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Soup Stock Tokyoの「瓶のビール」がリニューアル。商品企画担当のデザイナー北山さんが込めた想いとは?

Soup Stock Tokyoの「瓶のビール」がリニューアル。商品企画担当のデザイナー北山さんが込めた想いとは?

こんにちは、haconiwa編集部のシオリです。
気になる商品やブランドの担当者さんに開発経緯やデザインのこだわりを聞いて深掘りする「商品開発の裏側」のコーナー。

第7回は、Soup Stock Tokyoのオリジナルビール「瓶のビール」をピックアップします。「瓶のビール」は、2016年の6月に発売開始。Soup Stock Tokyoではそれまで、他社ブランドのビールを出していましたが、そのことをふと疑問に思ったデザイナー 北山瑠美さんが、商品開発未経験ながらつくり上げた、こだわりのビールなんです。

小説の世界に浸るように、「ホッと」自分に浸れる時間を。

「それは小説のようなビールです」というキャッチコピーとともに、忙しい毎日を過ごしながらSoup Stock Tokyoで食事をする方々に、ちょっとしたご褒美のひとときを感じてもらえたらとの願いを込めて発売された「瓶のビール」。開発時に北山さんがこだわったのが、Soup Stock Tokyoのスープに合うこと、泡が小さくお腹の張らないこと。そして、飲んでもらうことで小説の世界に浸るように「ホッと」自分に浸れる時間を過ごしてほしい、という想いでした。

Soup Stock Tokyo 瓶のビール
(今回リニューアル発売となった「瓶のビール」)

そんな「瓶のビール」は発売以来愛され続けてきましたが、2022年6月13日にリニューアル発売を迎えました。今回は、改めて商品企画担当である北山さんがこの商品に込めた想いを伺ってきましたよ。

Soup Stock Tokyo 瓶のビール
(「瓶のビール」商品企画担当 株式会社スマイルズ クリエイティブ本部デザイン部 グラフィックデザイナー・ビジュアルマーチャンダイザー 北山瑠美さん)

お客様にとっての居場所でありたい!新たに作り手を探すところから再スタート。

――発売から4年。今回のリニューアルに向けて、どんな思いがあったのかお聞かせいただけますでしょうか。

北山瑠美さん(以下、北山さん): 2016年に発売したとき、日頃忙しくしている女性が、ふらっと一杯飲んで帰れる場所を提供したい、自分に「お疲れ様」とホッとできるひとときを、このビールと共に過ごしてもらいたいと思って作りました。当時、たまたま女性のちょい飲み市場というのが盛り上がった時期でしたが、私たちはそれとは関係なく。

でも、そんなブームがあったはずなのに、今も当時とそんなに状況は変わっていないんじゃないかなと。程よい場所にお店があって、仕事帰りに寄れて、お酒だからバーということでもなくて、ちょっとご飯も食べられて、一杯飲めるという場所は今もあまりないかなと。

「瓶のビール」は、発売してからずっと一定数出ています。例えば夏だからといって急に出数が跳ね上がるということもなく、一年を通して「お疲れ」のひとときに飲んでくださっていたんだなと思うと、なんとなく自分が創りたかった価値みたいなものがお届け出来ていたのかなと感じています。今回リニューアルした「瓶のビール」においても、これまで同様にSoup Stock Tokyoを居場所と思ってくださっている方にしっかりとお届けしたいという想いでいました。

酵母が生きた状態のピルスナースタイルのビールを求めて。

――リニューアルすると決まったあとは、まずは作り手を探すというところからだったのでしょうか?

北山さん:そうですね。もともと「瓶のビール」は、酵母を濾過しないビールというのを一番の条件にしていました。なぜなら、やっぱりSoup Stock Tokyoはスープがメインのお店なので、液体に液体の組み合わせはどうなんだろう?いうことを、最初の開発の時から結構言われていたんです。Soup Stock Tokyoのスープは、液体と言ってもとろみのあるものや、具沢山のものもあるので、そこはお客さまがうまく組み合わせてくださるんですが、やっぱりお腹が張らないようなビールにしたいなと。

そう思って調べてみると、日本でも一般的なラガービールって、どうしても瓶詰めとか樽詰めする直前に、炭酸ガスを入れているんですね。その方が味の変化が少なく、短期間で製造出来るので。それが一般的な作り方なので全然悪いことでもないし、日本のビールも美味しいので私もよく飲むんですけど。

でも、それと比べて酵母を濾過しないビールは、酵母が自分の力で泡を出すので、炭酸ガスよりも泡が小さくなるんです。なので、お腹いっぱいにもなりにくく、口当たりもまろやか。Soup Stock Tokyoには、それがちょうど良いスタイルなんじゃないかなと。そう思って酵母が生きた状態のピルスナーというスタイルをつくれる工場を中心に探していたんですけれども、結構少なくて。求めるスタイルかつ、小ロットでつくれるというところが日本にはあまりなくて、探すのには苦労しました。

