DESIGN クリエイティブなモノ・コト
2016年ロングライフデザイン賞受賞!四半世紀以上愛され続ける文具づくりのヒミツ
「ドクターグリップ」「ハイテックC」「フリクションボール」…。
次々と名作を生み出すパイロットコーポレーションには、まだまだ名作があった!
こんにちは、箱庭編集部です。
今年の5月に、「ロングライフデザイン賞」についてご紹介したのを覚えていますか?
ロングライフデザイン賞とは…
わたしたちの暮らしの中で愛され続けているデザイン、これからも変わらずに存在し続けてほしいデザインとそのデザインを生み出した人々を讃える賞。
グッドデザイン賞を10年以上前に受賞したことのある、もしくは、発売以来10年以上継続的に提供されていて、生活者から支持を受けている商品やサービスを対象に、担当デザイナーや企業関係者のみならず、一般ユーザーからの推薦も加味して選ばれます。
箱庭の記事を見て、私も推薦したよー!という方もいるかな。そんなロングライフデザイン賞の2016年度受賞対象が、10/28、ついに発表となりました。
2016年は、「エネループ」(2006年発売)、「明治おいしい牛乳」(2001年発売)、「バンドエイド®」(1921年発売)、「龍角散」(江戸中期から)など、全28件が受賞しました。ここで挙げたものだけでも、商品イメージが頭にパッと思い浮かぶような定番品ばかりではないでしょうか。受賞した全ラインナップを見てみると、どれも長年愛されているというだけあり、商品の細部までこだわってものづくりされているな~と感じる商品が名を連ねます。ロングライフデザイン賞を運営している公益財団法人日本デザイン振興会曰く、ロングライフデザインを受賞する商品は、商品の細部までこだわって開発・デザインされているのはもちろんのこと、長年製造・販売し続けるために、その商品を支えた人や企業がいて、その結果、いまもこのように愛され続ける商品となっていることが多いのだそうです。
確かに、10年、20年、そして50年、100年と同じ商品をつくり、販売していくのは並大抵のことじゃありませんよね。ロングライフデザイン賞の受賞は、商品にかかわる様々な方の努力があったからこそなんです!受賞したすべての商品にきっとたくさんのストーリーがあるかと思いますが、今回私たちは、もっとも身近な文房具に注目し、2つの文具商品でロングライフデザイン賞を受賞されたパイロットコーポレーションの方にお話を聞いてきました。
ロングライフデザイン賞を受賞された商品のことから、パイロットコーポレーションのものづくりに対する姿勢まで。そこには、長年愛され続けるための文具づくりのヒミツがありました。いまから46年前に開発された目から鱗の受賞商品にも注目して読んでみてください。
1970年誕生!46年変わらずに愛され続けるサインペン「プチ」
株式会社パイロットコーポレーションは、みなさんご存知、日本を代表する文具メーカーです。近年では、温度変化で筆跡が消えるボールペン「フリクションボール」が大ヒット。私たちが学生の頃は、「ドクターグリップ」や「ハイテックC」の大流行がありましたが、そちらもパイロットコーポレーションの商品なんです。長年、時代をつくっている文具メーカーと言っても過言ではないと思います。
そして今回受賞した1つ目の商品は、こちらのサインペン「プチ」です。
レトロなデザインがかわいいのですが、なんと商品誕生は、いまから46年前の1970年!それから、ずっと変わらず愛され続けているロングセラー商品です。
キャップを開けて、まず驚くのはこのペン先の細さです。ペン先、なんと0.4mm。
サインペンといえば、先がフェルトのものを思い浮かべると思いますが、この商品はペン先がプラスチックで出来ています。
パイロットコーポレーションの営業企画部課長 小島 久明さんにお話を聞きました。
「当時、サインペンが売れ始めた時に、サインする時ってもっと細い方がいいんじゃないか。細いサインペンをつくろう。として開発されたのがこの商品です。簡単に仕組みを説明しますと、この小さなペン先のプラスチックの中は、植物の茎のように、ペン先の真ん中(芯)を残して、目に見えない小さな穴がいくつか開いています。芯があるので、ペン先を尖らせることができ、見た目で細いのもわかるし、書いても細いことが分かるかと思います。」(小島さん)
46年前にも時代を変えていた、パイロットコーポレーション!
