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グラフィックデザイナー赤羽美和が提案した、スウェーデン病院のアートから考える「ホスピタルとデザイン展」
丸と三角と四角が生む対話。
こんにちは、箱庭の森です。
7月19日より六本木のAXISビル地下1階にあるシンポジアで開催中の「ホスピタルとデザイン展」。
東京を拠点にするグラフィックデザイナー赤羽美和の提案で実現したスウェーデンの病院アートを元に、医療現場におけるデザインやアートの在り方から、これからのデザインの可能性や新しいかたちを模索する企画展です。
週末に行われるトークショーには、アートディレクターの葛西薫氏やminä perhonenデザイナーの皆川明氏などが名前を連ねており、会期7日間と短い期間ですが、いま注目を浴びている展覧会と聞き、早速行ってきました。
今回は赤羽氏のお話も交えて、ご紹介したいと思います。
スウェーデン ホスピタルアートプロジェクトの製作プロセスと完成作品が展示
本展覧会では、スウェーデン セント・ヨーラン病院の緊急病棟改築で実施されたホスピタルアートプロジェクトの製作プロセスや、そこから生まれたパターン作品が展示されています。
“ホスピタルアート”。最近では耳にする機会も増えましたが、スウェーデンでは随分早くから導入されていたんだそうです。その背景には、1937年に導入された「1%ルール」と呼ばれる法律があるのだとか。なんでも、公共建築の新設や改築の際、全体予算の1%をアートにあてることが定められているのだそうです。
セント・ヨーラン病院の緊急病棟改築もその「1%ルール」に則り、ガラスパーティションなどに用いられる「パターン(模様)」を募るコンペが2013年に実施されました。世界各国から寄せられた応募の数は約200点。その中から選出されたのが、日本人であるグラフィックデザイナーの赤羽美和の提案でした。
パターンのデザインを募るコンペでしたが、赤羽氏が提案したのはパターンそのものではなく、パターンという表現の特色であり、魅力。病院関係者と「丸、三角、四角」でドローイングするワークショップを実施し、誕生した形の一部を切りとり、組合わせながらパターンをつくっていくというものでした。
「このワークショップは学生時代、オリジナルパターン制作プロジェクトの一環として実施したことがありました。もともと偶然がもたらす予期せぬ展開に興味を持っていたことも大きいです。ただ、自分のパターン模様としてつくることを考えた時、他の人の手をかけたものがデザインに出てくるってどうなんだろうって?自分の中でうまく消化ができなくて、その時はワークショップの企画に留まりました。このセント・ヨーラン病院のプロジェクトでは、パターン模様を贈る場と人が決まっていて、場にアイディンティティーをもたらすようなオリジナルのものをつくるということがあったので、今だったらできるかもしれないと思いました。
また、留学中、テキスタイルパターンを学ぶうちに、自分にとってのパターンデザインが、テキスタイルのリピートの意味合いや柄の中だけじゃなくて、つくるときの行程プロセスとか、その作品を見てくれた人に想いが繋がって、その人がまた新しい何かを生み出すとか、そういうところに興味がひろがっていたんです。なので、柄をつくる工程から何かできないかなと考えていたし、柄を表現するアウトプットも紙や布にこだわらずに、空間の中にあるような、そういうことがやってみたいと思っていたので、このコンペではやってみたいことができるのではと思いました。」(赤羽氏)
コンペでは、制作方法そのものの提案も注目を集めたのだそうです。
実際に、本展覧会ではその時のワークショップで完成した制作物が展示されていましたが、ひとりでは作れない、対話が織りなす作品がとても素敵でした。
当時使用したプログラムも展示されていました。
「はじめは二人組になり、少し小さな紙にドローイングし、その後グループになって大きな紙にドローイングします。大人になるほど先入観や見栄などに邪魔されて、どうしてもキレイに描こうとしてしまうところがあるので、『目をつぶって描く』『10秒で描く』などルールをつくってみると、みなさんようやく緊張がほどけてきます。」(赤羽氏)
こちらが二人組で作られた作品。
そしてこちらがグループでの作品。
ドローイングの時は、基本的には一切会話をせず、紙の上で「丸、三角、四角」を用いて対話をしていくのだそうです。これは、「言葉に頼らないコミュニケーション」を一貫して探ってきた赤羽氏だからこその提案です。
