DESIGN クリエイティブなモノ・コト
老舗化粧品メーカー伊勢半のZ世代に向けたセルフメイクブランド「MN」開発過程をインタビュー

こんにちは、haconiwa編集部の山北です。
気になる商品やブランドの担当者さんに開発経緯やデザインのこだわりを聞いて深掘りする「商品開発の裏側」のコーナー。
第3回目は、老舗化粧品ブランド「伊勢半」から昨年7月にD2Cブランドとして登場したセルフメイクブランド「MN(エムエヌ)」の開発過程にフォーカス。初のオンライン専売ブランドで、Z世代をメインターゲットにした商品はどのようにして生まれたのでしょうか?スタイリッシュなデザインの制作背景も気になります!
“自分らしさ”を模索する人に寄り添うブランド「MN」。340万通りのカスタマイズが可能なメイクパレットって?
キスミーフェルムやヒロインメイクなど数多くのロングセラーコスメを販売する伊勢半から新たに登場した創業初となるD2Cセルフメイクブランド「MN」。昨年7月のローンチと同時に発売されたのは、アイシャドー・リップ&チーク・ハイライトのアイテム50色の中から自分好みの色を6色カスタマイズできるマルチメイクパレット「MY MIXED PALETTE」です。決まった色の組み合わせは販売せず、好きな色を1色から選んでオリジナルのパレットを作ることができ、なんとカスタマイズのバリエーションは340万通りも。スタイリッシュでおしゃれなパッケージやブランドデザインも話題を呼んでいます。
そんな「MN」がどのようにして生まれたのか、開発担当者である伊勢半の榎本さんにお伺いしました!

――「MN」を初めて見たとき、シンプルだけど一癖ある、印象的なデザインに惹かれましいた。そんなビジュアルを形作るコンセプトについて教えてください。
MN開発担当者 榎本仁美さん(以下、榎本さん):「MN」は“誰かのためではなくて、自分のためにメイクをする”というブランドメッセージを発信しています。1人1人が気軽にセルフメイクにチャレンジできる機会を与えて、他者と比較しない、自分だけの美しさ模索する方へ寄り添えるブランドであることを目指しています。
そういったメッセージをしっかりとお伝えしたいということから、例えばブランドロゴは英語で「私」を意味する「I」で構成されたデザインになっているんです。
――あっ!本当だ。「I」を何個かつなぎ合わせて「M」と「N」になっていますね。
榎本さん:はい。女性的や男性的という偏りではなくて、1人の人というのを表現して、それが寄り添う姿というのを表しています。
榎本さん:また、今回のメインターゲットであるZ世代と呼ばれる若年層の方にも楽しんでいただけるよう遊び心もプラスしてビジュアルに反映しました。「MN」のWEBサイトを見ていただくとわかるのですが、所々にゲームなどでよく用いられるビットマップフォントを使用しています。
ビットマップフォントは、レシートや空港で貼ってもらえるラゲッジタグにも使われているフォントです。このようにインフラとして長く機能し続けてきたグラフィックの要素を入れて、トレンドの変化に左右されずに長く使っていただきたいという想いを込めています。人々の生活に長く根付いているような要素でもあるというところで、D2Cブランドだけどどこか人の気配を感じられるようなイメージも感じていただけたらと思っています。
――このようなアートディレクションを社外であるデザイン会社Neufの坂本政則さんと、TANGRAMの田島太雄さんに依頼したそうですね。このお二人をアサインされた経緯は?
榎本さん:通常、パッケージデザインなどは内製で行うことが多いのですが、今回はD2Cブランドならではのキャラクター性を立たせたいというところで、様々な企業様のブランディングを包括的にされている坂本さんに依頼させていただきました。トータルで1人の方にディレクションいただくというのは伊勢半としてもほぼ初めての試みでしたね。
「MN」のブランドアイデンティティーやプロダクト、パッケージデザイン、あとは広告のビジュアルのディレクションだったり、サイトの設計も全部一貫してお願いしました。ブランドが大切にしたいメッセージをストレートに強く表現していただきながらも、ビットマップ調のイメージをアクセントにコスメブランドならではのワクワク感も入れていただいて、絶妙なバランスで作っていただきました。
――サイトを開くと流れる、モデルさんの映像も素敵ですよね!
榎本さん:ありがとうございます。「MN」のビジュアルは通常の広告よりも実際のお客様と距離感が近いようなものを映し出したいなというふうに思っていて。モデルさんのしぐさや表情をナチュラルに、見ている人と同じ目線で切り取れたらなと考えていました。
そこでTANGRAMの映像作家である田島さんの過去の作品を拝見して、何気ない日常風景を独特なアングルで切り取った作風がすごく魅力的だなと思い、今回協力をお願いしました。
サイト設計で苦労した、“かっこよさ”と”わかりやすさ”のバランス。
――「MN」の持つメッセージがブランディングやロゴ、映像に至るまで一貫して伝わってくるのが素敵だなと思います。一方で、D2Cならではの苦労もあったんだとか?
