生平桜子

箱庭編集部のみさきです。
先日、中目黒・デッサンで開催している画家・生平 桜子(おいだいら さくらこ)さんの個展『ÉLÉGANCE / POSE』に行ってきました。今回は展示の様子や、生平さんの作品作りについてのお話をご紹介します。

生平さんは桑沢デザイン研究所を卒業し、約5年前から画家として活動しています。毎年開催している個展に向けての作品づくりを主としていて、最近はその傍らで、音楽家のCD装丁や料理家の商品パッケージなどを手がけ、この夏からはハンドシルクスクリーンを用いてイベントへの参加もしてます。

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(生平さんがラベルを手がけた、料理家・武山ふみえさんのグラノーラ。 ※写真はプロム・ナドゥHPより)

生平桜子
(2018年7月に開催された『こどもとおとな展』のハンドシルクスクリーンイベントの写真)

生平さんの作品はモチーフを主に線画で表現しており、作品を眺めていると、言葉ではうまく表現できない絶妙な距離感や佇まいに心地よさを感じます。

“ÉLÉGANCE”をメインテーマとして掲げた個展を中目黒、神奈川・葉山、福岡で開催

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今回“ÉLÉGANCE”を個展のメインテーマとして掲げ、中目黒のデッサンを皮切りに、神奈川県・葉山、福岡県を巡回する生平さん。メインテーマは共通して“ÉLÉGANCE”ですが、各会場ごとにテーマや展示作品を変えるそうで、会場ごとの違いも注目したいポイントの一つです。
2018年9月21日(金)~10月8日(月)の期間中開催している中目黒・デッサンでの個展『ÉLÉGANCE / POSE』では、人物がメインのモチーフとして掲げられており、DMやポスターには手が描かれています。

生平さん「日々、人物や物、瞬間的に惹かれた対象を持ち歩いているノートに描き取っています。
数年前までは、人物は私にとって最も遠く、難しいと感じていたモチーフでしたが、ここ数年で人に目線が動くようになってきました。毎日を過ごしていく中で、自分以外の人々はどのように強く存在しているんだろう、という気持ちが湧いてきたことがそうさせたのかもしれません。手は人の存在そのものを肯定する、美しいモチーフの一つだと思っています。」

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会場には、さまざまなポーズの人の手や、人物の仕草、目の表情を描いた作品が並んでいます。
絵にはキャプションがなく、絵の捉え方や楽しみ方は観る人に委ねられており、生平さんの作品を観ていて心地よさを感じるのは、作品にそういった余白があるからなのかもしれないなぁと思いました。私は会場でお気に入りの手のポーズはどれだろう?と探してみたり、この仕草はどんな時のものなんだろう?と想像してみたりしながら作品を楽しみました。

生平さんは普段作品をつくる際、日々の暮らしの中で瞬間的に惹かれた人や物を描いたスケッチの中から作品にするものを選別します。作品づくりに取りかかる時は、ご自身がその時感じ、考えていることをあらわす言葉を探すことで、目指したいものを少しでもはっきりとさせるようにしているそう。

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描かれたやわらかくはっきりした線は、ところどころこすれており、生平さんが描いた形跡が残っています。

生平さん「画集や図録などで先人の画家のスケッチを見ていると、キャンバスに描かれた作品同様に素晴らしいと感じます。素朴な画材の痕跡や筆跡に魅力を感じているのだと思います。
現在の自分の作品は、自分が描く線の操作しきれない部分も許すことで楽しみ、面白がながら生まれる質感、完成にいたるまでの形跡も含めてのものになっています。これまでは気に入らなければはじめから描き直す、ということが多かったのですが、近頃は気に入らないところも受け入れてみることを覚えはじめたように思います。
作品づくりにおいて、私は下書きや本書きという概念があまりなく、瞬間的にとらえたものをなるべく鮮度の良い状態で紙にのせたいと思っているので、柔らかくのびが良い線は今の自分にあっていると思っています。」

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本展では、生平さんが針金で作ったフレームで作品が展示されています。一つ一つ形が異なるフレームは、まるでそれらも作品の一部のようでとっても素敵なんです!今回お手製の針金フレームを使用したのには、こんな想いが込められていました。

生平さん「針金のフレームは、あくまで額が決まるまでの一時的な絵の場所なんです。線画の作品に合うようにと、思いがけず発明したこの針金のフレームですが、この状態のままではもちろん作品の劣化は進みます。展示では、会場に合わせたこの展示方法を楽しんでいただきたいのですが、絵を買ってくださった方には、持ち帰った後、ご自身で額を選び、設え、飾るという流れを一度体験していただきたいです。物事の動きが早く、選択することに追われているような日々に、こういった時間を確保してみるのも良いのでは、と思っています。」

どういう場所にも気付きや学びがある。デザインを学ぶことで得た、自分の表現。

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桑沢デザイン研究所では、デザインについて学んでいた生平さん。画家を目指していたのになぜデザインを?と思い理由を尋ねてみると、当時桑沢デザイン研究所の所長を務めていたインテリアデザイナー・内田繁さんのお話を聴いて静かに感動したことが理由のようです。

