DESIGN クリエイティブなモノ・コト
けんちく目線で見てみよう!「ONOMICHI U2」
こんにちは!タナカユウキです。
今回は、海を目の前に佇む素敵な施設について、けんちく目線でご紹介します。
建築というと、難しい顔をしながら腕を組んで考える、そんな分野に捉えられがち。
建築がもっと身近に感じられるよう「建築」ではなく「けんちく」のような柔らかい部分をお伝えできればと思います。
そして、けんちく目線での紹介を通して、素敵な建物との出会いや新たな発見につながれば嬉しいです。
広島県は尾道市、海と山に囲まれたその場所は、鎌倉幕府が誕生した中世の頃より海運の町として栄えました。
海沿いには造船場が見られ、多くの船が行き来する活気のある町並みが魅力です。
山に囲まれた中心部では、山の斜面に集まるようにして建つ住宅や仏閣が、美しい景観を作り上げており、観光地として多くの人が訪れます。
尾道市と、愛媛県の今治市を結び、海の上を自転車で渡ることができるロケーションの素晴らしさから、サイクリングロードとしても人気が高い「瀬戸内しまなみ海道」。
ここ尾道市は、しまなみ海道の発着地点に位置することから、サイクリングを楽しむ方も多く訪れます。
船と自転車が行き交うこの町には、地元民にも、そして、観光客にも愛される素敵な施設があります。
機能を変えて生まれ変わった建物
「県営2号」と刻まれたその建物は、戦時中に建てられ、海運倉庫として使われていました。
そしてその建物は、倉庫の外観を残しつつ「ONOMICHI U2」と名前を変えて、多くの人に愛されています。
施設の名前に掲げられた「U2」という文字。
かつて、この建物が倉庫として使われていたころの名称である「県営上屋(うわや)2号」から、その文字が与えられました。
施設の海側にあるのは、木の板でできたボードウォーク。
ここでは、たくさんの船が浮かぶ一面の海景色を楽しむことができます。
地元の方の散歩やランニングのコースとして使われ、そして、並べられた椅子とテーブルでは、「ONOMICHI U2」を訪れたお客さんや、地元の方が思い思いの時間を過ごしています。
ボードウォークと施設内のカフェは、窓を介してつながっています。
自転車を押しながらでも、この窓からコーヒーやサンドイッチを購入することができるのです。
倉庫の中に広がる街並み
建物の中には、瀬戸内にゆかりのある食べ物や雑貨が買えるお店や、レストラン、さらには、バーも併設されています。
大きな建物の中に、たくさんのお店が営まれている光景は、ひとつの街並みのよう。
かつての倉庫の姿が印象的なこの建物。一歩足を踏み入れた先には、まるで宝箱のように、たくさんの機能が詰め込まれた素敵な空間が広がっています。
この建物の設計を手がけたのは、建築家・谷尻誠さん、吉田愛さん率いるSUPPOSE DESIGN OFFICE。
型にはまらない設計により、あっと驚くような建築プロジェクトを多く手がけられています。
建築の枠を超えた幅広い活動に取り組まれていることも、魅力のひとつ。
たとえば、谷尻誠さんと、様々なフィールドで活躍するゲストが対談を行う「THINK」という活動は、建築家とゲストのトークセッションから、新しい発想が生まれたり、予想もできない気づきが得られたり。そんな毎回違った体験のできる素敵なイベントです。
話を「ONOMICHI U2」に戻しましょう。
2006年に倉庫としての役目を終えたこの建物。改修を行い、もっと素敵に使われるためのアイデアが募集されることとなりました。
そのときの設計条件の1つとして与えられたのが、「倉庫の外観を残す」ということ。
選考の末に、この建物の改修工事を手がけることが決まった谷尻誠さん、吉田愛さん率いるSUPPOSE DESIGN OFFICE。
倉庫としての外観にはほとんど手を加えず「その大きな倉庫の中にいくつかの建物を建てる」という発想のもと、この素敵な施設が生まれました。
倉庫の中に街が広がるような空間は、そんな背景のもと作り上げられたのです。
建物のなかの街には、自転車メーカー「GIANT」の店舗が入っていることも忘れてはいけません。
自転車のレンタルやメンテナンスも行っており、サイクリングを目的にして訪れたお客さんにとっての、大切な存在です。
バーではお酒を楽しむことができます。
このバーカウンターのように、建物内の施設には、ざっくりとした手触りの木材や、鉄などの、無骨な雰囲気を感じさせるような材料が多く使われています。
造船業で栄えたこの街をイメージして、これらの素材が選ばれました。
また、バーカウンターの照明は、夜の海を照らし魚を集める「漁灯」をモデルにしています。
建物内には、この地で古くからある産業に思いを寄せ、そのイメージを建築に落とし込むための工夫がちりばめられていました。
