DESIGN クリエイティブなモノ・コト
週末読みたい本『シュミット・タイポグラフィ ヘルムート・シュミット作品集』

こんにちは、haconiwa編集部の山北です。
本日ご紹介するのは『シュミット・タイポグラフィ ヘルムート・シュミット作品集』です。戦後日本のグラフィックデザインに大きな影響をもたらした、タイポグラファ、グラフィックデザイナーのヘルムート・シュミット。名前は知らなくても、彼の仕事である大塚製薬の「ポカリスエット」や「ファイブミニ」のパッケージを見たことがある方も多いかと思います。
タイポグラフィを学ぶ学生さんやデザイナーさんはもちろん、さまざまな制作のインスピレーションをもらえそうな一冊です。さっそく内容を見ていきましょう!
タイポグラフィ界の巨匠ヘルムート・シュミットの生涯を振り返る。
戦後スイス・タイポグラフィの精神を発展させ、70年代から大阪を拠点に国際的なデザイン活動を続けたヘルムート・シュミット。そんな彼の生涯を概観することのできる本書は、ほぼ時系列に沿った10の章ごとに作品を掲載しています。
はじめの「実験と実践:バーゼル時代の展開」では、シュミットの生まれからタイポグラフィに魅了された経緯、スイス・バーゼル工芸学校での学びについて紹介しています。
1942年にオーストリアで生まれたシュミットは組版工としてキャリアをスタートさせたのち、従来の形式に囚われないエミール・ルーダーの独創的なタイポグラフィに影響されバーゼル工芸学校に入学しました。この章では、そこでの課題制作やタイポグラフィ表現の実験的な作品が並んでいます。
サンセリフ体やグリッドの使用を特徴とする「インターナショナル ・スタイル」の文脈に影響を受けた、リズミカルなタイポグラフィ表現。緊張感をもって空間的に構成された文字は今でも新鮮に感じられる美しさがありますね。
そんな作品に呼応するように配置された、ページ全体の心地よいレイアウトにもご注目。本書のデザインはシュミットの娘でタイポグラファ、グラフィックデザイナーのニコール・シュミットが手がけています。掲載されている作品だけでなく本全体からシュミットの美意識やデザインへの姿勢を感じとることができますよ。
大塚製薬や資生堂など、日本でのアートワークの数々。
エミール・ルーダーの思考を発端に、シュミットは徐々に日本の美意識に関心を抱いていきます。そんな関心が具体的な行動につながっていったのは、モントリオールで働いていた際のこと。日本のアートディレクター大智浩からグリーティングカードが送られてきたことをきっかけに日本での仕事がないかコンタクトを取り始めました。
日本においてタイポグラフィ分野を発展させる必要性を感じていた大智はシュミットを呼ぶことで日本のデザイン界にとってプラスとなると考えていました。こうして1966年、24歳で来日したシュミットは、「大鵬薬品工業」や「三洋電機」、「大塚製薬」といった名だたる企業の商品ロゴ、広告、パッケージ、冊子を数多く手掛けていきます。
日本文字への探究を深めていったシュミットは、大きな挑戦としてオリジナルのカタカナ書体「エル」の制作も行いました。書体名は師の名前である「エ」ミール・「ル」―ダーから採っているそうですよ。
1980年代以降のシュミットの活動で重要なクライアントのひとつが大塚製薬。発売当時から大ヒットとなった「ポカリスエット」のパッケージは、世代を問わず知っている方が多いのではないでしょうか。2色のスッキリとした文字表現は国籍を感じさせないモダンな佇まいが印象的です。
実はシュミットは化粧品メーカーの資生堂の仕事も数多く手がけています。化粧品「エリクシール」のロゴデザインをはじめ、「イプサ」や「dプログラム」のロゴなど今も販売されている商品のアートワークも制作されているんです。
日本のアートディクター杉浦康平はシュミットによる資生堂のロゴタイプデザインを「西欧的秩序に東洋的な息づかいが加えられて、西と東の理智と情感の、音楽と造形の、幾何学性と身体性の実りある結晶化が生まれでた」と説明しています。東西をつなぎ、タイポグラフィの発展を促した生命力あふれるシュミットの作品。その探究の軌跡をじっくり堪能したあとは、ぜひ巻末に収録されている大学での講演「デザインは姿勢である」も読んでみてくださいね。
現代のタイポグラフィ、グラフィックデザインに多くの影響を与えたヘルムート・シュミット。週末は彼の美しい作品群からデザインのヒントを得てみてはいかがでしょうか。
定価:4,180円(税込)
著者:ヘルムート・シュミット
編集:ニコール・シュミット、室賀清徳
デザイン:ニコール・シュミット
仕様:A4変形 上製 総240頁
ISBN:978-4-7661-3575-6
発行:グラフィック社
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