DESIGN クリエイティブなモノ・コト
けんちく目線で見てみよう!「公立はこだて未来大学」
こんにちは!タナカユウキです。
今回は北海道のとある学校について、けんちく目線でご紹介します。
建築というと、難しい顔をしながら腕を組んで考える、そんな分野に捉えられがち。
建築がもっと身近に感じられるよう「建築」ではなく「けんちく」のような柔らかい部分をお伝えできればと思います。
そして、けんちく目線での紹介を通して、素敵な建物との出会いや新たな発見につながれば嬉しいです。
函館山の見える高台に
函館駅からバスで揺られること45分ほど、高台に登った先が今回の舞台です。
正面奥に見えているのは函館山。
この高台からは、綺麗な夜景を楽しめることから毎年多くの方が訪れる函館山の姿を臨むことができます。
そこからくるっと、振り返ってみる。
すると目に飛び込んでくるのは、正面のガラスが特徴的な大きな建物。
こちらの建物が今回ご紹介する「公立はこだて未来大学」です。
建物の前面を覆っているガラスには、季節や時間帯によってさまざまな風景が映りこみ、そのたびに違った姿を見せてくれます。
今回の建物は、研究棟を除いて見学をすることができます。
見学の際は、まずは受付で名前を書いて、名札を身につけるようにしてください。
さて、この建物のいちばんの特徴は、階段状になった中のつくり。
ガラスで覆われた箱のような建物の中には、こちらの模型のような空間が広がっています。
階段状の空間?いったいどんなものなのでしょうか。
実際の建物で確認してみましょう。
階段状になったスタジオ
さきほどの模型が現実になったのが、こちら。
均等にならぶ柱に、階段状の学習空間。
5階分を吹き抜けとしたこの空間は「スタジオ」と呼ばれ、ひとりで集中するための空間や、グループワークを行うためのエリア、先生とコミュニケーションを取ることのできる研究スペースなど、ラーニング・コモンズといわれる学習空間が配置されています。
そんなスタジオのとある一角。
たとえば、この大学のためにデザインされた家具が設置された場所では、学生が勉強をしたりご飯を食べたり。
1日の時間帯によって自由に使われ、交流が生まれる場所になっています。
スタジオの上部に設けられたこのスペースでは、まわりの空間と少し距離を置き、集中して学習に取り組むことができます。
同時に、スタジオの広い空間を見下ろすことのできる贅沢な場所でもあります。
スタジオのいちばん外側にはあるのは、「プレゼンテーションベイ」と呼ばれる空間。
ここでは床のくぼみを活かして学生が腰かけ、少人数での授業に使われています。
スタジオには建物正面のガラスや天井の窓から、たくさんの光が降り注ぎ、日中は照明をつける必要がほとんどありません。
これにより、省エネにもつながっています。
ガラス越しには、函館山を眺めることができます。
階段状になったそれぞれの空間からは、外の函館山を眺めることができ、素敵な学習環境だと感じました。
より良い教育のために
学ぶための空間を階段状に配置した「公立はこだて未来大学」。
他の学校ではなかなか見られないこのつくりには、どのような想いが込められているのでしょうか?
オープンな空間が階段状に並ぶつくり。
たとえばそれは、海外大学の建築学科や設計事務所のオフィスで採用されることがあります。
建築をつくるための仕事の流れには、個人で行うもの、共同で行うものが入り混じります。
そういったなかでは、あるときは1人で集中し、あるときはチームで共同作業を行うということを自然に行き来できるという状況が、作業の効率を高めてくれます。
「公立はこだて未来大学」で行われるのは建築ではなく、情報システムなどのコンピュータにまつわる教育です。
それは一見すると、閉ざされた空間での学習で完結しそうですが、コンピュータの学習においても、オープンな場での質の高いコミュニケーションがより良い教育につながるはずだという想いのもと、このようなつくりが採用されました。
そんなスタジオの大空間をつくり上げている構造、その主な材料はコンクリートです。
もう少し具体的にいうと、ここでは「プレキャストコンクリート」という工事方法を採用しています。
通常、コンクリートとは工事現場で木の型枠をつくり、その型枠にどろどろのコンクリート流し込み、時間をおいて固めます。
これが一般的なコンクリートの建物の作り方ですが、「プレキャストコンクリート」の場合は少し異なります。
それは、コンクリートを現場でつくるのではなく、別の工場で事前につくっておいたコンクリートのパーツを現場で組み立てます。
そのメリットのひとつは、現場での作業性が上がり、工事にかかる期間が短縮できるということ。
工事期間の限られていたこの大学の工事において、その短い工事期間に対応しつつ、強度の高い材料であるコンクリートを使うために「プレキャストコンクリート」が採用されたのでした。
数字の理由
柱と柱の間の距離は12.6m。
この寸法にたどり着いた理由のひとつには「材料が運べる大きさである」ということがありました。
プレキャストコンクリートの場合、工場でつくられたパーツをトラックに乗せて現場に運びます。
そしてそのパーツは、トラックに乗せることのできる最大の大きさ、そしてその材料を載せたトラックが道路のカーブを曲がることのできる最大の大きさ。
そのような視点で材料の大きさは決められます。
建物の寸法には、理由があります。
建物を構成する数字ひとつをとっても、けんちく目線で眺めてみると、その数字であることの理由が見えてくるのでした。
こちらは授業を行う教室。
教室はガラス張りで構成されており、行なわれている授業は外から見ることができます。
その効果として、行なわれている授業が気になった人が自由にその授業に参加する、そんな教育環境が実現されました。
ガラス張りで構成された教室のつくりが、学校で行われる授業のルールを広げてしまうという素敵なことが起こっているのでした。
スタジオに面したこちらの講堂では、座席が斜めに設置されている断面を見ることができます。
ガラスのオープンなつくりを活かして、建物の構造を魅せるとても面白いポイントです。
講堂は、講演会などのイベントにも使用されており、学生だけでなく一般の方の参加もあります。
食堂は正面の窓に面しており、スタジオと同じくたっぷりの光が降り注ぐ空間になっています。
体育館にやってきました。
一面がガラス張りになっており、中での活動を確認することができます。
こちらの体育館の特徴は、天井の高い体育館の上部空間にサークル室があるということ。
天井から部屋を吊るという構造により、サークル室を設け、体育館上部の空間を有効活用しています。
大きな吹き抜けと階段状になったスタジオや、ガラス張りの教室など、開放的な空間であることが大切にされた「公立はこだて未来大学」。
学校とは、じっくり集中して学ぶという意図のもと閉じた空間になりがちですが、ここではそれと全く逆の発想をもつ学習空間がありました。
その背景には、この建物の設計に、30代を中心にした大学の若い研究者の方も参加されたということがありました。
建物を「つくる」ひとだけでなく、「つかう」ひとも積極的に参加したその設計過程。
そこでは「『学ぶ』とは、ひとつの空間に閉じこもって、ひとと関わりなく行うものではない」という考え方が尊重され、設計するうえでの基盤となりました。
今回ご紹介した建物は、建築家としての「良い建物をつくりたい」という想い。
そして教育者としての「理想の教育・学習環境とはなにか」を追求する情熱が出会うことによって生まれた、素敵な学校なのでした。
公立はこだて未来大学
住所: 北海道函館市亀田中野町116-2
電話番号: 0138-34-6448
見学時間: 平日午前9時〜午後5時
入館時の手続きにより建物の見学は可能ですが、事前にスケジュールを確認されることをおすすめします
website: https://www.fun.ac.jp/