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箱庭編集部のみさきです。
今日ご紹介するのは、原宿のBA-TSU ART GALLERYで開催中の企画展『BONE MUSIC展 ~僕らはレコードを聴きたかった~』。2014年にロンドンでスタートした本展は、イタリア・ロシア・イスラエルを経て、東京にてアジア初の開催を迎えました。

冷戦時代、自由に音楽を楽しめなかった音楽ファンが秘密裏に作ったレコード

展示のご紹介に入る前に、みなさんは「ボーン・ミュージック」と呼ばれる禁じられた音楽をご存知ですか?

ボーン・ミュージック誕生の歴史は、冷戦時代まで遡ります。当時、現在のロシアにあたるソ連では、音楽を含むあらゆるカルチャーが国家によって検閲され、国民はそれらを自由に楽しむことができませんでした。アメリカのジャズ、ロック、ポップをはじめ、一部のロシア音楽でさえ、作曲者が同性愛者やアメリカに住んでいたという理由だけで禁止されていたのです。

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見つかれば刑務所行きという環境の中、リスクを伴ってでも好きな音楽を聴きたかった熱狂的な音楽ファンが手にしたのは、病院で処分されるはずであったレントゲン写真。
なんと彼らは安価で購入したレントゲン写真を丸くカットし、タバコで真ん中に穴をあけ、そして溝を刻むことで「ボーン・レコード」を作り、秘密裏に禁じられた音楽を楽しんでいたのです。

“私たちにとって音楽がいかに大切なものであるか”を伝える展示

(左からポール・ハートフィールド氏、スティーヴン・コーツ氏)
(左からポール・ハートフィールド氏、スティーヴン・コーツ氏)
本展のキュレーター、作曲家/音楽プロデューサーのスティーヴン・コーツ氏と写真家のポール・ハートフィールド氏が、ボーン・ミュージックの研究を始めたのは2013年。発端は、スティーヴン氏がロシアのサンクトペテルブルクの蚤の市で出会った一枚のボーン・レコードでした。

(サンクトペテルブルクの蚤の市で出会ったボーン・レコード)
(サンクトペテルブルクの蚤の市で出会ったボーン・レコード)
その見た目に衝撃を受け、ロンドンに持ち帰ってレコード盤をかけた時、スティーヴン氏はこのレコードを誰が、何故、どのようにして作ったのか研究しなければいけないと思ったそう。

「当時ボーン・レコードを作り、聴いていた人々にとって、音楽は非常に貴重な存在でした。現在私たちは音楽を自由に簡単に聴くことができますが、本展をきっかけに、好きな音楽を自由に聴くことができなかった時代があったことを知り、私たちにとって音楽がいかに大切であるか、覚えておいていただきたいです。」とスティーヴン氏は語ります。

BONE MUSIC展は単に歴史上の事実を並べた展示ではない、今を生きる私たちにメッセージを伝える物語なのです。

スティーヴン氏が集めた貴重なコレクションの展示も!

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会場内には、スティーヴン氏がこれまでに集めたボーン・レコードの一部や録音のためのカッティングマシーン、ドキュメンタリー映像などが多数展示されています。
ここからは、その一部をご紹介します。

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1階のフロアで特にご注目いただきたいのは、やはり「ボーン・レコード」。ずらっと並ぶ骨の柄が描かれたボーン・レコードたちは、どこかうっとりするような美しさを放っていて、まるでアート作品のよう。

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制限された環境の中、なんとか見つけた音楽を聴く方法であるボーン・レコードを、長い年月を経て私たちが美しいアート作品としても捉えているって、なんだかおもしろいですよね。

(当時のレコードの製造方法)
(当時のレコードの製造方法)

(ダンスを楽しむ人々を揶揄した雑誌の1ページ)
(ダンスを楽しむ人々を揶揄した雑誌の1ページ)

1階には、他にもボーン・レコード誕生までのレコードの製造方法や、ソ連が若者やアメリカのカルチャーが好きな人たちを皮肉るプロパガンダを行っていたという背景を示す資料が展示されています。
これらを観ていると、私たちが今いる時代が便利で自由な環境であること、そしてそれに気付かずに日々過ごしていることに気付かされます。

bonemusic そして2階にあがってまず目に入るのは、こちら。数秒ごとに絵柄が変わるボーン・レコードを投影した巨大なオブジェは、迫力満点です。

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(劣化したボーン・レコードを写したパネル)
(劣化したボーン・レコードを写したパネル)
禁じられた音楽が刻まれたボーン・レコードには、抑圧された時代を生きた人々の痛みや苦しみ、そして音楽に対する情熱も刻まれているかのように感じ取れます。だからこそ、“聴く”という本来の役割を終え劣化したボーン・レコードはより一層深い魅力を帯び、今も私たちをひきつけるのかもしれません。

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2階の角には、当時ボーン・レコードをこっそり製作していた場所を再現したスペースもあり、実際に使用されていた録音機も設置されています。ボーン・レコードを製作するための録音機は当然無かったので、人々は良い音質のレコードが作れるよう、部品や録音方法をかなり工夫していたそうです。

(違法なレコードであることを隠すために偽装していたラベル)
(違法なレコードであることを隠すために偽装していたラベル)

bonemusic本展で私が特に印象的だったのは、ボーン・ミュージックに関する証言映像でした。当時について「輝かしい日々だった」「パンとミルクを買うお金を貯めて買っていた」と無邪気な表情を浮かべ話す人々の姿を観ると、当時の彼らにとってボーン・ミュージックの存在がどれだけ大切で、生きる希望であったかが分かります。

BONE MUSIC展の会期は、今週末5月12日(日)まで。気になった方はぜひ足を運んでみてくださいね。

    BONE MUSIC展 ~僕らはレコードを聴きたかった~

    会期:2019年4月27日(土)~2019年5月12日(日)※会期中無休
    開館時間:11:00~20:00 ※入館は30分前
    会場:BA-TSU ART GALLERY
    東京都渋谷区神宮前5-11-5
    入場料:当日券1,400円(税込)
    URL:http://www.bonemusic.jp