DESIGN クリエイティブなモノ・コト
お土産リブランディングプロジェクト、盛岡の「モヤーネ」はどうやって生まれた?

こんにちは、haconiwa編集部の山北です。
気になる商品やブランドの担当者さんに開発経緯やデザインのこだわりを聞いて深掘りする「商品開発の裏側」のコーナー。
第5回目は、以前haconiwaのおみやげクリップでもご紹介した「彩双鶴」など様々なお土産を統一ブランド化して発信する「“もりおかおみやげプロジェクト”モヤーネ」にインタビュー!
昨年11月に登場したモヤーネは、コロナ禍で観光客が減少するなか、商品のリブランディングを通して地元の人々や旅行客などに盛岡の魅力を再発見してもらい、新たな方に届けることを目指すもの。岩手銀行の地域商社「manordaいわて株式会社」と岩手県内のデザイナーやクリエーターが参加する「一般社団法人岩手アートディレクターズクラブ」が共同で立ち上げました。
そんなモヤーネの第一弾ラインナップは全6商品。どれも地元で愛される老舗店のお菓子を岩手ADCの若手デザイナーによってかわいらしくリニューアルされています。長年親しまれてきた従来の商品も変わらずお店で販売しながら、モヤーネのリブランディングパッケージも百貨店や各店舗で新たに販売しています。
こういったプロジェクトはどんな経緯でスタートし、どのようにして進められて行ったのでしょうか?manordaいわての阿部さん、岩手ADCの木村さんにオンラインでお話を伺いました!
補助金制度を活用し、盛岡のお土産市場を盛り上げながら、若手デザイナーの活躍の場を広げる。
――モヤーネを立ち上げた背景は?
岩手ADC 木村さん:京都や金沢など観光が人気の地域に比べるとやはり岩手県盛岡市のお土産市場は劣ってしまう現状がありました。小さなお店さんや個人商店さんが多いので、美味しくてもデザインにまで手が回らなかったり。でもそれをなんとかして、盛岡の魅力的なお土産品をもっと盛り上げたい気持ちが前々からありました。
素敵なお土産ができれば、コロナ渦で旅行客が来られない今でもお取り寄せして買いたくなったり、盛岡にいながら帰って来れない人に「こういうお土産ができたらしいよ」と送って「ああ、懐かしい」と思ってもらえたりとか。そういう、“盛岡やっぱりいいよね”と改めて思ってもらえるようなものを、この機会にできたらいいなというのが発想のもとです。
そこで、コロナ渦の補助金制度「盛岡市地域経済好循環推進事業」というものに申し込みをしたところ補助金をいただけることになり、企画がスタートしました。
manordaいわて 阿部さん:補助金の申請や実際のマーケティングについては、岩手銀行の地域商社であるmanordaいわてが担当しました。岩手ADCさんとはもともとマッチング事業で提携していて、今回共同でプロジェクトを進行しました。岩手ADCさんがデザイン部門のプロジェクトディレクターで、manordaいわてがビジネス部門のサポーターのようなイメージですね。
岩手ADC 木村さん:あと、お土産市場を盛り上げたいという想いのほかに、岩手の若手デザイナーを育てたいという想いもありました。6年前に岩手アートディレクターズクラブ(岩手ADC)を立ち上げたのですが、参加した若いデザイナーの方たちはまだまだパッケージデザインの経験が少ないんですよね。印刷物はいろいろやったことがあっても、パッケージデザインを実際にお客さんとやりとりして商品化したという例が少なくて。今回のモヤーネを、事務局がサポートしつつ、そういった経験の場としても活かせればと思っていました。
また、デザイナーに直接デザインを依頼したことがある地域の事業者さんも実は少ないんです。地方では印刷会社さんにパッケージデザインも依頼するのが主流で高齢の事業者さんも多いので、そもそもデザイン料がどれくらいかも想像がつかない。この取り組みは、デザイナーに頼んだらこんなものができるよ、こんなプロセスで形になっていくよというのを見せることができる機会でもあると考えていました。
デザイナーは挙手制。今あるお土産からリブランディングしたい商品を選出。
――盛岡土産の活性化だけでなく、デザインを取り巻く環境のアップデートも想定されていたんですね。プロジェクトはいつごろスタートしたのですか?