――その中で、今回パートナーとなったベアード ブルーイングさんとの出会いがあったのですね。

北山さん:そうですね。私たちが提供するのは瓶なので、本当は生で飲んだ方が美味しいのですが、瓶のものを取り寄せて飲んで、というのを繰り返して。本当にたくさん飲みましたね。その中で、ベアード ブルーイングさんは、味はもちろんですが、実は立地も重要で。他にも候補に上がったところはあったんですが、あまり遠すぎると送料もかかるので、いろんな要素がうまくマッチするところを見つけなければならないというのがあるんですが、ベアードさんは静岡の修善寺にあって東京に近いこともあり、とてもいいなと。

ベアード ブルーイング
(ベアード ブルーイングは、2000年にブライアン・ベアード&さゆり夫婦が沼津に設立した合資会社。本社と工場は、修善寺。)
ベアード ブルーイング
(日本文化への敬意も忘れることなく、正直で、自然で、素朴であるビールを作り続けているベアード ブルーイング。)

それと同時に、もともとベアードさんが我々Soup Stock Tokyoの考え方や価値観にすごく共感してくださっていて。窓口になってくださっている方が、もともとSoup Stock Tokyoの大ファンでいてくれていて、何か一緒に出来ませんか?というご連絡をちょうどいただいたところだったんです。

――それはすごいタイミングですね!

北山さん:それで、一度ベアードさんの方からSoup Stock Tokyoのオフィスに来てくださったんです。その時にすごく話が盛り上がって、ますますお願いしたいねとなって。その後、工場を見学させていただいて、という流れで話が進んでいきました。

ビールは、一つのアート作品だと思っています。

ブライアン・ベアード&さゆり夫婦
(ブライアン・ベアード&さゆり夫婦)

――「一緒にやりましょう」と決まって、どういうビールにするのかという開発が始まるわけですよね。

北山さん:はい。ビールのスタイルは先ほどお話ししたように、酵母が生きていて、ピルスナーでというのは私の中で決まっていたんですけど、ビールって、一つのアート作品だと私は思っているんです。醸造家の方のさじ加減で、味とか泡立ちから香りまで、本当に変わってくるんですね。

例えば、アーティストに絵を頼む時に、「ここに花を描いて」「ここに私を描いて」とか言わないですよね。それと同じで、あまり具体的な指示をしてしまうのは失礼だなと思い、もっと感覚的なお願いをしました。女性が飲みやすいとか、Soup Stock Tokyoのスープやカレーに合う味とか。普通に聞くと「何だそれ?」ってなると思うんですけど。結構抽象的なというか、相手を困らせるようなお題を敢えてぶつけたような感じだったかもしれません。

――こういう味にしてください、というお願いではないのですね……!

北山さん:そうですね。お仕事帰りの「疲れた……」というときに、女性が一人で「乾杯!」と言って、「幸せ……」ってなれるようなビールとか、そういうことをお伝えしましたね。見た目にも特別感があって、すごく透き通った真っ黄色という感じよりは、ちょっと黄金色というか。ちゃんと目で見てもコクがありそう、香りがよさそうだなと分かるような色合いにしてほしいと。そういうお題も、ちょっと出させていただいた感じですね。

――そのお願いを聞いたブライアンさんはどんな反応だったのでしょうか?

北山さん:本当にブライアンさんはすごい方で!「OK、OK、任してよ」みたいに言ってくださって。私も「うん、分かった。任せる」みたいな。

ブライアン・ベアード
(決して妥協することのない伝統的なビール造りを続けるブライアン・ベアード氏)

その後に、会社として考えなければならないリスクのことだったり、ご迷惑をおかけしないように考えておくことだったり、少し細かいことを質問したりもしたんですが、ブライアンさんは「もう、そういうことは任せてくれたらいいんだから」という感じで、すごく職人気質な方で。

なので、細かい指示よりも、抽象的なお願いをしたのが多分当たっていたんじゃないかなと。イメージを膨らませてくれたようで、「華やかなホップを使うよ!」とか、「ホップはもういくつも頭に浮かんでいる」とおっしゃっていて。本当にアーティストだなと感じました。

瓶のビール ホップ
(「瓶のビール」は、特別にブレンドした数種類のホップを追加することで、ソフトで優しいお花やフルーツのようなアロマを引き出しているそう。)

グラスに注がれるまで酵母が生きて、進化し続けるビール。

Soup Stock Tokyo 瓶のビール
――実際にビールが出来上がってきて、どんな感じでしたか?

