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写真の中に吸い込まれてしまいそう!映画『ダゲレオタイプの女』で描かれている世界最古の写真技術を見てきました!
ダゲレオタイプ今まで見たことがないくらいの繊細な写真表現!
こんにちは、あいぽんです。
いや〜iPhone7が発売されましたね。レンズが2つ付いてスマホでボケ感のある写真が撮れたり、最近の写真技術ってすごいな〜ついていけないくらいだよ!
なんて思っていた矢先、『ダゲレオタイプの女』という映画に出会いました。
世界最古の写真撮影方法であるダゲレオタイプを巡る悲しくも美しい物語で、監督は世界でも評価されている黒沢清監督です。永遠を求めるダゲレオタイプ写真家・ステファン、その娘でありモデルを務めるマリー、助手として撮影を目撃しながらマリーに心惹かれていくジャン。ダゲレオタイプに3者が翻弄されていくというストーリー。
そもそも、ダゲレオタイプというのは、1838年にフランスで生まれた世界最古の写真撮影方法。ネガを作らず、直接銀板に焼き付けるので、拡大縮小はもとより、焼き増しも不可能!世界にたったひとつしか存在しない写真なのです。そして、長時間の露光を必要とするため、体が動かないように拘束する必要がある撮る側も撮られる側もかなりのエネルギーが必要になります。
映画の中でもモデルを務めるマリーは、手や腰、頭を拘束器具でがっちり固定され、露光時間の70分間は身動きが取れないという過酷な撮影…!
(スマホで片手でパシャパシャ撮っている、今から見ると想像もできない…)
70分の過酷な撮影の後、等身大の銀板に投映されたマリーのダゲレオタイプ写真ができあがるのですが、ステファンが「これこそが本来の写真だ」と言うように、その写真は今まで見たことのないくらいの美しさで、ジャンも圧倒されるわけです。
が、ちょっと待って。ダゲレオタイプ写真って世界最古の写真技術ってことはわかった。そしてすごい時間がかかるってこともわかった。でも、それって技術が進化する前だからでしょって思ってませんか?一体全体なにがそんなにすごいのよ?って思いますよね。思いましたよ、私も。
ダゲレオタイプってなんなのよー!ということで、実際にダゲレオタイプを撮影する現場に行ってみました!
日本で数少ないダゲレオタイプ写真家・新井卓さんによる撮影実演
新井さんはダゲレオタイプで撮影した写真集「MONUMENTS」で写真界の芥川賞とも称される木村伊兵衛写真賞を受賞したダゲレオタイプ写真家さんです。その新井さんが、今回の映画の黒沢清監督とジャンを演じたタハール・ラヒムをダゲレオタイプで撮影する貴重な撮影会にお邪魔しました。
左から黒澤沢清監督、新井卓さん、タハール・ラヒムさん
撮影機材はこちら。
さっそく撮影してもらうことに!
と思ったのですが、撮影前の準備も大変で、銀板を磨き、銀板に薬品を施し、やっと撮影という感じ。銀板も薬品もとても繊細に扱わなければいけないということで、ひとつひとつの行程に緊張感がみなぎります。(実際相当体力を使うようで、新井さんは4枚の写真を撮り終わる頃にはヘトヘトに疲れていた…)
お2人がセットに入った頃はもう緊張感がマックス。映画で見たものよりは少し簡易的ではありますが拘束器具も付いています。
カメラに銀板をセットし、シャッターの瞬間を待ちます。
が、シャッターの瞬間は一瞬!かなり強いストロボが一瞬バチッと。お2人もあまりにも強いストロボに思わずびっくりしています。
あれ…ちょっと待って…70分かかるのでは…?と思ったのですが、今回はスタジオのストロボを使用し、かなり強い光量を用いることができたことと、投影する銀板のサイズもB5ほどと映画の等身大サイズよりもかなり小さいサイズだったため一瞬で撮れたのだそう。
でも、一瞬とは言え本当に強い光で、目がくらむほどの眩しさでした。
昔はストロボほどの光量を用意することは難しいので、何時間もシャッターを開きっぱなしにする必要があったのでは?ということでした。なるほどー!
