六本木クロッシング2019展:つないでみる
こんにちは、箱庭編集部のmoです。
また興味深い展示が始まりました!森美術館が3年に1度、日本の現代アートシーンを総覧する定点観測的な展覧会として2004年以来開催してきたシリーズ展「六本木クロッシング」です。

現代の「分断」に向き合うためのヒントとなる展覧会

第6回目の開催となる今回のサブタイトルは「つないでみる」。
今日、インターネットの普及やテクノロジーの進化でますます自由に、便利になっている私たちの生活ですが、その一方で同調や共感を助長する問題や経済格差が引き起こす貧困や差別など新たな「分断」にも直面しています。本展では、その「分断」に向き合うヒントとなることを期待し、対極・異質なものを融合することや、本来備わっているつながりを可視化することに試みています。

また今回、シリーズ初の試みとして森美術館の3人のキュレーターで共同キュレーションを行っているそう。個性豊かな1970〜80年代生まれを中心とした日本のアーティスト25組が参加した見応えたっぷりの展覧会となっていますので、レポートでご紹介したいと思います。

日本の「いま」を様々な表現で映し出す

六本木クロッシング2019展:つないでみる
まず本展の象徴的な作品をご紹介します。会場に入る前から目に飛び込んでくる、ピンク色の巨大な猫。飯川雄太氏の《デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん―》は、どんな視点から見ても全体像を捉えることができない作品です。

六本木クロッシング2019展:つないでみる
人と比べるとこんなに大きいんです!撮影してもどこかが見切れてしまい、全体の本当の姿を見ることができず、なんだかもどかしい気持ちになります…。
情報過多な現代社会で多くのことを知っている気になる私たちですが、フェイクニュースに象徴されるように、見えているようで物事の全体像が見えにくくなっている現代の問題をポップなピンクの猫で批評的に表現しています。

このように、日本の「いま」をアート目線から感じることで、見る側に気づきを促し、さまざまな可能性を含む展覧会となっています。

本展を紐解く3つのキーワード

「つながり」がテーマの本展ですが、鑑賞者の捉え方や感じ方で、作品同士に有機的なつながりを見出すことを目指しているため、セクションを設けていないそう。その代わりに約60点の作品を読み解くための3つのキーワードが存在しています。

テクノロジーをつかってみる

まず1つ目のキーワードは、「テクノロジーをつかってみる」。専門的な知識や経験が必要とされる最新のテクノロジーですが、アーティストたちは技術や理論を独自の方法で使い、実験的な作品や表現を創り出しています。
六本木クロッシング2019展:つないでみる
こちらは、森永邦彦氏率いるファッションブランド、アンリアレイジの新作インスタレーション《A LIVE UN LIVE》(2019)。京都大学の川原研究室とコラボレーションによるもので、マネキンが着たドレスには、生命のように形状が変化する低沸点液体を用いたパウチモーターと、光の反射の角度に伴い色彩が変化する分光素材が使用されているそう。近くでよく見ていると、白い花がしぼんだり花開いたりしています!

六本木クロッシング2019展:つないでみる
また白いドレスをスマホでフラッシュ撮影すると、こんな風に色の変化を楽しめます!不思議で楽しくて、思わず何度も撮影してしまいました(笑)。今はこんなテクノロジーがあるのか、と単純な驚きがありました。

このほか、風景画像をアルゴリズム変換した多次元空間の映像作品や、AIロボットを使用した作品など、これまでに触れたことのない現代の最新テクノロジーを身近で体感できる作品が数多く出品されています。

社会を観察してみる

2つ目のキーワードは「社会を観察してみる」。このキーワードは、世の中や身の回りで起こっていることを社会学的な視点から観察することで、そこに潜む事実や新たな発見を導き出すアーティストの視線に注目したものです。
六本木クロッシング2019展:つないでみる
竹川宣彰氏の《猫オリンピック:開会式》は、東京オリンピックに沸く今の日本を、無数の猫のフィギュアに置き換えて表現したインスタレーションです。一見可愛らしい作品ですが、今の日本を違う視点から考えるきっかけを与えてくれます。

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竹川氏の愛猫・トラジロウを交通事故で失ったことを契機につくられた本作。2020年東京オリンピックへの熱狂の裏側で隠された政治問題や、忘れ去られる小さな存在にも目を向けなければいけない現状を、無数の猫たちで訴えかけます。

六本木クロッシング2019展:つないでみる
競技場のインスタレーションとともに展示されているポスターやプラカードも風刺やメッセージが込められているのでぜひじっくり見て感じてください!