生平さん「どんな場所にいても、何か気付きや学びがあると思っていて、その得られた経験を通して自分の表現が豊かになればいいと思っていました。デザインを学んだことでデザイン感覚が以前よりも確実に身についたと思いますし、もしも美大に通っていたら今とは違う表現をしていたと思うので、場所が大事というよりは、自分が学ぼうとするこころの方が大事なように思います。」

大切なのは、今表現したいものを正直に表してみること。目指しているのは“品を感じられる画面”。

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現在は少ない線でモチーフを描いている生平さんですが、初期の作品では鉛筆などの細かい線で細密に近い風景画を描いていたそう。今の作風・画材には、個展への制作の過程で得た気づきをもとに試行錯誤した結果辿り着いたようです。

生平さん「絵を描く時は、過去や未来にとらわれず、今表現したいものを正直に表わしてみることが大切だと思っています。
今思えば、これまでの作品は作風やアプローチなど、表面上は違えど心がけていることや意識していることは変わっていなくて、“品を感じられる画面”や“素敵な絵”を目指しているように思います。決して主張は強くないけれど、静かな説得力があり、空気に溶け込んでいるような佇まいのあるものは、絵に限らず素敵です。」

今回の個展のメインテーマである“ÉLÉGANCE”は、フランス語で「上品な美しさ」や「気品」という意味で、まさに生平さんがここ数年間目指してきた“品を感じられる作品”を象徴する単語なんです!
目指している絵を“品を感じられる画面”と言葉として確かなものにできたのは最近のことで、そんなタイミングで個展を開催することができたのは、ご自身にとってとても大きなことだったようです。

家での時間を豊かにするためのものの一つとして、自分の描くものが選ばれたらうれしい。

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私たちは日々の暮らしの中で、家具や洋服、食べるものなど、色んなものを色んな選択肢の中から選び、取り入れています。お気に入りのものに囲まれていると、なんとなく自分らしくいられる気がするし、豊かな気持ちになりますよね。
生平さんにとって絵は、そんな風に豊かさを感じられるものであり、絵を描くことは無心になって自分と向き合い、自分を保つための行為なんだとか。

生平さん「絵は読書や映画のように、うまく言葉にできないけれど心の余白を作るものとして機能すると思っています。むしろ、言葉にしきれないところが良いのかもしれません。
多くの人にとって絵は、第一優先的には取り入れられないものかもしれませんが、暮らしの中での絵の取り入れ方が分からないという方にも、自分の家の中で過ごす時間を豊かにするためのものの一つとして、たとえば自分の絵を選んでいただけたら、と思いながら描いているところもあるのかもしれません。描くことは人のためではなく自分のための行為ですが、生み出したものに魅力を感じていただけたら、ぜひ勇気を出して暮らしに取り入れていただけるととてもうれしいです。きっと素敵な体験になると信じたい。」

現在、生平さんは来年春に開催する葉山での個展に向けて、作品づくりに取り掛かっている最中です。
中目黒・デッサンで開催中の個展『ÉLÉGANCE / POSE』は10月8日(月)まで。本展ならではの表現を、ぜひ実際に足を運んでお楽しみください!会場では原画の展示販売に加えて、これまでの作品をまとめた簡易図録や個展ごとに制作している展示ポスター、そして生平さんがラベルを手がけた武山ふみえさんの美味しいグラノーラの販売などもありますよ。

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また、10月8日(月・祝)、9日(火)、16日(火)の三日間、代々木八幡と横須賀で開催される『こどもとおとな展』に、ハンドシルクスクリーンで参加するそう。こちらもぜひチェックしてみてくださいね。

    『ÉLÉGANCE / POSE』

    会期:2018年9月21日(金)~10月8日(月)
    定休日:火曜日
    営業時間:12:00~20:00
    会場:デッサン | dessin
    東京都目黒区上目黒2-11-1
    URL:https://dessinweb.jp/

    ■会期中開催イベント「DRAWING IN DESSIN」
    生平さんが参加者の方の肖像をその場でドローイングします。基本的に首元から上のみの正面(似顔絵)ではなくその方の佇まいをとらえるそう。
    受付人数に限りあり、先着順の受付となります。イベントの詳細やお問い合わせは 中目黒 dessinまで。

    イベント開催日時:10月6日(土)、7日(日)13:00~

    ENFANTS ET ADULTES AUTOMNE 2018 『こどもとおとな』展

    日程:2018年10月8日(月・祝)、 9日(火)
    開催時間:11:00〜 19:00
    会場:代々木八幡 cahier
    東京都渋谷区元代々木町2−12 GSハイム第3代々木公園105号室

    日程:2018年10月16日(火)
    開催時間:10:30 – 17:00
    会場:横須賀中央 GARAGE
    神奈川県横須賀市上町2-1

    イベントの詳細はこちらをご覧ください