バーカウンター目の前に設けられた窓からは、外の景色を眺めることができます。
この建物が倉庫として使われていたころ、窓の部分は、大きな鉄の扉で閉ざされていました。
そこにガラスをはめ込むことで窓として、建物内に明るさをもたらしてくれています。
この建物が作られるときの設計条件がもう1つありました。
それは、仮にこの事業が終わるとき「建物をもとの状態に戻すことができるよう配慮する」ということ。
倉庫とは、人が長い時間滞在することを想定していないので、建物のなかは暗くなりがち。
今の「ONOMICHI U2」では、たくさんの人を迎える施設であるために、建物の中を明るくすることが必要です。
ですが、明るさを求めて、建物に穴を開け新しい窓を設けることで、建物をもとの姿に戻すことが簡単にはできなくなってしまう。
そこで、もともと扉であった部分をそのまま活かして、窓にする。そうすることで、建物に大く手を加えることなく、たくさんの光が入るようになりました。
けんちく目線で見てみると、建物の最期についても、しっかりと考え抜かれた結果がそこにはありました。
愛車と共に、泊まることのできるホテル
たくさんの光が降り注ぐエリアとは打って変わり、建物の西側には光が多く入りません。
そんな少し暗いエリアは、ホテルとして活用されています。
観光客はもちろんのこと、サイクリストが宿泊し体を休められるこのホテルには、自転車にとっても、やさしい工夫がたくさん詰まっていました。
ホテルに足を踏み入れます。
はじめに、出迎えてくれるのは、金属のサインが格好良いフロント。
チェックインを済ませて部屋に向かいます。
部屋までの道のりにはスロープが設置されています。このスロープによって、愛車を押したまま部屋に向かうことができるのです。
ホテルは2階建てになっています。
部屋のひとつひとつが、でこぼこと並べられてるのが特徴です。これにより、まるで小さな建物が立ち並ぶ街路のような雰囲気が感じられます。
2階にも客室が立ち並んでいます。
倉庫の屋根のコンクリートとの組み合わせが、とっても格好良い空間となっています。
このホテルは、主に「軽量鉄骨」と呼ばれる軽い鉄の材料で建てられています。
軽量鉄骨の良さは、人の手で運び、組み立てられること。
倉庫の中という限られた空間で工事を行うがゆえに、重い材料を運ぶ大きな重機を使うことができません。
そこで、人の手で運び組み立てることができる材料が選ばれたのでした。
軽い材料ですが、もちろん建物の強度は問題ないよう設計されていますので、ご安心ください。
ふと天井を見上げると、大きな窓があります。
この窓は、もともと明かりを取り込むだけのものでしたが、このエリアがホテルになるにあたり、開け閉めができる窓に取り替えられました。
それにより、万が一、建物が火事になったとき、煙を逃がすための役割も与えられているのです。
建物の使い方を変えるとき、その変更に合わせて、建物にひと手間を加えなくてはならないことがあります。
「ONOMICHI U2」では、倉庫からホテルへと使い方が変わりました。
そこで今までよりも、滞在するひとの安全を守ることができるように、この窓は取り替えられました。
個人的に、悶絶してしまった「整理整頓」の張り紙。
かつて、倉庫として使われていた時この張り紙によって、保管されている荷物の整理整頓が促されていたのでしょうか。
客室は、アメニティや細かな部分に、センスを感じるものばかり。是非お泊り頂いた際に、お楽しみください。
室内の壁には、自転車のハンドルを利用したハンガー。ここに自転車を掛け、愛車とともに一夜を過ごすことができるのです。
ご本人も自転車好きであるという建築家・谷尻誠さん。その自転車への愛情がこんなところにも現れているのでした。
日が暮れる頃、サイクリングを楽しんだお客さんたちが、このホテルに戻ってきて、それぞれの時を過ごします。
バーでお酒とおしゃべりを楽しむ、外のボードウォークで夜風にあたる、そんな色々な楽しみ方ができること。それが、この施設のいちばんの魅力です。
かつて、倉庫としてこの町の産業を支えたこの建物は、新たな機能を追加されることによって、再び多くの人に愛されることとなりました。
その土地を創生するということには、町並みを守りながらも、今までそこになかった新しい発信をしていくことが大切だと僕は思います。
倉庫としての姿を残しながらこの街に寄り添い、地元の方や県外からの観光客が集まり、そこで営みが形成されている「ONOMICHI U2」。
この建物は長期に渡って、そして、多くの人に愛されるための大切なことがたくさん詰まった建物なのでした。
ONOMICHI U2
住所:広島県尾道市西御所町5-11
TEL:0848-21-0550
website:http://www.onomichi-u2.com