榎本さん:はい。特にWEBサイトの設計が一番悩んだ部分でしたね。普段販売していているコスメブランドでいうところの店頭什器と同じぐらい重要な役割を担う部分なので、単純に商品をかわいくきれいに見せるだけではだめで。
さらに9つの質問を通じてパレットの組み合わせを提案する診断機能もサイト内に搭載しているので、結構複雑な商品設計になっているんです。ここをスムーズに分かりやすく伝える動線や、UI/UXを作るのが苦労しましたね。一方でビジュアルも魅力的にしたいので、わかりやすさとかっこよさのバランスをとるのがむずかしかったです。
――このバランスは何度も試行錯誤を重ねて改善していったのですか?
榎本さん:そうですね。実は、最初は今よりも英語の表記が多いサイトだったんです。でも英語が多いと飾り文字っぽく見受けられてしまい、伝えたい情報部分がスルーされてしまっていました。なので文字情報以外にもコマ撮りアニメーションを制作して視覚的に伝えたり、レフィルをカスタマイズして選ぶ画面では、カメラアプリでフィルターを変えるような感覚でスワイプして選んでいただける動線にしたりもしています。
――文字で読むよりもわかりやすい、映像や動きで感覚的に伝わる仕掛けが込められていたんですね。コマ撮りなど様々な素材を用意するのはすごく大変そうですが…!
榎本さん:はい…写真はすごく大変でした(笑)撮影のボリュームは今までで一番多かった案件だと思います。ただ、写真の質感にもこだわっていて、あえて写真のレタッチの工数は最小限に抑えて撮っています。なるべく生っぽさを残すように撮ることで、実際にお客様に届いたときの見た目と画面上のギャップをなくすようにしました。
――やはりパッケージデザインにもD2Cならではこだわりが?
榎本さん:はい、こだわりました!特にパッケージを開いた時の見た目は通常の店頭商品よりも意識して作っています。ECの商品は特にSNSとの親和性も高いので、届いたものをそのまま投稿したり動画にしてくださったりする方も多いです。なので箱を開いたときにきちんとブランドの世界観が伝わるようなパッケージにしました。
――外側は白を基調としたモノトーン、開けるとビビットなイエローが現れるというサプライズ感が素敵です!
榎本さん:ありがとうございます。外面は極力シンプルにして、フタを開けた瞬間にぱっと広がるような世界観が作れたらなと思っていたので嬉しいです。
Z世代をメインターゲットに。プロジェクトスタートの背景は?
――サイトやロゴ、パッケージにもこだわりが満載でしたが、今回の企画はいつ頃からスタートしたのですか?
榎本さん:プロジェクト自体の発足は2018年の秋頃からです。もともとオンライン専売という販路は決まっていて、プロジェクトチームは私と同じ20~30代の女性3人で進めていきました。今までにもヒロインメイクなど若年層に向けた商品の展開はありましたが、より今の若者の価値観にフォーカスした商品開発するべきというところで、新規案件として立ち上がっています。
――約3年もの歳月がかかっていたのですね。ターゲットであるZ世代のリサーチなどもされたんですか?
榎本さん:はい。最初に「Z世代の傾向ってどういうの?」というところを深掘りしたときに、やっぱりデジタルネイティブな世代でもあるので、複数のSNSを使い分けて情報の取捨選択をしたりだとか、逆に自分の表現や自己アピールをするというのも他の世代よりも長けている印象でした。
さらに商品を買うときの姿勢としても、ただ単に価格安いからとか、機能だけでは選ばなくなってきている。それを使うことによって自分の生活がどう変化するかとか、ブランドのメッセージに共感できるかというプラスアルファの価値を大事にしているところが傾向として見られました。そこで今の美容のトレンドである「パーソナライズ」や「エシカル」「マルチユース」というような観点を加えて方向性が作られていきましたね。
――そこから「マルチパレット」という商品アイデアが生まれたんですね。
榎本さん:そうですね。リフィル売りでカスタマイズできる商品は市場にもあると思うんですけど、展開カテゴリが限られていることも多いので、「MN」の1個でメイクが完成するところは他にはないポイントだと思っています。
――コンセプトや方向性が決まり実際にプロダクトの制作が始まっていったと思いますが、中身の化粧品はどのようにして作っていったのですか?
榎本さん:ユーザーインタビューなどを重ねていると、オンラインで買ったものが肌に合わなかったという経験がある方も多かったので、肌に優しい製品にしたいという気持ちがありました。そのためラインナップ全てに美容成分を配合しています。
誰がつけても自分に似合う納得感が感じられる配色で、且つ選択に迷いも生じない商品バランスというところで、50色のラインナップにしました。
ユーザーに寄り添った商品開発を、発売の直前まで追求。
――この専用ケースもオリジナルで制作されたのですか?
