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高畑勲監督&奈良美智さん監修!「安曇野ちひろ美術館」で絵本の世界を体験しよう。
春の信州で「絵を見ることを能動的に体験する」展覧会がスタート!
こんにちは、絵本が大好きなミユです。
私の地元である松本の近隣には、実は絵本関連の美術館が多いんです。
今日は、その中でもずっとオススメしたいと思っていた「安曇野ちひろ美術館」をご紹介します!
安曇野ちひろ美術館ってこんなところ
松本から車で約40分の安曇野エリアに「安曇野ちひろ美術館」があります。
信州にゆかりのある絵本画家いわさきちひろさんに関する美術館で、北アルプスを望む「安曇野ちひろ公園」内に建てられており、広々とした自然も楽しむことがでできます。いわさきちひろさんの作品はもちろん、日本&世界中の絵本画家の作品に出会うことのできる、絵本ファンにはたまらない美術館なんです。
木をふんだんに使って建てられた館内は、とっても気持ちがいいんです!
昨年には、館長である黒柳徹子さんの著書『窓ぎわのトットちゃん』にちなんだ「トットちゃん広場」が、隣接する「安曇野ちひろ公園」にオープンしました。
いわさきちひろさんの絵で愛されている『窓ぎわのトットちゃん』に登場する「電車の教室」が再現されているんです。
とっても可愛いですよね!
もうひとつの車両は、約500冊の本を自由に読むことができる「電車の図書室」になってるので、ここでのんびり時間を過ごすのもよさそうです。
そんな「安曇野ちひろ美術館」は、今年開館20周年!
20周年を記念して、素敵な企画展が3月1日から始まりました。
それが、「高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」と「奈良美智がつくる 茂田井武展 夢の旅人」です。
ひとことで言うと「『絵をみることとはどういうことなのか』ということを多くの人たちに問いかけ、その答えを探してもらう展覧会」とのこと。どんな展示なのか、一足早く企画展を見てきましたので内容を少しご紹介しますね。
「高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」
「火垂るの墓」「かぐや姫の物語」などを手がけた高畑勲監督は、いわさきちひろさんの絵の魅力に触れては共感し、インスピレーションを得てきたのだそうです。この企画展では、高畑勲監督の視線からいわさきちひろさんの絵の魅力を新たに発見し、今までにない演出で絵の世界を能動的に”体験”することができます。
右:『おにたのぼうし』より「戸口にたつおにた」 左:『あめのひのおるすばん』より「カーテンにかくれる少女」
会場に入ってすぐのスペースには、いわさきちひろさんの数ある作品の中から高畑監督が選んだ数点の作品を、高精細に拡大して再現したものが展示されています。小さなころ絵本で見ていたあの子たちの世界に自分が入り込んだようで、「わあ!元気だった?」とハグしたくなってしまいました。
床には、おにたの足跡が!その辺を走り回っているんじゃないかと思えてきます。
さらに進むと、こちらにも大きく引き伸ばされたいくつかの作品がありました。
右側の「海とふたりの子ども」のサイズは、約2.4m×3.4m。
手前にいらっしゃる高畑監督より大きいのが分かるでしょうか?
