器継ぎ「亜沙」

金継ぎを器継ぎと呼ぶその理由は。

こんにちは!MOSAICKAFEです。

少し前になりますが、江戸川橋のカフェギャラリー『酢飯屋』さんで開催されていた、器継ぎ「亜沙」さんによる『継いだうつわと金継ぎ相談室』展にお邪魔してきました。

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『酢飯屋』さんは『suido cafe』『水道ギャラリー』といくつかの名を持つ、お寿司屋さんとカフェとギャラリーが共存する不思議な空間。期間中は器継ぎ職人の亜沙さんが常に在廊し、割れたり欠けたりしてしまった器を持ち込んできたお客さんから1対1で継ぎの相談を受けていました。亜沙さんは工房を公開しておらず、お客さんとのやりとりは通常メールと郵送のみなので、直接相談ができる貴重な機会です。

器継ぎ「亜沙」

「金継ぎ」(きんつぎ)とは、割れたり欠けたりした陶磁器を漆で接着して、その継ぎ目を金、銀、真鍮、錫など金属の粉で装飾する日本古来の修復方法。金粉を施すのは蒔絵(まきえ)の技法を使っているため道具も共通していて、単なるモノの修復ではなく芸術の域としても捉えられています。

そのため、金継ぎは高額なイメージがあり、なかなか普段遣いの器をプロにお願いすることはためらう人も多いのではないかと思います。実際に金(純金)を使うと数万から数十万円という域に達しますが、銀や真鍮、錫を使ったり、漆の色をそのまま活かした仕上げなら割れ方の度合いにもよりますが数千円〜とかなり金額は抑えられます。それで亜沙さんは、金継ぎを身近に感じてもらうため敢えて「金継ぎ」という言葉を使わず「器継ぎ」という造語を作り使っているのだそうです。

カフェギャラリーなら、待ち時間も楽しい。

亜沙さんが一人ひとり丁寧に対応している間、ギャラリーの作品を眺めたり、ほろ苦くさわやかな香りのレモンどら焼きを楽しみました。あまりにさり気なくて途中まで気付きませんでしたが、カップにも継いだあとが見られました。

器継ぎ「亜沙」

ギャラリーは説明用に実際に継がれた器が見本として並べられ、金継ぎに使う道具も展示されていました。

器継ぎ「亜沙」

器継ぎ「亜沙」

器継ぎ「亜沙」

道具はほんの一部。筆や金粉は蒔絵用のもの。レトロなルーペや道具箱など、道具ひとつひとつに拘りを感じました。純金の丸粉は1gで1万円近くするため扱いも慎重になります。

大切なものこそ、どんどん使って欲しい。

うっかり割ってしまった器。大好きな作家さんの作品だったり、ペアカップの片割れだったり、大切な人からお祝いで頂いたものだったりと、捨てられず、かといって使うことも出来ないと何年も持っている方は案外多いそう。

「同じ器を二度三度継ぐこともあります。使っているうちに別の場所が欠けてしまうということは、私が継いだ器を使ってくれているという証拠なので嬉しいです。継いだ器がどう育っているか見ることも出来ますし。器は飾っておくのもいいですが、大切なものこそどんどん使って欲しいです」

器継ぎ「亜沙」

写真の様に原型が分からない位割れてしまった器も継ぐことが出来るので諦めないで亜沙さんに一度相談してみてください。全ての破片が揃っていなくても、砥の粉と漆を混ぜたパテで埋めることが可能ですが、損失箇所が多ければ多いほど修復がしづらくなり時間もかかるので、できるだけ破片はとっておくようにしましょう。

店内を見渡すと、亜沙さんの作品がたくさんありました。敢えて黒地にべんがら漆の赤色を差し色として使ったり、修復した箇所が目立たないように地色に馴染むものを使ったりと亜沙さんが継いだ器は見れば見るほど味わいを感じます。

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器継ぎ「亜沙」

器継ぎの未来。

個人のお客様さんからの依頼の他、いくつかの飲食店と繋がりお店で使う器を継いでいる亜沙さん。半年以上先まで依頼が詰まっているそうですが、依頼された仕事をこなしているだけではありません。

作家さんとの交流も多く、陶芸家橋本忍さんの個展で亜沙さんが継いだ作品を展示販売したり、釜傷に新たな景色を作り出すなど精力的に器継ぎの新たな展開を模索しています

器継ぎ「亜沙」

こちらは、中園晋作さんの器。焼成の際に出来てしまった「ぶく」という凹凸を錫や真鍮で継いだもの。水玉みたいでお花を生けてもかわいいですね。

「この仕事を始めて思う事が、シミや傷がつき使い込んだ木のテーブルがなんとも言えない味わいになるように、器もそうなればいいなと思っていて、それって人と同じじゃないかなという印象がどんどん強くなっています。年を重ねていくと、いろんな傷を抱えて生きていく。その傷を無かったことにするのではなく、それがその人の魅力になるのではないかと。小さい頃、背丈を測るのにつけた柱の傷のように、振り返ってみればその傷が愛おしくなればいいなと」

ヨーロッパなど海外でも器の修復は昔からありましたが、その傷を出来るだけ目立たないように仕上げることが当たり前の概念でした。しかし、ここ数年「傷」を美しいと感じる日本の金継ぎの考え方が注目されていて「Kintsugi」という言葉は海外でも浸透しつつあるのだそう。現在、様々なご縁から、ロンドンのギャラリーにも亜沙さんの作品が展示されています。今後の亜沙さんが海外でどのように展開していくか楽しみですね!

亜沙さんの作品はfacebookなどでも紹介されていますが、実際に見てみたい方は酢飯屋さんへどうぞ。こちらで使われている器の多くに亜沙さんの継ぎが施されています。