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週末読みたい本『復興建築 モダン東京をたどる建物と暮らし』

こんにちは、haconiwaキュレーターのモリサワジュンコです。
今、世界は大きな変革期を迎えていますが、この100年の間に日本は、自然災害や戦争による大火を経験してきました。
今日ご紹介するのは、関東大震災後から戦前(1923〜1930年代頃)までに建てられた近代建築・建造物を「復興建築」と称し、東京に焦点を当て、そこに生きる人々の暮らしがたっぷり詰まった一冊『復興建築 モダン東京をたどる建物と暮らし』です。
人気シリーズ「味なたてもの探訪」の第3弾!
以前haconiwaでもご紹介した『看板建築 昭和の商店と暮らし』、『沖縄島建築 建物と暮らしの記録と記憶』に続く《味なたてもの探訪》シリーズの第3弾として発売された本書。味なたてもの探訪シリーズは、「建物」から街と人の暮らし、時代性を探るビジュアル探訪記。今回注目したのは、大正12(1923)年9月1日に東京・神奈川を中心に首都圏全域にわたり震度5〜7の揺れ、多くの被害をだした関東大震災後に生まれた「近代(モダン)東京」の復興建築です。
建築だけではない「都市の再生」、帝都復興計画とは?
冒頭は、帝都復興計画を知るところから始まります。
日本にこれだけ大きな地震が起きたのにも関わらず、地震の9日前には首相が急死。政府は不在ともいうべき混乱の中、内閣省の後藤新平が復興事業の先陣を切り、「復旧」ではなく「復興」を目指した「帝都復興事業」について詳しく解説がしてあります。
震災からわずか4ヶ月弱で計画を決定、「区画整理」から始まった「帝都復興事業」が約6年3か月の間に、東京・神奈川の建築だけではなく「まち」が大きく変化していく様子は、当時の復興のパワーを感じることができます。
イラストから知る「復興建築」の特徴
「モダン様式」が多く見られるようになったのも、復興建築の特徴のひとつ。それをイラストで詳しく解説してくれているので、用途や立地条件によってあらわれた特徴を視覚的に分かりやすく知ることができます。
現在の東京につながる建築を5つの「事業」「テーマ」ごとに紹介!
この先何度もやってくると思われる災害から人々と暮らしを守るために100年先の未来を見据えた構想。事業やテーマ別に当時の様子や現在の東京にどう活かされているか。復興計画の章の中にある2つのインタビューからも深く知ることができます。
こちらはその中の1つ。学校・研究機関のページにある「思い出を宿した 復興小学校を次の世代に」。
デザインはそれぞれ違っていても、安全なだけではなく、教育機関の平等を理念として統一した規格で建てられた様子がわかります。子どもを中心とした高い理想は、これからも未来につなげていけたらいいですよね。
「味がある」。人々の暮らしと建物の両面にフォーカス!
この本の特徴のひとつでもある、家主やその建築に関わる方のインタビューページ。
装飾的な外側の魅力だけではなく、その中で人々が暮らしてきた時間が滲み出ていているかのような建物を、写真と専門的な解説の両面からスポットを当てています。
「浅草の仲見世 助六」、「日本橋髙島屋S.C.本館」、「一誠堂書店」、「東書文庫」、「第2井上ビル」、「カフェおきもと」など、その当時に建てられた現存する復興建築の中から6件を紹介しています。
こちらは「東洋趣味を基調とした百貨店」と題された、日本橋髙島屋S.C.本館。見開きで掲載されている写真が美しく、東京の街中にありながら、よく見ないと気が付かないようなモダンな装飾が目を引きます!
大きな写真でその建築の佇まいを堪能したあと、ページをめくると、「味なたてもの探訪シリーズ」ではおなじみの建築を味わう上での基礎知識を、図解、歴史、MEMOの4パートで解説。
ひとつひとつの建築を実際に見て回っているかのように、わかりやすく、そして詳しく復興建築を知ることができます。読み進めていくごとに、現地に足を運びたくなってしまうこと間違いなしです……!
さらにページをめくっていくと、建築にかかわる人たちへのインタビューへと続きます。
一誠堂書店の「きちんと保存すれば、必ず残る」。
従業員さんと家族を含め20人近くがこの建物の中で寝食を共にし、家族のように暮らしていたお話は心が温まります。他にも読んでいると店主さんの言葉から建物の歴史や情景、空気感までもが伝わってくるようなものばかり。
ちょっとしたコラムも見逃せない!
6件の建物紹介のページの間にも見逃せないコラムもあるんです!
「生き残った建築たち」。震災以前からある2つの建物、「神谷バー」と「文房堂」。
震災と戦争を乗り越えて改修を重ねているものの、その当時の姿であり続けていることが驚きです!
「細部に恋して」では、それぞれの個性が光る建築意匠を並べてどっぷりと細部を堪能できます。「あ、これは見覚えがある!」なんて意匠もあるかも!?
「この建物も?」復興建築を探して歩いてみよう
本の最後には、現存する東京の復興建築をエリアで紹介している、「復興建築タイムスリップマップ」がついています。年代ごとのアーカイブ写真も収録されているので、実際のまちのなかで「この建物も復興建築だったのか!」と、時代の変化を味わってみるのもオススメです!
水道橋・神保町・九段下エリア。右ページの「神保町ビル別館」は2020年10月に解体が始まったそうです。こうして「記憶」と「記録」に残していくのは、大変貴重なことですよね。
上野・不忍池の近くにある「黒沢ビル」。
小川三知のステンドグラスの作品が建物内に残っています。
『復興建築』アナザーストーリーにも注目!
出版元のトゥーヴァージンズでは編集者さんによる本書に紹介しきれなかった建物の魅力を復興建築<アナザーストーリー>としてnoteに連載しています。本だけでは収まりきらなかったストーリーを美しい写真や共通の切り口から深堀り!こちらもあわせて読むと本の続きがさらに楽しめちゃいますね。
2023年には、関東大震災から100年を迎えます。
その頃の東京には、この時代の建物がどれだけ残っているのでしょうか?
記憶の継承として、まちなかにある「復興建築」から当時の人々の復興への熱意や思いがみえてくる、読み応えたっぷりの一冊!
週末の読書に、ぜひお手にとってみてくださいね~。
復興建築 モダン東京をたどる建物と暮らし
監修:栢木まどか
本体価格:1,900円(税別)
発売日:2020/12/2
仕様:192ページ/A5/並製
ISBN:978-4-908406-64-5
出版社:トゥーヴァージンズ
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