北山さん:出来上がってすぐのものを送っていただいたのですが、正直ちょっと軽く感じたんです。でも、その時は出来てすぐ送ってもらったものだったので、実際はお客様に届けるまでにはもっと時間が掛かるんです。一回倉庫に行って、そこからお店に少しずつ送っていくかたちになるので、出来立てのものがお客様に提供されることはないんです。

それも考えて、ちょうど3ヶ月後くらいのものを飲んだ時でしたね。「あ、来た!」と思ったのが。“定着”という言い方が合っているか分からないんですけど、華やかな香りが感じられながらも、酵母の自然発泡による柔らかな泡と、なめらかな喉越しがあって、イメージしたところに着地してくれたという感じがしました。

――時間を置くことで変わるんですね!

北山さん:私はそう感じましたね。商品の説明にも「グラスに注がれるまで、生きて進化し続けるビール」と書いたんですが、本当に昔ながらの製法で作っているビールで、酵母が生きているんです。要冷蔵で丁寧に取り扱う必要があって、生き物のように扱わないといけないという大変さはあるんですけれど。

昔から作られているビール本来の製法から、「こういう味のビールが出来るんだよ」ということや、「酵母が生きているんだよ」ということを伝えられたらいいなと。Soup Stock Tokyoがいつも、「こういう食材でね」という感じでスープを提供しているように、「ビールもね」と、みんながお話し出来るような、そんな背景があるビールがいいんじゃないかなと思ったんです。

商品名やラベルデザイン誕生の秘密とは?

Soup Stock Tokyo 瓶のビール
――今までお話を伺っていると、ベアードさんと組むと決まってからはスムーズだったように思いますが、何か大変だったことはありましたか?

北山さん:お願いしてから出来上がってくるまでは結構スムーズだったんですけど、それからが大変で(笑)。商品名を変えるか、変えないかとか、ラベルのイラストとかにも時間がかかりましたね。

――なるほど。商品名は変わっていませんが、変えるという案もあったのでしょうか?

北山さん:商品名は、2016年の発売の時に、確か100案、200案と出したんですよ。出しても出しても、どれも納得出来ず。本当に頭が壊れそうなくらいビールのことばかり考えていたんですけど、あるとき遠山(株式会社スープストックトーキョー代表取締役会長)に相談したときに、「この商品を普通に言ったら、なんと言ったらいいの?」と聞かれたんですよ。「瓶のビールですかね」と言ったら、「それだよ」という感じになって。ハッとしました。

「瓶ビール」というと、おじさんが「瓶ビールちょうだい」という雰囲気が出ますが、「瓶のビール」のように「の」が入るだけで、丁寧な感じになる。その響きも素敵だし、飾らないそのままがいいんじゃないと遠山に言ってもらえて、やっとしっくりきました。

そういう経緯があったので、これを超える商品名はやっぱりないなと思って。待ち望んでくれていた方が「また帰ってきた」と、思ってもらえるように、名前を変えたくなかったというのはありました。

ひとまわりして冷静になれたことで湧いてきた「自分で描きたい!」という気持ち。

Soup Stock Tokyo 瓶のビール
――ラベルデザインは、リニューアルされましたね。以前はイラストレーターさんの絵を使用したデザインでしたが、今回は北山さんご自身で手掛けられたとか。

北山さん:こういうと怒られちゃうかもしれませんが、前回の時は私、自分で作れなかったんです。やってみてはいたんですが、作っても作ってもしっくり来なくて。多分、思い入れが強すぎるのと、ずっとやり続けてしまって客観的に見られなくて。これは私が作ったら失敗すると思ったので、私が考えていたストーリーやシーンをうまくイラストで表現してくれる方に描いてもらうことで、それを素材にラベルをつくったという経緯があったんです。

それは結果的には正解で、店頭に置いてあってもすごく目立っていましたし、あのラベルのおかげでずっと飲んでいただけていたというのがもちろんあるので、今回も同じ方にお願いしようか、もしくは別の方にお願いしようかという案もあったんですが、今回はやっとひとまわりして、私も冷静にいろいろ考えられるようになったというのがありました。

あとは、ちょうどコロナ禍で、世の中が、というか世界が変わってしまって。大事な人が突然いなくなってしまったりとか、帰りたい時に帰れていた実家にしばらく帰れなくなったり、普通が普通じゃなくなるってとても恐ろしいことだし、とても悲しいことだなと。飲食店でのお酒も禁止の時期でしたし、またお酒を飲めるようになったら「こんなこともあったよね」と言いながら、大変だった時を噛み締めながら、また楽しく飲んでもらえるような、そんなラベルにしたいなと。そう思ったときに、今回は「自分で描きたい!」とすごく思ったんです。向き合いたいというか、逃げてはダメだというか。

