DESIGN クリエイティブなモノ・コト
けんちく目線で見てみよう!「アクアマリンふくしま」
こんにちは!タナカユウキです。
今回はとある水族館について、けんちく目線でご紹介します。
建築というと、難しい顔をしながら腕を組んで考える、そんな分野に捉えられがち。
建築がもっと身近に感じられるよう「建築」ではなく「けんちく」のような柔らかい部分をお伝えできればと思います。
そして、けんちく目線での紹介を通して、素敵な建物との出会いや新たな発見につながれば嬉しいです。
工業港に佇む水族館
福島県はいわき市、多くの企業の工場が建つ小名浜地区に、今回ご紹介するアクアマリンふくしまはあります。
建物を覆うのはカーブを描いたガラス。夕暮れどきに落ちてきた陽の光が透きとおって輝く姿がとっても綺麗。工業が盛んな港に突然、水族館があらわれる様子が印象的です。
館内では海の中の生き物だけでなく、川辺の生き物や植物についても展示・飼育されており、幅広い目線で生態系を学ぶことができます。
たくさんの生き物に出会うことのできる「アクアマリンふくしま」は、けんちく目線で見てみると大量の水や生き物を抱える水族館ならではの工夫が詰まった場所でした。
それでは、建物の中へ入ってみましょう。
自然に近い環境をつくるための工夫
天井がガラスに覆われたエリアにきました。左手の大きな水槽では、イワシの群れを眺めることができます。
ここには福島県のさまざまな水辺で暮らす生き物たちと、それらの生き物が住んでいる自然環境が再現された空間が広がっています。
「アクアマリンふくしま」の特徴は、できるだけ自然に近い環境を徹底してつくりあげていること。
植物も生育しているこのエリアには、自然環境と同じく太陽光が降り注ぎ、自然の風が流れています。
風を通すのは、必要に応じて開け閉めすることができる窓。
特に植物を育てるためには、風通しの良さを欠かすことはできません。
建物を見上げてみると、生き物が暮らす自然環境をつくり維持するための工夫がありました。
サンゴ礁の海を再現した水槽にやってきました。水槽の上からは光が差し込んでおり、幻想的な世界が広がっています。
明るい水槽に、暗闇の展示室。多くの水族館で見られる水槽展示のつくりですが、これにはちゃんと理由があります。
水槽の中を明るくし、お客さんが立つ部分を暗くすることで、水槽に写り込んでしまう人の影をできるだけ少なくする効果があるのです。
けんちく目線で見てみると、ふだん見慣れた水槽には、魚や水中の景色をめいいっぱい楽しむための知恵がありました。
アクアマリンふくしまでは、他の水族館ではなかなかお目にかかることができない珍しい生き物にも出会うことができます。
個人的にこういう顔の魚が大好きです。
水族館を支えているもの
優雅に泳いでいるのは、トド。
ここで飼育されている一番大きなトドの体重は、なんと約700kg。大きな体で自由自在に泳ぐ様子は見ていて飽きません。
さて、トドもでかいが、
「ろ過器」もでかい。
水槽のなかは、生き物が元気に暮らすため水を綺麗に保つ必要があります。
トドやアザラシなど海獣用の水槽。そこで汚れた水を綺麗にしてくれるのが、こちらの「ろ過器」なのです。
ろ過器以外にもさまざまな機械が配置されている水族館の裏側。
普段お客さんの目に触れることのない「バックヤード」と呼ばれる裏側部分は、施設の約3分の2を占めています。
水族館を楽しむことができる背景には、建物の半分以上を占める裏側部分、そして生き物の暮らしを支える機械たちの存在があるのでした。
ちなみに、「アクアマリンふくしま」では無料で参加出来るバックヤードツアーが開催されています。ご興味のある方は、是非とも参加してみてください。
水族館を支えているのは機械だけではありません。
この透き通ったキューブ状のものは、水槽に使われているアクリル。
水槽は、何枚ものアクリルの板を重ね合わせたものでできています。その厚みは写真のとおり。
水族館の大きな水槽の水。その水の重量は約2,050tにもなります。