ふたつをつないでみる

3つ目のキーワードは「ふたつをつないでみる」です。
思いもよらないものをつなげてみることで、新しい視点を提示し、これまでにない価値をつくり出すアーティストたちの作品が展示されています。
六本木クロッシング2019展:つないでみる
青野文昭氏の作品、《なおす・代用・合体・侵入・連置「震災後東松島で収集した車の復元」2013》。「ふたつをつないでみる」のキーワードそのもののように、古くなって使えなくなった車や家具など一見異質なものを組み合わせて、新しい生命力を秘めるような彫刻作品を創り出しています。

六本木クロッシング2019展:つないでみる
ものを直すという行為で、本来のものとはまったく別の新しい物質、新しい価値を生み出せるという可能性を伝えている作品ではないでしょうか。

六本木クロッシング2019展:つないでみる
不法投棄されたゴミなどを組み合わせたオブジェを撮影する万代洋輔氏の「蓋の穴」シリーズ。月に1〜2度、「不法投棄の現場を探し、撮影場所を決め、廃棄物を組み立て、明るくなってきたら撮影する」という決まった手順で作品を繰り返すことでつくられてきた写真作品です。
ゴミなどから作られたオブジェは神々しくもあり、俗と聖が混在する不思議で魅力的な作品となっています。
本展ではこのほかにも、「つないでみる」ことで生まれる新たな価値をさまざまな表現で感じることが出来ます。

思いもよらないアプローチから、新しい気付きに出会える

3つのキーワードをご紹介しましたが、展示全体で必ずしもキーワードのいずれかに属するというわけではありません。あくまで作品を紐解き、新たな「つながり」を通して「分断」と向き合うためのヒントなのです。
六本木クロッシング2019展:つないでみる
アーティストユニット「目」による新作《景体》は、海の景色のように見えるが、近づくとひとつの黒い塊のようにも感じられる、認識を両立させた不思議な作品です。「私たちは、海の景色そのものに近づくことは出来ない。海に近づけばそれは波になり、さらに近づくと水になる」というコンセプトで、見る者の知覚や過去の経験を揺さぶります。

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市松模様が目を引くこちらのインスタレーション作品は、津田道子氏の《王様は他人を記録する(Although King Logs Others)》。ルイス・キャロルの児童小説『鏡の国のアリス』をテーマにしており、物語の中で登場するチェス盤を模した作品となっています。
津田氏は映像の特性を活かした作品を多く発表していることから、鏡やカメラを使用し鏡の国の不条理な世界を演出しています。

全体を通して、正直難しいなぁと感じる内容も少なくはないですが、今まで思いもよらなかった形や現象を目にし、体感することで、新たな気付きや発見に出会えたことは確かです。

六本木クロッシング2019展:つないでみる
このほか、美術館だからこそ見られる作品にも注目です!
川久保ジョイ氏の作品《アステリオンの迷宮―アステリオンは電気雄牛の夢をみるか?》(2019)は、なんと開館以来塗り重ねられてきた森美術館の壁の塗料を削って描かれた作品なんです。

六本木クロッシング2019展:つないでみる
壁を削り出すことで色や模様を創り出し、アメリカ最大の新興企業向け株式市場、ナスダック指標の今後20年の予測グラフを描いたそう。メッセージ性ももちろん大事ですが、手法や作品そのもののダイナミックさに驚く作品が多く、楽しめました。

六本木クロッシング2019展:つないでみる
1970〜80年代生まれの25組のアーティストが現代の日本を表現した本展。わたしも同世代なので、とても興味深い内容でした。同じ時代を生きてきた人々が何を感じ、何を伝えたいのか。楽しくて美しいものだけではないリアリティのある日本の現状を、様々な視点で感じられる展示だと思います。
今回ご紹介した以外にも、新たな発見や驚きを感じる作品がたくさんありました。気になった方は是非足を運んで、現代のアートシーンに触れてみてくださいね。

    六本木クロッシング2019展:つないでみる

    会期:2019年2月9日(土)~5月26日(日)
    会場:森美術館
    住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
    TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
    開館時間:10:00~22:00(火〜17:00) ※入館は閉館の30分前まで
    ※ただし4月30日(火)は22:00まで
    ※「六本木アートナイト2019」開催に伴い、5月25日(土)は翌朝6:00まで開館延長
    料金:一般 1800円 / 学生(高校・大学生) 1200円 / 子供(4歳―中学生) 600円 / シニア(65歳以上) 1500円
    休館日:会期中無休
    森美術館ウェブサイト www.mori.art.museum