実際に書いてみても、こんなに細いんですよ。まさに、”サインペン(サインすることに向いているペン)”とは、こういったペンを指すのだなと感心してしまいます。
「サインペンは、”サイン”をするペンですから、胸ポケットに刺して、仕舞いますよね。その際に、プラスチックの留め具よりも金属留め具の方が恰好がつく。それで、金属クリップのデザインになっています。」(小島さん)
キャップ上部の黄色が、いいアクセントになってかわいいですよね。と伺ったところ、「色以外の要素を区別する時に、この小さなペンの中で表現しようとすると、キャップの上部を使って表現するということが多いんです。」と教えてもらいました。以前は、少し太めのタイプがあり、そちらは上部が白色だったそうです。(海外では、現在も販売中。)
とはいえ、発売から46年。時代の流れとともに、リニューアルなどの声もあったのでしょうか。
「1999年に、プチの後継者にあたる、スーパープチという商品を発売しました。その頃、実はプチを止めようという話がずっとあったんです。でも、それを支えたのは、プチを好きだと言ってくれたファンのみなさんと、そして、海外での人気です。ファンがついていたので、結局止められないという話になりました。近年、毎年新入社員に好きなペンを聞くのですが、プチをカッコいいと言ってくれる人が案外多いんです。こうやって若い世代から見ても、いいペンだと思われているのは、すごく嬉しいですね。」(小島さん)
コアなファンの方々と海外での人気が支えたサインペン。時代が流れた今もこうやって、若い世代に受け入れられている文具となっているのが、まさに名作文具と言えます。現在では購入できる文具店が少なくなりつつはあるのですが、一度使ったら不思議と魅了され、愛用し続けるという不思議なペンです。これを機に、一度使ってみようかなと思ってくれる人が増えるとまた嬉しいですね。
そして、もう一つ。今年ロングライフデザイン賞を受賞したボールペンが「Vコーン」
パイロットコーポレーションは、今年もう一つ、ロングライフデザイン賞を受賞しています。それが、こちらの水性ボールペン「Vコーン」です。
写真の赤ボールペンの気泡を見て気づいた方もいるかと思いますが、「Vコーン」は、生の液体が入っている直液式と呼ばれる水性ボールペンです。通常の水性ボールペンは、おなかに綿のようなものを詰め、そこに液体のインクをしみこませて、少しずつペン先に運ぶものが多いですが、直液式は、生の液体インキが入っています。そのため、ペンの滑らかさが違うのと、まだインキがあるのに出にくくなるといった状態がないと言います。以前は見かけることが多かった、この直液式の水性ボールペン。最近こういったタイプのものが少なくなったと思いませんか?実はいま、ゲル化剤を入れてジェル状に固めた水性ボールペンも多く、そちらでも手軽に水性インキの良さを楽しむことが出来てしまうんだそう。ただ、直液式でしか感じることができない滑らかさがあります。パイロットコーポレーションでは、その滑らかさを大切にしているのです。
「この生の液体インキを適量だけペン先に運ぶためには、ペン芯と呼ばれるコントローラーが大切になってきます。そのため、このペンの中には色々なパーツが入っていて、結果的に原価が高くなってしまう。当時は、通常のボールペンよりも水性ボールペンは高価格に設定する傾向が強かったのですが、せっかく開発した良い技術をより多くの人に体験してもらいたい想いがあり、低価格で商品化したのが、この『Vコーン』なんです。」(小島さん)
「Vコーン」の断面図を見せていただくと、櫛状の部品が入っていました。1本100円という低価格ボールペンにして、万年筆と同じような“ペン芯”が使われているといいます。
(左3本:現在のVコーン、右3本:1990年発売当初のVコーン)
低価格にするために、あらゆるデザインをそぎ落としてシンプルにつくられたのが、当時のVコーンだそうです。(写真右)
その当時、グッドデザイン賞を受賞しているのですが、実は開発を担当していたみなさんはビックリしたんだそう。
こちらの商品はデザインをリニューアルされていますが、それはどういった経緯があるのでしょうか?
「ちょうど90年代後半にかけて、時代の流れから世の中にエコマークが出てきます。金属のパーツがあると、エコマークに認定されなかったんですね。それで、低価格のボールペンは、みな再生樹脂を使った環境にやさしいボールペンに変わっていきました。Vコーンもその流れで2001年にリニューアルしています。」
46年変わらずにいた「プチ」に対して、時代の流れとともにリニューアルした「Vコーン」。辿ってきた道は少し異なりますが、どちらも長年愛され続けるために、みなさんが製品を守り続けたことには変わりありません。
パイロットコーポレーション流ものづくりの流儀
(パイロットコーポレーション営業企画部 小島さん。いい笑顔です!)
