ロングライフデザイン賞

こんにちは、箱庭編集部です。
日々の生活の中で、自分が何年も使い続けているお気に入りのものや、側にあると落ち着くデザインはありませんか?もしかしたら、お気に入りということに気付かないくらいに、自然と毎日使っているものもあるかもしれませんね。

そんな私たちの暮らしの中で愛され続けているデザイン、そしてこれからも変わらず存在し続けてほしいデザインとそれを生み出した人々を讃える賞があるのをご存じでしょうか?それは、「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」です。みなさんお馴染みの「グッドデザイン賞」に関連する賞で、発売以来10年以上継続的に提供されていて、生活者から支持を受けている商品やサービスが対象となります。

これまでには、野田琺瑯や白山陶器のテーブルウェア、DURALEXのグラス等のキッチンアイテムから、ぺんてるのクレヨンやマルマンのスケッチブックなどの文房具、ヤクルトやホッピーなどの飲料まで、数々の暮らしの定番と言われるような名品たちが受賞しています。過去の受賞したアイテムたちを見てみると、「これ確かにずっと使ってる!」と思うものがあれば、「あ、このアイテム知らなかったけど欲しい」と思うものもあるんじゃないでしょうか。

そんな風に、私たちの暮らしと深く結びついている賞といえるロングライフデザイン賞は、ユーザーである私たちが推薦できる形をとっています。自分がこよなく愛する商品やサービスがロングライフデザインとして認められたら、とっても嬉しいですよね!さらに、賞を受けた作り手側は、改めてその商品が愛されているということに気付き、これからもずっとつくり続けようと思う。そんなきっかけにもなるはずです。

デザインが好きな箱庭読者のみなさんにも、ぜひご自身がロングライフデザインだと思うものを推薦して頂きたいと思います。でも、定番品は当たり前になりすぎているからこそ、なかなかそれが名品だと気づきにくい。。。

3人の方に、「これはロングライフデザインだな」と思う一品について聞いてみました。

そこで今回、多様な形でデザインに関わる3人に「あなたにとってロングライフデザインの一品は、何ですか?」という質問をしてみることにしました!普段からデザインについて色々な視点から考えているみなさんは、どんな一品を選ぶのでしょうか?選んだ理由やそれに纏わるお話を聞いてみると、日常から素敵なデザインを感じ取るヒントが見つかるかもしれません。

それでは、ここからインタビューした3人の方のお話をご紹介します。

プロダクトデザイナー 柴田文江さん

プロダクトデザイナー 柴田文江
まず一人目は、ロングライフデザイン賞の審査委員長を務めており、またご自身もプロダクトデザイナーとしてロングライフデザイン賞を受賞されたこともある柴田文江さんです。様々なデザインやプロダクトを生み出している柴田さんが教えてくれた一品は、こちら。

「SEIKO STANDARD Analog Clock」

SEIKO clock
ちょうどお話を伺っていたお部屋にもかけてあった、「SEIKO STANDARD Analog Clock」。深澤沢直人氏の監修により行われたインハウスデザイナーが新しい時計のスタイルを提案するワークショップ形式のプロジェクト「パワーデザインプロジェクト」で、2006年に生まれたプロダクトです。

――柴田さんがこの一品を挙げた理由とは?

    「この時計が発売した時、消費者として“ありがとう”という気持ちになりました。」

    柴田さん:この時計が発売した時のことを良く覚えています。自分はデザイナーですが、この時は消費者として「ありがとう」という気持ちになったんですね。これからは、壁掛け時計が欲しいなと思った時は“これを選べば良い”って、安心できると思ったんです。今、実際にオフィスでこの時計を2つ使っています。

    意外にもこの時計が発売されるまで、SEIKOにはこういったシンプルなものが無かったのではないでしょうか。時計自体、貴金属のカテゴリーに入る場合もあるので、壁掛け時計でも装飾の多いデザインが多かったのかもしれません。そんな中この「SEIKO STANDARD Analog Clock」は、モダンで見やすくデザインされていて、電波時計なので狂わないという機能性もある。当時すでに同じ壁掛け時計にも定番と言われるものはありましたが、これはまた違ったモダンさで登場して、今や定番にまでなりました。すでに同じ土俵で定番と言われるものがあるところで登場してきたことも、すごいですよね。

    そう考えると、定番になるようなシンプルなものって、“置きにいっている”デザインのようなイメージがありますが、むしろ新しい価値を作ろうと剛速球で投げられたものなんだな、と改めて思います。定番品として穏やかな顔をしているけど、淘汰されずにいる強者なんですね。

