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かみの工作所10周年企画 「かみの重力」展 PAPER ATTRACTIONをレポート
「紙の重さ」を様々な角度から捉えた紙製品
こんにちは、箱庭の森です。
今日は、11/6(日)まで六本木にあるリビング・モティーフ(アクシスビル1階)で開催中のかみの工作所10周年企画「かみの重力」展 PAPER ATTRACTIONに行ってきましたので、そちらをレポートします。
イベントにあわせて、10/20(木)には参加デザイナーである寺田尚樹さん(建築家、デザイナー)、鈴野浩一さん(建築家)、三星安澄さん(グラフィックデザイナー)と、かみの工作所で企画・プロデュースを立ち上げから携わっている萩原 修さんによるトークイベントも開催されました。そちらも参加することができましたので、トークイベントでの話も交えつつお届けします。
みなさんもご存知かと思いますが、『かみの工作所』は、東京・立川で創業して50年ほどになる福永紙工が手掛ける、紙を加工・印刷してできる道具の可能性を追求するプロジェクトです。「空気の器」や「テラダモケイ」など人気のプロダクトを生み出し、箱庭でもこれまで不思議な紙のポットカバー「CMY(シミィ)/POT」や「立川市プレミアム婚姻届」を取り上げてきました。
そんな『かみの工作所』が始動してから今年で10年を迎えます。10年にあわせて開催された企画展が「かみの重力」展なんです。
「かみの重力」展のコンセプトとしては、このようなことが書かれています。
その存在を意識することがないほど身近にある紙。
情報がデジタル化して、パソコンやスマフォがあたり前になった時代だからこそ、手触りや匂いを感じる五感を刺激する紙の力が見直されています。
そんな時代に、紙の力を活かして、紙を加工することで、紙の楽しみ方を伝えてきた「かみの工作所」が、今回、あらためて注目したのは、「紙の重さ」でした。あまりにペラペラなので、紙に重さがあることを忘れがちです。
紙業界では紙を斤量(きんりょう、重さ)で表すことが常識なのですが、世間では常識ではないようです。
紙をたくさん重ねた時には想像以上に重さを感じます。紙の重量。紙の重層。紙の重力。
紙の重心。紙の重点。紙の重圧。紙の重大。紙の重要。紙の重責。紙の重役。
「紙の重さ」を様々な角度から捉えるとどんな紙製品が生まれるのでしょうか。これまで「かみの工作所」は、工場の技術とデザイナーの発想を重ね合わせて、平面の紙を立体化するおもしろさを提案してきました。
10周年の節目に「紙の重さ」を感じながら、10人のデザイナーがあらたな紙の工作に取り組みました。
紙への想いと重いを重ねて、丁重に慎重に紙を加工し印刷することで生まれる紙製品。その「引力」を体感してください。
こんな風に書かれていますが、トークイベントでは、プロデューサーの萩原さんから昨年末に「来年10周年なので、じゅう(重)がいいと思うんだよね、しかも、10月がいいんだよね。」とダジャレっぽく始まったのが、この企画展だというお話もありました(笑)。
今回、「紙の重さ」をテーマに紙工作をしたデザイナーは、10という数字にあわせて10人。展示会場では、今回のために生み出された10人の工作が展示されています。いくつかご紹介しましょう。
Platonic Solid Paper Balloon 正多面体のかみふうせん/寺田尚樹
「重力展と聞いて、軽くて儚いものをつくろうと思った」という寺田さんが今回つくったのは、正多面体のかみふうせん。
「レシピでもなんでも、簡単で誰でも作れるというものがフューチャーされるけれど、テラダモケイもそうなんだけど、今回も難しいものがつくりたかったんですね。このかみふうせんは、空気が漏れないように組み立てようと思うと結構大変なんです。だけど、組み立てるときに姿勢を正してやるみたいな、そういう気持ちでつくれるものをつくりたかったんです。」(寺田さん)
かみふうせんという小さい頃から親しんできた身近なものでありながら、真っ白な多面体という姿に、新しさと大人っぽさを感じるかみふうせんです。インテリアとして飾っておきたいですね。展示では、展開図と重なる影がとても素敵でした。
A4 SHELF・A3 SHELF/トラフ建築設計事務所
「重さということで、とにかく重たいものを支えられるトラス構造を用いた強いシェルフをつくりました。」というトラフ建築設計事務所の鈴野さん。
水にも強い、お道具箱にも使われている”パスコ”という紙を、建築のトラス構造を利用することで、なんとペットボトルの水2リットルを3本置いても大丈夫だったという、かなり丈夫なシェルフです。こんなに強いのに、壁には画鋲で止めているだけ!(※シェルフの耐荷重は壁面素材により異なります。パッケージには「耐荷重500g」と記載があります。)
「トラフ建築設計事務所のプロダクトは、ネーミング、パッケージ、そして使い方をトータルで見せることがいつも考えられている」とプロデューサーの萩原さんが話してくれた通り、今回もネーミングから商品が想像できたり、展示から家での使用イメージが想像できるようになっています。