こうやって写真で見ると少し小さく感じますが、実物の前に立つと視界全部がその作品という感じです。
「夕焼けと少女」の絵の前のベンチに座って絵を眺めていると、どんどん絵の中に自分が入っていくような感覚になりました。夕やけの時刻に、空気まるごとがピンクやオレンジに色づき、暖色の世界に包まれるあの感覚。風や温度、湿気、においを感じて、切ないような、懐かしいような、暖かいような、淋しいような、そんな夕やけ特有のざわざわした気持ちが蘇ってきました。
こちらは、トリミングせずに紙の端まで見えるように展示をしたコーナー。「いわさきちひろの創作の現場に立ち会うような、臨場感を感じられる」という学芸員の方の言葉通り、新鮮な驚きのある展示でした。
「奈良美智がつくる 茂田井武展 夢の旅人」
そして同時開催のもうひとつの展覧会が、画家の奈良美智さんが監修した「奈良美智がつくる 茂田井武展 夢の旅人」です。奈良さんは名画よりも、どちらかというと絵本のように生活の中で出会ったものから、美術について学んだのだとか。そして美術の勉強を始めるにあたり、子供の頃に読んだ本と改めて出会い直すうちに、ご自身が惹かれる絵本には共通して茂田井武さんの作品に源流をみることに気がついたのだそう。昭和時代に活躍した童画家 茂田井武さんの作品の中から、奈良さんが今も「新しい」と感じる作品を選び、構成されたのがこの企画展です。
展示は、茂田井武さんの人生を追うように、時代順に構成されています。このスペースでは、茂田井武さんが20代の頃、鞄ひとつで欧州放浪の旅に出た時に、パリやジュネーブで絵日記のように書き溜めた画帳「Parisの破片」「続・白い十字架」の中の作品が展示されています。
茂田井武さんの絵のイメージとは違う画風の絵がたくさんあって驚きました。
ここに描かれているのは、茂田井武さんが実際に目にした光景であり、実際に経験した当時のパリの日常だと思うと、胸にぐぐっとくるものがあります。そこに描かれているものがリアルに迫り、流れ続ける日常の一部を切り取った「出来事」や「存在」を感じることができました。それは、「これが写真だったとしても、これほど物語を感じないかもしれない。」と思うほどで、日常の断片の集積の凄みが心に残る作品群でした。
茂田井武さんのことを知らない方でも、『セロひきのゴーシュ』の絵本は見たことがあるかもしれませんね。
ところどころに奈良さんの言葉が置かれています。この言葉たちにもぐっときました。
(絵雑誌「キンダーブック」1957年1月号「おめでとう」
キンダーブックに掲載された、じーっといつまでも見ていたくなる、素朴で可愛らしい絵も見ることができますよ。
高畑勲監督と奈良美智さんからのメッセージ
「中国絵画や水墨画に関して、中国に比べて余白を生かしたものが日本では尊ばれています。その伝統は明らかにちひろさんにも受け継がれていて、できれば我々もアニメーションにも活かせないかなっていつも思っているんですが、実際にはなかなかできないんです。」と高畑監督。今回の展示では、そこに描かれた絵だけでなく、いわさきちひろさんの絵の筆のかすれや絵の具のにじみの重なりを楽しんでほしいとおっしゃっていました。
「子供の頃読んだ絵本のイメージが、自分の頭の中ではすごい大判だったはずなのに、大人になってから見た時に『あれ、こんなに小さかったかな?』と思ったんです。」と奈良さん。高畑監督も「子供の頃には本当に舐め回すように見ていて、よく記憶していたけれど、大人になると残念ながらもう少し簡略的に見てしまう。拡大することによって、こちらの力を補助してくれる。」とおっしゃっていました。おふたりの言葉、本当に納得です。今回の拡大展示で絵本の中に入り込む心地よさを思い出させてもらえたので、これからは絵本そのものも、子供の頃そうだったように入り込んで主人公とともに絵本の世界を体験できたらいいな。
また、奈良さんは茂田井武展について、こう語ってくれました。
「彼(茂田井武)は若い時に旅して、作品集になるとかそんなことは全く想像もつかない状態で描き溜めていたんですよ。旅というのは面白いもので、特に若い時に旅すると、自分の感性を何倍にもしてくれる。(今回展示された作品数は多いけれど)本当はこの何倍もあるんです。ひとりの作家がそれだけの数を描いたという、その数に着目してほしいです。(中略)机の上、家の中で作品はできていたと思うんだけど、そのためには色々な所を旅したり。絵のために旅していたのではなくて、結果としてそうなっていたというのをふと思うと、もしかしたら自分もそうかもしれないなと。遠回りしているけれど、それは有意義な遠回りで、だからこそ表面に見えているものだけじゃなくて奥深いものであるとか、どう描かれているか、色がどう重なっているか、そういうとこまで見えてくるんだな。」
これから信州はどんどん春の気配が濃くなって、とっても穏やかで気持ちのいい季節になります。信州への旅行がてら、「安曇野ちひろ美術館」で絵本の世界に触れてみてくださいね!
「高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」
「奈良美智がつくる 茂田井武展 夢の旅人」
会場:安曇野ちひろ美術館
住所:長野県北安曇郡松川村西原3358-24
会期:2017年3月1日(水)~5月9日(火)
時間:9:00~17:00(4月29日~5月7日は18:00まで)
休館日:3月22日、4月12日、26日
料金:大人800円、高校生以下無料
安曇野ちひろ美術館WEBサイト:http://www.chihiro.jp/azumino/