株式会社スマイルズ 遠山正道さん

スマイルズ 遠山正道
二人目は、食べるスープの専門店「スープストックトーキョー」や、ネクタイブランド「giraffe」、全く新しいコンセプトのセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」を始めとする人々の心を掴む様々なブランドを手掛けているスマイルズの代表・遠山正道さんです。最近温泉に行かれたという遠山さんが、その時に改めてロングライフなデザインだと思ったアイテムを教えて下さいました。

「温泉タオル」

温泉タオル
温泉旅館へ行くと浴衣やアメニティ類と一緒に用意されている、このような温泉旅館特有のタオル。サイズはフェイスタオルとして販売されているものに近いけど、それよりも一回り小さくて、薄い。子供の頃から実家にあったという方も多いのでは?

――遠山さんがこの一品を挙げた理由とは?

    「一般的にいうデザインはないのに、これからのデザインを考えるときに必要な姿である気がする。」

    遠山さん:最近デザインを考えるときに思うのは、外見を整えることも大事だけど、そもそもの有り様というか、そのものが持っている機能や存在としてのデザインが重要であることなんじゃないかな?ということなんです。その観点で、今お気に入りなのがこの“温泉タオル”です。

    このタオルの何が良いかというと、これ一枚あればバスタオルいらず。まずこれを持ってお風呂に入って、上がるときに絞って体を拭いて、その後洗面所で洗って干しておけばまた次の朝には乾いていて使える。温泉旅館でそれに気づいて、今では自宅でも使っています。そうるすと、毎日バスタオルがちゃんと乾いているかな?と心配することから解放されるんですよ。たまには、お天気の良い休日なんかはふかふかのバスタオルも良いですけどね。

    今デザインは、見た目の美しさ、機能性、いろんな要素がありますよね。でも、それを考えすぎると一巡してゴールデン街に行きたくなるみたいな、そんな感覚でこの温泉タオルに惹かれるのかもしれません。これは、デザインしようとされたものではないけれど、出来上がったものがすごく機能的で、逆に使い方をデザインされたんじゃないかな。そんな風に、デザインの本来の役割は、機能や生活環境における居心地の良さを含めて、存在がより良いものになっているか、というところに行きついているんだと思うんです。それが、これからのデザインを考えるときに必要な姿である気がする。

    温泉タオルと同じく、お年賀タオルも良いですよね。日本のひとつの文化と言えるもの。スマイルズがタオルの専門店をやったら面白いかもしれないですね。

KIGI(キギ) 植原亮輔さん

KIGI 植原亮輔
最後は、様々な企業・ブランド・商品などのアートディレクションを手掛け、「KIKOF」や「D-BROS」、洋服のブランド「CACUMA」などのデザインでご活躍されている、渡邉良重さんとのデザインユニット「KIGI(キギ)」のクリエイティブディレクター・植原亮輔さん。植原さんが考えるロングライフデザインを教えて下さいという質問には、私たちが想像していなかった答えが返ってきました。

「明治神宮の様々なデザイン」

明治神宮のデザイン
これは、明治神宮の各所にあるサイン。植原さんが実際に足を運んだときに撮影してきてくださった写真です。こうして見ると、改めてこんな形・デザインだったんだということに気付きます。
明治神宮 御神酒ボトル
こちらは明治神宮の御神酒のボトル。スッとした美しい出で立ちです。植原さんがお持ちのものを撮らせていただきました。

――植原さんがこの一品を挙げた理由とは?

    「コンセプチュアルなものは、すべて淡々としているんです。」

    植原さん:3~4年前から明治神宮に初詣に行っているんですが、初めて行った時に驚いたのが、明治神宮の中にあるサインやディスプレイを始めとする様々なものの見え方です。サインや案内板を見てみると、文字の書き方や余白の感じなんかがすごくきれい。書道や奉納品などのディスプレイにしたって、淡々と並べる感じが美しいんです。これ全部手書きなのかな?誰かがディレクションしているのかな?なんて想像してしまうほど。

    初詣の時期は巨大な絵馬や破魔矢が飾ってあって、それもアートのようでした。それに、御朱印帖やお札もシンプルに美しい文字が書かれた、まるで習字のお手本みたいなんです。他の神社の御朱印帖などは、凝った書き方のものが多いですが、明治神宮がこれだけシンプルに素直なものだというのが、すごく素敵だと思います。こういうデザインが良いなと思ってしまうんですよね。

