタイプの横断歩道があります。自分だけであれば迷わず押しにいくのですが、すでに大勢の人が待っている場合はつい「もう誰かが押しているだろう」と考えてしまいがちです。いつまで待ってもなかなか青にならず、やがて(これもしかして、押してなくね?)という不安が頭をよぎりますが、わざわざボタンまで近づいていって確認してもしもちゃんと押してあったら押した人に失礼というか、ただ「他人を信じることができなかった人間」に成り果てるだけので、なかなか難しいところです。
【9】何かを踏んだ気がしておそるおそる確認したらとくに何も踏んでなかったシーン
足がクツ越しに違和感をおぼえる瞬間があります。なにかを踏んだ可能性がある。ガムか、もっと嫌なモノか。この状況から可能なことはもう「確認」しかなく、その結果として得られるものは「ショック」か「安堵」のどちらかでしかない。そんなデッド・オア・アライブな局面においても最低限の配慮は忘れたくないものですので、デッドだった場合を想定して第三者から見られない物陰にコソコソと移動し、おそるおそる、さりげなく、ゆっくりと、クツの底を確認するのです。
【10】雨がポツポツきたシーン
「あ、やば、きた」という瞬間。湿るアスファルトの匂いとともに、点が地面を染めていくでしょう。
今回は以上です。ありがとうございました。
続編として「路上(動揺しない編)」もいつか書きたいと思っています。
それでは皆様よいワンシーンをお過ごしください。
イラストレーター・デザイナー。図形や色面を使った絵づくりベースに、商品や広告などのビジュアル制作をおこなっています。
日常のささいな瞬間を切りとって描いた「ワンシーン画」シリーズはSNSにて随時更新中です。
Web: https://www.r-otomo.com/
Twitter: @R_OTOMO
Instagram: @otomoryosuke
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