「プチ」「Vコーン」そしてこれまでも世の中にたくさんの名作文具を輩出しているパイロットコーポレーション。
開発する時に大切にしている事って何なのでしょうか。
小島さん「”書く、を支える”が会社のポリシーとしてあります。そのため、開発する時も、書き味にはこだわっています。なめらかであること、心地よいものであること。あと、日本はもちろんですが、世界で戦わなきゃいけないシーンが多々あります。世界で戦うために、書き味に加えて、筆記の安定性も大事にしています。最後までかすれることがあまりないですね、これが、高品質のパイロットと言われる所以でしょう。開発者が、色々と開発を重ねて、これなら十分であるというものが、発売されている商品です。」
デザイン面ではどういったところを大切にしているのでしょうか。同じくパイロットコーポレーション営業企画部の意匠グループ 課長 池田 明教さんに伺いました。
池田さん「文具の中でも特にペンは、細く・小さいものなので、制約条件が多くなることが多々あります。その中で、研ぎ澄まされたシンプルなものを追求していくのは、楽しさだと思っています。結果として、思いもよらないものがつくれたときは、ほら、すごいだろうって、少し誇らしくもあります。厳しいからこそ、そこを突き抜けてやろうというのは、モチベーションのひとつです。
またお客様に長く愛される商品になってほしいので、少なくとも5年間はプロダクトライフサイクルが保てるデザインにしてくださいとよく言われています。『プチ』に比べたら、5年なんてって笑われちゃうかもしれませんが(笑)。より使いやすくて、書きやすい。そこにこだわって、開発、営業が自信をもって売れるデザインを考えています。使う人のことを思いながら実直にデザインされた商品が長く愛され続けているなと思っています。」
先ほど「プチ」は、ファンの方と海外での人気の支えがあり、生産を続けられたということですが、時代の流れで、売れ行きがあまり伸びなくなった商品の販売を止めるといったことはありますか?
小島さん「常々言われている事として、”われわれは、総合筆記具メーカーである。総合的に商品を揃えなさい。”というのがあります。非常に売れている商品ではなくとも、お客さんがついていて、まだまだ売れるのであれば、つくり続けます。その分、カタログも分厚くなりますけどね(笑)。あと、筆記具は間違いなく、文化だと思っています。書いた文字でいろんなものが生まれます。だから私たちは、文化を担っている意識を持つべきだと考えていて、売れ行きももちろん大事だけれど、そういった意識も大切にしているんです。」
いつの時代も変わらずに、こうやって文具に向き合ってきたパイロットコーポレーションだからこそ、長く愛される商品が生まれてるのですね。
最後に受賞を聞いた時のお気持ちと、使ってくれているみなさんへのメッセージをお伺いしました。
池田さん「当事者ではないのですが、先輩からいただいたプレゼントだと思っていますし、励みにもなりました。そういったものを未来の後輩のために残していかなければならないなと思います。」
小島さん「まずは、使っていただいているみなさんへ”ありがとうございます”という感謝の気持ちですね。グッドデザイン賞も嬉しいですけど、ロングライフデザイン賞はやはり特別ですね。46年というと、親も子も学生時代に愛用しているなんてことがありえますからね。そんな文具って素敵ですよね。これからもみなさんに愛される文具をつくって行きたいと思います。」
プロダクトにかかわる人たちが、全身全霊をかけて商品をつくり、販売し、そして使っている人の声に耳を傾けてくれているからこそ、日本にはこれだけ素晴らしいロングライフな商品やサービスが生まれているんだなと、あらためて感じるインタビューでした。
ロングライフデザイン賞を受賞した対象一覧を見てみると、まだ知らなかった素敵な日本の商品に出会えるかもしれません。ぜひこちらから確認してみてください。
実際にロングライフデザイン賞受賞商品を見たいという方にも朗報!11/20まで「LONG LIFE DESIGN EXHIBITION 2016」が開催中です。すべての商品を一度に見ることが出来ます。ぜひ、足を運んでみてください。
ロングライフデザイン賞2016
WEBサイト:http://www.g-mark.org/guide/2016/guide5.html
LONG LIFE DESIGN EXHIBITION 2016 グッドデザイン・ロングライフデザイン賞受賞展
開催日:2016年10月28日(金) – 11月20日(日)
開催時間:11:00-20:00 /定休日なし
場所:GOOD DESIGN Marunouchi
東京都千代田区丸の内3−4−1 新国際ビル1F
入場料:無料
WEBサイト:http://www.g-mark.org/gdm/index.html
※GOOD DESIGN EXHIBITION 2016同時開催
開催日:2016年10月28日(金)– 11月3日(祝・木)
開催時間:11:00-20:00 ※最終日17:30まで
場所:東京ミッドタウン各所 東京都港区赤坂9-7-1 (最新のグッドデザイン賞全受賞デザインを展示)
渋谷ヒカリエ8/COURT・CUBE 東京都渋谷区渋谷2-21-1(特別企画「そなえるデザインプロジェクト」展示)
入場料:1,000円(税込・7日間共通) 中学生以下は入場無料
・東京ミッドタウン会場一部無料、渋谷ヒカリエ会場は無料
・港区在住・在勤の皆さまは無料(証明できるものを受付でご提示ください)
WEBサイト:http://www.g-mark.org/gde/2016/index.html
◆取材協力
株式会社パイロットコーポレーション:http://www.pilot.co.jp/