    御神酒のボトルも見ての通り素敵なんですが、もう全てにおいて“ねらいの無いねらい”というか、淡々としたものを感じます。私もものづくりする時、悩んでいるスタッフのデザイナーがいたら、“只、只、○○。”をキーワードにして考えてみたら?とアドバイスすることがあります。ただ並んでるだけとか、ただ○○な状態を目指していくと、自然と言いたいことが浮き出てくる。結果、コンセプチュアルになる。そういうコンセプチュアルな存在である明治神宮が目に留まりました。これからも残っていって欲しいデザインだと言えるんじゃないでしょうか。

三者三様の答えは、なんとなくみなさんそれぞれのデザインに対する観点が反映されているな、と感じられるものでした。でも、三人とも挙げてくださったものはすべて、私たちも目にしたことのあるほんとに身近なもの。私たちの周りにも、まだ気づいていない、眠っているロングライフなデザインがあるかもしれないのです。
longlife_exhibition2

自分にとってのロングライフデザインを推薦しよう!

三人の方から伺ったお話を参考にして、ぜひ自分にとってのロングライフデザインは何か?考えてみて下さい。日常の中に、新しい発見があるかもしれません!そしてぜひ、見つけたお気に入りを推薦してみて下さい。みなさんからたくさんのロングライフなデザインが集まって、ずっと愛される商品やサービスがたくさん溢れる世の中になったら、素敵だなと思います。

    ロングライフデザイン賞2017

    <推薦受付について>
    ◆推薦できるデザイン:広く使用者や生活者から支持を得ている商品やサービスで、審査がおこなわれる時点で10年以上継続的に提供され、またそれ以降も継続して提供されると想定できるもの。

    ※モデルチェンジによる形状やイメージの変更が生じた場合も、ブランドとしての高い一貫性が維持されていれば審査の対象となります。
    ※2017年度は、2007年以前から提供されている商品・サービスのデザインが推薦できます。
    ※すでにロングライフデザイン賞を受賞している対象は推薦されても審査対象になりません。

    ◆推薦方法:こちらのサイトの推薦フォームに必要事項をご記載の上、ご推薦ください。
    URL: https://app.g-mark.org/entry/recommend

    ◆推薦期間:2017年4月5日(水)から6月7日(水)まで

そして、最後にお知らせです!

ロングライフデザイン賞の受賞アイテムが並ぶ展示が、箱庭5周年記念イベント『アナログとデジタル祭』に登場します!

22.2mに及ぶロングなスペースに、末永く残って欲しいロングライフなデザインの名品がずらっと並ぶ展示です。それを聞いただけでも面白そうな展示だと思いませんか?!そしてなんと、今日ご紹介した柴田文江さん、遠山正道さん、植原亮輔さんに挙げていただいた3点も並ぶことになりました!その他10点の受賞デザインと、そのデザインのストーリーをご紹介します。ぜひ遊びに来てくださいね。

    お話を伺った方

    ◆柴田文江|プロダクトデザイナー
    2017年度ロングライフデザイン賞 審査委員長
    武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、株式会社東芝を経て、有限会社デザインスタジオエスを設立。エレクトロニクス商品から日用雑貨、医療機器、ホテルのトータルディレクションまで、インダストリアルデザインを軸に幅広い領域で活動をしている。毎日デザイン賞、グッドデザイン金賞など多数受賞。
    http://www.design-ss.com/index.html

    ◆遠山正道|(株)スマイルズ 代表取締役
    実業家/クリエイティブディレクター
    2017年度グッドデザイン賞審査委員
    1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、「giraffe」、「PASS THE BATON」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。
    http://www.smiles.co.jp/

    ◆植原亮輔|KIGI(キギ)
    1972年北海道生まれ。多摩美術大学デザイン学科(テキスタイル)卒業。DRAFTを経て、1999年より恊働で仕事をしてきた渡邉良重とともに2012年KIGIを設立。ブランディング、グラフィック、プロダクト、作品制作等幅広くクリエイティブ活動を行う。また滋賀県の伝統工芸の職人達とプロダクトブランド「KIKOF」を立ち上げるほか、東京・白金のオリジナルショップ&ギャラリー「OUR FAVOURITE SHOP」を運営するなど、クリエイションの新しいあり方を探して活動している。2017年7月に宇都宮美術館でこれまでの集大成となるKIGIの展覧会を開催予定。東京ADCグランプリ、第11回亀倉雄策賞受賞等。
    www.ki-gi.com