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多彩さに刺激を受ける!「花森安治の仕事―デザインする手、編集長の眼」展レポート
日本の暮しをかえた稀代のマルチ・アーティスト!編集者・花森安治氏の足跡。
こんにちは、シオリです。
また素敵な展示が一つ、始まりましたよ!
昨年、NHK連続テレビ小説にも取り上げられ注目された、「暮しの手帖」の創刊者・花森安治氏の仕事を紹介する「花森安治の仕事―デザインする手、編集長の眼」が、2017年2月11日(土)より世田谷美術館でスタートしました。4月9日までの約2カ月間楽しめる展覧会となっていますが、早速遊びに行ってきましたのでレポートしたいと思います!
花森安治氏といったら、唐沢寿明さん演じる花山伊佐次のモデルになった方ですね。
終戦まもない1946年3月に、大橋鎭子(おおはし・しずこ)さんを社長とする衣裳研究所を銀座に設立し、新進の服飾評論家としてデビューしました。新しい洋服の提案をした雑誌『スタイル・ブック』は評判を呼びますが、かねてより計画していた生活家庭雑誌『美しい暮しの手帖』(のちの『暮しの手帖』)を1948年9月に創刊し、その後、社名も暮しの手帖社へと変更。そこから、1978年までの30年にわたり編集長を務めました。
取材する花森安治 1970年初頭 写真提供:暮しの手帖社
今回の展覧会では、編集者としてだけではなく、装幀家やイラストレーター、コピーライター、ジャーナリストなど多彩な活動を行ってきた花森安治氏の仕事を全6章の構成で紹介しています。戦後の日本社会に問いかけてきた「美しい暮し」をデザインや編集術から探る内容となっているんです。
『暮しの手帖』編集長として手掛けた約30年間分の多彩な仕事
やはり花森さんと言ったら、まずは『暮しの手帖』でのお仕事に注目したいところ。今回の展示では編集長を務めていた約30年間を、3つの時期に分けて詳しく紹介しています。
それぞれでは、『暮しの手帖』の表紙がずらっと並んだ展示が。これだけ並ぶと圧巻です!
表紙絵の原画も併せて展示されているのですが、それぞれの時期で画風がちょっとずつ違っているのが分かって面白い!そして、これだけの数がありながら、ひとつひとつが印象的であるのには感動しました。
挿絵の原画もたくさん並んでいます。どれも、とっても可愛らしい。
花森氏の絵は描かれたときから何十年も経った今でも、色あせないどころかぐいぐいと心を惹きつけます。その魅力は、時代に関係ない普遍的なものなんだなぁと改めて感じました。
朝ドラでも登場していた「商品テスト」の様子も、当時の写真がたくさん展示されていました。「商品テスト」は電化製品が普及した高度成長期に、本当に良いものを見極めることを提案したもの。花森氏が、“衣・食・住”を基本にすえつつ、その時代の暮しに寄り添った誌面作りをし続けたことを実感できます。それは、戦後のもののない時代には工夫とアイデアによる豊かな暮らしを、そして食品添加物や公害問題が叫ばれた70年代には社会矛盾を鋭くえぐる批評を展開したことにも表れています。
新聞広告「暮しの手帖 2世紀7号」の版下、デザイン 花森安治、1970年8月1日刊行用、世田谷美術館蔵
花森氏は、取材や執筆はもとより、制作から宣伝まですべてを手掛けた編集長でした。こちらは、新聞広告の版下です。今ではデータのやりとりになっていますが、ここではアナログの時代を垣間見ることが出来ます。
この赤や緑のものは、『暮しの手帖』の中吊り広告です。当時の中吊りって、こんな感じだったんだ!という驚きもありましたが、シンプルだけどインパクトを感じるデザインは、言葉がより伝わってくるような気がしました。
その他にも、各時代に手掛けた作品や、当日の生活の様子が感じとれるようなものがたくさん展示されていましたよ。
『暮しの手帖』創刊以前から、外部出版社の装幀の仕事まで
『暮しの手帖』のイメージが強くある花森氏ですが、その他の仕事や編集者になる前の作品から展示されています。学生を終え仕事をし始めた時代は、戦争真っただ中。召集を受け満州に渡った時期もありながら、化粧品会社・伊藤胡蝶園、そして大政翼賛会で広告宣伝の仕事をしていきます。その頃から、手描き文字で強く訴えかけるスタイルを確立していることが展示から見て取れます。
『暮しの手帖』以外の装幀や広告の仕事もたくさんしていたという花森氏。こちらは三ツ矢サイダーとアサヒビールの広告ビジュアル。レトロでかわいいですね。
他にも百貨店の包装紙や食品関連の広告ビジュアルなど、様々な作品が並びます。『暮しの手帖』とはまたちょっと違った花森氏のデザイン性を見ることができ、刺激を受けること間違いなしです。
花森安治の「あいうえお・もの図鑑」
こちらは、実は入ってすぐの場所で出迎えてくれた展示、『花森安治の「あいうえお・もの図鑑」』です。花森氏が誌面で紹介した日用品や電化製品、そして身辺にあった愛用品などがランダムに集められ、あいうえおの順に並べられています。
花森も愛用していたハッセルブラッド500CM 個人蔵
例えば、「か」は花森氏も愛用したカメラ。ハッセルブラッドを使っていたんですね!カメラ以外にも、日々使うアイテムのチョイスには、センスが光っていました。
「す」は、商品テストを実施したイギリスのアラジン社製「ブルー・フレーム」の石油ストーブでした。今では当時の時代が分かる貴重な品ですね。
この展示は花森氏の、商品テストを実施するような鋭い視点と、暮しの中にあるモノへの愛情が詰まっていて、一通り見たあとに、もう一度じっくり見返したくなりました。
ひとつの雑誌を超えて人々の暮しをかえてきた、花森氏の多彩な仕事から感じ取れるもの。
2世紀53号 画:花森安治 1978年4月1日(制作年:1976年)の表紙原画と雑誌
この展覧会は、朝ドラが放映されるずっと前から企画されてきたものなんだそうです。約750点にもなる展示資料を目の当たりにすると、それも納得。たくさんの時間と力が注がれたことが分かりました。
花森氏の生涯の仕事をこうして見てみると、戦争を経験し、その後の時代を生き抜いているなかで、“熱”を持って様々なことを人々に提案し、伝えてきたんだということを感じました。私達が生きている今より、ずっと“暮し”が生きることに直結していた頃、人々の心を育ててくれた方なんじゃないかなと思います。
まさに、花森氏が全身全霊をかけて打ち込んだ仕事に触れることの出来る展覧会「花森安治の仕事―デザインする手、編集長の眼」。編集に携わっている方も、そうでない方も、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。
花森安治の仕事―デザインする手、編集長の眼
会期:2017年2月11日(土)~4月9日(日)
会場:世田谷美術館(世田谷区砧公園1-2)
開館時間:10:00〜18:00 ※展覧会入場は閉館30分前まで
休館日:月曜日(祝休日の時はその翌平日)
観覧料:一般 1,000円/65歳以上、大・高生 800円/小・中生 500円
URL:http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html