manordaいわて 阿部さん:昨年の5月ごろですね。補助金の都合上年内に形にする必要があり11月上旬の発売は決まっていたので、約半年間で6商品のパッケージを作るというすごいスピード感で進行していました。
岩手ADC 木村さん:まず、盛岡市内の普段から気になっていた事業者さんに企画書を持って説明して、今回のプロジェクトに参加いただけそうかヒアリングからスタートしました。ウェルカムな方もいれば、何十年も従来のパッケージでやってこられているので最初は想像がつかないというふうにおっしゃる方もいましたね。でも「補助金で新しいパッケージを作れるならやってみたい」「デザイナーさんにやっていただけるんだ」というワクワク感みたいなのも皆さんあったんじゃないかなと思います。
結果的に皆さん参加いただけまして、その後岩手ADC会員のデザイナーさんたちに「今度こういう事業をやるんだけど、やりたい人いますか?」と手を挙げてもらいました。結果20代、30代の若手が6人集まって。
若い子に盛岡を再発見してもらいたいという気持ちもあったので、若手デザイナーが携わってくれるのはモヤーネのターゲット的にもマッチしていましたね。
――実際にリデザインする商品はどのように決めたのですか?
岩手ADC 木村さん:はじめに事業者さんに「うちにはこんな商品があります」というのを一通り見せていただきました。それを見て「あの商品のパッケージ直したいよね」とか「あれもっとかわいくできそう」みたいな話をデザイナーたちとして。それを事業者さんに伝えて意見交換した上で、どの商品にするか決めていきました。担当デザイナーも基本的には挙手制でやりたいものを担当しています。
manordaいわて 阿部さん:どこも老舗の業者さんなのでお店の歴史やコンセプトがすごくしっかりされているところばかりなんです。なので、そこはぶれないようにデザイナーさんたちに意識してもらうよう進めていきました。
岩手ADC 木村さん:統一ブランドの中に入っちゃうと、やっぱりお店としての個性はどうしても見えづらくなってしまう。なのでお店の個性をちゃんとヒアリングして落とし込みつつ、でもモヤーネの中にあって違和感ないようなものにしたいということは心がけていました。その前提は共有しつつ、デザイナーさんにまずはお店さんが本当に喜ぶものをつくってほしいというふうに伝えて自由に取り組んでもらいました。
ブランドのネーミング、ロゴデザインは担当デザイナー6名でコンペを実施。
――各商品のデザインの着手はいつ頃からでしたか?
manordaいわて 阿部さん:7〜8月の夏頃にブランドのネーミングとロゴを検討しながら、担当の事業者さんのところにデザイナーさんが個別で訪問していろいろ製造現場とかを見せてもらいつつ、何回も通ってデザインをつくり上げていきました。
岩手ADC 木村さん:ブランドのネーミング、ロゴデザインは参加デザイナー6人でコンペしたんです。最初は「盛岡おすそわけ」みたいなブランド名もあったのですが、「もりおかやっぱりいいよね」の頭文字をとった造語「モヤーネ」が少し振り切ったネーミングで響きがよくて。最終的には若者たちの感性を信じようということで「モヤーネ」に決まりました。
岩手ADC 木村さん:ロゴは三角屋根に「も」をイメージした形のものが採用になりました。「も」の形は岩手出身の詩人であり童話作家の宮沢賢治のシルエットからも着想を得ています。
――コンペ形式など、デザイナーさん同士で悩みながら作り上げていくのが素敵ですね。
修学旅行生でも手に取りやすい価格帯。パッケージコストを抑える意識を共有。
manordaいわて 阿部さん:みんなで集まって商品の原価率などの勉強会もしましたよね。
岩手ADC 木村さん:やりましたね。学校の課題だったら原価はあまり意識せずに「箔押ししたい」「白黒じゃなくてカラーにしたい」って考えちゃうんですけど、実際には予算を押さえなければいけない場合も多い。なので卸値とか流通量、原価などの基本を学びながら、上代から逆算して値段設定して、パッケージの素材も決めていったりしました。
今回の事業者さんはどこも有名なお店が多かったので、モヤーネの価格が高いと常連さんには「えっ?」と思われる。また、修学旅行生でも手に取りやすくしたいというのもあったので少なくとも7〜800円以下には抑えたい。そのため、どの商品もなるべくコストを下げられるよう工夫しています。
manordaいわて 阿部さん:特に低コストに仕上げることができたのが「焼酎糖」かと思います。アルコールを飛ばした焼酎を薄い砂糖で包んだ昔ながらの盛岡駄菓子なのですが、もともとは屋台の焼きそばが入っているようなプラスチックパックに入っていました。たくさん食べたい方にはちょうどいいとは思うのですが、お土産品であるモヤーネにする場合は変えたほうがいいところもあって。
――完成品とだいぶ印象が違いますね…!