「丸と三角と四角を自分の中のボキャブラリに置き換えて、テニスのラリーやジャズセッションのように対話をしてほしいなと思っています。」(赤羽氏)
そうして、ワークショップでできた図案から、形を切りとり、赤羽氏がデザインして出来上がった作品がこちらです。
「自分の視点で写真を撮りながら、ここ面白いな~とか、重なったときどうなるかな~とか、場面で見た時にベタ面と細かな面があったらいいな~とかを考えながら切りとりデザインしていきます。受付や待合室に飾るパターンの色については、気持ち的に明るくなるようにしています。色の重なりもあって、見ていて飽きないものになるようにしました。」(赤羽氏)
今年の4月には、赤羽氏のこの作品制作の趣旨に賛同した京都府福知山市にある京都ルネス病院でもワークショップが開催されました。
そしてそのワークショップのみなさんの作品を元に、赤羽氏が仕上げたデザインを版とし、プリントごとに柄を90度、180度と回転させることで多数の柄を描く方法で制作した陶版作品もまた素晴らしかったです。
ぜひ間近で見ていただきたい作品です。
一方で、展示会場のガラスに描かれていたパターンは白一色。こちらは診察室に使われているパターンと同じものだそうです。
「診察室で使われるものは、さりげなく、そこにパターンがある感じが良いと思って白色を提案しました。それに建築家の方も賛同してくれて、白単色と濃度違いでいきましょうということになりました。あるグループのパターンをベースに、他のグループから切り取ったパターンをプラスしてつくっています。」(赤羽氏)
あえて刷ったような、ハンコのようなニュアンスが残っているのが良いですよね。さりげないけど、オリジナルパターンなので個性もあって、それだけで空間が爽やかで、そして華やかになっていました。
会期中、新しいパターンづくりに参加しよう
今回展示会場では、丸と三角と四角のシールが設置されており、自由に貼ることが出来ます。(展示作品には貼っちゃだめよ。)
展覧会会期中に、日々変化しながら、新しいパターンが生まれるのを、参加したり、眺めたりしてくださいね。
病院の中にアートやデザインが入り込むことの効果を、今まで気づいてない人、当たり前になっている人にあらためて気づいてもらえるきっかけになるというか、そういう場にこの展覧会がなれたらと話す赤羽氏。今後についてもこのように話してくれました。
「人が集まる場に、こうしたワークショップを通してみんなで一緒にストーリーを共有しながら、パターン模様としてその場のオリジナルのものをつくることは続けてみたいと思っています。ぜひお気軽にお声がけください。」(赤羽氏)
ホスピタルアートについてはもちろんですが、柄というものの可能性、そしてものづくりの考え方までが参考になる展覧会だと思います。
週末は豪華なトークイベントも開催中ですので、ぜひ足を運んでみてください。期間が短いので急ぎましょう!
ホスピタルとデザイン展
会 期 : 2017 年 7 月 19 日(水)ー 25 日(火)11:00 ~ 20:00 会期中無休
※最終日 7 月 25 日(水)は 18:00 まで
会 場 : シンポジア(東京都港区六本木 5-17-1 AXIS ビル地下 1F)
入 場 : 無料(トークセッションは有料)
https://hwithd.tumblr.com/
トークセッション | Talk
本展開期中の週末(7月22日、23日)、「医療に対してクリエイティブな発想ができること」をテーマに、医療関係者、デザイナー、アーティストらによるトークセッションを開催します。
詳細はこちらから。
https://hwithd.tumblr.com/talk
赤羽美和
|サーフェイスパターン / グラフィックデザイン・イラストレーション
武蔵野美術大学卒業後、サントリー宣伝制作部、株式会社サン・アドにて多数の広告制作に携わった後、テキスタイルパターンの永続的なストーリー性に魅せられ、スウェーデン国立芸術工芸デザイン大学に留学、テキスタイル学科修士課程修了。
現在はサーフェイスパターンデザインを主なフィールドに、デザイナー・イラストレーターとして活動。
また「対話」がもたらす物語や予期せぬこと、あらかじめ用意した枠に納まりきらない状況に興味を持ち、それらをテーマにしたプロジェクトやデザインを展開。
切り絵やコラージュなどから生まれる遊びの延長のようなスケッチ手法は偶然性を誘い込み、グラフィックとテキスタイルの両軸からもたらされる多彩なアウトプットは、紙やファブリック、空間に至るまで多岐に渡る。
URL:http://miwaakabane.com/