DESIGN クリエイティブなモノ・コト
けんちく目線で見てみよう!「ギネス・ストアハウス」
こんにちは!タナカユウキです。
今回はアイルランドのダブリンから、ある飲み物にまつわる建物について、けんちく目線でご紹介します。
建築というと、難しい顔をしながら腕を組んで考える、そんな分野に捉えられがち。専門家同士の会話はときに格好良いものですが、「その間口が広がると、もっと素敵なことが起こりそう」そんなことを思いながら、こういった発信をしています。
そんな想いのもと、ここでは建築がもっと身近に感じられるよう「建築」ではなく、「けんちく」のような柔らかい部分をお伝えできればと思います。
そして、けんちく目線での紹介を通して、魅力ある建物との出会いや新たな発見につながれば嬉しいです。
街を歩くと度々聞こえる「Thank you」や「Sorry」という言葉たちと、そこから感じられる思いやり。
そして、お酒好きの多いこの国のパブに入れば出会える、陽気でフレンドリーな人たち。
そんな国柄に惹かれ、僕は昨年末から、アイルランドのダブリンという街に住み始めました。建築的にも興味深い建物が多く、どれだけ街を歩いても飽きることがありません。
というわけで今回はアイルランドから、素敵な建物をご紹介させていただきます。
ダブリンで最も古い地区にある建物
多くの観光客が行き交うダブリンの中心地「グラフトン・ストリート」という通りから、歩くこと30分ほどの地区が今回の舞台。
建物周辺には、街中でもときおり見かける馬車が多く待機しており、その光景から観光地としての人気の高さもうかがえます。
「セント・ジェームズ・ゲイト」と言われるこの地区は、ダブリンのなかでも最も古いとされる地区。
そしてここには、アイルランドの人たちに愛されるお酒が造られている工場があります。
アイルランドで生まれた歴史あるビール
「ギネス」というビールをご存知でしょうか?
スタウトと呼ばれる種類に分類されるそのビールは、とろりとしたクリームのような泡と、漆黒の見た目が特徴です。
原材料である麦を焦がすことで生まれる、しっかりとした苦味と、ほのかに甘くもある後味。個人的には、コーヒーがお好きな方は特に、その魅力に取り憑かれやすいのではないかと感じます。
そんなギネスビールの歴史を保存し伝え、アミューズメント施設としても運営される建物が、今回ご紹介する「ギネス・ストアハウス」です。
この建物は、もともとビールの仕込みを行うための施設として1904年に建設されました。そののち、2000年に今の用途へ生まれ変わるために改築工事がなされます。
趣のある外観はそのままのかたちで残され、建物の内部が大きく変貌を遂げました。
先進的なデザインの建物内部
中に入ってみると外観とのギャップに驚かされるほどの、大きな吹き抜け。
吹き抜け上部からは自然光が降り注ぎ、古き良さを感じさせる外観から一転、内部ではむき出しの鉄骨とガラスによる先進的なデザインに目を奪われます。
また、「完璧な一杯」を追求するギネス社は、ギネスビールを美味しく飲むための専用グラスもつくっており、7層分を貫くこの吹き抜けは、ギネス専用グラスの形状をしているそう。建物の設計においても、同社のこだわりが感じられます。
吹き抜けが圧巻のメインロビーでは、他にも面白いものが見られます。
床を見下ろした先に展示されているのは、この場所を借り上げるための契約書です。驚きなのが、その契約内容。
その内容とは、この醸造所一帯を破格といえる金額で、そして9000年という期間において借り上げるというもの。契約を結ばれたのは1759年、そこから9000年後となると、そもそも地球がどうなっているのかさえ分かりません。
当時、創業者であるアーサー・ギネスは弱冠34歳。今ではとても考えられない契約内容もしかり、その契約を結ぶに至ったアーサー・ギネスの度胸と、経営者としての手腕にも驚きです。
そんな歴史のもと、この場所でギネスの歴史が始まったのでした。
それでは、展示コーナーへ行ってみましょう。
製造工程と原材料のこだわりを学ぶことができる、展示コーナー
製造工程を紹介するコーナーでは、麦・水・イースト・ホップなど、それぞれの原材料をテーマにした展示を楽しむことができます。