榎本さん:はい。既成のケースは、ほんの少しですがケースの側面が丸みを帯びていたんです。このフォルムはとても女性らしいのですが、「MN」の場合はもっとスタイリッシュさを出したかったので、その丸みを落として直線にしています。すごく細かいところですが、印象が大きく変わってくるので、こだわりました。
また、今回のケースは上からカバープレートを開けて自由に付け替えてもらえるような仕様になっていますが、この構造はいろいろ検討を重ねました。最初はのり付けタイプにするかとか、シールを貼ってつけるような仕様にするとか、マグネット式にするなど…結構いろいろ仕様候補を挙げて検討していたんですけど、操作性やコストのバランスも加味しての今のオリジナル形状に落ち着きました。

――リフィルの裏をプッシュして取り替える仕様はよくありますが、この形は珍しいですよね。
榎本さん:そうですね。ピンを使って押し上げる形式はよくあるんですけど、結局それだとあまり気軽に取り出せなくて。「MN」的にはその日の気分でいろんな色をじゃんじゃん付け替えてもらいたいなと思っていたので、そこがスムーズにできるように型を起こして作っています。既存のものではないので、蓋を止めるヒンジの強度なども一から調整する必要がありました。
榎本さん:ケース表面のグレーの色味にもこだわっていて、ツヤにするかマットにするか、少し青っぽいグレーにするかなど、サンプルを作って何度も検討しました。アイシャドウなどの様々な色味が加わるので、それらがより綺麗に見えるよう整えています。
ぜひ50色の中からいろいろなリフィルを試していただいて、逆にケースは使い捨てずこの1個を長く使っていただければと思います。
――外側のデザインだけでなく製品の細部にも「MN」のこだわりが詰まっていますね。3年間の途中でコロナ渦が始まりましたが、開発や発売に影響はありませんでしたか?
榎本さん:実はコロナの影響から発売延期をして、昨年の7月にローンチという形になったんです。ただ、コロナ渦のおかげでカスタマイズとかパーソナライズみたいなマインドはむしろ強まったのかなと思っていて。おうち時間が増えて自分を見直す機会が増えたり、ネットから得られる情報も増えてきたというところもあったので、プロダクトのコンセプト自体は変わらず生かした方向で発売時期の調整を行いました。
あと、実は延期前までブランドロゴは小文字の「mn」という表記だったんです。ただ、全部そのままの状態でまるっと延期するのもちょっと違うんじゃないかという気持ちもあり、この期間に根本的な見直しを行いました。ユーザーの気持ちとしても、本当に自分に必要なものを選択する傾向が強まっているというところで、より要素をそぎ落として、強さのあるデザインにブラッシュアップさせています。
――小文字と大文字ではかなり印象が変わりそうですね…!
榎本さん:小文字の時は全体的に柔らかい・かわいらしい感じのテイストだったのですが、最終的にはより強さに重さを置いたデザインを坂本さんに再度ご提案いただきました。結果的に「MN」のメッセージをより強く表せたのでよかったなと思っています。
――様々な局面があった商品開発ですが、発売後の反応はいかがでしたか?
榎本さん:サイト訪問者のデータなどを見ると診断の回数が今5万回を超えているなど、予想以上の反響にすごく驚いています。お客様があげてくださったTwitterの投稿やYou Tubeのレビュー動画を見てみると、捨て色のないパレットが作れるところや、「自分のためにメイクする」というブランドのメッセージに共感の声を多くいただいていて、よかったなと思っています。
コスメ好きの方が投稿してくださったYou Tubeのレビュー動画に「MNをギフトとして贈りたい!」というコメントがあったんです。これを見て「たしかに!」と思い、ちょうど先日ギフトコードで「MN」を買えるようアップデートを行いました。贈られる側が自分で自由に色を選んでいただけるので、相手が欲しいものを確実にあげられるプレゼントになっていると思います。
――YouTubeのコメントがきっかけで商品になるなんて!お客様の声をこんなにもダイレクトに反映できるのはD2Cならではかもしれませんね。
榎本さん:そうですね。今後もお客様の声を拾ってどんどんアップデートしていきたいです。
――最後に、今後の展開や思い描いていることはありますか?
榎本さん:まずは引き続き、今のアイテムのアップデートを重ねながらメイクの楽しさを広めていって、気軽にセルフメイクができるような機会づくりというのを提供していきたいなと思っています。コスメを供給することだけではなくて、ユーザー1人1人が自分ならではの個性を見せていけるような、コスメブランドというジャンルを超える存在を「MN」は目指していきたいです。
――「MN」の持つ価値観は今後も多くの方にプラスの影響を与える存在だと思います。これからの展開も楽しみです!榎本さん、ありがとうございました!
ブランドのコンセプトからデザイン、中身の細部に至るまで一貫したメッセージを持つ「MN」。ルックスや化粧をすることの価値観が見直されている現代だからこそ、「MN」が持つ強いメッセージは多くの方の共感を生んでいるのではないでしょうか。
「MN」の商品はオフィシャルサイトから購入できます。何色にしようか迷われている方は、ぜひ診断機能も試してみてくださいね!
セルフメイクブランド「MN」
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