そんな時に思い出したのが、キリンビールのラベルでした。もともと父親がよく飲んでいたのですが、麒麟のあの生き物のしっぽとか頭に、「キ」「リ」「ン」の文字が隠れているんだよということを教えてもらった時の衝撃が忘れられなくて。もう、キリンのあのマークを見ると、やっぱり今でも探しちゃいますし。ラベルと向き合うことが出来るビールってすごいな、強力だなと思って。そんなふうにラベルと会話しながら飲めるようなデザインにしたいなと思ったんです。

ラベルと会話しながら飲めるようなデザインに。

――それで今回出来上がったのが、こちらのデザインですね。

北山さん:日本の原風景や、自分のふるさとを思い出してもらえたらなということと、お仕事に疲れたときに風景を見てもらって、少しでも癒されてもらえたらいいなという想いもあって、風景にしたいなと思いました。

あと、ベアードさんの工場がある敷地が、本当にこの絵のようにすぐ隣に川が流れていて、緑に囲まれた場所で。おいしいビールをつくってくださった皆さんへのリスペクトの想いも込めて、ベアードさんの工場のイラストを描かせてもらいました。そういうかなりいろんなことを込めたラベルになっています。

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(今回のラベルデザイン。)

――前回はなかなか納得するものが出来なかったとおっしゃっていましたが、今回はスムーズだったのでしょうか?

北山さん:そうなんです。これしかない、くらいの感じで思っていて。もう2、3案作りまして。夜の雰囲気の案や、女性がモチーフで「カ・ン・パ・イ」と言う文字が隠れているんですが、全員に「分からない」と言われてしまいました(笑)。

瓶のビール ラベルデザイン ボツ案

瓶のビール ラベルデザイン ボツ案
(今回残念ながら未採用となった案を見せていただきました。)

でも全員が風景のラベルデザインを見て「これ」って迷わず言う感じでしたね。私の上司の野崎からも、まだ正式に見せる前の作っている段階で、「これ」と後ろから言われるという(笑)。何も説明してないのに!みたいな。でも、そういうのも飛び越えて、「これ」と皆さんに言っていただいたのは、時代背景がそれを求めていたのか分からないんですが、このラベルに決まりました。

Soup Stock Tokyo 瓶のビール
――そしてこちらには、6匹の動物が隠れているんですよね?

北山さん:はい、よく見ると里山の動物たちがいるので、ぜひ探してみていただきたいですね。店頭のスタッフも、「よかったらラベルに隠れているので、楽しんでくださいね」と、お客様に声を掛けたくなるというか。コミュニケーションツールになったらいいなと思います。

店内のお客様は、普段はやっぱりスマホを見ている方が多いですが、瓶のビールを飲む時には、ラベルを見ている方が多いと嬉しいなと思いますね。

肩書きに縛られず、チャレンジを。

Soup Stock Tokyo 瓶のビール
――最後に、「瓶のビール」をこれから飲む方へメッセージがあればお願いします。

北山さん:ぜひ美味しく飲んでいただきたいなというのはもちろんなのですが、haconiwaさんはクリエイターの方がご覧になるということで。この「瓶のビール」を作ってみて、よく言われるのが「デザイナーなのにビールつくったんですか?」ということなんです。

でも、弊社の遠山が言っているように、これからの時代はますます個人が好きなことを仕事にしていける時代だと思うし、自分で肩書にこだわってしまうと、やれる範囲を自ら狭めて、何かにチャレンジすることをやめてしまっているというか、それにさえ気づけていない人が結構いるような気がしていて。

社風にもよるかもしれませんが、例えば、デザイナーだからコピーライティングはコピーライターに任せなきゃみたいにする必要は全くなくて、デザイナーがコピーを書いてもいいし、写真を撮ってもいい。そういう気持ちだからこそ、デザイナーがビールをつくることだって出来た、ということだと思うので。これからの時代は、誰でもいろんなことが出来るんじゃないかなと。そういったことも、このプロジェクトは掲げているのかなという想いもあるので、そういったメッセージも受け取ってもらえたら嬉しいなと思います。

瓶のビール(酵母のピルスナー)
容量:330ml/アルコール分:5.0%
品目:非加熱処理生ビール/パッケージ:瓶
発売日:2022年6月13日(月)
取扱店舗:Soup Stock Tokyo全店(※店内提供のみ、家で食べるスープストックトーキョーは除く)
商品価格(税込):単品680円/セット+580円

Soup Stock Tokyo
https://www.soup-stock-tokyo.com/

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