ギネス社の材料へのこだわり、そしてギネスが僕たちの手元に届くまでの物語を学ぶことができるのです。
ビール造りにおいて重要な材料のひとつである「水」。
国立公園があり、豊かな自然があふれることからハイキングで訪れる方も多い、「ウィックロー」という地域があります。ギネスに使われる水は、そんなウィックローで採れる天然水。
そんな水へのこだわりが説明されるコーナーですが、ここでは、けんちく目線で見てみましょう。
ダイナミックな水の動きが表現された展示コーナーでは、まるで滝のように水が流れ落ちています。
水が流れる屋根はガラスで造られており、また鉄でできた構造により、絶えず流れ続ける水の重さを支えています。
ガラスの固定部分を見てみましょう。
目線を遮るような太い枠でガラスを固定するわけではなく、必要最小限の「点」でガラスを支える「DPG工法(Dot Pointed Glazing工法)」でガラスが固定されています。
ガラス同士を突き合わせる部分については、防水性をもつ樹脂の材料で固定されています。
これらの技術によって出来る限り目線を遮るパーツを少なくし、お客さんが上を見上げた時に水の流れがよく見えるように。そして、ガラスを通る光の量を減らしてしまうことがないよう工夫されています。
デザイン性の高いギネスの広告を楽しめる、広告展示コーナー
こちらは、過去に打ち出されたギネスの広告を鑑賞できるコーナー。
実は、広告戦略とギネス社との間には、切っても切れない関係があるのです。
1883年に「世界一の醸造所」の座を獲得するまでに至ったギネス社は、さらに発展を続け、1913年その売り上げは絶頂に達します。
しかし、その後の第一次世界大戦をきっかけに、「ビールのアルコール含有量を5%までにしなくてはならない」という戦時特例法がイギリスで発令されます。当時の主力商品が、それを上回るアルコール含有量であったために、大打撃を受けたギネス社。
そこから売り上げが落ち込みます。
その売り上げを持ち直すきっかけになったのが、ギネスの広告戦略。”Guinness is Good for You”という、ギネスが健康に良いという趣旨のキャッチフレーズと、イラストレーターを起用したことによる可愛らしいポスターを用いた広告戦略により、売り上げを回復させてゆきます。
そのとき生まれた数々の広告はデザイン性に富んでおり、こちらの展示コーナーでは、歴代の広告を鑑賞することができるのです。
個人的に「可愛いなあ」と感じたのは、こちらの広告モチーフ。ギネスの注がれた小さなグラス、それを口元で傾ける女性があしらわれたデザインは、グッズにも取り入れられています。
メインロビーにあるお土産コーナーには、他にも多くのグッズが並んでいますので、いらっしゃった際は是非チェックしてみてください。
レストランや絶景を楽しめるバーのある、上階へ
展示コーナーの他には、ギネスの注ぎ方を学んだり、テイスティングができたりと体験を通してもギネスの魅力に触れられます。ただ展示を眺めるだけでなく、アミューズメント施設としても楽しむことができるのが、この「ギネス・ストアハウス」なのです。
さて、それらを満喫した後は、レストランや最高の眺めを堪能できるバーがある上階を目指します。
上階の吹き抜けまわりには、休憩のできる椅子が並べられています。
ここから吹き抜けを見下ろすことにより、改めてこの建物のつくりを堪能することができます。ひと息つかれる際は、この場所でどうぞ。
こちらのレストランでは、食事をすることもできます。
ギネスと一緒にいただくと美味しい牡蠣(ギネスと生牡蠣の組み合わせは、本当にたまらない…!)や、アイリッシュシチューなどのフードメニューを楽しむこともでき、アイルランドの食文化を堪能するには、うってつけ。
ここからいよいよ最上階のバーに向かいたい、ですが、その前にお手洗いを挟ませてください。
そこで上を見上げると確認できるのが、トイレの用途を示すサインです。男女のサインは日本のものと変わりませんが、面白いのは車椅子用のサイン。
日本のものよりも、なんだかスピード感がありませんか?