また、現代でも実際に等身大サイズでダゲレオタイプ写真を撮るとなると、かなりの光量が必要になるため不可能に近いことなのだそう。
こちらはカメラをレンズ側から見た様子。写真ではわかりにくいかもしれませんが、いくつものレンズが重なり、レンズに反射して正位置や逆位置の自分が何層にも重なって見えます。
黒沢監督もレンズを見て、なんだか吸い込まれそうだとおっしゃっていました。
さて、投影された銀板は薬品で洗われ、暗室内で水銀の蒸気をあて、写真になります。マスクをして現像するのだから、撮る側も本当に命がけ。できた写真がこちら。
んん?なにも見えない…。ライトを上から当てると…
ふわっとした空気感も写真の中にあるようで、本当に時間を切り取ったという感じ。奥行きもあって、あの一瞬の眩しさの中が写真に封じ込められたんだ…!というくらい結構鳥肌モノなんです。伝わりますかね?この興奮。
正直言うと…ダゲレオタイプ写真を写真で撮ると、そのすごさが伝わらないので悔しいのですが…。しばらく見ているとフッと、写真の中に吸い込まれそうになるくらい、奥行きと空気感があるんです。ドラえもんの入り込み鏡みたいな、向こう側の世界があるような感じがすごい。
黒沢監督がカメラのレンズを見ていて吸い込まれそうになったとおっしゃっていましたが、あながちあるんじゃないかというくらい、リアルな世界が写真の中にあるんです。昔、「写真を撮られると魂を取られる」なんて言われていたけど、ダゲレオタイプ写真を見るとなんだか納得してしまいます。
そんな得も言われぬ不思議な雰囲気があるダゲレオタイプ写真ですが、その秘密は解像度。なんでも、今の技術を持ってしても超えられなくらいの超高解像度なのだとか。
って、やばくないですか!?世界最古の写真技術が、今の技術も超えられなくらい超高解像度だなんて…!!
なんか…めっちゃロマンチック!
実際のダゲレオタイプの写真を見ると、かなり魅了され、もう何も言うことがないくらい虜になってしまったのですが…、一応、野暮な質問とわかりながらも黒沢監督に今回ダゲレオタイプをテーマにした理由を伺ってみたところ、ある展覧会でダゲレオタイプで撮影された少女の写真を見たからなのだそうです。その写真の少女のなんとも言えない表情に魅了され、いつか映画の題材にしようと思っていたのだとか。一度見たら忘れられなくなるの、納得です!
ステファンが永遠を追い求めるためにダゲレオタイプ写真に没頭したというのも、少し理解ができるような気がしてきます。
そして、新井さんにも野暮な質問を…。新井さんの思う、ダゲレオタイプの魅力を聞いてみました。
「鏡に投影されていて見にくいので、見る人が見る努力をしなくてはいけないです。写真家は自分の見ているリアリティを見ている人にも知ってもらいたいという思いがあると思いますが、普通の紙の写真だと簡単に見ることができるため、そのリアリティまで伝わりきらない部分があります。ダゲレオタイプは、僕が被写体を見るときと同じような努力を、写真を見る人にも要求するのでそこがいいなと思っていますね。体験を共有できるというか」
見る側も努力が必要な写真。確かに、投影したままの銀板では像を見ることはできないし、ライトで照らし見えるようになってもあまりの繊細さ、奥行きや空気感、気を抜くと吸い込まれそうな感覚は見る側の気合も必要となります。
(ぶっちゃけ見たいけど、見るのが怖いという不思議な感覚に陥る!)
「あと、非常に繊細に写し取る写真なので、人間や動物など生き物などは本当にそこに転写されているような写真になるんです。そこにいるかのような写真になりますからね」
世界最古の写真技術の奥深さに、もうなんかぐうの音も出ないっす…!
最近は気軽にパシャパシャ撮っていたけど、新しい写真との向き合い方を教えてもらったような気がします。
神秘的ですらあるよ!ダゲレオタイプ…!
さて、ダゲレオタイプ写真の衝撃をご紹介したところで、もう少し気になる!という方はぜひ映画『ダゲレオタイプの女』もチェックしてみて下さい。
きっとダゲレオタイプを通して写真の魅力や可能性を再認識できるはず。
お見逃しなく〜
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映画『ダゲレオタイプの女』
- 公開日:10月15日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開。
- 監督・脚本:黒沢清
- 出演:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリヴィエ・グルメ、マチュー・アマルリック
- フランス=ベルギー=日本合作/原題:Le secret de la chambre noire
- URL:http://www.bitters.co.jp/dagereo/
- (C)FILM-IN-EVOLUTION – LES PRODUCTIONS BALTHAZAR – FRAKAS PRODUCTIONS – LFDLPA Japan Film Partners – ARTE France Cinéma