岩手ADC 木村さん:焼酎糖って繊細なボンボンみたいになお菓子なのに、ふにゃふにゃのプラスチックパックに入っているからつぶれちゃうんですって。それに1パックにぎゅうぎゅうに入っているから、量が多過ぎて食べきれないよねと言う話が出たりしました。
じゃあこれを現代風に、しかも丈夫なパッケージで作るというので考えてくれたのが、プラスチック箱のもの。
岩手ADC 木村さん:側面は焼酎糖のフレーバーをイメージしたグラデーションを入れているんですけど、これ実は紙が1枚くるっと入っているだけなんですよ。透明な箱に印刷してあるわけじゃなくて、紙1枚なので低コスト。
従来品にあるパッケージの透明感みたいなのは残しつつ、コストも抑えてブラッシュアップしたという商品です。担当してくれたのは牧野沙紀さんという女性デザイナーなんですけど、お店のお母さんはいつも孫が来たみたいに喜んでくれていて(笑)出来上がりも含めてマッチングがうまくいったと思っています。
あと、特に見た目が大きく変わったものだとチャグチャグ馬コの「子馬のポルカ」。盛岡には「チャグチャグ馬コ」という馬の守り神である蒼前神社へ参拝する行事があるのですが、それをモチーフにした最中皮にくるみとキャラメルをからめた種を詰めたお菓子です。
岩手ADC 木村さん:最初のパッケージがこちらです。全然これでもかわいいんですけど、せっかくのかわいい最中の馬側が見えないことが気になる。ぜひこれは裏表を見せられるパッケージにしてほしいと、私からデザイナーにオーダーしまして。そこから以下の裏表が2個セットになったものになったんです。
――モナカ側、こんなに細かい装飾がされていたんですね!背景色もついてポップな印象に。
岩手ADC 木村さん:そうなんです。背景の紙はチャグチャグ馬コの際に行進するルートマップになっています。イベント見物に来た人にも手に取っていただけますし、馬コを知らない方に知っていただく機会にもなる。
こちらは従来のものに比べるとやや割高なのですがよく売れています。となると、デザインの力ってやっぱりあるんだなと、事業者さんも分かってくださっていて。そんな実感をちょっとずつ広げていければいいなというふうに思っています。
――11月の発売後、お客様からの反応はいかがでしたか?
manordaいわて 阿部さん:一般のお客さんから、ありがたいことにかなり反響いただきましたね。ある日お客様からmanordaの会社に直接電話がかかってきて、モヤーネはすごくいいプロジェクトですね、なんて伝えて下さって。あと、今までのお土産は箱に入った大きいものが多かったので、県外の友人に送る際1人暮らしや2人暮らしだと食べきれないし…なんて悩みもあったそうで。でもモヤーネだと1個1個好きなものを組み合わせて、少量で送れる。自分もいろいろ食べれたら嬉しいし、同じ悩みを持っている人にはぴったりだと思っています、みたいな感想を電話でいただきました。プロジェクトを進めながらこういうふうに思ってくれたらいいなと思ったことが、実際に声になって返ってきたというのが嬉しいですね。
岩手ADC 木村さん:数字的な反響もあって、たとえば盛岡で有名な直焙煎コーヒー屋の機屋さんの「スノーボールクッキー」は、予想以上に売れて製造が追いつかないなんてこともありました。「特注で100個入りました」みたいなのは嬉しい反面、やはり本業はコーヒー店なので申し訳なかったですね。こういった生産量の調整は今後の課題だと思っています。
――最後に、今後の目標があれば教えてください!
manordaいわて 阿部さん:まずは地元のお土産屋さんやネットショップ、ふるさと納税の返礼品などの販路や首都圏などでポップアップなど知ってもらう機会を増やして、段々とモヤーネが盛岡のお土産として定着していけたらなと思います。
岩手ADC 木村さん:商品を通して盛岡の魅力を再発見していただけることが第一の目標です。商品群を増やしたい気持ちもありますが、事業者さんのペースに合わせながら今後も自走できるように頑張っていきたいですね。
――阿部さん、木村さん、ありがとうございました!今後のモヤーネの広がりが楽しみです。
事業者さんの想いを汲み取りながら形にした「モヤーネ」の6商品。パッケージの制作経験やコストの勉強など、若手を育てていきたいと考える岩手ADCの姿勢も素敵でしたね。
モヤーネの商品は現在盛岡を中心とした店舗のみで販売中です。コロナ渦が落ち着いた際にはぜひ「盛岡やっぱいいよね」なお菓子をゲットしてみてくださいね〜!
もりおかおみやげプロジェクト モヤーネ
HP:https://moyane.jp/
販売店舗:
パルクアベニュー・カワトク cubeII 1F「壱番館」
らら・いわて盛岡店
その他各店舗
manordaいわてHP: https://www.manorda-iwate.co.jp/
一般社団法人岩手アートディレクターズクラブHP:https://iwateadc.net/
OTHER SERIES POST この連載のその他記事
NEWS 最新記事
PICK UP
注目記事
EXHIBITION
いまオススメの展示・イベント