そんな水の重さに耐えるために、このような分厚いアクリルが使われているのでした。
さてさて、すこしお腹が空いてきました。
なんと、アクアマリンふくしまでは、大きな水槽を目の前にしてお寿司を頂くことができます。
今まで元気に泳ぎ回っていた魚たち。目の前でその命を頂くということ。
なんだか複雑な気持ちになりますが、こういった取り組みを通して子供が(大人も)が感じることは確かにあって、とても良い学びの場所だと僕は思いました。
お寿司を食べながら眺めていたのは、こちらの大きな水槽。
水槽の奥を覗き込むと、上のほうに人が立っていることが分かります。
奥に見えるのは先にご紹介したガラスの屋根に覆われたエリア。大水槽を通して別の展示エリアとつながることのできる面白い構成になっています。
福島県の海を表現した三角のトンネル
そこから少し進んだ先にあるのは、三角のトンネル。
福島県の海は、黒潮と親潮がちょうどぶつかる場所に位置しています。
それを表現するのがこちらの三角のトンネル。
右側には黒潮、左側には親潮の生き物が飼育されており、福島県の海で2つの潮流が出会うさまがこの三角のトンネルで表現されているのです。
見上げると太陽光が降り注ぎ、きらきらと光る水がとても美しい場所です。
このトンネルにおいても、先にご紹介した分厚いアクリルが使われています。
あれだけ分厚いのにも関わらず、はっきりと生き物や透き通る光が見えるのは、日本の技術あってこそ。
水族館の水槽に適したアクリルをつくる日本の技術は海外でも評価されており、世界の水族館の約8割で日本生まれのアクリルが使われています。
建物の外には、砂浜や岩場を再現したエリアも。ここでは釣り体験や、季節によっては潮干狩りを楽しむことができます。
建物の左手にそびえているのは展望台。少し登ってみましょう。
展望台から見える広大な海景色。それは実際に眺めて頂くとして、ここでは少しだけ、けんちく目線で眺めてみましょう。
展望台のガラスを支えるこちらの仕組み。これは「DPG構法(Dot Pointed Glazing構法)」と呼ばれています。
強化ガラスにあらかじめ穴を空けておき、その穴にボルトを固定することでガラスを支えています。
大きな枠でガラスを固定するわけではなく、必要最小限の「点」でガラスを支える「DPG構法」には視界を遮るものをできるだけ少なくし、ガラス越しに見える景色の邪魔をしないというメリットがあります。
けんちく目線で眺めてみると、展望台から見える景色を邪魔しないために、ガラスの支え方が工夫されているのでした。
さまざまな生き物に出会うことができる水族館。
水族館とはレジャー施設としてだけではなく、生き物との出会いを通して生態系の面白さを学ぶことのできる、生涯学習施設としての役割も担っています。
生涯学習施設といえば浮かんでくるのが、博物館や美術館。そこでは貴重な資料や芸術作品が展示されています。
そういった意味では、博物館や美術館は「過去」を通して学ぶ施設といえるかもしれません。
一方、水族館で出会うことができるのは今まさに生きている生き物たち。資料でも作品でもなく、生き物を観る。そして、それらの生き物は水族館という場所で育てられ成長してゆきます。
そういった意味では、水族館とは過去ではなく「未来」を通して学ぶ施設といえるのかもしれません。
生き物とその未来を支えているのは、水族館のスタッフさん。生き物たちに餌を与え、水槽を掃除し、そのおかげで私たちは楽しく鑑賞することができます。
そして、建物もまた影で支える役割を担っており、けんちく目線で見てみると違った面白さが見えてくるのでした。
アクアマリンふくしま
住所:福島県いわき市小名浜字辰巳町50
開館時間:通常期(3月21日~11月30日)9:00~17:30
冬 期(12月1日~ 3月20日)9:00~17:00
なお、最終入館時刻は閉館1時間前までとなります
※年度ごとの開館スケジュールついてはwebsiteをご確認ください
休館日:年中無休
website:http://www.marine.fks.ed.jp/