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一人の編集者にスポットを当てた展覧会「ある編集者のユートピア 小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校」レポート
こんにちは。シオリです。
今日ご紹介するのは、画家やアーティストではなく、一人の“編集者”にスポットを当てた展覧会です。
ウィリアム・モリスの思想に共感した編集者・小野二郎とその周辺の活動を紹介。
世田谷美術館で6月23日(日)まで開催中の展覧会「ある編集者のユートピア 小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校」。小野二郎氏は、編集者であり、ウィリアム・モリスの研究家であった人物。弘文堂の編集者を経て、1960年には仲間と晶文社を設立、平野甲賀の装幀による本が出版社の顔となります。一方で、明治大学教授として英文学を講じる教育者でもありました。晩年には飛騨高山の高山建築学校でモリスの思想を説き、そこに集った石山修武ら建築家に大きな影響を与えました。
そんな小野二郎氏が、生涯を通して追い求めたテーマであるユートピアの思想を、W・モリス、晶文社、高山建築学校の3部構成から探る内容となっている本展。編集に携わっている方も、そうでない方にも見応えがある内容となっているんです!
会場の使い方にも注目!
展示は、平野甲賀氏による題字と和田誠氏による似顔絵からスタート。
この場所に題字があることに違和感を覚えた方はいますか?実は、こちらの世田谷美術館の展示室は、従来ならここは展示が終わりを迎える場所。そう、本展では導線がいつもと逆からスタートしているんです!
何度か世田谷美術館に訪れたことがある方は、そんな敢えての違和感も楽しんでみてくださいね。
さて、展示のご紹介に戻りましょう。こちらは、小野家にあった書棚。とても素敵なフォルムでじっくりと見入ってしまいましたが、このエリアには小野二郎氏の思想的源流となったものが展示されています。
こちらは、小野二郎氏が魅了された、ウィリアム・モリスが出版した美しい木口木版の本。
小野家にあったモリスの壁紙も展示されています。
「アーツ・アンド・クラフツ運動」としても知られ、「モダンデザインの父」とも呼ばれたモリスが、理想の書物を求めて様々な趣向と技術を凝らして作り上げた作品に触れられる貴重な機会にもなっていました。
弘文堂から晶文社の立ち上げへ。小野二郎氏の編集活動。
小野二郎氏は東京大学を卒業後、弘文堂に入社し、大岡信や澁澤龍彦などの『現代芸術論叢書』の編集を担当します。その後、文芸からサブカルチャーまで、様々な分野の出版物を刊行する晶文社を仲間とともに設立。晶文社が出版した本がずらっと並ぶ展示は圧巻です!
出版社の顔となった平野甲賀氏の装幀による本は、デザインを眺めているだけでも素敵。時代を超えても素晴らしいデザインを、ぜひ堪能してくださいね。
小野二郎と編集活動を共にした一人である、義理の弟・髙平哲郎氏が中心となって晶文社から出版した音楽・カルチャー雑誌『WonderLand』の展示も。後に『宝島』となりサブカル好きを虜にしていった歴史的な雑誌です。表紙のデザインからも、そんな勢いを感じます。
なんと、実際に使われていた晶文社の看板も展示されていました!素晴らしい出版物が生まれた時代を、それを作り上げた編集者と共に歩んできた看板なんだと思うと、こみ上げるものがありますね。
飛騨高山「高山建築学校」でモリスの思想を説いた晩年に触れる
本展の後半は、飛騨高山にあるセルフビルドを学ぶ私塾であり、小野二郎氏が講師とし招かれた高山建築学校に関する内容に入っていきます。展覧会のタイトルにもある「ユートピア」の思想がどんなものだったかを探る展示となっています。
高山建築学校に集った建築家やアーティストに大きな影響を与えた小野二郎。その中の一人、建築家・石山修武氏の自邸となる「世田谷村」の模型も展示されていました。同氏がセルフビルドの集大成として作っている世田谷村の建築は、1995年から始まり、現在はほぼ終了に向かっているんだとか。
ここで、小野二郎氏が急逝してつくられた、非売品の追悼文集『大きな顔』の展示も。もちろんデザインは平野甲賀氏です。額で飾られていた表紙の横にあった、『大きな顔』をつくった際の平野氏のコメントがなんとも素敵だったので、お見逃しなく。
そして、展示の最後を飾っているのは、こちら。
52歳という若さで早世した小野二郎を偲んでつくられた「モリス・テーブル」です。まるで絵画のように美しい、窓の外に見える砧公園の新緑を背景に鑑賞することができる展示となっています。
スタートからぎっしり内容が詰まった本展ですが、このモリス・テーブルの場所は、最後にゆっくりとこれまで見た内容を吸収していける、そんな空間になっているのではないかなと思いました。
世田谷美術館で開催中の「ある編集者のユートピア 小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校」は、6月23日(日)までの開催です。会期も残りわずかとなってきました!ぜひ、期間中に足を運んでみてくださいね。
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ある編集者のユートピア 小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校
会期:2019年4月27日(土)~6月23日(日)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:毎週月曜日
会場:世田谷美術館 1階展示室
住所:〒157-0075 東京都世田谷区砧公園1-2
観覧料:
(個人)一般 1000円/65歳以上 800円/大高生 800円/中小生 500円
主催:世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)
後援:世田谷区、世田谷区教育委員会
特別協力:晶文社
助成:公益財団法人朝日新聞文化財団
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00193