トイレや公共施設に設けられるサインとは、「いかにして多くの方に、直感的に意味を伝えるか」これがなにより重要です。
そんなサインや街中の看板は国ごとの違いが見られる、実は面白いポイント。旅行の際は、こういったサインを眺めてみると日本との違いに気づき、新たな発見に繋がるかもしれません。
では、最上階のバーへ…と言いたいところですが、もう少しだけトイレを見てみましょう。
こちらは男性用の小便器ですが、ここでも日本との違いが見られます。(お食事中の方、ごめんなさい)
いちばんの違いは「便器の高さ」です。床から、リップと呼ばれる受け口までの高さを測ってみたところ「74センチメートル」。便器の形にもよりますが、日本よりも高い位置で設置されています。
そんな違いから感じられるのは、一般的に足の長い体格をもとにした海外基準と、日本基準との差。
もちろん一般的な日本規格の僕は、残念ながら「便器の位置が高いなあ」と感じながら用を足したのでした。
ダブリンでいちばんの絶景を堪能できる、「The Gravity Bar」
さてさて、お待ちかね、最上階のバーにやってきました。
こちらのバーでは、「ギネス・ストアハウス」の入場券を見せると、ギネスを1杯飲むことができます。
まさにこの場所で造られた、この世で最もフレッシュなギネス。展示を楽しんだあとに飲む1杯は、ビールが苦手な方にとっても、そのイメージを変えてしまうはずです。
炭酸ガスの他に窒素ガスも含むギネスは、グラスのなかで泡が対流する「カスケード・ショー」と呼ばれる現象が見られます。この繊細な泡のダンスを眺めながら待つこと、およそ2分。
漆黒の姿に変わりきったタイミングが飲みごろです。
ギネスを片手に、外の景色を眺めてみましょう。
このバーはダブリンで最も高い位置にあり、さらに全面ガラス張りであるため、360度全方位を眺めることができます。もともと、高い建物の少ないダブリンの街。視界を遮る建物は一切なく、ダブリンの街並みを余すとこなく楽しむことができるのです。
観光の際は始めにここを訪れて、ダブリンの街を見下ろしながら、今後の観光計画を練るなんてのも楽しそうです。
ギネスと絶景、そして名作チェアを堪能
ここで堪能できるのはギネスと絶景だけではありません。
配置された椅子を見てみましょう。これらの椅子は、デンマーク出身のアルネ・ヤコブセンという有名建築家によってデザインされたもの。
「スワンチェア」と名付けられたこの椅子は、その名のとおり白鳥を思わせるかたちをしており、直線のない座面によって包み込まれるように腰掛けることができるのです。
展示を巡ったあとの贅沢なひととき。このバーで締めくくられる時間は、最高の思い出になるでしょう。
今回はダブリンの観光地として人気の高い「ギネス・ストアハウス」について、けんちく目線でご紹介させていただきました。
アイルランドを語る上で外すことのできない「ギネス」という魅惑の飲み物。それを仕込むために建てられた建物は、改築工事によって、ギネスの歴史と魅力を伝える施設へと生まれ変わった。
当時の外観をそのまま残しつつ、先進的なデザインを内に取り込んだ「ギネス・ストアハウス」。
それは、伝統の味を守りつつも、時代に合わせて伝え方を変えることで発展を遂げてきた、ギネス社の姿勢そのものだと感じました。
Guinness Storehouse(ギネス・ストアハウス)
住所:St James’s Gate Dublin 8 Ireland
開館時間:9:30am – 7:00pm (最終受付は5:00pmまで)
7月・8月のみ
9:00am – 8:00pm (最終受付は6:00pmまで)
休館日:無し
website: https:/www.guinness-storehouse.com/