ポストリPost-lit/三星 安澄
ポストリはくちばしの部分をつまんで、立体的な鳥の形にするふせんメモです。
重力展ということで、立てたときの重心を調整して、ピタッとふんわりした鳥にこだわってつくられているのだそうです。
かみの工作所は、展覧会をやる際に、月に1回は大体みんなで集まり、デザイナー同士で、アイディアを見せたり、進捗を話し合ったりするのだそうです。
「普通、プロダクトをつくるときはクライアントとデザイナーのやり取りだけだと思いますが、このプロジェクトに関しては、全デザイナーが集まって、一緒に打合せをします。他のデザイナーから良い意見もあれば、ダメだしもあるというところが、いい意味でも悪い意味でも他と違う部分だと思います。」(萩原さん)
実はトークイベント中にも、三人のデザイナーからお互いのプロダクトに関して、鋭い指摘があったりして、だからこそ「かみの工作所」では面白いものが生まれるんだなとあらためて感じました。やっぱり何事も褒め合うだけではなく、鋭い指摘って必要なんですね。他の方から指摘されても、自分がいいと思えばそのまま突き進めればいいし、その指摘がごもっともだと思えば変えればいい。こういった意見をもらえる場っていうのは、いいプロダクトをつくって行くには必要なことなんだなと、いいプロジェクトだなと話を聞きながら勝手に感じていました。
今回は、トークイベントに参加した三人のプロダクトを中心に紹介してきましたが、もちろんその他の方のプロダクトも素晴らしかったです。
TINT/原田 祐馬
ドライフラワーのための一輪差し「TINT」。光が当たると内面の色が反射し、表面にグラデーションをつくります。写真以上に、実際に見るととても美しいので、ぜひ見に行ってみてください。
BOTANICA/田村 奈穂
一枚ずつ異なったグラデーション。手紙を書く、箱を包む、プレースマットとして食卓を飾る。使い方次第で変わるいろいろな表情を楽しめる紙です。
最近は、個人的にグラデーションのようなきれいなものに惹かれる傾向にあり、そういったものに目が向いてしまいましたが、記事で紹介したのはほんの一部ですので、ぜひその他の製品は実際に展示会場へ見に行ってみてください。
ちなみに、展示ディスプレイにも重ねた紙が使われていました。こちらの紙は、特種東海製紙さんの「エアラス」という高級印刷用紙を使用しています。
今回新作の展示の横には、これまで発表されたプロダクトもありました。
ずらっと並んだテラダモケイや、
空気の器も。
そして、2階では、『かみの工作所』10年分のお知らせも展示されています。
『かみの工作所』のお知らせは、毎回ハッとしたアイディアのものばかりで、私たちも楽しませてもらってます。
『かみの工作所』のはじまりは、2006年。ビジネスバッグをつくろうというプロジェクトから始まりました。ただ最初からうまくいったわけではありません。
ビジネスバッグをつくったり、かみの工作所ができる加工見本をつくったりしていてもあまり売れず、営業もできず。これでは、プロジェクトがつぶれてしまうということで、色々なデザイナーを巻き込んで、製品をつくって販売するという、いまの形に変えたのだそうです。
そして、10年。
最近では、立川の市長さんが、立川の代表するプロダクトとして、お土産に「空気の器」を持って行ってくれるんだそうです。
プロデューサーの萩原さんはこう話します。
「10年間やっていて、なんとなくやっと気づいたことがあるんですけど、立川の百貨店でかみの工作所のポップアップショップをやったことがあるんです。その時に、おばあちゃんが孫に買って行ってくれたり、本当に老若男女問わずたくさんの人が買ってくれたんですね。大袈裟に言うと、日本の手先が器用な、折り紙の文化がまだ残っているのかなと。かみの工作所は、新しい折り紙の文化と言っていいのではないのかなと思ったんです。デザイナーがつくって、工場で生産しているのでプロダクトではあるんですが、買った人がやって楽しんだり、つくって楽しんでもらえたらいいなと思っています。『かみの工作所』は、まだまだ道半ばなので、これからどんどんそういう文化を広げていきたいと思っています。」
これまでの10年楽しいプロダクトを発信してきた『かみの工作所』ですが、これからの10年もますます楽しみとなる展示イベントでした。
11/6(日)まで開催中です。ぜひお時間ある方は、展示を見に行ってみてください。
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かみの工作所10周年企画 「かみの重力」展 PAPER ATTRACTION
会期:2016年10月19日(水)~11月6日(日)
※10/31(月)は臨時休業
時間:11:00〜19:00
会場:リビング・モティーフ(アクシスビル1階)
東京都港区六本木5−17−1
03-3587-2784
入場料:無料
URL:http://www.kaminokousakujo.jp/news/2016/09/-paper-attraction.html
スヌーピーミュージアムの近くです。一緒に楽しむのも◎